【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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心を埋めるもの Part35 「夜が明けた日」

 

鎮守府より遥か遠くの海域。

 

遂に勃発した装甲空母姫との戦闘は、艦娘側が劣勢になっていた。

 

鎮守府との通信を切ってから数十分、増援は未だ到着していない。

 

旗艦金剛と、第三艦隊の白露は未知の深海棲艦に襲われ、その他の戦力で装甲空母姫に相対しなければならなかった。

 

海上で燃えるプライドのぶつかり合いは徐々に苛烈になっていき、砲撃音が鼓膜を打ち付ける。

 

白露は装甲空母姫と戦う艦娘達の様子を気にしながら、目の前の敵と撃ち合っている。

 

「ッ……!ダメだ……全く装甲が剥がれない!」

 

相手の意識外に放たれたはずの砲弾ですら、簡単に装甲に弾かれてしまう。

 

肉弾戦を仕掛けても、腹部から伸びる装甲生物は自立して動いているため、2対1で戦っているように感じる。

 

白露は1度距離を取ると、目の前の深海棲艦の特徴をもう一度観察した。

 

「白い髪、腹部から伸びる装甲生物、火力は戦艦並……報告にあったレ級とは随分違う特徴だね」

 

少なくとも白露は知らない種類の深海棲艦だ。

 

常軌を逸した存在、「姫級」に相当する圧倒的な存在感に、白露は無意識のうちに後ずさりした。

 

(明らかに私レベルが一人で相手する奴じゃない……!)

 

白露が相手の出方を伺っていると、敵が主砲を構える。

 

「っ……!?」

 

主砲は確実に白露を中心に捉え、連続射撃が行われた。

 

白露は間一髪で全ての弾丸を避け、距離を一気に詰める。

 

放たれた蹴りは既のところで装甲生物に阻まれ、白露は簡単に弾かれる。

 

瞬間、相手の足元から巨大な水柱が立った。

 

(超至近距離の魚雷爆破!これでどうだ……!)

 

接近時に落としていた魚雷の至近距離着弾、本来の深海棲艦なら中破以上の被害を与えられる一撃だ。

 

水柱が徐々に晴れ、徐々に相手の輪郭が浮き出てくる。

 

「っ……!?」

 

 

 

 

そこにはほぼ無傷で立っている相手の姿があった。

 

 

 

(有り得ない……!少なくとも当たり所は良かったはず……!?)

 

白露が驚いていると、鎮守府からの通信が入る。

 

『白露!金剛!聞こえるか!?』

 

提督の声だ。

 

「聞こえるよ!もう敵目の前だから手短に!」

 

白露が強い口調でそう答えると、提督は承知の一言と共に、白露に対して情報を送ってくる。

 

『目の前の敵の名前は「重巡ネ級」だ、確認数は1桁台の希少種。射程は中距離、装備は主砲、魚雷、偵察機』

 

『装甲、火力、雷装共にリ級以上だ。姫級よりも機動力がある分、状況によってはこっちの方が厄介になる』

 

『OK!今相手してるのはワタシと白露だから、選出としては完璧ネ!Thank youテートク!』

 

金剛はそう答えると、通信を切断した。

 

「ありがと、このまま戦闘を続けるね!」

 

白露もそう答えて通信を切断すると、目の前の敵を睨む。

 

(重巡ネ級……確実にこのまま撃ち合ったら負ける相手……)

 

白露は息を整えると、目を大きく開いた。

 

 

 

━━━━━━瞬間、ネ級が眼前に迫る。

 

ネ級は攻撃を繰り出そうと拳を前に出したが、白露は主砲を自らの足元へ向けて放つ。

 

大きく立った水柱に目を眩ませたネ級の拳は、大きく空振った。

 

その刹那、白露がネ級の背後に現れる。

 

「改二艤装、解放」

 

背部に突きつけられた主砲は轟音を鳴らし、辺り一帯に爆発音が響いた。

 

