ということで前回の続きです!
前回は修羅場の予感を残しての終わり方でしたが、今回はまさかの湊くん視点ということで、一体どうなってしまうのか!?
まあ、互いに悪意があったわけではなく単純なすれ違いによるものなので……長く引きずらないことを長いながら、今回も読んでいただければ幸いです笑
もう、何も考えたくない。
もう、何もしたくない。
そんな思いが、頭の中でぐるぐると回っている。
「(学校、休んじゃったなぁ……)」
壁に掛けられた時計に、精気の無い虚ろな目を向ける。
その長針は既に頂点を経過しており、短針は4の表示から少しずれていた。
「(あぁ……もうこんな時間か)」
この時間だと、流石に風莉さんたちも帰ってきてしまうだろう。
いくら誰にも会いたくないからといっても、それまでにせめて夕食の準備くらいはしておかないと。
「(…………)」
昨日の夜――。
寮に帰った僕は、あまりにも酷く惨い事実に耐えられず、皆に何も言わずに部屋に閉じこもってしまった。
もちろん、部屋が同じである以上、風莉さんとは顔を合わせなければならない。
けれど、僕は極力彼女の顔すらも見たくなくて……。
布団を被って、ずっと――スマートフォンに映し出された"彼との写真"を見つめ、1人暗闇の中で泣いていた。
……自分でも、身勝手だとは思う。
家事もせず、学校にも行かず……ただ昨日からこうしてずっと、布団の中で全てを拒絶する。
そんな生活は……拾ってもらった身である以上、僕には許されないことなんだ。
だから……辛くても苦しくても、もう何もかも嫌になっても……最低限の家事くらいはしないと。
「(はぁ……家事がこんなに憂鬱なのは、初めてかもなぁ……)」
布団から顔を出し、夕陽で赤く染まりつつある外の景色を見やる。
こうして、彼のことを考えずに過ごせたら良かったのに……結局僕は、ついつい悠さんのことを考えてしまうのだ。
あーあ……ここまでくると、もう末期なんだろうなぁ……。
そんなことを考えながら、不器用な自分に乾いた笑いしか出なくなる。
「(これから……どうしよう)」
そうして、自分でもよくわからかくなって、とりあえず夕食でも作ろうと立ち上がった瞬間――
「――飛鳥さん。話があるの」
いつものおどけたような声ではなく、真剣で……それでいて迷いのない声で、彼女はそう告げる。
そう……僕が2番目に会いたくなかった人が――僕の世界へと踏み込んできたのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「――美結さんとは、話したくありません」
僕の様子を伺いに来たのであろう彼女に冷たくそう言って、再び布団を被ってベッドに戻る。
まさか、昨日の今日で顔を合わせそうになるなんて……我ながら災難な事だ。
「お願い。飛鳥さんに、伝えなきゃいけないことがあるの」
「そう……ですか。今まであんな事しておいて、よくもここまで来れましたね」
「……っ……」
感情を抑えて声のトーンを維持したまま、言葉に明確な敵意を乗せる。
あんなことがあったとしても、美結さんは編入当初から仲良くしてくれた友人の1人だ。
だから……あまりこれ以上、剥き出しの醜い感情を向けたくない。
「そ、それは……」
「……美結さんに、ボクの気持ちが分かりますか……? 信じてた人に騙されていたボクの気持ちが……!友達だと思っていた人に裏切られたボクの気持ちが……っ!」
少しヒートアップしてしまった所でハッと気づき、深呼吸をして段々と落ち着きを取り戻す。
こんなに気持ちを前に出すなんて……やっぱり僕、疲れてるんだろうな……。
「飛鳥さん……」
「だから……今は、誰とも話したくないんです。お願いですから……帰ってください……っ」
グツグツと煮えたぎる感情を堪えつつ、できるだけ平静を保ちながら美結さんにそう告げる。
ドア越しに聞こえる彼女の声には、段々と焦りの色が混ざり始めていた。
「悠さんのこと……本当のことが、知りたいんでしょ」
「――っ!そ、それは……」
核心を突かれ、冷静になろうと律していた心が大きく揺らぐ。
落ち着け、飛鳥湊。大丈夫……絶対大丈夫だから。
そんな言葉をかけられても、僕の決心は揺らいだりしないぞ……!
