前回からついに最終章が始まりましたが、まあ美結ちゃんの話からして不穏ですね笑
今回に関しては、遂に約束の美結ちゃんとのデート回ですが、結構辛いです()
一応ここで書いておきますが、実は裏話として、「湊と悠がデートすることを見越して、7月6日をデートの日にした」というのがあります。
だから、それを考えながら今回と次の話を読むと、辛さが増すと思います笑
というわけで、デート用本気美結ちゃんをお楽しみください!
最後まで読んでいただけると幸いです~!
梅雨明けの眩しい日差しが、街路樹の合間から差し込む朝。
鳥のさえずりと街行く人々の活気のある声が、辺りの景色を七色に彩る。
そんな七夕前日という日に、俺は1人学園の前である人を待っていた。
――時刻は、朝の9時45分。
親子連れの方々が楽しそうに談笑しつつ街の中を歩いている姿を眺めながら、俺は神妙な面持ちのままスマホの画面に視線を落とした。
「今日、か……」
美結さんから指定された時間は朝の10時。
何しろ今日は彼女からの頼みでもある2人でのお出かけ――いわゆる"デート"であるから、この時間になるのは仕方ないことだろう。
そうして、少し眠気の取れない頭をブンブンと振りながらも……ふと、昨日の会話を思い出す。
"それって……どういうことですか……っ?"
それが、俺の偽りの彼女である湊さんから放たれた、最初の言葉だ。
そう……俺は、美結さんとの1連の出来事を、嘘偽りなく湊さんに話したのだ。
――確かに、自分でもこれを告げるのはどうかと思った。
ある種の湊さんや美結さんへの裏切りなのではないかと、何度も考え続けた。
けれど……。
美結さんからの"飛鳥さんに話してもいいよ"という言葉と、前回の湊さんに隠し事をしたことによる仲違いのことを考えた結果、俺の中でこれが最良の選択だと思ったのだ。
「(2度とあんな思いはさせたくない……って感じたもんな)」
あの時俺は、湊さんに大事なことを伝えなかったせいで、彼女との間に大きな溝を作ってしまった。
そしてその溝は後に大きな傷となり、完全に修復するのにはかなりの時間を要した。
だからこそ、俺は……今度こそは、と湊さんに全てを話してきた。
そして、その上で……ちゃんと美結さんに思いを伝えて、"決着をつけてくる"と言ってきたのだ。
……しかし。
ただ1つ、心残りがあるとするならば……あの時湊さんが、俺に何かを言おうとしていたことだ。
あの日、湊さんも何かを伝えようとしていたが、どこかその様子がおかしかった。
一応不思議に思って俺の話が終わった後に聞いてみたんだが、結局その日は何も言ってくれなかった。
その後も今日に至るまで何回か尋ねてみたのだが、その全てにおいて話を逸らされてしまった。
まあ、いつか話してくれる……とは思っているのだけど、確証は無いため今もこうして少し悩んでいるのだ。
「てか、美結さんとの日なのに……何考えてるんだろうな、俺……」
……と。
自分に嫌気が差して空を見上げた途端、遠くの方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「悠さん。お待たせしましたー!」
「ああ、美結さん。久しぶ……り、だね……」
美結さんの声に返事をしながら、声の方に視線を向ける。
美結さんに誘われたあの日以来、何故か彼女が家に来なかったこともあり、久しぶりという言葉が出てきたのだが……今はそんなことどうでも良い。
「美結、さん……」
ふわりと風になびく白のワンピース。
揺らめきによって、裾から僅かに見える白のストラップサンダル。
そして、その白のキャンバスに添えられた麦わら帽子とかごバッグ。
そう、その姿はまさしく……その身一つで夏の到来を体現するかのような、清楚で美しいものであった。
「……どう、かな?に、似合ってる……かな?」
「あ、ああ……凄く、似合ってると思うよ」
「そっかぁ……えへへ。あ、ありがとね……悠さん」
彼女のはにかんだ表情に、胸がドキリと音を立てて鳴る。
……いつもの休日だと、彼女は活発な性格通りの動きやすそうな私服を着て家に来る。
ましてや平日は学校帰りに直接来るため、学園の制服のままだ。
そう、だからこそ……このお淑やかで上品な姿には、思わず息を飲んだ。
「……あれ?もしかして、照れてる?」
「ばっ……!ち、違うって!」
「ふーん……違うのかぁ……そっかぁ……」
