【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの Part34 「開戦」

「これが敵泊地デスか……」

 

流れてくる汗を拭きながら金剛が呟いた。

 

作戦会議から1週間後、第一艦隊と第三艦隊は連合艦隊を組み、敵泊地があるとされる海域の手前まで来ていた。

 

海は艦娘たちを拒むように大きな向かい波を打ち、赤い空が天を覆っている。

 

道中にはおぞましい量の偵察機や戦闘機が飛び回っており、対空装備をしている駆逐艦達が処理に回っていたが、未だ絶え間なく空襲が続いている。

 

「……っ!」

 

先に偵察機を発艦していた赤城が、何かに気づいたような表情をした。

 

「前方に複数の敵艦隊を確認、どうしますか?」

 

「多分ここにいるのは敵の哨戒部隊デス、無理な戦闘は避けたいデスが……相手のpowerも見ておきたいからネー……」

 

「なら先に私たちが先制攻撃を仕掛けます、残りは貴方たちが仕留めてください」

 

金剛の言葉を聞いた加賀はそう言うと、赤城の隣まで接近して発艦体制に入った。

 

息を合わせて2人が弓矢を放つと、矢は艦載機に変化し、大空へと飛んでいく。

 

艦載機が発艦されてしばらく経つと、遠くから爆発音が鳴り響いた。

 

「今ので大凡の場所は分かったでしょう、後はお任せします」

 

加賀の言葉に金剛は頷くと、爆発音の方向へと主砲を構える。

 

「まずは様子見の射撃デス!全砲門……FIRE!!!」

 

金剛が主砲を放つと、砲弾は大きく弧線を描きながら敵艦隊へと着弾した。

 

敵艦隊の半数が大きな叫び声を上げながら海に沈んでいくのを確認し、金剛は進む道を変更する。

 

「oh!思ったよりダメージが入りマシタ!弾薬も大事にしたいから、こんな感じで進んで行きマス!」

 

金剛がそう言いながら後ろを振り向くと、ほぼ全てのメンバーが頷いたのに対し、1人だけ何も反応がない艦娘が居た。

 

「白露、聞いていマスか?」

 

「……っ!うん、大丈夫だよ」

 

慌てて返事した白露を見て、金剛は怪訝な表情をする。

 

「うーん……聞こえているなら大丈夫デス」

 

どこか上の空の白露を見て、金剛はより一層心配の感情が増す。

 

(テートクが言っていた通り、前までの白露とは違う感じがしマース……)

 

金剛が訝しげな表情をしていると、加賀が艦載機から情報を受け取った。

 

情報が流れてくる程、加賀の表情は険しくなっていく。

 

「加賀さん?」

 

「……赤城さん、今すぐ精鋭の艦載機達を準備してください」

 

加賀の言葉を聞き、すぐさま赤城は構える弓矢を変え、発艦の準備を整える。

 

「金剛さん、ここから約2キロメートル先に巨大な敵艦隊が迫っているわ」

 

「ッ……!?まさか……!」

 

「恐らく、敵の主戦力でしょうね」

 

金剛は固唾を飲み、水平線に目をやる。

 

(いくら何でも早すぎるネ……!)

 

視線の先に黒い点が現れ、次第に広がっていく。

 

「うげっ……!?」

 

隣で双眼鏡を覗いていた衣笠は、敵艦隊の編成を見て思わず小さな声が漏れた。

 

幅広い艦種に加え、夥しい数の艦載機が宙を待っている。

 

近年鎮守府付近でも目撃されていた、黄色いオーラを纏っている非常に危険な個体も中に混ざっており、敵の全勢力が目の前にあることは明らかだった。

 

「……全員配置についてくだサイ!!これより、我が鎮守府と装甲空母姫……両艦隊のall-out warが始まりマス!!」

 

金剛は後ろに続く仲間に向け、出せる最大の声量で呼びかける。

 

「この戦いは鎮守府で待つ仲間のため、街で平和に過ごす市民のため……ワタシたちの負けは許されないデース!」

 