舞い散る火の粉を振り払い、白露が煙の中

から飛び出ると、ネ級もそれに続いて煙から脱出してきた。

 

「うぐっ……!」

 

ネ級はその勢いのまま身体を捻ると、白露の腹に回し蹴りを食らわせた。

 

白露の体は軽々吹き飛ばされ、近くで戦っていた金剛の目の前に着水した。

 

「大丈夫デスか!?」

 

骨が軋む音がする。

 

立ち上がろうとする度に体が痛むが、耐え抜きながら立ち上がった。

 

「うん……まだ戦えるよ……」

 

白露は再度全身に力を入れると、ネ級へと向かっていった。

 

ぶつかり合う互いの手足。

 

艤装同士が激しくぶつかり合い、火花が飛び散っている。

 

改二艤装の影響で体力の消耗が激しく、徐々に体が受けの姿勢へと回ってしまっていた。

 

(っ……!マズい……!)

 

白露は相手の攻撃に捩じ込むように回し蹴りを入れると、相手を射程圏外へと蹴り飛ばした。

 

1度息を整え直し、ネ級に向けて主砲を向ける。

 

放たれた砲弾はネ級を捉え、再び大きな爆発を起こした。

 

黒煙が晴れ、その先には装甲が剥がれたネ級が立っていた。

 

(着弾時の音が変わった……!さっきとは違う、確実な手応えがある!)

 

白露は好機と判断し、海面を強く蹴ってネ級に急接近した。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━瞬間、ネ級の装甲生物が大咆哮を上げる。

 

 

 

圧倒的な声量に白露は足を止め、ネ級の様子を伺った。

 

徐々に体から装甲が剥がれ落ち、新たな装甲が身体に纏わりつく。

 

ネ級の目が開くと同時に、ネ級は黄色いオーラに身を包んだ。

 

 

目の前に拳が現れる。

 

 

白露は咄嗟に片手を上げガードするが、ネ級の拳はそれを貫いた。

 

吹き飛んだ体は海面に叩きつけられ、全身から力が抜けていく。

 

 

「うっ……がはっ……」

 

 

改二艤装が解除され、立ち上がるための力が入らない。

 

重巡洋艦級の攻撃を一人で受け続け、駆逐艦である白露の耐久に限界が訪れた。

 

ネ級がとどめを刺そうと白露の真横まで歩いてくる。

 

突きつけられた主砲の冷たさに、白露は観念したかのように目を瞑った。

 

 

 

「姉さんから離れて!!」

 

 

声と共にネ級の顔面が爆発した。

 

白露が声の方向の方向を向くと、猛スピードで近づいてくる艦娘が一人見えた。

 

 

「時雨……!」

 

白露か驚いていると、後ろから体を支えられる。

 

「増援、到着だよ」

 

「川内さん……!」

 

突如戦場に現れた2人を前に、ネ級は不機嫌そうに声を荒らげた。

 

それを真正面に受けながらも、白露を庇うように立つ小さな背中が一つ。

 

一七〇〇、白露型駆逐艦二番艦「時雨」が西方海域、対装甲空母姫決戦に到着した。

 

 

 

一方、鳥海達の方の戦場では、装甲空母姫とネ級が合流していた。

 

金剛との戦闘中に様子が急変したネ級は、魚雷と偵察機を下ろして航空戦に参加するようになった。

 

装甲空母姫の手下に加え、ネ級本体と艦載機を相手しなければならないため、戦場は艦娘達が劣勢になっている。

 

「金剛さん、このままでは……!」

 

「Shit……!やっぱりワタシがネ級を1回引き剥がさないとダメかもしれないデース!」

 

金剛がもう一度ネ級と1戦交えようと策を練っていると、突然辺りの深海棲艦が爆発と共に沈んでいく。

 

