【艦これ】心を埋めるもの   作:さめやん

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【艦これ】心を埋めるもの Part8 「悪魔」

いきなり水中に引きずり込まれた夕立を見て、時雨と叢雲は状況が理解できず、固まっていた。

 

「っ……!叢雲、警戒して!」

 

時雨が叢雲より先に我に返り、叢雲に背をつけて警戒態勢に入る。

 

「時雨……い……今のは……?」

 

「恐らく潜水艦だね……援軍が訪れる可能性がある、川内さんの元に急がないと」

 

「でも、夕立はどうするのよ!?」

 

「叢雲、確かに夕立の事も心配だよ、でもここに2人で残って全滅したら元も子もないから……川内さんの元に向かった方がいいと思う」

 

「でも、水中に引っ張られたのよ!? いくら艦娘でも、水の中にずっと居たら普通の人と同じ……」

 

「分かってる、でも爆雷も何も積んでいない僕らじゃあ何も……」

 

時雨がそこまで言った時、近くで轟音が鳴り響く。

 

2人の近くで大きな水柱が立ち、叢雲と時雨は構える。

 

「なっ……何!?」

 

「敵の援軍が来てしまったみたいだね……」

 

時雨と叢雲の目線の先には、数匹のイ級と、砲塔が何個も表面に出ている、イ級より大きい深海棲艦が2匹、2人の方向に向かってきていた。

 

「これ、まずいわよね……逃げられる?」

 

「とりあえず距離を取るしかない!」

 

時雨がそう言って、後ろに下がろうとしたその時、後ろから黒い物体が突っ込んできた。

 

「後ろっ……!?」

 

時雨はそれを間一髪で躱し、突進してきたものに主砲を構える。

 

そこには、先程交戦したイ級より一回り大きいイ級がいた。

 

「時雨!まずいわ!後ろにも敵がいる!」

 

「これは、本格的にピンチだね……」

 

時雨と叢雲が逃げようとした先にも、数匹のイ級がいた。

 

完全に包囲されてしまったらしい。

 

徐々に深海棲艦達が近づいてくる、時雨と叢雲はどんどん包囲の真ん中に追い詰められていった。

 

「どうするの?時雨……」

 

叢雲が背中合わせの時雨に、不安そうな目をしながら問いかける。

 

「1匹ずつ沈めていくしかない……よね」

 

「でも、私たちは1匹倒すのも時間がかかったのよ!?こんな大量の敵を……きゃあ!」

 

叢雲がそこまで言った時、2人の方に砲弾が飛んでくる。

 

「……っ!やるしかないんだよ叢雲、君は援護をお願い、僕が突っ込んでダメージを与えるから」

 

「分かったわ、突破できそうな隙できたらすぐに突破するのよ」

 

「分かってる、行くよ」

 

時雨が1番初めに目に映ったイ級に突っ込み、弾を2発打ち込む。

 

時雨が放った弾は見事に命中し、イ級の頭部に傷が入ったが、イ級はお構い無しに突っ込んでくる。

 

━━━━━瞬間、イ級の体が大爆発を起こす。

 

時雨は2発主砲を放った後、目の前のイ級に気づかれないように、魚雷を水中に放っていた。

 

「うん……イ級に対して、魚雷が1番有効打になるみたいだね、次に行こう」

 

「え、えぇ……」

 

(凄い……あれだけ私たちが苦戦した化け物に対する有効打をしっかり見極めて、それを活用できる判断力……やっぱり、私たちの中で1人だけ格が違う……)

 

戦っている時雨を見て、叢雲はその戦闘技術に改めて驚愕する。

 

そんな叢雲を他所に、時雨はどんどん次のイ級に突っ込んで行く。

 

「ふっ……!」

 

時雨はまたもや、綺麗に2連撃をイ級に当てる。

 

さらに、動きの鈍ったイ級に近距離で主砲を1発命中させた。

 