金剛の声を受け、全11人の艦娘達の鼓動も次第に早くなっていく。

 

目の前に迫る戦争の火蓋に、緊張と興奮が同時に襲いかかってきている。

 

「今こそ、ワタシたちのfull powerを尽くす時!!全艦!!突撃しマス!!」

 

金剛の号令で全員が互いの射程圏内まで距離を縮める。

 

先手で艦載機を放っていた空母組が、次々と撃ち落とされていく自らの艦載機を見て険しい表情をする。

 

「数が多すぎるわ!!これだけの精鋭が揃ってるのに制空権を取り切れない!!」

 

「飛鷹さん、私達も加勢します!」

 

対空装備をしている駆逐艦たちが、自らの射程に入ってきた艦載機達を落としていく。

 

それでもなお艦載機の勢いは止まることなく、未だ空は拮抗状態で留まっている。

 

少しでも攻め手を止めたら押し返されてしまいそうな程、崖際の状態。

 

防戦一方の第二艦隊を横目に、一航戦の赤城、加賀の艦載機は強気に攻撃を仕掛ける。

 

しかし、激しい攻撃を食らってもなお、敵艦隊の空母は怯むことなく艦載機を空に放っていた。

 

(……このままでは押し切られてしまうわね)

 

戦況が不利になりつつあることを察知した加賀はすぐ横の金剛に目線を送ると、金剛はそれに頷く。

 

「空からのattackは出来る限り空母達が落としてくれマス!中、近接共に戦闘を行えるメンバーはワタシに着いてきてくだサイ!」

 

金剛の指示を受け、空母の護衛を残しつつ数人の艦娘が戦地へと足を進める。

 

すると、その中から一人物凄いスピードで敵艦隊に突っ込んで行った艦娘がいた。

 

「白露!!」

 

金剛の声を振り切り、白露は超加速して敵艦隊の空母に迫っていく。

 

当然行く道を数匹の深海棲艦に阻まれたが、白露のスピードは落ちない。

 

「……邪魔ッ!!」

 

白露は流れるような動作で攻撃を避け、それぞれの口元目掛けて主砲を構えた。

 

宙で翻りながら、白露の主砲は1ミリの誤差なく敵を貫き、黒煙を上げながら次々と敵が沈んでいく。

 

それを白露は一瞬確認した後、正規空母ヲ級の懐へと近づいた。

 

「……!」

 

ヲ級は咄嗟に手に持っている杖で防御をしたが、白露は押し出すように蹴りを繰り出し、別の正規空母の元へと蹴り飛ばした。

 

瞬間、ヲ級達の足元が爆発し、大きな水柱が上がる。

 

白露は水が落ちていくのを待ったが、視界が晴れると共に険しい表情をした。

 

(私の打撃と魚雷込みで中破止まり……!?硬すぎる……!)

 

歯が擦れる音が響く。

 

(だけど、これでもう艦載機は動かしにくいはず……!)

 

白露は更なる攻撃を行おうと足に重心をかけ、突撃する準備を整える。

 

しかし、唐突な違和感が白露を襲った。

 

(……っ!掴まれた!)

 

白露が視線を下に動かすと、敵潜水艦が白露の足を掴んでいる。

 

白露が抜け出すのに苦戦していると、その隙をついて駆逐艦イ級が何匹も口を開けて近づいてくる。

 

今にもイ級が白露の体を噛み砕こうと襲いかかった瞬間、大きな水柱がイ級達を襲った。

 

 

 

 

「ねぇ、流石に無茶しすぎだよ」

 

 

 

白露の後ろから声が聞こえる。

 

第一艦隊・重雷装巡洋艦娘「北上」がそこには立っていた。

 

「単独行動は艦隊において最も危険な行動になります、貴方の実力は分かっていますが、今は抑えてください」

 

後ろからは同じく重雷装巡洋艦娘「大井」が近づいてきており、二人は白露に冷たい目線を送る。

 

「あんまり突飛なことし過ぎないでよ、死なれたら私達も後味悪いじゃん」

 