金剛が後ろを振り返ると、そこには時雨と川内を除いた第八艦隊の駆逐艦が立っていた。

 

「アナタ達……!?増援ってそっちデスか!?」

 

驚いた様子の金剛に、不知火が敬礼をする。

 

「第八艦隊、提督の指示により装甲空母姫との決戦に助力します」

 

不知火がそう言うと、鳥海が近くに寄ってくる。

 

「貴方達……まだ結成して1年も立たない艦隊を本線に送り込むなんて、提督は何を考えているのでしょうか……?」

 

提督の意図を訝しむ鳥海を横目に、第八艦隊のメンバーは突撃の準備をする。

 

その様子を見ていた金剛は、駆逐艦達の横に立った。

 

「あのテートクが適当に艦隊を出すなんて有り得ないデース、何かstrategyがあるはずデス!」

 

金剛は自信満々に言い放つと、駆逐艦達の動向を見守る。

 

 

 

「それにあの自信満々な顔……絶対に何か隠してマース」

 

 

 

金剛の視線を受けながら、駆逐艦達は横一列に並んだ。

 

 

それぞれの顔を見合い、覚悟を決めた表情で全員が前を向く。

 

 

「これより、第八艦隊駆逐艦!戦闘に入ります!」

 

不知火の掛け声と共に、全員の体が光り輝く。

 

周りの空気が急変し、その場にいる艦娘達は身に覚えのある感覚に体が襲われた。

 

艤装が変形し、それぞれの身体に変化が起こる。

 

金剛はその様子を見て、ニヤリと笑った。

 

 

 

 

「「「改二兵装、起動!」」」

 

 

光が消え、そこには改二艤装を身に纏った駆逐艦達が立っていた。

 

金剛を除いた全員が、驚愕の表情で固まる。

 

 

「なっ……なな……なんで貴方たちがもう改二兵装を……!?」

 

驚いた様子の衣笠が駆逐艦達に聞くと、村雨が得意げな表情で振り向く。

 

「ちょっと前、明石さんと礼花さんから試作品を貰っちゃったのよ!」

 

村雨はそう言ってウインクすると、手に持っている鎖を敵に巻き付けた。

 

「春雨!」

 

「は……はい!」

 

春雨は村雨のかけ声と共に、身動きの取れない敵に酸素魚雷を放つ。

 

本来の魚雷の爆発に、改二艤装の圧倒的な出力が加えられ、敵戦艦は跡形もなく砕け散った。

 

続いて不知火が戦艦リ級に突っ込んでいく。

 

「昔とは違う、今の私なら……!」

 

至近距離に寄られたリ級は、自らの腕を振り回して応戦するが、駆逐艦の素早い動きを捉えられない。

 

不知火は攻撃が緩んだ一瞬の隙をつき、顔面に主砲を突き立てた。

 

「沈めっ……!」

 

不知火が主砲を放つと、リ級の顔面が爆煙に包み込まれる。

 

視界を取られて動けないリ級に対し、不知火は魚雷を放った。

 

大きな爆発音と共にリ級の悲鳴が響き渡り、リ級は海の底へと沈んでいく。

 

「new generationが活躍している今、ワタシ達も負けてられないネー!」

 

確実に強くなっている駆逐艦達を見て、金剛は意気揚々と突っ込んでいく。

 

「後輩が活躍してるのに、私達が後ろで見てるのも良くない」

 

「そうですね、行きましょうか!」

 

続けて響と浜風も敵陣に突っ込み、戦場を掻き乱す。

 

徐々に戦場が艦娘優勢になり、奥で鎮座する装甲空母姫は歯を軋ませる。

 

「小癪ナ艦娘共……全員捻リ潰シテヤルワ……!!」

 

装甲空母姫は怒りに任せ、自らの配下を大量に空に放出する。

 

「不知火たちが来て状況が変わった今がchanceデース!アイツらに仕返ししてやりまショウ!!」

 

