12:30
訓練所のすぐ近く、他の鎮守府の演習艦隊と戦う為に使う演習場に夕立達は立っていた。
「あれが例の駆逐艦クマ?結構小さくて弱そうクマ……もっとこう……ぐぉー!って感じのを予想してたクマ……」
軽巡、球磨型1番艦の球磨が汗を拭きながら言う。
「でも川内が旗艦に選ばれたんだろ?って事はだいぶヤベー奴なんじゃねえか?」
「んー……そうねぇ……少なくとも、並の駆逐艦よりは強いんじゃないかしら?」
球磨と一緒に演習を行っていた天龍と龍田が、駆逐艦達の方を睨みながら言った。
「よし!全員揃ったね!」
川内はそう言うと、自らの艤装を展開した。
川内が艤装を展開した瞬間、周りの空気が変わる。
演習場に広がる緊張感、駆逐艦たちは誰一人、川内から目を話せずにいた。
(なんだろう……謎の威圧感があるっぽい……)
「さぁ、早く準備して?」
「ぽっ……ぽいっ!」
駆逐艦5人も艤装を展開し、戦闘態勢に入る。
「じゃあ、始めようか……いつでもかかってきな?」
川内はその場から動かず、駆逐艦が攻めてくるのを待つ。
「……!」
急に、夕立の横の不知火が川内に突っ込み、急加速する。
不知火は川内の目の前まで接近し、近距離で主砲を構える。
川内はそれを避けようともせず、ただ不知火を見つめている。
「っ……!?舐めないでください!」
砲撃の音が演習場に響く、砲弾が海に着水し、水柱が立つ。
「……! どうっぽい!?」
ーーー瞬間、4人の目に映ったのは
川内に組み伏せられる不知火だった。
「「……!?」」
「ぐっ……うぅ……」
「フッ……んまぁ、そうなるクマ」
球磨が腕を組みながら鼻で笑う。
「かつての天龍ちゃんを見てるみたいだわぁ……?」
「ちっ!オレはあんなにあっさりやられてねぇよ!」
「ほら、他の子達もかかってきな?このままだと、不知火落とされちゃうよ?」
そう言って、川内は不知火に主砲を構える。
「っ……!やってやろうじゃない!」
叢雲が突撃する、それに春雨、夕立も続く。
「おぉー大人数で来るか、いいねぇ……実力差を分かってるじゃん」
叢雲が川内に向かって砲撃をする、それを川内はジャンプして避け、着地した後に一瞬で叢雲の懐に潜り込み、腹に主砲を構える。
それをカバーするように、後ろから夕立が蹴りを川内に入れようとする。
(よし、死角に入ったっぽい!)
「へぇ……いいじゃん」
川内は振り向かずに、主砲を後ろに構え直す。
「……!?」
そのままノールックで夕立を撃ち抜き、少し後ろに下がって、主砲を川内の頭に構えていた叢雲も撃ち抜いた。
「え……えい!!」
慣れない手つきで、春雨が魚雷を放つ。
魚雷は真っ直ぐ川内の方に向かい、春雨は狙いどおりにいった嬉しさから、少し喜んだ。
「……。」
しかし、喜びもつかの間。
川内はそこに自分の魚雷を放ち、相殺させる。
巨大な水柱が立ち、水面に雨のように降る水の中で黄金色の双眼が蠢く。それは獲物を狙う蛇の眼光のように、鋭く、突き刺すように春雨を睨む。
「ひっ……!!」
春雨が小さく鳴く。
その双眼の持ち主は、その音で春雨を捉えると同時に急加速し、春雨に強烈な蹴りを入れる。
「かっ……はっ……」
春雨はその場に崩れ落ちた。
目線が揺れ、猛烈な痛みと吐き気が春雨を襲う。
「げほっ……!!ごほっ……!」
「うげー……球磨も川内とはやりたくないクマ、正直厄介すぎるクマ」
演習の様子を遠くから見ていた球磨が、目の前の惨状を見て言った。
「そりゃそうだろ、今まで艦隊を組ませようとしたが、全部失敗。 一緒に行動する予定だった駆逐艦たちを演習でボコボコにして、恐怖で動けなくしやがったんだからな」
「それから川内は艦隊を組まず、単独で任務を行うことが多かったしねぇ」
「今回の駆逐艦も、またそうなるかもな」
天龍が駆逐艦たちを見て、残念そうに言った。
「……っ!まだ!」
組み伏せられ、倒されていた不知火が立ち上がり、川内に一撃を入れようと突撃する。
それを見て、川内がニヤリと笑う。
「周りが見えてないなぁ」
水中を進む黒い影。
川内の魚雷が、不知火の足元に接近する。
「……!?」
気づいた時にはもう止まれず、不知火は魚雷の水柱に直撃する。
不知火は魚雷の直撃で、ほとんど動けなくなっていた。
(む、むちゃくちゃすぎるでしょ……!?なんなのこの人は!?)