北上は彼女なりの心配の言葉を白露に送り、敵艦隊の方へと進んでいく。

 

白露がその背中を見て呆然としていると、後ろから肩に手が置かれる。

 

「気持ちはわかりマス……ですが、1人にならないでくだサイ」

 

「……。」

 

「今は同じ艦隊の仲間デース、貴方が抱えてる思いだって、一緒に抱える覚悟はありマスよ」

 

「……ごめん」

 

白露の顔を見て、金剛は己の背中を見せつけるように前に立つ。

 

 

 

「ワタシは第一艦隊旗艦、「金剛」デース!誰1人欠けることなく、戦場を後にする為に尽力するのがワタシの仕事!!!」

 

 

金剛は大きな声で見栄を切ると、背に着いている全主砲を前に向け、敵艦隊へと放つ。

 

放たれた砲弾は雨のように敵に降り注ぎ、何体もの深海棲艦を海の藻屑にした。

 

瞬間、イ級2匹が金剛へと襲いかかってくる。

 

「こんな攻撃でワタシが倒れてたら……旗艦は務まらないネ!!」

 

金剛は両手でイ級の顎を掴むと、二匹の頭を正面衝突させ、完全に潰した。

 

主砲部分が完全に崩壊し、爆発しかけているイ級を自らの前方に投げると、大きな爆発が敵数体を巻き込んで発生した。

 

金剛はそれだけの戦闘をしたにもかかわらず、汗ひとつ流さずに不敵に笑っている。

 

(数ある鎮守府の艦隊の中で、最高戦力の第一艦隊を背負っている旗艦「金剛」、やっぱり恐ろしい実力ね……)

 

白露は圧倒的な戦闘力を目の当たりにし、目の前の人物の偉大さを再確認する。

 

白露は自らの頬を叩いた。

 

(怖気付いちゃダメ……私も後ろについて行かなきゃ……!!!)

 

再度自分に気合いを入れ直し、金剛の後ろについて行こうとした瞬間━━━━━━

 

 

 

白露の全身を悪寒が包んだ。

 

 

「っ……!?」

 

強烈な殺気が自らの前方から飛んでくる。

 

他の艦隊メンバーもそれに気づき、全員が一斉にその方向を睨んだ。

 

海面が大きく盛り上がり、中から紅色の双眼がこちらを睨んでいる。

 

 

「遂にお出まし……デスか……!」

 

金剛が巨大な影に向かって砲撃を放つと、影はそれを振り払って姿を現す。

 

 

 

「ヤット……アエタワネ!憎キ艦娘タチ……!」

 

不気味に揺れる波の中、一体の深海棲艦が現れると、それまで不規則だった空の色が赤一色に染まる。

 

知能のない深海棲艦達も揃って、その存在に頭を垂れる。

 

敵艦隊最高戦力、装甲空母姫が海上に遂に降臨した。

 

その圧倒的な存在感に、その場にいた全員が固唾を呑んだ。

 

「みんな押されちゃ駄目デス!今からワタシ達はアイツと戦うんデスよ!!」

 

空気ごと身体を震わせるような殺気に気圧されていた艦隊を見て、金剛は大きな声を上げる。

 

金剛の声を聞き、艦隊のメンバーはもう一度自らに気合いを入れ直した。

 

「第一艦隊はワタシと一緒に主戦力を叩くヨ!第三艦隊は周りの敵をお願いしマス!」

 

そう言うと、金剛は自らの身軽さを利用して敵艦隊の間をすり抜けていく。

 

大井と北上の援護を受けながら、金剛は装甲空母姫の近くまで到達した。

 

「さァ!あの時の決着をつけまショウ!装甲空母姫!!」

 

 

金剛は大きく振りかぶった拳を突き出す。

 

空を切り裂いた拳は装甲空母姫の装甲に阻まれたが、鈍い音を立てながらヒビを入れた。

 

その状態の装甲を見てなお、装甲空母姫は不敵に笑う。

 

