ということで前回の続きです!
今回は湊視点と風莉の独白なのですが、風莉さんの心の揺れが非常に書いてて面白いところだったので、少し気を遣ってみました笑
帰ったら悠がいないという状況に陥った湊くんも見どころなので、ぜひ今回も読んでいただければ幸いです!
「――悠さんに悪いことしちゃったなぁ……」
ボソリとそう呟き、彼とのLINGの画面を眺めながら、校門までの道を1人歩く。
本当なら、今頃悠さんと話が出来ていた……どころか、全て伝え終わっていたはずだったのだが……。
七海先生の手伝いが思った以上に難航した上に、次々とやることが増えてしまって、気がつけば予定よりも1時間ほど長くなってしまっていた。
「もう少し、早めに連絡出来ればよかったんだけど……」
トーク画面に表示されている時間に、えも言われぬ程の申し訳なさを感じる。
実は忙しすぎてなかなか連絡できず、結局今頃になって連絡する羽目になってしまったのだ。
「(七海先生には、悠さんにもちゃんと謝っておくと言われたけど、でもなぁ……)」
珍しく真剣に謝り続ける先生の姿を思い出しながら、門の方へと足を早める。
先生も故意にやった訳じゃないからいいけど……悠さん、怒ってるかなぁ……?
「――そういえばさ、ここらへんに救急車来たよね?」
「来た来た!なんか喧嘩があったんだって〜」
そんなことを考えていると、前を歩く女子生徒たちの声が聞こえてくる。
喧嘩、か……救急車が来るほどのって、相当だよね?
「(後で風莉さんに聞いてみようかな……)」
救急車が来るほどとなると、流石に理事長である風莉さんの耳にも届いているはずだろう。
じゃあ、詳しいことは後で聞くとして……悠さん、怒ってないかなぁ……?
意識を切り替え、再び彼のことを考えながら、いつもの通学路へと足を早める。
そうして寮に着くまでの間、僕はずっと悠さんへの謝罪の仕方について考え続けていたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「――お、遅くなってごめんなさい!悠さん!怒ってます……よね……?」
扉を開け、開口一番にそう言いながら、深々と頭を下げる。
悠さん……どうか、怒ってませんようにっ!
「あら?湊さん、どうなさったんですか?」
予想外の高い女性の声が聞こえ、咄嗟に顔を上げる。
そこには、首を傾げて僕をじっと見つめる柚子さんの姿があった
「あれ?柚子さん、悠さんは……?」
混乱する頭のまま柚子さんに尋ねながら、辺りを見回す。
しかし、どんなに見ても……どこにも、悠さんの姿が見当たらない。
それどころか、柚子さんと作業をしているはずの美結さんの姿すらも……そこにはなかった。
「八坂さん、ですか?残念ながら、今日は見ていませんね……」
「そう、ですか……」
柚子さんの言葉を聞いた瞬間、自分の声がどんどん沈んでいくのが分かる。
悠さん、どこに行っちゃったんだろう……?
「あ、ちなみに美結さんは……?」
「美結さんなら、家の用事で帰らなきゃ行けなくなってしまったと連絡があって……だから、今日は1人で作業です……」
大変です……と口を尖らせて話す柚子さんを慰めながら、トーク画面を開いたままのスマートフォンを握り締める。
「まあ、八坂さんのことは私も先程帰ってきたばかりなので……あ、ひなたさんなら知っているんじゃないですか?」
「そうなんですか?じゃあ、ひなたさんに聞いて――」
「あ、おかえりなさいなのだ!お姉様!」
勢いよくドアが開く音と共に、元気な声が聞こえてくる。
声のした方を見ると、軽快な足取りでこちらに近づくひなたさんの姿があった。
「ひなたさん……!」
「あれ?お姉様、どうかしたのだ?」
僕の顔を見ながら心配そうにするひなたさんに、ざっと状況を説明をする。
これで、ひなたさんが知っていればいいんだけど……。
「ごめんなさいなのだ、お姉様……我輩が帰ってからは見てないのだ……」
「あ、謝らないでください!ひなたさんは何も悪くないですから!」
泣きそうな顔で謝り続けるひなたさんに対して、もう片方の空いた手で頭をそっと撫でる。
すると彼女は、嬉しそうに頭をこちらに向け、猫のように擦り寄ってきたのだった。
「(悠さん……)」
こういうことをすると、否が応でも彼のことを思い出す。
悠さん……やっぱり、先に帰っちゃったのかな……。
「(流石に長すぎた……よね……)」
自分の行動を反省しながら、窓の外に広がる鈍色の空に目を向ける。
先生を手伝ったことを後悔している訳じゃないけど……それでも、僕から誘っておいて大幅に遅刻するのは、やっぱり自分としてもどうかと思う。
なんで僕、こうなっちゃうんだろうなぁ……。
「落ち込まないでください!八坂さんだって、美結さんみたいに何か急用が入ってしまったのかも知れませんよ?」
「そうなのだ!それに、円卓の騎士だってすぐに連絡しないのが悪いのだ!」
落ち込む僕を励まそうと、柚子さんとひなたさんが色々とフォローしてくれる。
今はただ、その事実が……かけがえのないほどに嬉しいものであった。
「(そう、だよね……うん。きっとそうだ……!)」
2人の言葉に感化され、心が落ち着きを取り戻し始める。
そうだ。急用が入って帰らなきゃいけなくなって、それで忙しすぎて連絡できないだけなのかもしれない
悠さんが僕に連絡をしてくれない時なんて、そういう時しかありえない……!
