心を埋めるもの Part36
研究所の襲撃から数日後。
少女は提督の案内もあり、地域の海を最前線で守っている「鎮守府」に連れてこられていた。
「……結局、連れてこられちゃったな」
幸い、研究所の中の最奥にいた少女は、早期発見と艦娘の補助により、あれほどの大火事でも怪我は少なかった。
その後連れてこられたのだが、未だに少女は連れてこられた目的も、これからの目的も伝えられていなかった。
処置を終えた少女に与えられた部屋は四畳半、異様な静けさが少女を覆っている。
少女にとって何もしないことは苦でもなかったはずだったが、研究所から畳の部屋に変わるだけで落ち着かない。
「むぅ……やっぱり落ち着かない」
1度外に出て、周りの状況を確認しようと少女はドアノブに手をかける。
すると、勢いよくドアが開いた。
「おはよう!元気になった!?」
ノックもなしに、無遠慮にドアを開けてきたのは、あの時自分を助けてくれた艦娘だった。
整ったクリーム色の髪の毛が、遠心力でふわりと靡いている。
「いったぁ……!せめてノックくらいしてくれない?」
「あ、ごめんごめん!」
艦娘は倒れた少女に手を伸ばすと、自らの方へと引き寄せた。
「提督が用があるって!」
艦娘は少女の手を引くと、司令室の前へと連れていった。
されるがままに着いてきた少女は、状況を読み込めないままドアをノックする。
「入っていいぞ」
声の後に、少女と艦娘が共に部屋に入る。
中には看守を模していた男、提督とその秘書艦が立っていた。
秘書艦は横に髪を結び、道着のような物を身に纏いながら、凛とした表情で提督の横に立っている。
提督がなにか指示を促すと、秘書艦は直立姿勢を止め、二つ返事で動き出した。
無駄のない動きに、少女は関心にも近い表情で二人を見ていた。
二人の薬指には指輪がついており、ただの秘書艦と提督の関係では無いことは確かだった。
そんな二人を眺めていると、提督が口を開いた。
「まずは無事でよかった、あの襲撃では死傷者も多かったから、君も巻き込まれていないか不安だったよ」
口から出てきたのは安堵の言葉だった。
看守の時と比較したら明らかに朗らかになっている表情に、少女は驚く。
「なんか……口調柔らかいね?」
「あの時は常駐場所外での仕事だからね、俺の行動ひとつでここのみんなの示しが付かなくなっちゃうからさ」
提督はそう言いながら秘書艦の持ってきたファイルから資料を取り出す。
「まぁ早く本題に入った方がいいよね」
「君には、艦娘としてここの整備士をやって欲しいんだ」
少女が身構えていると、提督の口からは意外な言葉が飛び出した。
今まで道具として扱われ続けた少女にとって、一艦娘として仕事を与えられる事は完全に予想外だったのだ。
「一応聞くけど、なんで?」
「一つ、君のその解体能力は必ず鎮守府の力になると考えている。本来解体はそれなりの時間を要するものなんだけど、君の場合はそれが瞬時に行える」
「……。」
自分に与えられた力、解体。
少女にとっては語るのすら嫌悪感を感じるほど、この能力を憎んでいる。
そんな力が役に立つと告げられ、少女は複雑な表情をした。
「それほど物に対する解析能力が高ければ、解体以外にも様々な用途で君の力は使えると思うんだ」
「ふぅん……」
「もちろん衣食住は完備するし、それ相応の報酬は出すよ」
提督がそう言って笑うと、少女は納得できない表情をする。
「……アタシの力は使えるものとは限らない、もし使えなかったらまた別のところに送るの?」
「そんな事しないさ」
「でもそれじゃ、そっちに良い事が……」
少女がそこまで言うと、提督は遮るように口を開いた。