金剛は続けて拳を入れようと大きく振りかぶった。

 

「━━━━━━━━っ!」

 

 

瞬間、心臓を劈くような殺気が海の底から金剛を襲った。

 

金剛は急いでその場から距離をとると、後ろにいた北上と大井に警戒のサインを出す。

 

「金剛、どうしたの?」

 

異変を察知した北上が、金剛に対して問いかける。

 

しかし、金剛は尚も海の底を見つめていた。

 

「…………来るっ!!!」

 

 

 

金剛がそう言った瞬間海面が盛り上がり、2匹の深海棲艦が飛び出してきた。

 

 

 

━━━見たことが無い種類の深海棲艦

 

 

 

金剛は一瞬フリーズしたが、直ぐに防御の姿勢をとった。

 

しかし、戦艦級の重量を持つ金剛をその深海棲艦は容易に蹴り飛ばす。

 

「ッ……!重いっ……!」

 

吹き飛ばされた金剛を衣笠がキャッチすると、全員が金剛が飛んできた方向を見る。

 

「な……なんなの……アレ……?」

 

衣笠は驚愕の表情で固まる。

 

 

 

視線の先に立っていたのは、髪が白く、姫級にも引けを取らないほどの存在感を放つ、2匹の重巡洋艦だった。

 

金色に輝く双眼は海上の景色を一望すると、金剛と白露にそれぞれ視点を合わせた。

 

 

 

━━━━━━━━瞬間、二人の目の前へと移動してくる。

 

二人はそれぞれの方向に飛ばされ、目の前の深海棲艦と対峙した。

 

 

「アナタ達ハ邪魔ダカラ、一度隔離シナイトネェ……?」

 

 

装甲空母姫はそう言うと、自らの上空に大量の配下を発艦させる。

 

暗く淀んだ海の上で、遂に最終決戦の幕が上がった。

 

 

 

 

 

同刻、街の方向では戦場に出ていない艦娘達が町民の避難を行っていた。

 

戦場が街に近づくにつれて、街への攻撃も深海棲艦は行ってくる。

 

過去起きた甚大な被害を繰り返さないように、大きな海戦の際は早めに街の人々を内地へと避難させることを重視していた。

 

川内を除いた夕立達第八艦隊も、その任務を遂行している。

 

「皆さん、慌てないで!未だ戦場は街から数十キロ離れています!押し合わないで、冷静に動いてください!」

 

不知火の声に続き、町民は足早に去っていく。

 

「子供も一緒に走ってるっぽい!皆足元に気をつけて!怪我したら元も子もないっぽい!」

 

夕立も同じように町民を誘導している。

 

「もうそろそろ全員移動しましたか?」

 

「はい、先程のご夫婦が最後尾のようでした」

 

春雨と不知火が避難の状況を確認している。

 

すると、別方向で指示を行っていた時雨が近づいてきた。

 

「声をかけながら走ってきたけど、一旦は見つからなかったよ」

 

「分かりました、では私達は町内の巡回を━━━━━━━━━━━━━━━」

 

 

 

不知火が言葉を続けようとした瞬間、突如として悪寒が海の方向から襲ってきた。

 

心臓の鼓動が早くなる感覚、なにかに共鳴するように夕立の体が疼いている。

 

(これって……!?)

 

あの日に感じた悪寒、一瞬たりとも忘れることのなかった恐怖。

 

 

装甲空母姫のものだ。

 

 

すぐさま夕立は血相を変え、鎮守府の方に駆け出していく。

 

「夕立っ……!?」

 

夕立の異変をいち早く察知した村雨は直ぐに夕立を追いかけ、それを見た第八艦隊の駆逐艦メンバーは全員走り出した。

 

「村雨姉さん……!どうしたんですか!?」

 

後ろを走る春雨が問いかける。

 

「分からない……けど、夕立が物凄い表情で走り出したの!」

 

村雨はそう言いながら、夕立の後を追う。

 

 

「大体あの子が血相変えて走り出す時って……ロクなことが起きてないから!」

 