「はあっ!」

 

弱ったイ級に叢雲が狙いを定め、魚雷を放つ。

 

魚雷は時雨の足のすぐ横を抜け、イ級に見事に命中する。

 

「次っ……!」

 

時雨は、次に狙いを定めたイ級に対して砲撃するが、別個体のイ級から数発砲撃が飛んでくる。

 

初弾はギリギリで躱したが、2発目、3発目が時雨に直撃し、黒煙が上がる。

 

「時雨!!」

 

叢雲が叫んだ後、黒煙の中から主砲を連続で撃つ音が聞こえ、周囲に大きな水柱が立ち、その中から時雨が飛び出してきた。

 

「時雨!こっち!」

 

叢雲の声を頼りに、時雨は叢雲の近くまで退避する。

 

退避してきた時雨は、ダメージを少し食らっており、頭と肩から血を流していた。

 

第八艦隊の中で1番戦闘が得意な時雨でも、圧倒的な数の暴力には勝つことができず、叢雲と時雨の2人は目の前の状況がどれだけ絶望的か実感する。

 

「大丈夫……!?」

 

「大丈夫……でも、敵は2匹しか倒せなかったよ……」

 

「多すぎるのよ……!2人で相手をする量じゃないわ……!」

 

叢雲が深海棲艦の群れを睨む、無情にも、深海棲艦達は2人に砲撃を打つ準備をしていた。

 

(ダメだ……終わっ……)

 

 

「うちの子達に何してんのー!!!!!」

 

 

叫び声と同時にイ級が数匹爆発する。

 

別の場所で戦っていた、第八艦隊旗艦の川内が2人の元へ駆けつけた。

 

「大丈夫!?」

 

「はぁ……助かったわ……」

 

川内の顔を見て、叢雲が安堵の声を漏らす。

 

「夕立と春雨、不知火の姿が見えないけど?」

 

「不知火は重傷を負ったため撤退、それに春雨は同行させたわ、夕立は……」

 

叢雲はそこで言葉を辞め、下を向く。

 

「夕立は、潜水艦と思われる敵に水中に引きずり込まれ、生死が不明な状態です」

 

「……!? なるほどね……」

 

川内が深海棲艦の群れを、強い殺意が籠った目で睨む。

 

「2日間しか行動してなかったけど、部下がやられるっていうのは気分が悪いね……覚悟はいいかな?」

 

2日間共に行動してきた川内が、殺意を発するのを初めて目撃した2人は少し怖気づく。

 

しかし、怖気づいている暇はないと自分に喝を入れ、叢雲は川内の横に立つ。

 

「私も……出来ることを全力でやるわ!」

 

そんな叢雲を見て、川内は少し微笑んだ。

 

「全滅は目指さなくていいよ、逃げられる隙を見つけたらすぐに脱出しよう」

 

「分かったわ!」

 

叢雲の返事の後、時雨が前に出てくる。

 

「僕も参加するよ、左手は使えないけど……右腕なら使えるから、できることだけをやらせてもらうよ、もうとっくに覚悟は出来てるからね」

 

2人を交互に見つめた後、ニヤリと笑った川内が大きな声を出す。

 

「いいね……!第八艦隊、行くよ!」

 

川内の号令と共に、3人は深海棲艦の群れに突っ込んで行った。

 

 

※※※※

 

(……!……っ!)

 

目を開けると、夕立は暗い海の中にいた。

 

不気味な生物に足を掴まれ、上に上がろうにも上がることが出来ない。

 

「がぼっ……!!ごぼっ……!!」

 

(息が……!)