「君みたいな子を、僕は放っておけないからさ」
提督がそう言って笑うと、横にいた艦娘と秘書艦も笑みを浮かべた。
「ここの鎮守府は、身寄りのない子を積極的に引き取ってる鎮守府よ」
秘書艦がそう言うと、少女の横に立っていた艦娘も満面の笑みで頷く。
「私も体が弱くて、親に捨てられちゃって……提督に引き取ってもらったの!」
横の艦娘に関してはどう見ても体が弱そうには見えないが、少女はようやく納得の表情を浮かべた。
「まぁそういう感じ……ってことで、引き受けてくれるかな?」
提督はそう言うと、少女に手を伸ばした。
「まぁ……そういう事なら」
提督が伸ばしてきた手を握りしめると、少女の体の中から艤装が展開される。
少女が驚いていると、提督は艤装に触れて何かを操作している。
「これで君の中に正式に艦娘の力が宿った、これからよろしくね」
「夕張」
少女は自らに与えられた名前に、少し慣れない表情をしながらも返事をする。
何も見えない暗闇の中に、一筋の光が見えた瞬間だった。
艦娘としての任期も半年以上過ぎ、ようやく仕事に慣れてきた夕張は、日々の仕事を着実にこなしていった。
提督の言う通り、少女の解析能力は常軌を逸しており、それぞれの艦娘の個体差に合わせて艤装を整備できる整備士となった。
「こんだけ出来ればもう大丈夫そうですかねー、もしかして私より……」
隣で教えている明石もその力に驚いている様子だった。
「まぁとりあえず、一旦ここで今日の作業は終わりにしましょう!」
「はい、お疲れ様です」
仕事を終えて工房から出ると、見慣れた艦娘が手招きをしていた。
「全く……毎度毎度私に構ってて飽きないの?」
「夕立」
夕立と呼ばれた艦娘は、嬉しそうに夕張の隣を歩く。
「だって、私に合った艤装を作ってくれたの貴方だけだもん!」
「はぁー……」
夕張が作った艤装は体の弱い夕立の動きをより良くサポートできるようにしており、夕立はこれまで以上の力を発揮できるようになった。
それに感動した夕立は、あれからずっと夕張について回っている。
夕張は鬱陶しそうにしながらも、夕立が隣を歩くことを許可していた。
2人はそのまま海沿いの道を歩き、鎮守府本館へと向かっていく。
「まぁ作ったのはアタシだけどさ……アタシ自身にはそんな面白いところないんじゃない?」
「そう?そんな事ないと思うけどね」
「アタシなんてさ、人と付き合っていいわけないんだよ」
「どうして?」
「アタシは……色んなものを壊してきたからさ」
夕張は自らの手を見て、そう呟いた。
鎮守府の生活に慣れた今でも、自分を蝕み続けるこの情動。
父を解体した時の感触が、ずっと残り続けているのだ。
それまでに破壊してきた人の、物の全てを考え、夕張はこれ以上人との関わりを持つ事を拒んでいた。
━━━━━━━ すると、夕立は夕張の手を強く握った。
「そんなこと、ない」
夕立は少女の目を真っ直ぐに見つめる。
夕張は思わず目を逸らしてしまった。
「今まで壊してしまった分、貴方は色んな人を救ってる」
夕立は自らの艤装を展開し、夕張に見せつけた。
「ほら、現に私の艤装も作ってくれたでしょ?」
「……。」
「それにね、私には夢があるの」
「夢……?」
夕立はそう言うと、夕日を背にして自信満々に立った。
「いつか、全ての艦娘が人間と同じように……平和に生きる時代を作ること!」
夕立の言葉を聞いた夕張は、不審な顔を浮かべる。
「そんなこと……無理だよ、そのためには戦火を断ち切らなければいけないし、何より艦娘は……」
夕張はそこまで言うと、目を伏せた。
世間での艦娘は、戦争に使う兵器として扱われている。