金剛の声と共に、艦娘達も攻撃の手を強める。

 

激化する戦場、双方総戦力を率いての第二ラウンドが始まった。

 

 

 

 

激化する戦場から遥か遠く離れた鎮守府、中庭のベンチで夕立は空を見上げていた。

 

出撃禁止命令。

 

艦娘にとって最も暇な命令であり、鎮守府防衛の艦娘以外出撃している現在においては、それを更に助長させている状態だった。

 

「海にすら近づけないなんて……流石に暇っぽい」

 

来るべき時に備えて筋力のトレーニングは行っているが、それ以外で出来ることと言えば、木を敵に見立てて石を投げること位だった。

 

「夕立ちゃん」

 

後ろから声が聞こえる。

 

「礼花さん……」

 

現れたのは礼花だった。

 

礼花は夕立の座っているベンチの横に座り、同じく空を見上げた。

 

「暇なんでしょ」

 

礼花は意地悪な顔をして、そう言った。

 

「そりゃあ……暇っぽい、出撃どころか海にすら出れないなんて退屈にも程があるっぽい」

 

「まぁ、その君の暇が世界を救うかもしれないからね、今は我慢して欲しいな」

 

「むう……」

 

夕立が膨れ面をしていると、礼花は乾いた表情で笑った。

 

普段とは違う様子の礼花に、夕立は違和感を覚える。

 

「礼花さん、何かあったっぽい?」

 

夕立からの質問に、礼花は呆気にとられた表情をする。

 

「そんなに分かりやすかった?」

 

「まぁ……そこそこっぽい」

 

徐々に沈んでいく日に照らされた礼花の顔は、酷く疲れている様子だった。

 

目の下には隈があり、眠れていないのが見て取れる。

 

「いやね、ちょっと……思い出しちゃうんだ」

 

礼花はそう言うと、夕立の瞳を見た。

 

 

 

「今の君を見てると、昔のあの子を」

 

 

 

夕立は不思議な感覚を覚えた。

 

礼花が見つめているのは自分のはずなのに、遥か遠くを見ているような感覚がしたのだ。

 

「君にはそろそろ、話しておかないとかな」

 

 

 

 

「彼女と私の約束について」

 

 

礼花はそう言うと、より一層深く萎れた表情になる。

 

普段の軽い表情の礼花からは想像できないものを見た夕立は、空気の違いを感じて息を呑み込んだ。

 

礼花はそんな様子の夕立を見て、少し気が緩んだ表情を見せると、ポツポツと語り出した。

 

「かつての私たちが目指していたのは……艦娘が笑って暮らせる世界だったんだ」

 

「艦娘が……?」

 

「うん、当時は兵器である艦娘に対しての人々の目は冷たかったからね」

 

礼花の言葉に、夕立は艦娘学校で習った内容を思い出した。

 

今から数年前まで、艦娘は人々から差別される事が多かった。

 

志願型も建造型も、等しく「兵器」の括りで見られていた当時は、戦争兵器が街を歩く事を許さなかった。

 

今も尚、その名残は各所に残っている。

 

かく言う夕立も、その思想を持った者達から虐げられ、今の境遇に至った。

 

「あの頃のあたしは、光のない世界をただひたすら歩いているだけの人生だったんだ」

 

「礼花さんが……?なんで……?」

 

夕立が礼花の顔を見ると、 礼花は

 

 

 

「……アタシも君と同じ「忌み子」だったんだよ」

 

 

 

 

※※※

 

現在より遡って二十八年、とある名家の門を二人の男と一人の赤子が通った。

 

「つ……ついに産まれたぞ……!念願の「神の子」だ!」

 

赤子を抱えていた男が、待ち受けていた家族に向けてそう言い放つと、家族は歓喜の声を上げた。

 

後ろに立っている男は父親であり、喜ぶ周りを睨むように見ている。

 