「柚子さん、ひなたさん、ありがとうございます!ボク、悠さんからの連絡待ってみます!」
「そうですよ!一緒に待ちましょう」
「我輩も待つのだ!」
僕の顔をちらりと見ると、2人はパッと花が咲いたような笑顔を浮かべる。
やっぱり僕は……本当に、良い友人を持ったんだな……。
――ピコン
「……あ」
LINGの通知音が聞こえると同時に、握り締めたスマートフォンが震え出す。
「円卓の騎士なのだ!?」
「どうなんでしょう?そうだったら嬉しいのですが……」
2人の話し声が聞こえる中、縋るような気持ちで急いで画面を開く。
どうか……どうか、悠さんでありますように……!
そうして、震える右手で祈るように画面をスクロールしていくと――
「"ごめん湊さん!用事ができて早く帰らなきゃ行けなくなっちゃったんだ。何も言わずに先に帰っちゃってごめんね"」
悠さんらしい謝罪文と共に、猫が必死に泣きながら謝るスタンプが送られてくる。
そっか……僕が嫌になって帰っちゃったわけじゃなかったんだ……。
そっか……そうだよね……っ!
「湊さん、嬉しそう……」
「やっぱり円卓の騎士からだったのだ……?」
2人の少し明るくなった声を背に、胸いっぱいに安堵と喜びの気持ちを噛み締める。
――正直、ショックじゃないと言えば……嘘になる。
けれど、それ以上に……悠さんに嫌われたわけじゃないということが分かっただけで……僕は、それだけで嬉しかったんだ。
「悠さん、ボクのこと嫌いになったわけじゃなかったんだ……!」
「え、嫌い?どういうことですか……?」
「円卓の騎士がお姉様を嫌いになることなんてありえないのだ!円卓の騎士はそういう人じゃないのだ!」
困惑する柚子さんと猛抗議してくるひなたさんに囲まれながら、手に持つスマートフォンを胸に抱き寄せる。
やっぱり、悠さんは――
「ぁ、湊……」
突然聞こえた声に驚き、声のした方向へと振り向く。
するとそこには、気まずそうにこちらの様子を窺う風莉さんの姿があった。
「おかえりなさい、風莉さん!」
「ええ……ただいま」
満面の笑みで話す僕達に対して、風莉さんはぎこちない笑みで静かにそう言った。
何か、あったのかな……?
「あ、救急車のことですか?」
「――――ッ!」
僕の言葉に対して過剰に反応し、少し焦りの混じった反応を見せる風莉さん。
けれど、僕達3人にも分かってしまうほど……無慈悲にも、その反応は図星だということを告げていた。
「ど、どうして……それを……?」
「……?下校中に、目の前にいた人達が話していたので……」
話終わる前に、風莉さんはほっと胸を撫で下ろすような反応を見せる。
やっぱり、何かあったんじゃ……?