人型の兵器として人間生活に入り込んではいるが、世間からの評判は気持ちの良いものではなかった。
中には艦娘というだけで差別を受け、不当な扱いをされている艦娘も存在している。
そんな世の中を知っている夕張だからこそ、その夢に懐疑的な視線を向けていたのだ。
「ううん、やってみせるの」
そんな不安をかき消すように、夕立は笑った。
「今はまだ認められてないかもしれないけど、私は私を作ってくれたこの鎮守府の仲間たちが笑って暮らせる未来を作りたい」
「だから、私は仲間を守り切るために、戦い続けるの!」
夕立はそう言うと、夕張に向けて勢いよく手を伸ばした。
「もちろん!それには貴方も含まれてるよ!」
現実を知ってもなお、目の前の艦娘は笑っている。
夕張はただの少女だった時に見た、太陽を思い出した。
その光は強く、少女を覆っていた闇を照らしてしまうほどに苛烈だった。
「そのためには私自身も戦わないといけない、だから力を貸して?」
力強いその言葉に、夕張は呆れた様な表情を浮かべた。
しかしそれと同時に、この艦娘なら何かを成せるかもしれないと言う感覚にも襲われた。
夕張は差し伸べられた手を握り返すと、はにかんで笑った。
「その呆れるほど遠い夢、一緒に見させてよ」
そう言って、二人は再び帰路に着く。
夕張にとって、初めて認め合える存在ができた瞬間だった。
鎮守府に務めだしてから数年経った。
夕立とはあれからずっと行動を共にしていた。
夕立は夕張の艤装によって更なる活躍を重ね、その性格と強さから着実に戦果を重ねていった。
一方、夕張も夕立を介して鎮守府の仲間と喋れるようになり、夕張は完全に鎮守府に馴染んだ。
元々有していた力も完全に制御し、教えてくれた明石が異動で鎮守府を去ってからは、鎮守府工房の柱として艤装の整備を行っていた。
この日はお互いに仕事が終わり、いつも行っている模擬戦闘を行っていた。
「ふっ!」
夕立の蹴りが夕張の頬を掠める。
更に体を回転させ、夕立が逆足で追撃を仕掛けると、夕張は夕立の足を掴んだ。
触られた部位からゆっくりと艤装が解除され、慌てて夕立は足を下げる。
「もう!やっぱその能力、戦闘になると厄介すぎ!」
「ははは、まぁずるい部類ではあるよね」
そう言って夕張も夕立に仕掛ける。
激しい打ち合いの後、夕立の蹴りが一発夕張の腹に入ったところで、今日の訓練は終了した。
二人はそれぞれ支度をし、帰路に着く。
「夕立、話があるんだ」
「ん?なぁに?」
夕日に照らされる道を進みながら、夕張は口を開いた。
「前言ってた新しい艤装、完成の目処が立ったよ」
夕張の言葉を聞くと、夕立は目を輝かせた。
「新しい艤装!?」
「うん、ただ……」
明るい情報とは裏腹に、夕張の表情は暗かった。
そんな夕張の様子をみた夕立は、夕張の手を無意識に握る。
それで安心したのか、夕張は再度話を続けた。
「その艤装に使われているのは……深海棲艦「姫級」のデータなんだ」
「……っ!」
夕立は一瞬、その話を聞いて固まった。
今戦っている相手の優れた技術を自分の中に入れる、戦争中の世では当たり前の考えだ。
しかし、いざそれを実行するとなると体が強ばる。
「彼女らは再生能力、火力、身体能力全てが、人類の叡智を大幅に超えた水準を保っている」
礼花は堤防で立ち止まり、夕日に目を向けた。
「これを兵器に流用出来るのはデータ分析に長けたあたしだけだ……提督は戦線の安定のためにはそれを利用する他ないと考えてる」
「そっか……」
「でも、このデータはあまりに危険すぎる……実践に投入するにはまだ調整不足だ……だから━━━━━━━━━」
「じゃあ、私が使う」
夕張の言葉を遮って、夕立はそう答えた。