わざとらしい口調でそう言いながらも、彼女は悲しそうな表情を浮かべる。
わ、分かってはいるけど、罪悪感が……。
「いや、まあ……可愛い、けどさ……」
「…………!そ、そっかぁ〜そうだよね!悠さんもついにあたしの可愛さに気づいてしまったかぁ〜!」
先程までの表情が嘘であったかのように、ぱあっと満面の笑みを浮かべると、彼女は調子に乗って肘で脇腹の辺りを小突いてくる。
やっぱり、美結さんは美結さんな――
「……本当に、嬉しいんだから……ね?」
刹那。
その言葉と共に見せた妖艶な表情に、胸がドキリと高鳴る。
「さて、それじゃあ行こっか」
「あ、ああ……行こう」
あまりに咄嗟の出来事に、正直理解が追いつかない。
何だよ、今の……。
いつもとは明らかに異なる彼女の姿に、心臓の鼓動がペースアップしていく。
これは、どうにかして隠さないとな……。
そうして、美結さんにドギマギさせられながら、彼女の"最初で最後のお願い"が幕を開けるのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「(良かったぁ……悠さんに褒めて貰えた……!)」
彼の隣を歩きながら、あたしはバレないように小さくガッツポーズをとる。
正直、普段あまりオシャレとかする人間じゃないから、毎日必死に調べまくってたんだけど……とりあえず正解だったらしい。
やっぱり、気合を入れてオシャレして良かった……!
「(それに、悠さんに会わずにいたのもいい作戦だったかも……!)」
ここ最近のことを思い出しながら、彼の顔を一瞥する。
あの事件以来、ほぼ毎日のように悠さんの家で過ごしていたから、悠さんもあたしという存在に慣れきってしまっている。
だからこそ、あたしはあえて悠さんと距離を置き、異性として意識してもらおうと画策したのだ。
「(……でもなぁ)」
とりあえず、今のところ作戦は順調……なんだけど。
胸の奥に残るわだかまりが、どうしても消えてくれないのだ。
――彼は今、どんな気持ちでここにいるのだろう。
そんな当たり前の疑問が、心の中に巣食っている。
そりゃあ、彼女である湊さんを差し置いて、ただの友達であるあたしとデートしているんだし、あまり乗り気じゃないだろうけど……。
「(悠さんにも、楽しんでもらいたいな……)」
自分からこんな条件で誘っておいて、そう願うのは身勝手過ぎる。
そんなこと、頭では分かってるんだ。
けれど、それでも……。
このデートは、あたしにとって唯一の……そして、最後の機会なんだ。
だからせめて、今日だけは――
そんな、縋るような願いが……あたしの心を染め上げていく。
そうして、少し不安になりながらも……あたしは精一杯楽しもうと、彼との距離を1歩ずつ縮めていくのであった。
………………。
…………。
……。
「――告白シーンからの流れ、予想以上に面白かったね!」
忙しなく動き回る店員の音と席の前後左右から聞こえてくる楽しそうな会話が、微かに流れるBGMを絶えず塗り替えていく……そんな、お昼時のレストランの中で。
コップに入った氷をストローでカラカラと動かしながら、あたしはそう言って悠さんの反応を伺う。
……あの後あたし達は、あたしの希望で映画を見に行き、最近流行りの"恋愛映画"を見てきたのだ。
まあタイトルを見た瞬間、最初は飛鳥さんのことがあって彼は複雑そうな顔をしていたんだけど……物語が進むに連れてその表情は徐々に変化していき、最後には満足そうにあたしと感想を語れるようになった。
そこで、時刻が12時を回っていたこともあり、とりあえず移動しようということで近くのファミレスに来ているのだけど……。
「わかる!あそこ普通に面白くて、結構見入っちゃったよ」
「だよねだよね!良かったよね〜」
映画のシーンを一つ一つ思い出しながら、彼の言葉にうんうんと頷く。
そう、実は料理を食べ終わってからも、こうしてずっと映画の感想を言い合っているのだ。
正直、入店してからどれくらい経ったのか把握してないんだけど……結構経ってそうで怖い。
だから、そろそろ行かないと!って思ってるんだけど……思った以上に話が止まらないのだ。
……まあ、楽しいから良いんだけどね。
「……あ、そういえば家だと全然見てないけど……悠さんって、映画とか見るの?」
「あー、それなりには?」
ふと、彼がどのくらい映画を見ているのか気になり、そのまま尋ねてみる。
すると、帰ってきた答えは、予想以上に漠然としたものであった。
