独身の大輝は、三十過ぎてるってぇのに定職にも就かず、自由気ままに生きていた。

1 / 1
落語 みかんの大輝

 

 

 

 えー、秋風亭流暢(しゅうふうていりゅうちょう)と申します。

 

 一席、お付き合いを願いますが。

 

 ここで、小噺を一つ。

 

 すっかり秋めいてきたが、昼間はまだ暑いな?

 

 そうざんしょ?

 

 ったく、ただの駄洒落じゃねぇか。

 

 ま、残暑とは関係ねぇーんですがね。

 

 本日は三題噺と言うことで、先ほど、お客様から頂いた、電気、公園、みかんの3つの題目で話を作るわけですが、これがまた、難しい。

 

 何てったって難しいのは、3つのお題を織り込んだ帳尻合わせだ。その上、最後はオチ必須ときてやがる。

 

 ま、即興でやってみるが、滞りなくオチまで行けるかどうかは、聴いてみてのお楽しみってわけだ。

 

 

 

 えー、独身の男の話でして。

 

 フリーターの大輝(たいき)は、三十過ぎてるってぇのに定職にも就かず、ボロっちいアパートで独り暮らしだ。

 

 自分にどんな仕事が合うのか分からず、取り合えずバイトをしながら、気ままに生きていた。

 

 好きな時間に起きて、眠くなったら寝る。

 

 ろくすっぽ働かないもんだから、大した収入もない。

 

 挙げ句の果てにゃ、電気もガスも止められちまって、その上、家賃も払えない始末だ。

 

 バイトしたくても、派遣会社からの連絡手段のスマホも、料金未払いで使えねぇ。

 

 大家が家賃の催促に来るかも知れねぇと思うと、ハラハラドキドキで部屋にもいられねぇ。

 

 さて、どうすっかと、思案橋。公園のベンチでうなだれてるってぇと、

 

「おじちゃん、あげる」

 

 女の子が笑顔でミカンを差し出した。

 

「えっ?」

 

 びっくりした大輝は、女の子を見た。

 

「あげる。皮むいてあげるね」

 

 女の子はそう言って、ちっちゃな手で皮を剥き出した。

 

「……ありがとう」

 

 大輝は剥いてくれたミカンを受け取ると、一口食べた。すると、突然、涙が出た。

 

「おじちゃん、泣いてるの?すっぱかった?」

 

 女の子が心配そうに聞いた。

 

「いや。……うれしくて」

 

 見ず知らずの女の子の優しさに涙が溢れた。

 

 大輝の涙がミカンに落ちた。

 

 この時、大輝は思った。

 

 女の子の優しさを無駄にしてはいけない、と。

 

「よし、明日から仕事探すぞ!」

 

 大輝は、声を上げた。

 

「おじちゃん、仕事さがしてるの?」

 

 横に座った女の子が聞いた。

 

「うん。きみの優しさで、働く気力が湧いた」

 

「じゃ、うちの店ではたらく?」

 

「えっ!何屋さん?」

 

「やおやさん」

 

「八百屋?」

 

「うん。おじいちゃんが病気になって、お母ちゃんがひとりでやってるの。なんか大変そう」

 

「そうか……。でも、俺、八百屋で働いたことないし」

 

「簡単だよ。お客さんが買った野菜を袋に入れるだけ。わたしにもできるもん」

 

「けど、お母さんがオッケーしてくれるかどうか」

 

「おじちゃん、髪が少しボサボサだけど、イケメンだから大丈夫だよ」

 

「大丈夫かな……」

 

「“アンズよりウメが安し(案ずるより産むが易し)”。ほら、面接に行こ」

 

 女の子はそう言って、手を伸ばした。

 

「……ああ」

 

 大輝は腰を上げると、運を女の子に任せることにした。

 

 

 八百屋に着くなり、女の子の母親は大輝を気に入り、トントン拍子に事が運んだ。

 

 翌日から店に出ると、ねじり鉢巻をした大輝はヤル気満々だ。

 

「ヘイ、いらっしゃい!甘くて美味しいミカンだよ。一口食べれば、ジューシーな味わいが口いっぱいに広がり、恋する乙女の気分にしてくれるよ。皮がないミカンがないように、乾かない涙もない。初恋の味と乙女の涙は付き物だ。ヘイ、いらっしゃい!買ってらっしゃい!」

 

 何だかわけの分からない事を言ってるが、これが主婦やおばあちゃんに大ウケで、店は大繁盛だ。

 

 もしかして、この仕事が大輝の天職だったのかも知れねぇな。

 

 

 

 

 

 これがホントの未完(みかん)大器(たいき)だ。

 

 

 

 

 

■■■■■幕■■■■■


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。