「だから……話を聞いて欲しいの」
「そ、そんなこと言ったって……悠さんはボクを裏切ったんです!ボクには会えないって言ってたのに……」
「…………」
「それなのに、美結さんとはあんな仲良さそうに会って話してて……ボクのことは忘れちゃったみたいに……っ」
先程までの決意も虚しく、胸の奥に押さえつけていた感情が、堰を切って溢れ出す。
「(悠さんの……ばか……っ!なんで……なんで……っ!)」
右手に握り締めた"アメジストのネックレス"を投げつけようとして……その手をゆっくりと下ろす。
会えないって言ってたのに……なんで……美結さんだけ……っ。
そうして、力を失ったように膝から崩れ落ちる。
「……やっぱり、ボクのこと嫌いになっちゃったんですよ……っ。ボクに……愛想尽かしちゃったんですよ……」
「…………」
今までの浮かれていた自分を嘲り笑うかのように、乾き切った声でボソリとそう呟く。
もう……ダメだ。
僕はもう……戻れない所まで、来てしまっていたのかもしれない。
「だから、悠さんは――」
「違うよ、飛鳥さん」
「……え」
「悠さんは、そんなこと思ってないよ」
彼女から放たれた否定の言葉に、思考が停止させられる。
"違う"……って、どういう……こと……?
「そんなの、信じられませんよっ!」
「悠さんはね……怪我、してるんだ」
「……え?」
いきなり告げられた予想外の情報に、思考が再び掻き乱される。
「(悠さんが……怪我……?)」
あまりに突然のことで信じられず、同じ言葉を何度も何度も頭の中で反芻する。
怪我……なんで、悠さんが……?どういう……こと……?
「そ、そんな……わけ……」
「全身にかけて、骨折とか打撲が酷いような……大怪我を、ね」
「……ぇ……」
更なる衝撃の告白に、次第に頭が痛くなってくる。
そんな大怪我……おかしいよ……っ。
なんで……なんで美結さんは、そんなこと言うの……?
「そ、そんなの、信じられませんっ!……っ!そうだ、2人ともまたボクを騙そうとしてるんですよね……?」
「飛鳥さん……」
「そ、それに……なんでボクに言わないんですかっ!それも……こ、"恋人"であるボクに……!」
感情が高まり、思わず1番言いたかったことをつい口走ってしまった。
まあでも……やっぱり、もしこれが本当のことだとしたら、僕に言わないのはおかしい。
彼のことを一番に考え、誰よりも想っている僕に言わないなんて……今までの悠さんであればなかったことだ。
それなのに、どうして……。
「だって、あれほど毎日電話してたのに……!やっぱり、悠さんは僕のことなんて――」
「心配……だったから」
「え……?」
「悠さんはね……飛鳥さんに心配をかけたくないから、全て黙ってたんだ」
「……え?なんで……心配なんて……」
またもや予想外の言葉に、素っ頓狂な声が漏れる。
心配かけたくないというのは少しわかる。いつもの彼なら、確かにそう言いかねないだろう。
でも……それでも、彼は伝えてくれるはずだ。
だって、僕達の仲は……そんなものじゃ……。
「悠さんはね、"家族のことを乗り越えたばかりなのにこの事実を伝えたら、また心を閉ざしちゃうかもしれない"と考えてたんだよ」
「え…………」
彼の、僕を大切にしようとする想いがひしひしと伝わってきて、もはや何も言えなくなる。
確かに、僕の誕生日からそんなに経ってないから……悠さんが大怪我したとなれば、また大切な人がいなくなってしまうと絶望していたかもしれない。
あくまでこれは予想だけど……その可能性は、十分にあったかもしれない。
「た、確かにそうだったかもしれない……ですけど……でも、なんでそんなことになるんですかっ!そもそも、悠さんがそんな怪我をするはずが……!」
「……っ……!」
ようやく浮上した根本的な疑問を胸に、美結さんに問い質す。
すると、彼女は下を向いて唇を噛み締め、両手を強く握りしめていた。
「そもそも、怪我だって嘘かもしれないんですし……2人がボクに嘘をついて騙そうとしている可能性だって――」
「そんなこと言わないでっ!」
そもそもの話を覆すようなことを口にした瞬間――彼女は、今まで見たことの無いような明確な"怒り"を露わにして、僕に強くそう言い放った。
「美結……さん……?」
「彼は……何も悪くないんだから……。元はと言えば、あたしが悪いんだから……っ!」
「……え?」
突然自分の罪を告白する彼女に驚きながら、回らない頭でその理由を探す。
「それって、どういう……」
「あの日――飛鳥さんが来れない代わりに、あたしが悠さんと第二寮で待つことになったあの日――あたし達は、不良達に絡まれたの」
「……っ!?」
"不良"という単語に驚きを隠せず、思わず息を呑む。
なんで2人が、そんな……。
「それで、悠さんはあたしを助けるために1人で……。だから、これはあたしのせいなの……っ!」
「美結、さん……」
「だから、救急車を呼んで病院に行って……それで、介護が必要になったから、あたしが志願したの」
美結さんがいた理由がようやく分かり、少し胸を撫で下ろすと同時に……事の深刻さを改めて認識する。
