前回の続きです!
今回は美結ちゃんとのデートの続きですが、遂にあのイベントが発生です!
ボロボロになったメンタルでそれでも伝えようと必死に頑張った美結ちゃんを見てあげてください……笑
とりあえず前書きはここまで!
今回もぜひ読んでいただければ幸いです~笑
――それからのデートは、楽しいことの連続だった。
水梅モールでショッピングしたり、食べ歩きをしたり。
近くの公園でのんびりしたり、2人で夕日を見たり……と。
あたしがデートで行きたいと夢見ていたところに、ほぼ全て行くことが出来たのだ。
……だけど。
「あっ……ご、ごめん」
「こ、こっちこそ、ごめん」
歩いている途中で、2人の手が触れ合う。
けれど、それ以上先には進めない。
「つ、次はどこに行こうかな〜!」
手を繋ぎたいけど……どうしても繋げない。
そんな、もどかしいような絶妙な距離。
――あと少しで彼の手を握ることが出来る。
でも……彼はもう飛鳥さんのものなんだ。
「(だから……ダメなんだよ、あたし)」
最後に残った理性が、その1歩を踏み出させまいと必死に恋心を押さえつける。
彼に"好きなようにしていい"と言われていても、絶対にそれだけはしてはいけないと頭の中で警鐘が鳴り響く。
だから、彼の手元へと伸ばされた右手を――バレないように、そっと元の位置へと戻した。
けれど……そんな距離感すらも、今のあたしには心地よいのだ。
「(もう少し、このまま……)」
あと、少しだけ。
あたしが事を起こしてしまうまでの、ほんの僅かな間だけ。
この幸せに満ち溢れた世界に浸っていたいと、歩く速度を落としていく。
すると、彼は何も言わずに、何も聞かずに……ただ、歩調を合わせてくれた。
そうして、あたしには勿体ないほど濃厚で色鮮やかな時間が、緩やかに流れていくのであった。
………………。
…………。
……。
そして。
すっかり日も暮れて、焼けるような紅い空が深い闇に包まれていく宵闇の刻。
セミの鳴き声が絶えず五月蝿いくらいに響き渡り、皆に"終わり"の時間を告げるような、そんな夏の余韻が感じられる時間に。
あたしは"最後に寄りたい場所がある"と言って、あの日彼が不良から守ってくれたあの場所に、彼と共に訪れていた。
「ここ、は……」
「あはは……悠さんには辛い思い出の残る場所、だよね」
「……まあ、ね」
そう言うと、彼の顔に少し影が落ちる。
……やっぱり、飛鳥さんの傷は完全には癒えてないのだろう。
わかってはいたけど、その上でここに連れてくるのは……こっちとしても、流石にきついものがある。
……だけど。
「――でもね、悠さん」
「…………」
「あたしにとっては、さ……。ここが、始まり……なんだ」
辛そうな彼の表情に臆することなく、胸に秘めた想いを解放していく。
行くぞ、あたし……っ。
「今思えばだけど……この気持ちが芽生えたのって、この場所で悠さんに助けられてからだと思う」
彼との想い出を辿るように、あたしは語り始める。
「そこから、悠さんに何か恩返ししないとって思って、身の回りのお世話をし始めて……」
「…………」
「段々部屋のことにも慣れてきて、悠さんにも慣れてきて……お互いに、下の名前で呼び合うようになって……」
当時のことを鮮明に思い出しながら、それを慈しむかのように話していく。
……まさかあたしが、男子と下の名前で呼び合うようになるとはね……。
「その距離感が心地よくて……でも、それは飛鳥さんから奪っただけの、偽りのものでしかなくて……」
「そんな、ことは……」
「……ううん。それが正しいんだよ。あたしは……彼女から悠さんを一時的に奪い取っただけなんだから」
抗議しようと眉をひそめる彼を制止し、淡々と事実を告げていく。
……そうだ。あたしは、飛鳥さんから彼を奪おうとした罪人だ。
彼女と付き合っていると知っていたのに、それでも彼と共に過ごすことを選んだ極悪人なんだ。