叢雲は目の前にいる人物が、圧倒的な存在である事を理解した。
それと同時に、追い詰められた兎のように怯えた目をする。
(あ……足が……震えて動かないっぽい……)
同じく夕立も、恐怖で動けずにいた。
「ほら、私に攻撃しないと演習にならないでしょ?」
そう言って、川内は夕立に近づく。
「……!」
(う……動けない……っぽい……!)
夕立の足は震えて使い物にならなくなっていた。
目の前に迫り来る恐怖から逃げられないほどに、大きく震えていた。
「怯えた刃は鈍となる、もう君は終わりだね」
川内は夕立の眉間に主砲を構え、撃とうとする。
「やめっ……やめ…………」
「……させないよ」
「おっと!」
その瞬間、時雨が川内に砲撃をし、川内を夕立から離した。
「……そういえばまだ残ってたね……天才児、時雨」
「大丈夫かい?」
「あ……ありがとうっぽい!」
夕立はその場に座り込む。
「最後は僕が相手だよ」
時雨は川内の方を見る。
川内は、相変わらず隙だらけのポーズで時雨を見つめる。
「天才児の力、見せてもらおうかな?」
「……!」
時雨が急加速し、川内に近づき、正拳突きを繰り出す。
川内はそれを左に流し、膝蹴りを時雨の腹部目掛けて打つ。
それを時雨は逆の手で抑え、川内の上を飛び、主砲を2発撃った。
水柱が立ち、川内の周りを覆い尽くす。
「……?どこに撃ってるの? 正確さがまだ足りてないかな!!」
川内は、微かに聞こえた水に着地する音の方向に主砲を向ける。
だが、水柱が消えたその先には誰もいなかった。
「……!?」
「ふっ……!」
鈍い音が鳴る、時雨は川内の死角に着水し、強烈な蹴りを繰り出した。
それを川内は間一髪でガードし、少し距離をとる。
(流石は天才児、戦闘センスが桁違いだね……)
「今のでやれないか……」
(あらかじめ持っておいた石を誘導に使って、一撃食らわせてやろうと思ったんだけど……甘かったね)
「いい考えだね、戦場に出てもその力は使えるよ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、ひとつ忠告してあげる」
「……?」
川内はそう言うと、時雨の下を指さす。
「……!?」
数本の魚雷が、時雨の方に接近していた。
「いつの間に……!?」
(……!さっき距離をとったときか……!)