「救急車といえば、今日は学園の近くで事件?が起きたらしいですね」
「我輩が聞いた限りでは、他校同士の喧嘩らしいのだ!」
僕の説明に対して、補足説明をしてくれる2人。
下校中の人達が話しているのを見て薄々勘づいていたけど……やっぱり、凄く広まってるんだなぁ……。
「そう、ね……そういうことらしいわ」
踏ん切りがつかないといった様子で、彼女は静かに口を開く。
理事長だから他人事ではあるんだけど……それにしても、何か様子がおかしい気がする。
「あれ、風莉さんの方には連絡いってないんですか?」
「まあ、ええ……そうね……」
再び歯切れの悪い返事をしながら、彼女は視線をそっと横に逸らす。
淡く光る頭上の灯りが、彼女の顔に影を落とす。
憂いを帯びたその表情は、酷く疲れているようにも見えた。
「先生から連絡があって……色々と、事務的なこともしたわ」
少し様子がおかしいけど……事務ってことは、その喧嘩の後処理とかを書類で行っていたのだろう。
そしたら……やっぱり、疲れているのかな。
「そうなんですか……お疲れ様です、風莉さん」
僕の言葉に続いて、柚子さんとひなたさんも労いの言葉を投げかける。
学生として生活しながらも、理事長として仕事をこなす……やっぱり、風莉さんは凄いなぁ……。
「そ、そんなことより……私、今日は疲れたから、お風呂に入りたいわ」
「でしたら、すぐにお風呂を沸かしてきますね!」
労いの気持ちを込めて、急いで風呂場へと向かう。
風莉さんの様子が少しいつもと違うように感じたけど……多分きっと、疲れているだけなのだろう。
そんなことより、早くお疲れの自分の主人に、お風呂を提供してあげないと!
「(それに……)」
今日は悠さんとの予定が合わなくて伝えられなかったけど……早く、悠さんにこの気持ちを伝えないと……!
そのためにはやっぱり、ちゃんと伝える練習をしなきゃ。
「(よしっ!お風呂掃除しながら練習するぞ〜!)」
ガッツポーズを作りながら扉を開け、木質感溢れるお風呂を丁寧に洗い始める。
そうして僕は、みんなに声が聞こえてしまわないように、小さな声で本番練習をするのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「はぁ〜……」
お湯がいっぱいに張られた湯船に浸かり、1人ため息をつく。
今日は――本当に、色々なことがあった。
「八坂さん……」
ぼそり……と彼の名を口にする。
「(彼のこと……やっぱり、湊に伝えるべきなのでは――いえ)」
ふと、皆見さんから伝えられたことを思い出し、頭をぶんぶんと振って弱気な思考を振り払う。
実は今日、理事長室で書類整理をしている際に、学園の外で救急車が呼ばれるほどの喧嘩が起きて、その1人に八坂さんがいたことを警備員の方と先生から伝えられて知ったのだ。
そして、救急車で運ばれた人が彼だということも――。
「なんで、こんなことに……」
私は急いでその事実を、職員室で七海先生と作業をしている湊に伝えようとした。
しかし、その行動は……皆見さんによって未然に防がれてしまったのだ。
「皆見さん……私も、そうすべきなのかしら……?」
理事長室へと必死に止めに来た彼女の姿を思い出す。
疑問を呈する私に対して、皆見さんは彼の意志を守ろうと強く説得してくれた。
――けれど。
そう話す彼女の表情は……罪悪感と後悔で押し潰されそうな、そんな苦しそうなものであった。
「でも……でも……っ」
私は、見てしまったんだ。
玄関から見えた――湊の顔を。
笑顔の中に一瞬垣間見えた――弱々しいその姿を。
「(……私が望むものは……湊の幸せなのよ……?)」
鼻の辺りまで湯船に浸かりながら、自分の最終目的を改めて確認する。
けれど、八坂さんの言う通り、このことを湊に話したら……"家族を失うかもしれない"というトラウマが掘り起こされてしまうかもしれない。
もしそうなってしまったら……私はきっと……耐えられない。
「(それなら、私は……)」
湯船から右手を出し、水面に何重もの波を作りながら、ぎゅっと握り拳を作る。
それに、私は……。
「(そこまでしてくれた八坂さんや皆見さんを、裏切る訳にはいかないわ……)」
決意を固め、湯船からそっと立ち上がる。
正直、何が正しい選択なのか……私には分からない。
けれど……湊の幸せを共に願い続ける彼が、そうしようと努力しているのだもの。
少なくとも、私がその意志を汲んであげないと……!
そうして私は――揺らぎ、迷いながらも……この現状のまま居続けることを決めたのだった。
というわけで、いかがだったでしょうか?
実は今回、「湊の幸せを願うのならどちらが正解なのかと悩む風莉さん」の部分が、量は少ないながらもメインだったりします笑
原作においても風莉さんはこの行動原理で動くので、そこを再現するとどういう行動になるのかなあと考えまくった結果、めっちゃ時間がかかりましたけど、頑張ったのでそこに注目してもらえると……笑
次回は出来たら今回よりも早めに出したいですけど……できるだけ頑張ります!
というわけで、また次の話も読んでいただければと思います!
追記
感想ありがとうございます!毎度毎度嬉しいです!
前々回辺りから美結編に入りましたが、これからが正直書いていて一番辛い時期になってくるので、覚悟して書いていきます。
とりあえず次回の話が嵐の前の静けさみたいな感じになるので、とりあえず安心して待っていてください!笑