夕張はそれを聞いて、驚愕の表情を浮かべる。
「話聞いてた!?すっごい危険な力なんだよ!?」
「分かってるよ」
「なら……!」
そこまで夕張が言うと、夕立は握りしめていた手を胸の前に持っていく。
「だって、貴方が作ったものだから」
「……っ!」
夕立は全てを包み込むような笑顔で、夕張にそう答えた。
夕張はその顔に何も言葉を出せず、ただ下を向くだけだった。
夕立はそんな夕張を見て、力強く手を引っ張った。
「来て!夕張!」
夕張は引っ張られるがまま夕立について行き、夕焼けの道を走った。
帰っていた道を引き返し、演習場近くの浜辺についた。
自分のペースではなく夕立のペースで走っていたため、夕張の体力は底を尽き、その場に膝から崩れ落ちた。
目の前に映っている少女は夕日を受け、まるで自分が「それ」であるかのように振る舞う。
「あたしね、ずっと体が弱くて……孤児院でも部屋外に出して貰えなかったんだ」
夕立は自分の身の上の話を語り出した。
「鎮守府に拾われてからも、艤装とリンクできなくて……ずっと地上の救急隊の手助けしかやらせて貰えなかったんだ」
夕立はそう語る。
確かに夕張と夕立が初めて出会ったのは地上での任務であり、夕張が艤装開発に着手するまでは地上での任務しか行っていなかった。
自分の体に合う艤装を手に入れてからの活躍は目まぐるしく、虚弱な体に埋もれていた才能がようやく開花したが、根本の彼女自身は変わっていない。
「やっと……海に出られたの、貴方のおかげで」
夕立は夕張の目を真っ直ぐ見つめる。
「だから、貴方の艤装を信じたいの」
夕立は満面の笑みでそう言った。
夕張はそれを見て、大きな声で笑った。
「はははっ!やっぱり君には叶わないよ」
始めて見る夕張の大きな笑いに、夕立は少し驚いた表情をする。
「初めてそんな顔見た!」
「そりゃそうだよ」
「あたしの人生に、こんな底抜けに明るい光はなかったからさ」
夕張のその言葉に夕立も笑うと、二人で沈んでいく夕日を見た。
徐々に明かりを失っていく空、暗闇が徐々に増えていく中、二人の周りにはまだ夕焼けが差している。
「ねぇ、夕張」
「ん?」
「あなたの「本当」の名前は?」
夕立からそんな質問が飛んでくる。
夕張にとっては長らく忘れていた、自分がまだ人間だった頃の名前。
鎮守府の生活で、すっかり忘れていたものだった。
ただ、なにかの願いを込められていたような……そんな気はしていた。
「あたしの……名前……」
様々な記憶を掘り起こしていく。
今にも嘔吐と共に外に出て欲しいほど、黒く淀んだ記憶の中に、確かに自分の名前に関する記憶はあるはずだった。
『名……前……の……由来?』
途切れ途切れになっていた記憶の中から、父の声を思い出した。
『そ……だなぁ……名前……』
途切れている声を必死に繋ぎ合わせ、1つの言葉に繋ぎ合わせた。
『お前は必ず、誰かの力になれる』
『誰かのために礼を尽くし、戦場に咲き、誰よりも愛される唯一の花になってくれ』
『そんな想いを込めた名前がお前の名前━━━━━━━━━━━━━━━』
「礼花」
少女はようやく、自分の名前を思い出した。
名前に込められた父の想いを思い出し、頬に1つの雫が流れる。
「礼花……うん、いい名前」
少女の口から出た名前を、夕立は心に刻みつけるように呟いた。
しばらく言葉を咀嚼したあと、夕立は礼花の横顔を見つめながら口を開いた。
「じゃあ名前の代わりに、私の弱さを貴方に話すね」
夕立はそう言うと、弱々しく口を開いた。
「私ね、名前なかったの」
「……!」
「市役所に登録されてる名前はもちろんあるけど、適当に付けられたような、何の変哲もない名前」