「最高傑作が遂に産まれたのね……!これで我が家も暫くは安泰だわ!」

 

女性は甲高い声でそう言い放つと、隣にいる男と抱きしめ合う。

 

何も理解出来ぬ赤子は、ただこの世に生まれた喜びを噛み締めるように、高らかに泣いていた。

 

赤子が産み落とされたのは、代々優秀な明石型を排出してきた名家である。

 

その家に生まれる女性の赤子は妖精が用意する艤装との適応率が平均より高く、大本営との特殊な契約により、資金援助を条件に成人後は明石型になることを約束されている。

 

 

 

しかし、今年産まれた赤子は「異例」だった。

 

 

 

艤装の適応力以前に、生来より艤装を持っていたのだ。

 

全世界でそれを持つ子供が生まれる確率は、0.1%にも満たないほど限りなく稀有な存在であった。

 

その存在は基本的には秘匿とされており、その力を持つ子供は莫大な資産と引き換えに本部に引き渡される。

 

その赤子も例外ではなかった。

 

物心を持った時には既に妖精と会話し、艦娘になるための英才教育を施される。

 

生まれながら艤装を持つ人間は知能が高く、本来の年齢より高い精神年齢になることが多い。

 

その少女が7歳を迎える時には、艤装の構造を理解するほどの教育が施されていた。

 

 

 

(今日も勉強終わったし、父上に見てもらわなきゃ)

 

少女は自らが纏めた論文を持って父の元に向かう。

 

父は少女を常に気にかけていた。

 

神の子と持て囃す周囲とは異なり、父親だけは艦娘を志す自分を一人の人間として見ている。

 

厳しい教育もなく、玩具など少女の人間性を形成するのに必要な物を与えていた。

 

少女はそんな父親が大好きであり、毎日コミュニケーションを欠かさなかった。

 

父が仕事をする書斎に向けて足速に廊下を駆け抜ける。

 

すると、とある会話が襖の先から聞こえてきた。

 

「どういうこと……?あの子は神によって創られた艦娘の卵じゃないの?」

 

「あぁ……病院の記録と、あの子の母の手記を見たんだ……」

 

 

 

「あの子は、人工的に創られた偽りの神の子だ」

 

 

少女の心臓が大きく鼓動した。

 

「あの子が産まれた瞬間に母体は死亡した、原因は出産による身体破損と大量出血だと記されていたが……」

 

 

「子宮周りの臓器は破損していたのではなく、「跡形もなく消えていた」んだ。これは明石型が有する解体の能力だ、それをあの子は人間にも反映している」

 

「そんな……そんなの……艦娘じゃないわ……」

 

女性の声が震える。

 

少女が産まれた時に発していた歓喜の声色は、もう喉には残っていなかった。

 

 

 

「ただの……「化け物」じゃない」

 

 

 

 

少女の目は大きく見開いた。

 

ふらふらとその場を離れ、父親の元に向かう。

 

父親は自分の書いた論文を見て、自らの頭を撫でる。

 

「流石は俺の子だ」

 

先程聞いた物が浄化されるような笑顔を、父は自らに向けてくれている。

 

少女は微笑みながら父親の手を触った。

 

 

 

瞬間、父親の指が1本光と共に消失した。

 

 

 

耳を劈くような悲鳴が書斎に響き渡る。

 

声を聞いた家族が雪崩のように部屋に流れ込んできた。

 

「何事だ!?」

 

倒れる父を見て、家族はすぐに容態を確認する。

 

「指が……!?すぐに救急車を呼べ!」

 

「誰がこんな事……!」

 

「そんなの決まっている!!」

 

視線が少女に集まった。

 

 

 

「あの……「忌み子」だ!」

 

 

 

 

父親はしばらくの間入院となり、少女は事件の後すぐに大本営に送られた。

 

「入れ」

 

手には固く錠が付けられ、牢屋の様な個室に閉じ込められる。

 

