【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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【艦これ】心を埋めるもの Part4「同じ体、違う景色」

波が一定の感覚で打ち寄せ、海風が優しく頬を撫でる砂浜に、時雨は立っていた。

 

夕立はゆっくりと時雨に向かって歩く。

 

「どうしたんだい?」

 

急に時雨が後ろを向く。

 

「ぽ……ぽいっ!?き、気づいたっぽい?」

 

「うん、気づいてたよ」

 

「ぽいぃ……」

 

「君は夕立だよね?どうしてここに来たんだい?」

 

「えっと……遠くから、砂浜に立ってる時雨を見つけたからっぽい」

 

「そうか」

 

少しの間静寂が訪れる、日は水平線に沈んでいき、辺りが暗くなってくる。

 

「時雨はここで何をしてたの?」

 

その静寂を断ち切るように、夕立が話しかける。

 

「何もしてないさ。ただ、ここにいると気分が落ち着くんだ」

 

「そうなんだ……」

 

「君は、生まれた時から艦娘の力を持っていたんでしよ?」

 

「……!なんで知ってるっぽい……?」

 

時雨の急な言葉に、夕立は驚く。

 

「提督から聞いたんだよ、ちょっと色々と事情があってね」

 

「事情?」

 

 

 

「君は聞いたのかな?僕も君と同じ、生まれた時から艦娘の力を持っているって」

 

少しの間の後、時雨が海の方を見ながら言った。

 

「!?」

 

夕立は驚愕し、それと同時に納得する。

 

初めて出会った時や模擬戦で対峙した時、感じた謎の「引力」は、そういう事だったのかと。

 

「聞いてなかったみたいだね。あの模擬戦では、艤装のテストと生まれた時から艦娘の力を持つもの同士を戦わせたら普通の艦娘と違うのかを確かめるテスト、2つを同時に行っていたんだ」

 

夕立はそれを聞いて疑問に思う。

 

「なんで夕立には教えて貰えなかったの?」

 

「……。」

 

『あいつは普段は優しいからな。お前が自分と同じ、生まれた時から艦娘の能力を持っていたと知ったら、テスト中に余計なことを考えてしまうかもしれない……だからこの事は終わるまで秘密にしてくれ』

 

「……知らないよ、それは提督に聞いてほしいな」

 

「うぅ……」

 

ここで2度目の静寂が訪れ、穏やかな波が砂浜に打ち寄せる。辺りはどんどん暗くなっていき、少し時雨の顔が見づらくなる。

 

「君は、どうして艦娘になったんだい?」

 

時雨が突然話しかけてくる。

 

「えっ……?」

 

突然の質問に、夕立は戸惑う。

 

「え、えっと……それしか道が無かったっぽい。夕立はあの時、提督に拾ってもらわなかったら、今生きてないっぽい……」

 

「提督に恩返しをするため?」

 

「うーん……それもあるっぽい」

 

「……?」

 

「一番の理由は、「戦う事」が夕立の存在意義だと思ってるからっぽい。夕立は壊すことしかできないから……」

 

「……そっか」

 

時雨は少し暗い顔をして答えた、そんな時雨を見て、夕立は慌てて聞き返す。

 

「時雨は?」

 

そう聞くと、時雨は少し顔を緩ませた。

 

「姉に、会うためなんだ」

 

「姉……?」

 

「そう、私が6歳くらいの時に家を出ていってね。艦娘をやっているみたいなんだ」

 

「そうなんだ……」

 

「全然家にも帰ってこないから、僕も艦娘になったらまた会えるかな……って思ってね。お父さんとお母さんも心配してたからさ」

 

「そっかぁ……時雨のお父さんとお母さんは何をしてるの?」

 

「一応、提督と秘書艦をやっているよ。お母さんは元艦娘でね、鎮守府の艦娘を秘書艦にするよりいいと判断されたから、今もお父さんの秘書艦をしてるみたい」

 

「そっか……」

 

話しているうちに日が沈んでいた。辺りはもう暗くなっていて、海は闇に包まれていた。

 

「そろそろ戻らないとだね、提督に怒られちゃうよ」

 

「ぽ……!ぽい!急がなきゃ!!」

 

そう言って夕立が後ろを見ると、人影が見えた。

 