 

村雨の言葉に艦隊全員が頷き、全速力で走る夕立の後を追う。

 

鎮守府に到達した夕立は出撃ドッグに向かうと、自らの艤装を展開した。

 

瞬間、警報が鳴り響く。

 

 

『申請されていない艦娘の出撃です、鎮守府用務員各位は確認を行ってください。繰り返します……』

 

警報に気づいた明石と、第八艦隊のメンバーが出撃ドッグに飛び込んでくる。

 

「夕立ちゃん!何してるの!?」

 

夕立の姿を見た明石は、直ぐに出撃ドッグの入口を閉じ、海と遮断した。

 

陸地に立たされた夕立を見て、明石は肩を掴んだ。

 

「貴方が出撃することは認められてないの!絶対に出ないで!」

 

明石は怒りと焦りの籠った声で夕立にそう伝えると、夕立はようやく冷静さを取り戻し、言葉を振り絞った。

 

「来た……来たっぽい……!」

 

 

 

「摩耶さんの……仇が戦場に来たっぽい!!」

 

 

夕立がそう伝えると、明石は提督に直ぐに連絡を通した。

 

「提督!聞こえてますか!?」

 

『明石か!今私は出撃ドッグに向かっている、要件はなんだ!』

 

「出撃ドッグの件は夕立ちゃんでした!」

 

『夕立……!?何故あいつがここにいる!』

 

提督が声を荒らげると、明石は自らの通信機器を外し、夕立の口元に近づけた。

 

「提督さん!海の方から物凄い殺気を感じたっぽい!!」

 

『殺気……?』

 

「多分、装甲空母姫?が戦場に出たっぽい!」

 

夕立の声を聞いた提督は、暫く黙った。

 

『そういう事か……』

 

『とにかく今はドッグから離れてくれ、事情は提督室で話す』

 

提督はそう言うと、通信を切る。

 

それを確認した明石は夕立の手を握ると、その場にいた全員を引き連れて歩き出した。

 

 

しばらく鎮守府内を歩き、提督室に到達した明石達は、提督室の扉を叩く。

 

中に入ると、そこには提督と秘書艦の五月雨、そして礼花の姿があった。

 

「来たか……」

 

提督は深いため息の後、夕立の顔を見る。

 

「ごっ……ごめんなさい!夕立……」

 

「いや、いい。お前の気持ちは十分に理解出来る」

 

「ぽい……」

 

提督は礼花に目線を動かすと、礼花は自らのデータを映し出した。

 

「夕立ちゃんが感じたものは事実だ。恐らく……夕立ちゃんの中にある深海棲艦の元データに共鳴して、装甲空母姫の気配をこの距離で察知してる」

 

 

 

「たった今、装甲空母姫が戦場に現れたんだと思うよ」

 

礼花がそう言うと、提督室の空気は緊張感に支配される。

 

「あぁ、ただそれを見越した作戦になっている。そこについては問題は無い」

 

依然冷静な態度をとっている提督は、夕立の前に立った。

 

「今回の作戦において、お前は戦場を良くも悪くもひっくり返せる……前に文面で説明した通り、お前が敵の手に渡ったら私達は確実に敗北する」

 

「……。」

 

「お前にはお前のやれる事がある、今は耐えてくれ」

 

提督は夕立の肩に手を置き、力強く言った。

 

夕立は小さく頷き、提督はそれを見て他のメンバーに目線を動かした。

 

夕立は明石に諭されながら、部屋から離れていく。

 

提督室には夕立以外の第八艦隊の駆逐艦達が残された。

 

「夕立を引き止め……ここまで連れてきてくれたこと、感謝する。それぞれまた持ち場についてくれ」

 

 

 

提督がそう言って全員を持ち場に返そうとすると、突然提督室のドアが開く。

 

全員が一斉にドアの方を見ると、そこには焦った様子の大淀がいた。

 

「大淀か、司令室から席を外してすまない……直ぐに戻る」

 

「て……提督!」

 