「名前は」

 

監視役の男が無機質にそう言い放ったが、自分の名前が思い出せない。

 

少女が何も答えられずにいると、男はその場から離れた。

 

年齢故に罪には問われていなかったが、実質的に犯罪者と同じ扱いを受けている。

 

約束されていた「艦娘として華々しく彩られるはずの人生」は、人間を分解してしまう化け物としての人生に堕落してしまった。

 

それから少女は、大本営の実験に参加するだけの、ただの実験用マウスのような扱いを受けていた。

 

研究内容に応じて行動し、毎日を過ごすだけの日々。

 

そんな日々に嫌気が差した頃、1つの実験が行われた。

 

 

「人体の解体について」の実験だった。

 

少女が不意に起こしてしまう解体は、解体対象の構造分析が十全に行われていない場合、条件反射で発動してしまうものだった。

 

そこで大本営は、遺体を使った実験を行う事で少女の解体を抑え、少女の艦娘としての道を開こうとしていた。

 

遺体は身元の確定している、遺族から許諾を取った者を使用すると説明され、少女は快諾した。

 

実験の日、遺体が実験場に運び込まれる。

 

布を身体に被せたまま、少女は解体を開始した。

 

分析が進むにつれて、遺体は足の先から消滅していく。

 

「これが……解体の力……」

 

「実際に見ると恐ろしいな、この実験がなければ何人が犠牲になるのだろうか……」

 

周りを取り囲む男達が小さな声で呟いた。

 

少女は気にせず作業を続ける。

 

肩まで解体が終わった瞬間、落ちかけていた布がひらりと床に落ちた。

 

今まで隠れていた遺体が、最後の1部となった途端に顔を出した。

 

 

 

父の顔だ。

 

 

 

最後に残った部位は頭だけだったが、それは紛れもなく父のものだった。

 

脳が状況を理解した瞬間解体が終わり、身体は跡形もなく消滅した。

 

少女はその場に崩れ落ちる。

 

暫くの哀哭の後少女は気を失い、実験は終了した。

 

 

目が覚めると、少女はまた同じ部屋に戻っていた。

 

実験が終了した事が監視役から告げられ、少女は実験内容を思い出す。

 

 

 

 

自らの手で父を解体した。

 

 

 

 

その感覚が脳から焼き付いて離れない。

 

黒く濁りきった心を吐き出すように、胃の中身を吐き出した。

 

最早言葉にもなっていない、ただの音を吐き出しながら苦しむ少女に、監視役が口を開いた。

 

監視役の口からは、少女の力は彼女の祖母が作り出したものであると告げられた。

 

親族の間に子が宿らなくなり、財源確保に困窮した祖母が「人工の神の子」を創造しようとし、自らの艦娘の力を使用して母親の身体に妖精の力を無理やり注入した。

 

擬似的に艦娘を生み出す媒体となった母親は子宮内で今の少女を生み出したのだった。

 

それを知った父は自らの家庭が妻にもたらした狂気と、娘に望まれない運命を背負わせたことに罪悪感を覚え、今回の実験に協力すると進んで出てきたと言う。

 

次々と話される黒い真実に、少女は頭を抱えて蹲る。

 

そんな少女を見て、男は深い息を吐いた後口を開いた。

 

「だが、そんな人工の神の子にも役割がある」

 

男はそう言うと、少女を真っ直ぐ見つめた。

 

 

 

「お前を俺の鎮守府に迎えたい」

 

 

 

 

監視役の口から突然、そう告げられた。

 

突然の提案に、少女は顔を上げた。

 

自らを真っ直ぐ見つめる視線に、少女は震える瞳で答える。

 

男は無機質な顔のまま、話を続けた。

 

「実は俺はこの地域の鎮守府で提督をやっている者だ」

 

「……提督?」

 

 

 

「本来は殺処分となるはずのお前を留め、この場に連れてきたのも俺だ」

 

