予定通りの時間、夕立達第八艦隊のメンバーは出撃口に立つ
「みんな、準備はいい?」
川内の言葉に、駆逐艦5人が頷く。
「じゃあ、行くよ!」
旗艦の掛け声と共に、全員が海に飛び出る。
今、第八艦隊初の海上任務が始まった。
「この辺のはずなんだけどなー」
川内が周りをキョロキョロと見渡しながら言う。
現在地は鎮守府近くの海域、目撃情報があったところの近くだ。
目撃したのは漁業を行っていた民間人。
民間人ではどの深海棲艦がどのような容姿でどのように危険なのか分からないため、種類の情報は入ってこなかった。
「……! 見つけた!」
時雨が目線の先を指さす、そこには大きな黒い体と不気味な青い目をした生物が数匹泳いでいた。
「あれは……イ級だね。見た感じ弱い個体な上に4匹程度しかいない、向こうの2匹は私が片付けるから、残り2匹を倒してほしいな!頼んだよ!」
川内はそう言って深海棲艦の方に突っ込んでいった。
「では、時雨さんと夕立さんはあちらの方を!私と春雨さんと叢雲さんでこちらのイ級を倒します!」
不知火が全員に指示をする。
「了解、行くよ……夕立」
「ぽ、ぽいっ!」
夕立は力なく返事する。
部屋で決意はしてきたはずだが、いざ敵を目の当たりにすると、体に力が入らない。
(こんなんじゃ……ダメっぽい!)
夕立は頬を両手で叩き、時雨の横に立つ。
「行くっぽい!」
夕立のその言葉の後、2人はイ級の方へ急加速した。
「はぁぁぁっ!」
春雨が放った弾がイ級に当たる。
しかし、イ級は少し傷がついた程度で、あまりダメージが入っていなかった。
「うぅ……硬すぎます……」
春雨は苦渋の色を浮かべた。
イ級が春雨に主砲を向け、放とうとするが、それを阻止するように叢雲が後ろから砲撃をする。
イ級は後ろに振り返り、叢雲の方に突っ込んでいく。
「ちょっ……!」
急に近づかれ、叢雲は避けることができなかった。
そんな叢雲を不知火が横から蹴り飛ばし、何とかイ級の突進を避ける。
「気を抜かないでください、一瞬でも気を抜いたら死にますよ」
「うっ……げほっ……ありがとね」
「私が攻撃を受ける役になります、2人は後ろから砲撃で援護してください」
そう言って不知火はイ級に近づく。
近づいてきた不知火に、イ級は噛み付こうと突進する。
「っ……!」
不知火はそれを間一髪で避け、主砲をイ級に向けて放つ。
不知火の砲撃は、イ級の背中の方に見事に命中し、イ級は少し怯む。
そこに叢雲と春雨がすかさず砲撃を浴びせ、しっかりと命中させた。
「ダメージが目立ってきたわね!」
「まだ油断はできません、集中していきましょう」
叢雲の言葉に不知火が厳しく返す。
(相手の攻撃に繊細さはありませんが、攻撃一つ一つが殺しにきているため威力が高い……これが実戦……)
不知火含め全員が、実戦の緊張感を強く感じる。
得体の知れない恐怖、殺すか殺されるかの駆け引き、それが全て重みとなって、駆逐艦達にのしかかる。
「っ……!」
不知火がイ級に急接近し、主砲を構える。
それに気づいたイ級は急に暴れだし、頭が不知火に直撃する。
「がっ……!?」
「不知火!!」
不知火は数メートル後ろに飛ばされ、膝から崩れ落ちる。
「がっ……あっ……!」
(たった一撃……たった一撃でこんなに……)
攻撃を受ける時、咄嗟に腕でガードしたが、一撃で片腕の骨が持っていかれてしまった。
想像以上に高い攻撃力を目の当たりにし、春雨は距離をとり、叢雲は不知火の方に向かう。
「大丈夫!?」
「ぐっ……大丈夫です……味方の心配より先に、目の前の敵に集中してください」
そう言った後、不知火はよろよろと立ち上がる。
片腕はぶらりと垂れていて、動くようには見えない。
「大丈夫って嘘言って死ぬんじゃないわよ!?」
「こんな所で……死ぬ訳には行かないので……」
不知火はイ級を睨みつけ、もう一度戦闘体制に入る。
(ですが……駆逐艦であり、さらに練度も低い私たちがあの化け物にダメージを与えるためには、ある程度近づかなければ……! )
不知火はイ級の方を見つめたまま、イ級へ大きなダメージを与えるための方法を考える。
(魚雷という手もありますが、この混戦状態で狙った所に当てられる自信はまだ無い……春雨さんや叢雲さんに当たってしまう可能性が……!やはり主砲や打撃でないと……!)