夕立の言葉を聞いて、礼花は夕立の方を向く。
「本当の私ってどこにあるのかな……誰が私を知ってるんだろうって、思っちゃう時があるんだ」
初めて聞く弱々しい夕立の声に、礼花は神妙な顔をする。
「何も無い私が海で消えちゃったら、私なんて直ぐに忘れられちゃうかもしれない」
「だからさ……礼花、もし私がこの広い海で……何もかも無くなっちゃった時は……」
「貴方が見つけてよ」
夕立はそう言うと、どこか寂しそうな顔で笑った。
目の前で輝き続けていた太陽に、唯一の雲がかかった瞬間だった。
「貴方が私を見つけて、私を知って……私をずっと理解してて」
「夕立……」
「これは私の唯一のお願い、覚えててよ」
夕立は沈みきった夕日を見つめる。
静かな海風が髪の間を通り抜けていく。
「わかった、絶対見つけ出す」
礼花はそう言い返すと、夕立の手を握った。
夜が2人を包み込み、周りの景色は見えなくなっていく。
秋の寒さが肌に感じられるようになった季節の夜、2人は心まで繋がったのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━
礼花は一通り自分の話を終えると、目尻に浮かんだ雫を拭き取った。
今まで聞けなかった、夕立の前任者について。
艤装の中に眠っていた彼女からは感じ取り切れなかった彼女の心を、夕立は今感じ取った。
「その後、彼女は戦争に自ら参加し……前にも言った通り、艤装とのリンク不全を起こして装甲空母姫に負けた」
「……。」
「結局あたしは夕立を見つけきれないまま、今まで生きてしまってる」
礼花はかつて見た夕焼けと重ねながら、悲しげな表情をした。
「やっぱあたしじゃ……夕立の夢を叶えることなんて出来なかったんだよ」
そんな礼花を見た瞬間、夕立は体を動かしていた。
「……なにしてるの?」
夕立は礼花の手を握っていた。
礼花は驚いた表情で夕立を見つめる。
「違う、違うっぽい……礼花さん」
夕立の表情は、未だかつて無いほと真剣な表情だった。
礼花は思わず圧に負け、後ろに下がる。
しかし、夕立は手を握って離さない。
「確かに前の夕立を探し出すって事は、出来なかったかもしれないっぽい」
「でも、「夕立」を見つけてくれたでしょ?」
夕立は自らの胸に手を置き、礼花に訴えかけるようにそう言った。
「夕立、艤装の中で前の夕立に会ったっぽい」
その言葉で、礼花は固まった。
「夕立は……なんて……?」
礼花の言葉に、夕立はあえて答えずに言葉を続ける。
「確かにあの人は夕立とは違って、ずっと光り続けてたっぽい……」
夕立は心の中に眠っていた、もう1人の夕立の言葉を思い出す。
『君がさっき私に言った言葉は、これからの君が生きていくための意志になる』
『だから君は終着に向かうまで、止まらないで進めばいいよ!』
『最後に太陽が照らす道は、きっと……ハッピーエンドに繋がってるから!』
まだ暗闇に閉ざされていた夕立の心の中で、彼女は笑っていた。
かつて少女が燃やされていたであろう光を、夕立は身をもって味わった。
その熱を噛み締め、夕立は今を生きている。
「みんなが教えてくれた「意志」を、あの人は夕立に気づかせてくれたっぽい……」
夕立は握った手に力を込め、空いた手で自分の胸を叩き、礼花の心まで届くように声を振り絞った。
「夕立は、「夕立」が灯した火を!「ここ」に持ってる!!」
「みんなが埋めてくれた心は!夕立を燃やし続けてくれてる!」
「それをたった今!礼花さんは見つけてくれたっぽい!」
夕立の声が、息が━━━━━━━━━━意志が、礼花の体を包み込む。