 

 

少女はその言葉を聞き、大きく目を見開いた。

 

殺処分、もう自分は人間とすら思われていなかったのだ。

 

「……んで……」

 

「……?」

 

 

 

 

「なんであたしをそのまま殺してくれなかったんだ!!そこで死んでれば私は……こんな……こんな……っ!!!」

 

 

 

自らの両手を見つめながら、少女は心の内をさらけ出した。

 

声はもう掠れており、甲高い声は部屋の中に虚しく反響する。

 

 

 

「父上が……こんなことしちゃったから……あたし……生きるしか……なくなっちゃったじゃん……」

 

 

ひとしきり泣き叫んだ後、少女は力なく呟いた。

 

唯一大切だったものから渡された命は、少女の心に大きな重石を付けていた。

 

そんな様子を男はじっと見つめている。

 

「どうせ外に出てもあたしには何も無い、なら今まで通り「道具」として、最後まで生きていく」

 

少女は吐き捨てるようにそう言って、布団にくるまった。

 

「呑むよ、その提案」

 

「……そうか」

 

男は深いため息を吐いた後、その場を離れた。

 

少女はもう何も考えられなかった。

 

ただ何も無い暗闇を歩かされているような、そんな感覚に襲われている。

 

誰かに歩かされるだけの運命、それを受け入れる他ない状況を、少女は憂いた。

 

目を瞑り、意識を宙に投げると、少女は静かに眠りについた。

 

 

 

━━━━━━━━━ 爆発音で目が覚める。

 

異様な熱気と、鼻を劈くような香りで少女は異変を察知した。

 

鳴り響く警告音に、少女は何も出来ずに震えていた。

 

「深海棲艦の奇襲だ!!!」

 

「対空装備を備えている者は迎撃の準備を!!!」

 

荒々しい指示が施設内に飛び交う。

 

少女は状況を理解し、勇気を出してその場から離れようとしたが、炎に行く手を阻まれてしまう。

 

「そんな……っ!?」

 

少女は立ち止まった。

 

死ねればよかったと口にしていたが、眼前に迫る死の恐怖には耐えられなかった。

 

「助けて!!!」

 

少女は声を振り絞り、炎に向けて助けを呼ぶ。

 

しかし炎は少女の声を一蹴するように、眼前で強く燃え盛る。

 

火の手が遂に少女の眼前にまで迫り、少女はその場に膝から崩れ落ちた。

 

 

 

今まで、誰にも届いてこなかった自ら

の声。

 

 

 

遂には死の瞬間まで届かなかったのかと、愕然とする。

 

 

 

 

瞬間、大きな音と共に目の前の炎が吹き飛んだ。

 

炎の中から黒い影が現れ、少女を引っ張る。

 

「大丈夫!?息できる!?」

 

渡されたハンカチを口に当て、少女は上を見上げる。

 

影は炎に照らされ、徐々に輪郭を帯びていく。

 

そこには自分と同じくらいの艦娘が立っていた。

 

「もう大丈夫、私と一緒にここから抜け出そう?」

 

艦娘は笑顔を向けながら、少女に手を伸ばす。

 

 

 

 

その笑顔は、太陽のように眩しかった。




お久しぶりです、もうこの挨拶何回目でしょうか、さめやんです。

Part35、いかがだったでしょうか。

過去話に比べてもっと脇のキャラクター達を見せたかったので、今回は皆に色んな活躍をしてもらっちゃいました。

礼花さんもやっとスポットライトが当たって、書いていて楽しいです。

改二兵装を手に入れ、大幅パワーアップした第八艦隊の仲間たち、この増援は戦況を大きく変えることになるのか。

そして、慣れない艤装で出撃した時雨は、白露を無事に守りきることが出来るのか?

一方その頃、ついに過去を話し出した礼花。

彼女が「夕立」と交わした約束とは?

次回をお楽しみに
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