 

 

苦しむ夕立を他所に、どんどん下に潜水していく。

 

だんだん視界がボヤけてくる、酸素の供給が足りず、もがく力も無くなって、されるがままに沈んでいく。

 

 

「がっ……ぼっ……」

 

 

夕立の口から大きな泡が上がり、全身の力が抜け始める。

 

 

(そん……な……………夕……立……は……この……ま……ま……)

 

そして、完全に力が抜け、夕立は足掻くのをやめた。

 

敵潜水艦は夕立が暴れるのをやめたのを確認し、潜水をやめ、手を離す。

 

 

 

離された夕立の体は、ゆっくり下に沈んでいく━━━━━

 

 

完全に浮力を失って、底まで一気に落ちていく━━━━━

 

 

しばらくして、夕立の体は海の底に到着した。

 

岩の冷たい感触が、服越しに伝わってくる。

 

暗き海の底で、不気味に揺らめく海藻が、夕立の体を包んでいく。

 

 

 

 

 

 

(くる……しい……?い……きガ……できない……?おも……い…………だレも……いな…………い?)

 

 

 

体の奥底から何かが溢れてくる━━━━━━

 

 

 

 

(や…………メて……ゆウだ……チ……を…………お……いて…………いかナいデ…………すテ…………な……イ…………で…………)

 

 

エメラルド色の双眼が、黒く染まっていく。

 

 

黒い何かが視界を覆っていき、だんだん前が見えなくなってくる。

 

 

暗く、重く、心が侵食されていくのを実感できる。

 

 

視界が全て赤黒く染った時 ━━━━━━━━

 

 

 

 

夕立の意識は、完全にそこで途絶えた。

 

 

※※※※

 

 

海上では、川内達が深海棲艦の群れと未だ交戦していた。

 

川内が魚雷で一気に3匹を吹き飛ばし、包囲網に穴ができる。

 

「はぁ……はぁ……突破口が見えた!!今しかもうチャンスは無い!!」

 

「叢雲っ!時雨っ!突っ込めぇぇぇぇぇ!!!」

 

川内の叫び声と共に、全員で包囲網の穴に突っ込んでいく。

 

「……!これで……!」

 

深海棲艦の包囲網から抜け出し、川内が安心した瞬間 ━━━━━━━

 

 

 

突如海の底から轟音が聞こえ、黒い光の柱が空高くまで上がっていった。

 

 

 

水面が揺れ、深海棲艦に会った時以上の、ドス黒く、不気味な空気が辺りを包み、全身の震えが止まらなくなる。

 

「な、何!?なんなの……!?」

 

叢雲が辺りを見渡し、正体を探ろうとする。

 

「考えてる時間は無いよ……とにかく離れないと……!!」

 

時雨がそんな叢雲に声をかけ、手を引いて離脱しようとする。

 

「え、えぇ……!……きゃあっ!」

 

叢雲は時雨に引っ張られ、前に進んだが、少し進んだところで何かに躓いた。

 

 

「いたた……何よこ…………れ…………」

 

叢雲は躓いた物の正体を見て驚愕する。

 

 

 

━━━━死体だ

 

 

 

それは生物だったとは到底思えないくらいにグチャグチャで、全身から青い血が流れていた。

 

青い血を見て、これは元々深海棲艦だった物だ、と理解する。

 

関節が訳の分からない方向に曲がっており、元々着いていたであろうパーツが、体の中にねじ込まれている。

 

 

「ひっ……な……何よ……これ…………!!」

 

 

見るに無惨な死体を見て、何があったのかも理解できず、ただただ叢雲はその場に立ち尽くす。

 

「どうしたの叢雲……ってうわっ!!」

 

 

近づいてきた川内も、深海棲艦だった「それ」を見て、顔が引きつる。

 

 

状況が理解できない3人が立ち尽くしていたその時 ━━━━━━

 

 

水の音と共に、近くの海面から全身が黒い生物が出てくる。

 

 

その生物はしばらく水面を見つめた後……

 

 

 

「ッ━━━━━━━━━━━━━━━!!!!!」

 

 

 

人と獣が混じったような、叫び声を上げた。

 

 

 

 

その声はどこまでも黒く、重く

 

 

悪魔の産声のようだった。

 




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