大淀は1度息を飲み込み、緊迫した表情で口をもう一度開いた。

 

 

 

 

 

「予想外の敵が出現、戦場が急変しました!」

 

 

 

 

その言葉で提督室全体の空気が一瞬にして重くなる。

 

「直ぐに戻る、状況を報告してくれ」

 

「未確認の深海棲艦が二匹戦場に出現しました。髪の色は白、砲塔生物がそれぞれ背中に2匹確認されました」

 

「以前現れたレ級とは別種か?」

 

「特徴であるフードが確認できませんでした、全体を覆っている装甲もレ級以上に重厚になっています」

 

司令室のドアを開け、提督は自らの席に座った。

 

「通信は安定しているな、各旗艦に繋ぐぞ」

 

数秒の砂嵐の後、徐々に金剛の声が通信機に響いてくる。

 

『戦闘可能な艦娘はワタシに続いて下サイ!!負傷者は1度下がって回復を!』

 

緊迫した戦場の雰囲気が金剛の声を通じて伝わってくる。

 

情報の断片だけでも、状況は劣勢なことは明白だった。

 

「金剛!鳥海!聞こえるか!?」

 

『テートク!!とんでもないMonsterが出てきたヨ!』

 

「戦況は!?」

 

『第三艦隊は浜風、飛鷹が大破につき戦線離脱、第一艦隊の皆さんは全員無事です』

 

鳥海が落ち着いた声で戦況を伝える。

 

『現在、未知の深海棲艦は金剛さんと白露さんが対応、残りの艦娘は装甲空母姫との戦闘を行っています』

 

鳥海がそう言った同時に司令室のモニターに艦隊のレーダー情報と、未知の深海棲艦の見た目が送られてきた。

 

「これは……重巡級だな、もしや過去に南西方面で目撃情報があった種類か……?」

 

提督は敵の正体を推測しながら、レーダー情報に視線を動かす。

 

画面には夥しい数の敵影が映っており、提督は唸り声を上げた。

 

(第二艦隊から第七艦隊は、別方面で活性化している深海棲艦の鎮圧任務に向かっている……となると派遣するのは第八艦隊だが……)

 

提督は第八艦隊の成熟状況や、川内が不在な点を考えた。

 

確実な戦力となるかは不確定で、尚且つ鎮守府で屈指の戦闘能力を持つ川内と夕立が居ないとなると、戦場に送っても戦えない可能性が極めて高い。

 

「……提督」

 

提督が悩んでいると、時雨が前に出る。

 

 

「僕も戦場に出たい」

 

 

時雨から出た予想外の言葉に、その場にいた全員は驚愕した。

 

「今の僕なら大破した人達の代わりになれる」

 

「しかし……!」

 

「どのみち、ここで押し負けたら不利な状態で再戦することになるんじゃないかな」

 

時雨の言うことは提督にも十分に理解出来ている。

 

ここで金剛たちがせり負けた場合、確実に鎮守府は負けの一途を辿る。

 

しかし、それ以上に提督は時雨に対する不安感を抱いていた。

 

「いや、ダメだ……お前だけの判断で艦隊は動かせない。出撃には道中を耐えられる程の戦力が必要になる」

 

 

提督がそう言うと、列の中から1人の少女が前に出た。

 

「し……時雨姉さんが出撃するなら、私も出たいです!」

 

 

 

春雨が続いて声を上げた。

 

更なる予想外が起き驚いた提督は、春雨に問返すことも無く、ただ次の言葉を待っていた。

 

 

「私達はずっと、二人が抱えてるものも見えないで……ただ隣にいただけでした」

 

春雨は手を震わせながら、言葉をゆっくりと発していく。

 

「でも、もう違うんです!本当の意味で仲間になった今、同じ歩幅で一緒に進んでいきたいんです!」

 

春雨の言葉を聞き、不知火も前に出る。

 

「私も同意です、それに……」

 

 

 

「今の私たちには、深海棲艦達に対抗しうる「秘策」があります」

 

不知火はそう告げると、提督の方を真っ直ぐ見た。

 