不知火は必死に策を考える、しかしイ級がそれを許すわけもなく、不知火に主砲を構える。
(まずいっ……!避けなければ!)
「っ……!」
不知火の体に激痛が走る。
前の攻撃で吹っ飛ばされた時、足を強打していたらしく、思った通りに足が動かない。
イ級はそんな不知火に構わず、砲撃をしようとする。
(このままだと……当たっ━━━━━━━━━━━)
「ダメぇぇぇぇぇぇ!!!」
春雨が叫びながらイ級に向かって主砲を放つ。
春雨の放った弾は先程不知火が当てた部分に命中し、イ級の体の内部から爆発が起こる。
「や……やった……!」
春雨が小さく歓喜の声を漏らす。
水柱が落ち、イ級が青い血を流しながら唸り声を上げている姿が見える。
所々部位が破壊されており、黒い頭にはヒビが入っていて、痛みで動けない様子だった。
その隙に叢雲がイ級に近づき、ヒビの入った頭に主砲を構える。
「沈みなさいっ!!!」
轟音が鳴り響き、イ級の体が大爆発する。
爆発の煙が消えた頃には、そこにイ級の姿は消えていた。
「や……やった……!」
春雨が歓喜の声を上げる。
周りを確認し、気配を感じないところから、イ級は完全に轟沈したことが確認した。
「私たちは……夕立達の援護を……!」
そう言って不知火は動き出そうとしたが、耐え難い激痛に襲われ、倒れ込んでしまった。
「あぁもう!だから言ったのに! 春雨、不知火を安全なところまで運べる!? 私は夕立達の援護に向かうから!」
「わ……分かりました! 不知火さん……失礼します……!」
春雨は不知火をおんぶし、戦闘海域から離脱する。
それを見送った後、叢雲は夕立達の方へ向かった。
不知火達が戦っている同時刻、時雨と夕立は2人でイ級1匹を相手していた。
「夕立!避けて!」
時雨の指示を聞き、夕立は間一髪で躱す。
海面に足が着水した後、振り返って主砲をイ級に放つ。
夕立が放った弾は、狙った通りの軌道を行き、イ級の頭部に直撃する。
「やったっぽい!」
「油断しちゃダメだよ、相手は深海棲艦……何をしてくるか分からない。相手を沈めるその時まで油断しないようにしよう」
歓喜の声を漏らす夕立に、時雨は軽く注意をする。
イ級はしばらく辺りを見渡し、時雨と夕立を視界に捉えた途端に、猛スピードで突進してくる。
「来るっ……!!」
夕立は突っ込んでくるイ級を見てはいたが、反応が遅れたため避けきれず、イ級の突進が腕に当たってしまった。
「がっ……!!」
少し当たった程度だったが、衝撃は物凄く、夕立はかなり後ろに飛ばされた。
一方、時雨は一足先に避け、イ級の背後に回って主砲を放っていた。
(い……一撃が重いっぽい……前の川内さんと違って……殺意がある攻撃……)
ここで初めて、夕立は実戦の恐怖を味わった。
全身から汗が吹き出し、呼吸が荒くなる。
イ級の体が一回り大きく見え、その威圧感を全身で味わっていた。
「はぁっ……!はぁっ……!」
(ここで……やらなきゃ……殺られる……!)