時雨は主砲を魚雷に向けて撃ち、少し吹っ飛ぶくらいでやり過ごしたが、爆発の衝撃は物凄く、強烈な目眩が時雨を襲う。
「ひゅう、今のを避けれるのね」
(つ……強い……流石は旗艦に選ばれた人……)
時雨の頬を冷や汗が伝う。
今までに出会ったことの無い、「自分より強い存在」に、時雨は焦りを覚えた。
(時雨が押されてるっぽい……!? つ……強すぎるっぽい……)
「夕立も……行かなくちゃ……!」
夕立は立ち上がり、時雨の横に立つ。
「お、やる気になったかな?弱虫ちゃん」
「ぐっ……」
まだ怖い、底知れない恐怖が夕立を襲っている。
ただ、このまま負けっぱなしでいられないと、夕立は自分に喝を入れる。
「……やっと……目の前が……はっきり……した……」
強烈な蹴りを入れられ、しばらく動けなかった春雨が立ち上がる。
「まだ……まだ負けれません……」
大破寸前の不知火も立ち上がり、構える。
「このままじゃ……終われないわよ……」
震えて動けなかった叢雲も、自分に「大丈夫」と言い聞かせ、動き出す。
「いいね……その根性、私は好きだよ!」
「行くっぽい!」
夕立の声とともに、ザッ……と全員が構える音がする。
夕立が川内に接近し、その両サイドに後ろから時雨が魚雷を放つ。
「これで上に避けるか、夕立とぶつかり合うかどっちかだね」
「へぇ……いいね」
川内は夕立の頭を強く掴み、自分の横に投げ捨てた。
横で魚雷が爆発し、大きな水柱が立つ。
その水柱の中から叢雲、春雨が飛び出してきて、主砲を放つ。
「……!!」
その弾は、川内にしっかりと当たり、爆発が起こる。
「いてて……まさか当たっちゃうとは……」
「まだ終わりじゃないよ」
時雨がすぐさま川内の横から主砲を2発放つ。
それを川内はしゃがんで避け、時雨の方を見る。
川内が時雨の方に注目している隙に、夕立と不知火が後ろから主砲を放つ。
「いい攻撃だね……でもまだ甘いかな……?」
川内はその場から宙返りをし、夕立と不知火の後頭部を掴み、2人を水面に叩きつけた後、時雨に向かって主砲を放つ。
「……!?」
時雨はそれを受けきれず、直撃する。
「時雨姉さんっ……!」
吹っ飛んだ時雨を春雨が受け止める。
「ありがとう、春雨」
「はい……無理はしないでくださいね……?」
「……!はぁ!」
叢雲が川内に向かって突っ込む。
それに合わせて夕立が立ち上がり、振り向きざまに主砲を放つ。
川内は夕立の弾に自分の砲撃を当て、少し軌道をズラし、叢雲に直撃させた。
「っ……!?何それ……!?」
川内は夕立に急接近し、主砲を構える。
(う……撃たれるっぽい……!)
夕立は目を瞑った、額に主砲の先端がが当たり、冷たさが伝わってくる。
しかし、いつまで待っても、川内の主砲から砲撃が放たれることは無かった。
「……終わりだね」
「…………えっ?」
川内は小さな声で呟き、駆逐艦の方へと振り返る。
「演習は終了!全員お疲れ様!」
川内は大声でそう言うと、駆逐艦たちに笑顔を向ける。
「こんだけ圧倒的な力を見せたのに、立ち向かってきた君たちなら大丈夫だと思う! ようこそ!私の艦隊へ!!」
「は……はぁ……」
不知火が気の抜けた声を出す。
急展開に駆逐艦5人はついていけず、全員が微妙な表情になる。
「んん……?演習が終わったクマ」
その様子を遠くから見ていた球磨が、目を凝らしながら言う。
「どうなったんだ?」
「えーっと……一応合格って事かしら……?」
「おぉ!すげーじゃねぇか!今回の奴らはよぉ!なぁ?龍田」
「えぇー、そうねぇー」
「じゃあ明日から本格的に始まるから、しっかり準備しといてねー!」
そう言うと、川内は艤装を自分の中にしまって、演習場から去っていった。
「…………。」
「つ……強かったね……」
春雨が時雨に話しかける。
「うん……かなり強かった、これからの任務でだいぶ頼りになる存在になるね」
「そうだね……」
夕立は、水面に映る自分を見る。
(全然動けなかったっぽい……)
「……。」
(次は頑張るっぽい……!)
夕立は海面に映った自分に拳を向け、強く誓った。
川内は軽巡寮へ続く道を歩いていた。
(あの時……)
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川内は夕立に急接近し、主砲を構える。
(これで終わりっ!)
砲撃をしようとしたその時、目の前に居る駆逐艦の変化を感じとった。
(……っ!)
夕立のエメラルド色の目がみるみる赤くなっていき、凄まじい殺気が川内を襲う。夕立の後ろに飢えた狼のオーラが見えるほどの殺気だった。
(これは……まずいね……)
川内は放とうとした主砲を止め、演習の終了を決めた。
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「要観察……かな」
川内はそう言うと、自分の部屋に入っていった。