「秘策だと……?」

 

提督が訝しげに聞くと、隣に立っていた礼花が提督の前に資料を置いた。

 

 

「━━━━━━━━━っ!?」

 

資料を見るなり、提督は驚愕した。

 

「お前たち……!これは……!」

 

「これがあれば、私達もちゃんと戦力にはなるでしょ?それに、ちゃんと訓練して強くなったんだから!」

 

村雨も続いて前に立ち、全員が出撃の意志を宣言した。

 

隣に立っていた礼花は、その様子を見て微笑む。

 

「確かに今のこの子達は「秘策」を持ってる、時雨ちゃんに関しては……あたしが何とかしてみせるから、出撃させてもいいんじゃない?」

 

「しかし……」

 

「もちろん夕立ちゃんはここで待機だよ」

 

「ふむ……」

 

提督は自らの手一つで戦況が大きく変わることを十分に理解している。

 

特に時雨の投入は、白露のメンタルに大きな影響を及ぼす危険性を孕んでいる。

 

しかし、この状況で戦力が補完されるのは戦場にとってとても大きな推進力になる。

 

提督が次の一手に悩んでいると、司令室のドアが開いた。

 

 

「じゃあ、私がこの子達引っ張ってくよ」

 

 

 

現れたのは川内だった。

 

「川内!お前は第四艦隊と共に敵泊地を破壊しに行ったはずでは……!?」

 

「それがたった今完了、私以外はボロボロだけど……私は出れるよ」

 

川内は真っ直ぐ提督を見つめる。

 

その瞳には、装甲空母姫を討ち取らんとする信念と、第八艦隊旗艦としての覚悟があった。

 

提督はその眼に腕を引かれた。

 

「わかった、状況を考慮し……戦場に第八艦隊を派遣する」

 

提督は意を決し、次の一手に出た。

 

「しかし、夕立の投入は認められない……五人での出撃になる」

 

「ありがとう、提督」

 

川内は提督に対して礼を言うと、第八艦隊のメンバーを率いて出撃ドッグへと向かった。

 

「さぁ、第八艦隊……出撃だよ!」

 

川内の声で、全員はスイッチが切り替わったかのように凛々しい表情になった。

 

司令室のドアが開く。

 

第八艦隊としての久々の任務、欠けているところはあれど、それぞれは強固な意思で繋がっていた。

 

提督はその5人の背中を見て、呆れているような、嬉しいような複雑な表情を見せた。

 

「それだけ真っ直ぐ見られたら、俺だって背中を押さざるを得ないだろうが……」

 

全員が執務室から離れたのを見た提督は、ぽつりとそう呟いた。

 

5人の艦娘が出撃するところを見送った提督は、再び司令室の席に座ろうとする。

 

すると、目の前に1枚の紙が突きつけられた。

 

「須藤礼花……何をしている?」

 

「いやぁ、実は君に許可して欲しいことがあるんだ」

 

「許可だと……?」

 

礼花はニヤリと笑いながら、提督の手に自らの持っている資料を握らせた。

 

それは艦娘の出撃要請許可証であり、中には誰もが想像できなかった艦娘の名前が二人刻まれていた。

 

提督は口を開けながら固まると、ゆっくりと礼花の顔を見た。

 

「お……お前……!?こいつは……!」

 

「戦場をひっくり返すためには、いつだって予想外の展開が必要だ」

 

 

 

 

「ジョーカーは、ここぞって時に出すものだと思わない?」

 

驚いて固まる提督を他所に、礼花は怪しげに笑った。




久々の投稿になりました、さめやんです。

個人の都合で中々投稿ができず、半年ぶりとなってしまいました、誠に申しわけございません。

さて、遂に始まった装甲空母姫との決戦。

徐々に押される戦況に、提督は第八艦隊の投入を決意。

駆逐艦と礼花の語る、秘策とは一体……?

そして、戦場に現れた未知の深海棲艦は一体何ネ級何でしょうか。

次回もお楽しみに
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