懐中電灯を握りしめ、慌ただしい様子で走っている。

 

その人物は夕立に気づくと、名前を呼びながら走ってきた。

 

「夕立姉さーーん!!」

 

「あれは……五月雨っぽい?」

 

五月雨が走って砂浜に降りてくる。

 

「危ないから歩いてー!五月雨ー!」

 

「きゃあっ!!」

 

五月雨が盛大に転び、夕立は「注意したのに……」と呆れる。

 

「うぅ……痛いです……」

 

「だから言ったっぽい……五月雨はなんでここに?」

 

「夕立姉さんの帰りが遅いと思って……時雨姉さんと話していたんですね」

 

「ごめんっぽい、今帰るから……」

 

「よし、じゃあ戻ろうか。これ以上遅くなるのはまずいからね」

 

時雨が歩き始め、夕立と五月雨もそれに続いて歩く。砂浜で時雨と話して、少し距離が縮まったかもしれないと、夕立は喜びながら歩いた。

 

 

 

 

次の日、夕立が学校に行くために寮から出ようとすると、部屋のポストに手紙が届いていた。

 

そこには「16:30執務室に」と書いてあった。

 

「……?何の話をするっぽい……?」

 

突然の手紙に困惑していたが、とりあえず夕立は学校へ向かうことにした。

 

 

16:30

 

執務室にノックの音が鳴り響く、それを聞いた提督が「入っていいぞ」と返事をする。

 

「駆逐艦夕立、到着したっぽい!」

 

夕立が執務室を見渡すと、時雨、叢雲、春雨、不知火が居た。

 

全員学校で会ったことがあるので、ある程度面識はあった。

 

「遅いです、集合時刻より5分前に着くように行動しなさいと何回も言っているでしょう。」

 

普段から厳しい不知火が、より鋭い目で夕立を睨みつける。

 

「あはは……ごめんっぽい……」

 

(やっぱり苦手っぽい……)

 

夕立は助けの目線を春雨に送るが、目をそらされてしまった。

 

「ねぇ時雨、なんで私たちここに呼ばれたのかしら?」

 

「知らないよ、まだ僕も伝えられてないからね」

 

叢雲と時雨が不思議そうな顔をしながら話している。

 

そんな中、提督が口を開く。

 

「さて……あと一人呼んだはずなんだがな……全くあいつは……」

 

提督は溜息をつきながら、ドアの方を見た。

 

夕立もそれにつられてドアの方を見る。

 

その時廊下の方からドタドタと慌ただしい足音が聞こえ、勢いよくドアが開いた。

 

「ごめん、提督!遅れちゃった!!」

 

黒い髪のツインテールの艦娘が汗を流しながら入ってくる。

 

「川内、お前は遅刻癖を直せ」

 

「ごめんなさいー!」

 

そう言いながら、川内は提督の横に立った。

 

「ったく……さて、じゃあ本題に入る」

 

「「……。」」

 

提督がその言葉を発した瞬間、執務室内の空気が静まり、川内以外の全員が提督を見つめる。

 

「この6人は、今日から第八艦隊として、艦隊を組むことが決定した」

 

駆逐艦達が互いを見た後、提督を見る。

 

(時雨と同じ艦隊……ちょっと嬉しいっぽい)

 

夕立が時雨の方を見つめる。

 

時雨も少し夕立の方を見たため一瞬目が合ったが、すぐに前を向いた。

 

「それで旗艦がこの私、川内だよ!最近はあまり前線に出てないけど、実力はあるから!」

 

川内が自分の胸に親指を立てながら言った。

 

「安心して!絶対に轟沈はさせないからさ!」

 

川内自信満々の様子でそう言い放つと、夕立達に向けてグッドサインを出した。

 

 

 

現在、鎮守府には七つの艦隊がある。

 

それぞれの艦隊の旗艦に能力のある艦娘が選ばれ、それ以外は駆逐艦等のあまり戦闘経験が無い艦娘達で編成されていて、街から届いた依頼や海域の調査、戦闘等を行っている。

 

ある程度実力がついたら、各地への派遣や、少し危険度の高い海域等に出撃できるようになる。

 

中でも、金剛等の鎮守府の中でトップクラスの実力を持つ艦娘達は、特殊部隊として非常に危険度の高い海域や依頼をこなしている。

 