この瞬間、礼花の中で「夕立」は死に、太陽が新たに生まれた。
あの懐かしき日々で感じていたあの熱が、目の前で確かに燃えている。
礼花は大粒の涙を流しながら、大きな声で笑った。
悲しさと嬉しさ、あまりに乖離した感情は礼花の背負っていた物を全て分解してしまった。
ひとしきり笑ったあと、握られた手を握り返し、礼花は夕立を見つめた。
「また……照らされちゃったね」
礼花はそう言うと、一息整えてから口を開いた。
「ねぇ、夕立ちゃん……君はさ、何のために戦ってるの?」
礼花の言葉を、夕立は正面から受け止める。
礼花のこの質問に、今までの夕立は目を見て答えることができなかった。
喪失、不安、怒り……様々な感情に包まれていた夕立に、この問いは難しかったのだ。
何も答えることが出来ず、ただ自分の存在意義だけを主張するだけ。
礼花はこの質問の後、いつも悲しい顔をしていた。
(でも、今は違う)
「夕立は……」
喉に溜まった声を一息で整えて、夕立は晴れやかに笑った。
「仲間を守るために……みんなが笑って暮らせる世の中を作るために、戦ってるっぽい!!」
夕立はそう言うと、礼花の手を自分の方に寄せた。
「それにはもちろん、礼花さんも含まれてるっぽい!」
礼花は目を伏せて暫く息を整えたあと、呆れたような表情で笑った。
「そっか……そうだよね、うん……」
「そんな君だからこそ……あたしは……ずっと……」
礼花は自らがつけていた髪飾りを夕立の髪につけると、髪飾りが夕立の艤装に呼応するように金色に光り出した。
「これは彼女が残した唯一の艤装……その艤装の最後の1ピースだよ」
艤装の中で離れ離れになっていた力が、1つにまとまって行く感覚がした。
「力が……溢れてくるっぽい……」
「これで君は「完成」した、もう君を止められる者は居ないよ」
礼花はそう言うと、何かを待つような表情で夕立を見つめた。
夕立は直ぐにその意味を察し、礼花の手を離した。
「戦場に出るっぽい」
夕立の言葉を聞いて、礼花は深く頷いた。
もう二人の間には言葉は要らなかった、夕立の意志は確かに礼花の胸に響いていた。
礼花はいつものようにおどけた表情になると、いたずらな笑みを浮かべる。
「じゃあ、出撃許可証に一人名前を足さないとだね」
その言葉を聞いて、夕立は驚いた表情をする。
「夕立以外にも出る子がいるっぽい?」
「うん、君ともう1人と……あたしの3人で行くよ」
礼花はそう言うと、自らの艤装を解放し、かつての夕張の姿を取り戻した。
その目にもう曇りはなく、はるか先に沈む夕日を真っ直ぐと見つめていた。
「さぁ!提督のところに行こうか!」
「「あたし達」で、戦場を引っ掻き回してやろう!!」
二人の艦娘は歩き出し、中庭から提督室への道を進む。
その表情には、一点の曇もなく、雫もなく。
ただ、互いが信じた太陽が照らした道を進もうとしているだけだった。
お待たせしました、Part36です。
ここ最近、書けば書くほど最終回に近づいてきている気がしています。
今トリコで言うと、八王に会ったあたりなので、かなり進んだ方だと思います。
終盤に近づけば近づくほど、キャラクターが勝手に進んでいく感覚がして、自分は物語をただ補完するだけの役割を担ってるように感じます。
これからの最終章、今まで作ってきた物語の全てを出せるような展開にしていきたいです。
さて、遂に過去の夕立の真意や言葉、礼花を縛っていた全てを知ることが出来た今回の話ですが、いかがだったでしょうか。
かつて少女を燃やしていた大火は、今も尚眼前で燃え上がっている。
各々の意思で立ち上がった少女たちは、ハッピーエンドを掴むことが出来るのか。
次回もお楽しみに