前回は湊くんが現場を見てしまうという修羅場の入り口でしたが、今回はその話の美結さん視点&翌日の学校となっています!
とりあえず大きく動くのは次の話になるのかな?というところですけど、今回の話も書いていて辛かったので、是非読んでいただければと思います!笑
雨が降ってきそうなほど、重く鈍色に染まった空の下。
あたしはいつものように彼の部屋の鍵を開け、軽い挨拶と同時に持ってきた荷物を床に置く。
「おかえり……美結さん」
少しして聞こえてきた彼の声に心を弾ませながら、リビングのドアを開けて荷物を運び入れる。
こうして……また今日も、皆見美結の仕事?が始まる。
そうして、いつものように荷物を整理していた時に――ふと、玄関から物音が聞こえた。
「……ん?なんか玄関から物音しない?」
「いや?あんまわかんないけど……」
気の所為じゃない?と言ってベッドに座る彼を背に、軽い足取りで玄関へと向かう。
「何かあったのかな?」
ドアノブを回し、ゆっくりと玄関を開ける。
しかし、確かに物音は聞こえたはずだったのに、ドアの前には誰もおらず、何も無かった。
「あれ?おっかしいな……。結構大きい音がしたはずだったんだけ――え?」
ドアを全開にし、辺りを見回した瞬間。
見てはいけなかったものが。
今1番見たくなかった存在が。
急いで階段を駆け下りる飛鳥さんと柚子さんの姿が。
あたしの視界に……映り込んでしまった。
「嘘……そんな……」
震える喉からそんな声が漏れた瞬間、糸の切れた人形のように足からその場に崩れ落ちる。
「バレ……ちゃった……」
考えられる限り最悪のことが、最も危惧していたことが……現実に、起きてしまった。
どうしよう……どうしようどうしようどうしよう。
「(なんで……なんで、飛鳥さん達がここに……?)」
力を失い鉛のように動かない足とは対照的に、全力で考えを巡らせる。
悠さんは……いや、彼はまだ飛鳥さんに怪我のことを伝えていないはずだ。
じゃあ、妹さん達が……と言っても、あの2人は悠さんのことを第一に考える子達だ。
流石に飛鳥さん達と交流のあるとしても、悠さんに内緒で教えたとは考えづらい。
じゃあ誰が……。
「(……待って。これ、まさか――)」
「美結さん大丈夫?何かあったの?」
あたしの立てた物音に気づいた悠さんが、心配そうにして松葉杖を片手にこちらにゆっくりと向かってくる。
お願い……。彼には……彼にだけは、この光景を見せたくない。
「(だからどうか……どうか、あの後ろ姿だけは見ないで――)」
震える両手を握りしめ……精一杯祈りを込める。
しかし――
「――――――」
……あたしの願いも虚しく。
自体は最悪の方向へと進んでしまった。
「(悠さん……)」
彼の歩みが止まると同時に――その瞳から色彩が消えた。
その視線の遥か先には……柚子さんに連れられて歩く、飛鳥さんの姿が。
「(もうやめて……やめてよ、これ以上は……)」
まるで彼女の心を表しているかのような重く冷たい雨の中で、2人は傘もささずに歩みを進める。
以前飛鳥さんが嬉しそうに教えてくれた――悠さんから貰った"淡い桜色の髪飾り"が、雨に濡れながらその歩みに合わせて揺れ動く。
その大切なプレゼントが見えたと同時に、彼の弱くて脆い悲痛な叫びがあたしの胸へと突き刺さる。
「(もう……見てられないよ……っ)」
ボロボロになった彼の姿を見て、胸の奥が握り潰されるかのようにぎゅうっと苦しくなる。
「(あたしが……欲を出してしまったからなの……?これは……あたしへの罰、なの……?)」
彼の悲しむ姿を見て、自分の醜さがじわじわと浮かび上がってくる。
悠さんは、飛鳥さんが心配だっただけなのに……ただそれだけなのに……。
それなのに、あたしは……。
幸せな毎日に甘えて、この想いを――
「――――――」
「………………」
悠さんとの間に、重く苦しい沈黙が流れる。
結局、彼女達のその悲しい後ろ姿を……あたし達は、ただ眺めることしか出来なかったんだ。
……………………。
そうして部屋に戻った後のことは、もう何も覚えていない。
悠さんに何と声をかけたのか。
悠さんと何を話したのか。
悠さんに……何ができたのか。
もう、頭がいっぱいいっぱいで……ほとんど何も思い出せない。
……けれど。
それでも唯一、覚えているのは――
絶望という名の海の底に沈められた……見たことの無い彼の姿であった。
……………………。
そうして、この日。
多くの者が心に傷を負った、最悪の日。
あたしは、悠さんとろくに会話もできずに……ただ、そっとしておくことしかできずに……。
宵闇に包まれたいつもの道を、1人帰ることしかできなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おはよう、美結さん!」
「美結おはよー!」
「あ……お、おはよう!」
仲の良いクラスメイト達に話しかけられ、咄嗟に考えを切り替える。
あの事件の日から、1日。
重く沈んだ気分のまま迎えた、翌日の学校。
2人に合わせる顔がないと思いながらも、あたしはどうしても現状を変えたくて……自分の気持ちに鞭打ちながら、遂にここまで来てしまっていた。
「あれ?美結どうしたの?」
「……え?」
「なんかすごく元気ないけど、何かあった?」
「あー……」
いつもと違う様子なのを不審がられ、つい言葉が出なくなる。
あたし、そんなに顔に出てたのかな……?