現在の鎮守府は練度の高い駆逐艦は、戦艦や重巡、空母などと危険な海域で戦っており、まだ練度の低い駆逐艦は、練度の高い軽巡と共に危険度の低い任務をすることになっている。

 

1度編成された艦隊は何かが起こらない限りかなり長い期間一緒にいることになるので、メンバーは非常に大事な存在となる。

 

「遅刻する様な人が旗艦かぁ……夕立姉さん、大丈夫だと思いますか?」

 

「ぽ……ぽいぃ……」

 

正直、不安しかない。

 

こんな人が旗艦で大丈夫なのだろうか、そんな考えが夕立の頭の中をよぎった。

 

そんな二人の様子を見て、不知火が睨みつける。

 

「やめなさい、司令や大淀さんが選んだ人です。恐らく大丈夫でしょう」

 

注意された2人は、それでも不安そうな顔をして川内の方を見た。そんな2人の顔に気づいた川内は、提督の方を向いて少し不機嫌な顔になる。

 

「提督、私の事何も説明してないの?」

 

「す、すまない……」

 

提督の言葉を聞いて、川内はため息をつく。

 

 

「はぁ……じゃあ、こうしよう!明日の昼、私と君たち駆逐艦5人で戦おうか」

 

 

「「「えっ!?」」」

 

その提案を聞き、その場にいた全員が驚く。

 

真っ先に言葉が出たのは提督だった。

 

「学校では勉学、戦闘ともに優秀な成績を収めている叢雲や不知火、時雨がいるが、お前と戦うってのは……」

 

提督は言葉を詰まらせる。

 

「私自身、今目の前にいる子達がどれほど戦えるのか気になるし、旗艦としての実力も示さなきゃじゃない?」

 

川内の言葉の後、叢雲が口を開く。

 

「……私は賛成するわ」

 

「叢雲……!?」

 

叢雲の言葉を聞き、提督は驚愕する。

 

「だって、正直不安しかないもの……だから、少しだけ見てみたいの、川内さんの実力を」

 

「……。」

 

「私も賛成します」

 

叢雲の言葉に不知火も続く。

 

「これから行動を共にする4人のメンバーの事も把握しておきたいので。それに、司令が旗艦に選んだ人物が、どれほどの実力を持っているのか気になります」

 

「さて……2人は賛成みたいだけど、他の3人は?」

 

「僕も不知火の意見と同じかな、色々と気になるところもあるからね」

 

不知火の言葉に時雨も賛成する。それを聞いて、川内は残り2人にも問いかける。

 

「じゃあ、多数がやりたいって言ってるからやろうか!他の2人もいいよね?」

 

「は……はい……」

 

「ぽいぃ……」

 

ここまで言われたら断れる空気では無かったので、夕立と春雨も了承する。

 

「で?提督、どうするの?」

 

しばらく顎に手を当てて悩んでいた提督に川内が問いかける。

 

「……うむ、分かった、これからの作戦に少しでもプラスの効果があるならやろう」

 

「決まりっ!」

 

提督の言葉を聞いて、川内は小さくガッツポーズをする。

 

「明日は朝以外は演習場が空いている、演習の開始は12時30分からだ」

 

「了解!」

 

「……とりあえず、今日伝えたかったのは、艦隊はこのメンバーで編成するという事だ。明日の演習に備えて、各自準備をしておいてくれ」

 

「覚悟もしておいてね?」

 

「では、解散だ」

 

提督の言葉を聞き、駆逐艦達が部屋を出ていく。

 

「失礼しました!」

 

最後の不知火が出て、ドアがしまった瞬間、川内が提督に話しかける。

 

「明日が楽しみだね……」

 

「俺は恐怖しかないけどな……何も起こらないでくれよ……頼む……」

 

「まぁ大丈夫、私も色々と気になることあってさ、全力は出さないから」

 

「はぁ……そうか……」

 

そう言って提督は机に突っ伏す。

 

そんな提督を見て、川内はニヤリと笑いながら時計を見た。

 

「さて、あの子たちに旗艦の力を見せてあげないとね?」

 

そう言って、川内は執務室から出ていった。

 




Part4です!

とりあえずゆっくり更新していきます!
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