夕立は足に力を入れ、急加速してイ級に近づく。
「……っ!? 待って、夕立!」
時雨から静止が入るも、スピードは落とさず、イ級の顔面まで近づいた後、主砲をイ級の眼球に突き刺す。
「これでも……食らうっぽい!」
夕立の主砲から弾が放たれ、イ級の顔面の半分が爆発する。
イ級は後ろに吹き飛び、体制を崩す。
一方、夕立も主砲の反動で大きく体制を崩し、海にしりもちをついた。
(流石にこれでどうにかなるはず……!)
━━━━ 夕立は慢心していた。
ここまで大きいダメージを与えていれば、いくら相手が化け物だろうと、動くことは無いと。
しかし、現実はそんなに甘くなかった。
イ級の片眼が動き、夕立を視界に捉える。
視界に夕立を捉えた後、体を捻らせて体制を立て直したイ級は、夕立に向けて口の主砲を向けた。
(…………えっ……!?)
体制を立て直すことなど、ましてや主砲を自分に向けられるなどと思っていなかった夕立は、未だに体制を立て直していなかった。
イ級の主砲が完全に夕立を捉え、弾を撃とうとする。
その光景を目の当たりにし、夕立は顔を手でガードし、目を瞑った。
轟音が鳴り響き、夕立の腹に響くほどの衝撃が伝わってくる。
━━━ だが、少し経っても夕立にダメージが入らなかった。
恐る恐る目を開けると、そこには砲塔の曲がったイ級と、時雨の後ろ姿が映っていた。
「油断はしちゃダメだってさっきも言ったはずだよ。人の話を聞いてくれないかな」
時雨が鋭い目つきで夕立を睨む。
「ご……ごめんっぽい……」
「僕がトドメを刺す、君はそこで周囲の確認をしていてほしいな」
「わ、わかったっぽい……」
そう言って、時雨はイ級に主砲を向ける。
「ふっ……!」
イ級に向けて弾を2発、同じ位置にピッタリと当てた。
「さっきの夕立の攻撃、ダメージは大きかったみたいだね」
攻撃を2発当て、かなり疲弊しているイ級を見て、時雨はそう判断する。
「これで、終わりだよ」
そう言って時雨は魚雷をイ級に構え、静かに放った。
時雨が放った魚雷は、時雨が狙った通りの軌道を行き、イ級の周りで大きな水柱を立てる。
水柱が無くなったその場所には、イ級の頭部にいついていた装甲と思われる物が散らばっていて、イ級本体の姿は無くなっていた。
「……轟沈したね」
時雨はその場所を一通り確認した後、「轟沈した」と判断し、夕立の横を通り過ぎた。
その時、別個体のイ級と戦っていた叢雲が、時雨たちの元へ到着する。
「あら……私が来る必要無かったかしら?」
「うん、僕らでもどうにかなったよ。 そっちの被害状況は?」
「不知火がかなりダメージを食らっちゃったから、今は春雨が見てるわ」
「じゃあ、僕たちは川内さんのところに向かわないとだね。今、あの人はイ級2匹を相手しているハズだから」
「そうね」
「じゃあ行こうか」
そう言って時雨と叢雲は夕立に背を向けて進む。
そんな2人の背中を、夕立は後ろから見つめていた。
(時雨は……初の実戦でも、全然動じずに動いてたっぽい…… それに比べて夕立は……)
夕立は自分の失敗を思い出す。
(……こんなんじゃダメっぽい……!もっともっと強くならなきゃ……!)
拳を握りしめ、夕立は立ち上がり、時雨の方に向かおうとする。
「時雨……さっきはありがと━━━━
夕立がそこまで言いかけたその時、何かに水中に引っ張られる。
「がっ…ごぼっ…!!」
物凄い力で引っ張られ、夕立はどんどん沈んでいく。
「夕立っ!!」
夕立の声に叢雲が気づき、すぐに手を伸ばしたが遅く、夕立は水中に引きずり込まれる。
あまりに突然の出来事に、時雨と叢雲は理解が追いつかなかった。
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