骨折する程の大怪我をするなんて……余程の事じゃないとありえない。
しかも、それが不良達によるものだとすると、相当激しい喧嘩になっていたのだろう。
まさか……悠さんが、そんなことに巻き込まれていたなんて……。
「わかり……ました。美結さんが、嘘をついているとは思えません……。その……辛そう、ですから……」
「…………」
「でもなんで、不良なんかに……」
少し落ち着いたところで、当然の疑問を口にする。
だって、いきなり2人が巻き込まれるなんておかしいに決まっている。
そんな、余程の恨みとかがない限りは――
「それが、あたしにもよく分からなくてさ……。なんか、"ナンパ男のこと覚えてるか"みたいなことを不良達に言われてたから、前に悠さんに何かあったのかもしれないけど……」
「――――っ!」
聞き覚えのある言葉に、ドキリと胸が痛む。
「(ナンパ……男……)」
最悪のタイミングで思考が正常化し、いつか遭遇した男たちの姿が頭に浮かび始める。
まさか……それって……。
「そ、れ……は……」
「確かに不思議だよね……あの悠さんがあの人達と関わりあるなんて思えないし。何かの勘違いだと思うんだけど……」
「……っ……」
悠さんと出会った日のことが、脳裏に鮮明に映し出される。
僕が見ている限り、悠さんがそういう人からの恨みを買うことはそうそう無いはずだ。
そうすると……やっぱり、"あの時"……だよね。
「ボクの……せいだ……っ」
「え、なんで!?だ、だって飛鳥さんは今回被害者なんだよ!?どうしてそんな……」
突然のことに驚く美結さんを置いて、1人布団を被って自己嫌悪に陥る。
だって……これは……これは……っ。
「どうしよう……どうしよう、ボク……」
「…………」
「悠さんに怒りたい気持ちと、謝りたい気持ちがぐちゃぐちゃになって……もう、わかんないよぉ……」
目尻から流れ落ちる雫を拭い、彼の姿を頭に思い浮かべる。
確かに、悠さんが悪いところだってある。
形式上"彼女"である僕に何も言わないのは、それが僕のことを心配しているとはいえ、流石に簡単には許すことは出来ない。
それに、そんな中で美結さんと会っているなんて……そして、その上仲良くなっているなんて、僕には到底認められないことだと思う。
……けれど。
「……飛鳥さん」
「……ぅ……」
「行こう?悠さんのところへ」
彼がこういう状態になってしまったことの……その責任の一端は、紛れも無く僕自身にあるのだ。
結局、あの時僕を助けていなければ……悠さんは、こんなことには……っ。
「このままじゃ……ダメな気がするんだ」
「…………」
「2人が……すれ違ったままじゃ、ダメなんだよ……!」
ドアを強く叩く音と共に、強い想いの籠った美結さんの声が聞こえてくる。
……よし。やるぞ。
「だから……行こう、飛鳥さん!」
「……わかり、ました」
ゆっくりとドアを開け、空いた隙間からおそるおそる顔を出す。
すると、眩しいほどの夕日の光が、窓から僕の方へと差し込んできた。
「飛鳥さん……!」
「まだ、心の整理がついた訳じゃないですけど……ボク、やっぱり悠さんと話したいです。だから……」
決意を込めたその言葉の続きは、残念ながら彼女の泣き声によって遮られてしまった。
けれど、まあ……これもいいだろう。
だって、この気持ちは――彼にこそ、伝えるべきものなのだから。
……………………。
そうして、美結さんが泣き止んだ後。
僕達は、まだ少しぎこちない距離感のまま……彼の元へと歩みを進めるのであった。
さて、いかがだったでしょうか?
案の定湊くん×美結さんがバチバチになりそうでしたけど……やはり湊くんの察しの良さは良いですね~笑
まあ、このまま次の話で悠君と和解してくれれば良いのですが、なんかこのままだと湊くんが別の意味で大変なことになりそうですね……。
とりあえず次回は、遂に“湊くん×悠君”なので、楽しみにしていてください!
それでは、次回の話も読んでいただければ幸いです~!
追記
感想ありがとうございます!!!もう幸せすぎて泣きそうです笑
今回の追記では、少し前のところのこだわり?について書かせてもらえればと思います。(興味ない人はスルー推奨です!)
前々回の湊くんが柚子さんと泣きながら帰るシーンですが、あそこはよくある「キャラの感情を天気が表す」シーンでもあるのですが……
実は、「どうしようもない現実が想いを踏みつぶしていく」ということを表していて、途中にあった「思い出が黒く塗りつぶされていく」的なところとかぶせるようにしていました。
”雨”という人の手にはどうすることのできないものが、人から溢れ出た感情の塊である”涙”をその勢いで流して奪い去っていく……
個人的には、書いていて最も心が折れかけた表現でした笑
……はい。「もう知ってました」、とか「見ればわかるだろ」と思っている方、すみません!!!
一応この部分は頑張ったので、気づかない人がいたらここを見た後に読み返してほしいなと思い、書かせていただきました!
ということで、次回も多分きっと1週間は過ぎてしまう可能性はありますが、できるだけ早く投稿できるように頑張ります!