「だ、大丈夫だから、気にしないで!ほらっ、いつも通りあたしは元気だから!」
「美結さんがそう言うならいいけど……」
「うーん……ほんとに何かあったら言ってね?」
心配する2人にありがとうと返し、1時間目の授業の準備を始める。
また……嘘をついてしまった。
昨日はそれで大変なことになってしまったのに……こうも簡単に嘘がつけるとは。
「(嘘……か)」
荷物のない、簡素な隣の席に目を向ける。
あたしは……飛鳥さんに嘘をついてしまっている。
確かにそれは、彼女のためであって、善意でやってしまったことなんだ。
けれど、その善意から生まれた嘘によって……昨日はあんなことになってしまった。
だから、正直……今のあたしには、飛鳥さんに合わせる顔が無い。
――でも、それでも……彼女に会いたい。
彼女に会って、本当のことを伝えたい。
悠さんとあたしがこういう関係になった"あの事件"について……。
例え、彼に止められていても……今度こそ、しっかりと話したいんだ。
「――湊さんは、来ないと思います」
突然、反対側から声をかけられ、咄嗟に声のした方向に振り向く。
するとそこには……思い詰めた表情のままこちらを見つめる柚子さんの姿があった。
「昨日、寮に帰ってから……湊さんは、部屋から1歩も出ていません」
「そ、それって……」
重く閉ざされた口から告げられる事実に、頭の中が掻き乱される。
「唯一、同じ部屋に住む風莉さんだけが、湊さんと話すことができたのですが……」
「…………」
「風莉さんが部屋から出てくるまで……ずっと。嗚咽混じりの悲痛な泣き声が……部屋の外にいる私達にまで、聞こえていました」
「……っ……」
「昨日……私達が来たこと、知ってるんですよね?」
半ば確信めいたものを胸に、彼女は一歩一歩、ゆっくりと近づいてくる。
「あの時、湊さんに気付かれないように後ろを振り返ったら……美結さんの姿が見えたんです」
「…………」
「その反応……もう、わかってるんですよね」
疑問ではなく確認の意味を込めて放たれた言葉に、沈黙で肯定を示す。
すると、柚子さんに"こちらについて来てください"と言われ、素直にその後ろをついて行く。
そうして案内されたのは……新聞部の部室であった。
「柚子さん……」
「美結さん。お聞きしたいことがあります」
部屋に入るやいなや、彼女はそう言って部室の鍵を閉める。
いつも優しそうな笑顔を振りまいている彼女が、ここまで困惑と……"怒り"の感情を露わにするのは、長い付き合いのあたしからしても初めてのことかもしれない。
「あれは……どういうことなんですか」
様々な感情が入り交じった声で、単刀直入にそう尋ねられる。
「それ、は……」
「なんで……なんで湊さんが悲しまなくちゃいけないんですかっ!」
「……っ……!」
真っ直ぐに友達を思いやる正義の意思が、鋭いナイフのようにあたしの胸へと深く突き刺さる。
これは……ちょっときついなぁ……。
「でも……わかってるんです」
「……え?」
「美結さんが何の理由も無く、こんなことをするはずがないって……!」
「柚子、さん……」
「だから教えてください……!あなた達に、何があったんですか……?」
真実を求める純粋な瞳が、あたしの心を貫く。
まさか、ここまで信じてもらえてるなんて……。
「(あたしも……恵まれてるなぁ……)」
そうして……あたしは話し始めたんだ。
――悠さんと帰ったあの日、あたし達に何が起きたのか。
――何故あたしが、悠さんと一緒にいるのか。
彼から……飛鳥さんのために言わないようにと頼まれていたことを、全て。
悠さんへの罪悪感と、少しの後悔の気持ちを胸に募らせながら。
あたしは……何もかも、話してしまったんだ。
「八坂さんに、そんなことが……」
「だから、このことは……言いたくなかったんだ」
「確かに、八坂さんの言う通り……この話をあの時の湊さんが聞いていたら……」
「…………」
彼女は……壊れていたのかもしれない。
だからこそ、あたしは悠さんの言うことに従った。
その考えに従うことが、最善策だと思っていたから……。
「でも、それでも……っ。2人がすれ違ってしまうなんて……おかしいですっ!」