「そうだったの?」
「あー、でも基本は家で見ちゃうな〜。まあ、最後に映画館で見たのは"湊さん"と一緒に見に来た時なんだけど……その時は、変なサメの映画だったなぁ……」
あたしに軽く説明した後、苦笑いを浮かべながら何かを思い出したかのように飛鳥さんとの思い出を話し始める悠さん。
その顔は、あたしに見せるものよりも生き生きとしていて、第三者から見ても幸せそうに感じる程のものだったんだけど……。
――その瞬間、あたしの中の醜い部分が、咄嗟にその姿を現す。
「一緒にいる時くらい……他の子の話は、やめてほしい……かな……」
「あ、ああ……ごめん……」
自分でも予想だにしてなかった言葉が口から漏れ、思わず両手で口を塞ぐ。
何であたしこんなこと……っ!?こんなこと、彼女持ちの男の人に言っても仕方ないのに……。
次第に自分が嫌になっていき、視界が僅かに潤み始める。
何やってんだろあたし……悠さんを楽しませようって思ってたはずなのに……。
これじゃまるで、逆効果じゃないか……。
「ち、違うのっ!こ、これは……」
「…………」
「ご、ごめんなさい、悠さん……。あたし……あたし……っ!」
「ごめんね、美結さん。今は……美結さんとの時間だもんね」
「――っ――」
言い訳する前に先にそう言われ、一瞬何も言えなくなる。
そう告げる彼の様子はどこか納得しているようであり、逆に彼の方が申し訳なさそうな顔をしていた。
「ご、ごめんなさい……あたし、つい……」
「大丈夫。大丈夫だよ、美結さん。今日は美結さんの好きなようににしていいんだからね」
「……っ……!」
彼から放たれた予想外の言葉が、急速にあたしの理性を溶かしていく。
そんなこと言われたら、歯止めが聞かなくなっちゃうじゃん……っ。
……………………。
「じ、じゃあ……あたしから1つ、お願いがあるんだ」
「いいよ、言ってみて」
「そ、その……ね?ゆ、悠さんにも、楽しんでもらいたいの……っ!だから、今日だけは……今だけはっ、飛鳥さんのこと、忘れて欲しいの……っ!」
都合の良すぎる醜い願いが、彼の元へと届けられる。
こんなの、普通に考えたらおかしいに決まってる。
けれど、それでも……あたしは、彼と最後の思い出を作りたいのだ。
だからこそ、彼に笑顔でいてもらうために、今だけは飛鳥さんのことを……。
「……わかった、できる限り努力するよ。だから……」
少し苦笑いを浮かべながら、彼は"困ったな"と言って右の人差し指で小さく頬をかく。
「泣かないで、美結さん」
「え……?」
――彼に言われて、初めて気がついた。
あたし……なんで、泣いて……。
「悠、さん……」
「今日一日は、美結さんのために過ごすから、さ」
彼は少し複雑そうな表情のままそう言うと、そっと優しくあたしの頭を撫でる。
「いつもみたいに笑ってよ、美結さん」
「悠、さん……っ!」
そう言われた瞬間、あたしの中で何かが弾ける音がした。
あぁ、やっぱり……抑えるなんて、できないや。
堪えていたはずの彼への想いが、とめどなく堰を切って溢れ出す。
そうしてあたしは、続けざまに放たれた"好きなようにしていい"という彼の言葉に、そのまま身を委ねてしまうのであった。
美結ちゃんのギャップ萌えに悠君が苦しむという展開から始まりましたが、いかがだったでしょうか?
自分としては恋愛映画に誘う美結ちゃんのメンタルがすごすぎて感服しましたね笑
……まあ、皆さんそんなことよりも美結ちゃんの本心が一瞬出てくるところが気になり過ぎてると思いますが、あそこはきついですね……
でも同時に、美結ちゃんの覚悟を読み取って「今日だけは彼女の為にいよう」と決心した悠君が個人的には好きですね笑
湊くんをもう二度と裏切りたくないと心に決めた悠君がこの決断をするのは容易じゃないと思うので、あそこは伝わってほしいですね~!
ということで、次はデートの続きなので、楽しみにしていてください!
追記
感想書いてくださった方々、ありがとうございます!
そして読んでくださった方々、ありがとうございます!
気が付けばUAがもう38000超えそうで幸せです笑
前回の話をあんなに短めに出してしまったのに、こんなに読んでいただけるとは……感謝しかありません!
とりあえず次からの2話は物凄く物語が進展するので、楽しみにしていてください!
ということで今回はここまで!また次回も読んでいただければと思います!