「それは……」
「やっぱり、八坂さんが直接湊さんに全て話すべきですよ!」
彼女さんはありったけの思いを込めて、あたしに対してそう言い放つ。
あたしも……同じ気持ちだ。
できることなら、悠さんに全てを話してもらって、全ての誤解を解いてもらって……2人の仲を元に戻して欲しい。
ただ……それだけなんだ……。
けれど……。
「でも……湊さんは、部屋から出てくれませんよね……」
「仮に悠さんが第二寮まで行ったとしても、飛鳥さんが出てきてくれるかどうかは分からないもんね」
「うーん……難しい、ですね……」
結局、飛鳥さんがその話し合いに応じなければ、どうにもならないのだ。
そうしなければ、2人はすれ違ったままなんだ……。
――だから、あたしが……。
「やっぱり、そう……だよね」
「……?美結さん?」
「あたし……飛鳥さんの所へ行ってくるよ」
その言葉を聞いた瞬間、彼女は素っ頓狂な声をあげる。
まあ……無理もないよね。
「ですが、それでは……」
「あ、あたしが行った所で……出てきてくれるとは限らないけど、さ」
「…………」
「でも、あたしも……当事者の1人だから、ね。飛鳥さんだって……あたしに言いたい事とかもあると思うんだ」
普通、自分の恋人が他の人と仲良く一緒にいたら、どんな人でも嫌に決まっている。
しかもそれが自分と会ってくれない時であれば、尚更のことだ。
だから……最初から、飛鳥さんがあたしを許してくれるとは思っていない。
文句を言われたり、罵倒されたりすることも、もしかしたらあるかもしれない。
だけど、あたし…………覚悟は、できてるよ。
「それこそ、あたしに対して……"恨み"とかもあるだろうしね」
「美結さん……」
「それなら、話くらいは……できるかと思うんだ。だからそこで……悠さんと会ってくれるように頼んでみるよ」
「美結さん……」
あたしの言葉を聞きながら、柚子さんは心配そうにこちらを見つめる。
まあでも、自分で蒔いた種でもあるし……あたしが動かなきゃね。
「そう……ですね!やれそうなことから始めませんとね」
「……うん。それに……」
悠さんだけじゃなくて、あたしも謝りたいから……ね。
「それに……?」
「ううん。なんでもない!」
そう言って、適当に誤魔化す。
これは……あたしの戦いだ。
だからこそ……頑張らないと。
「じゃあ、放課後になったら……あたし、行ってくるよ」
「ケジメ……つけてきてください」
「うん」
「大丈夫です。湊さんだって、わかってくれますから」
「……柚子さんは、優しいね」
柚子さんの言葉を噛み締めながら、素直な感想を述べる。
どんな事情があったにせよ、あたしが飛鳥さんを傷つけたのは事実だ。
けれど、それでも……あたしのことを心配してそういう言葉をかけてくれるのは、彼女の人柄ゆえのものなのだろう。
「だって……」
「……?」
「これでも、新聞部の部長ですから!」
彼女は胸を張ってそう言うと、まるで子供のように……少しあどけなく笑った。
……そうして、その日の放課後。
悠さんに、"今日は用事があるので、終わったら行きます"と連絡し、あたしは1人で飛鳥さんの元へと向かうのだった。
いかがだったでしょうか?
はい……プレゼント良くないですねほんと。
あそこで見えるの流石に反則だろ……って感じです笑
というわけで、だいたいお察ししている方も多いと思いますが、次はついに“湊くん×美結さん”です!
超修羅場の予感がしますが、自分自身今から書くのが怖くなってるので、楽しみにしていてください笑
では、また次の話も読んでいただければ幸いです~!
追記
前回も感想ありがとうございました!
もう本当に嬉しいのでもうありがたすぎます笑
最近オトメ*ドメイン公式のQ&Aコーナーの湊くんの声を聴くのに再びハマり始めて、毎日聞く生活に戻ってしまったのですが……あれやばいですね笑
聞いたことのない方はぜひ聞いてみてください!私は“可愛がってくださいね”というボイスがぶっ刺さり過ぎて昇天したので、そこがおすすめです!!!
まあ、今回の追記はなぜかこういう話になってしまいましたが、次回の話もぜひ楽しみにしていてください!頑張ります笑