「んなわけあるかよっ……俺は美結さんに感謝してるし、美結さんがいてくれたからここまで治すことができたって思ってる」
優しさ故にあたしを傷つけまいと、必死に弁解しようとしてくれる悠さん。
その思いは嬉しいし、だからこそ彼を好きになれてよかったと思える。
……けれど。
「それに、そもそも湊さんに黙っておこうと決めたのは俺だ。だから、美結さんがそんなこと考える必要は――」
「違うの……っ!」
「……っ!?」
今日1番の大声で彼の弁明を止め……そしてゆっくりと、あたしの本当の罪を話し始める。
「それだけなら……良かったんだよ。恩返しとして、悠さんの手伝いをしているだけだったら……」
「美結、さん……」
「でもね……あたし、気づいちゃったんだよ。この……気持ちに」
胸に手を当てて自分の気持ちを解き放ちながら、ゆっくりと深呼吸をする。
胸が膨らむほどに吸い込んだ空気は、吐き出す時には少し震えていた。
「最初は……嬉しかった。あたしも他の子と同じようになれたんだって、やっと"女の子"になれたんだって……」
「…………」
「……でもね、すぐに気づいたんだ。これは……抱いてはいけない感情だったんだって」
言葉を一つ一つ零していく度に、彼との想い出が淡い光のように浮かんでは消えていく。
これが死ぬ前だったのなら、このようなものを走馬灯と呼ぶのだろう。
……こんな状況でも、少し冷静でいられることが、今のあたしにとっては唯一の救いだった。
「他の人なら良かったのにって、何度も何度も考えたの……っ!けど、どうしても悠さん以外考えられなかったんだ……っ!」
封をしていた行き場のない恨みや後悔が、残った理性を駆逐していく。
彼を求めてしまう女としての心が、前面に押し出されていく。
「何であなたなのって、何度も自分を恨み続けた……でも、それでもっ!この気持ちは消えなかったんだよ……っ」
「美結さん……」
「よりにもよって、友達のなんて……しかもそれが、初めて抱いた想いだなんて……っ」
これが悠さん以外の人であったのなら、どんなに幸せだったことか。
そうすれば、あたしだってこんな思いしなくて済んだのに。
あたしの初恋が、こんなに傷つくことはなかったのに。
……けれど、それを恨んだところでどうしようもない。
だって、あたしが好きになってしまったのは、そういう相手なのだから。
「何から何まで間違ってる……だから、そんなあたしが嫌だったんだ……っ!」
「…………」
誰にも言えなかった自己嫌悪の気持ちが、初めて言葉となって現れる。
……もう、話してしまおう。
あたしの、"中身"を。
「……悠さんが飛鳥さんと再開できた日、あたし凄く嬉しかったの。やっと2人が、元に戻れたんだって」
「…………」
「……でも、ね。心の中では……違ったの……っ」
「え……」
「もっと黒くて醜い感情が……あなたを奪い返されたくないという穢い欲望が、ぐるぐると這いずり回ってたんだよ……」
彼の戸惑う表情を見て、胸が締め付けられるように苦しくなってくる。
あたし自身ですらこの感情に嫌悪感を抱いているのだから、彼は幻滅してしまっているのかもしれない。
……けれど。
あなたには……あたしの全てを、見て欲しいんだ。
「おかしいよね、こんなの……っ?大好きな人と大好きな人が、やっと幸せを掴めたのに……それを、恨めしく思ってしまうなんて……っ!」
「――っ――」
「……だからあたし、封印しようとしたんだ。もう2度とこの感情を出さないように、って」
「…………」
「……でも、ダメだった。人の心って……簡単にどうにかなるものじゃなかったんだよ……っ」
溢れ出る感情によって、声が震え始める。
2人が仲良く過ごしているのを1番近くで見ていて、毎日毎日胸が張り裂けそうな思いだった。
けれど、それでも耐えられる……いや、耐えなきゃいけないって、ずっと頑張っていた。
……だけど。
頑張って隠そうとしても……その姿を見てしまうだけで、気持ちが溢れてしまうのだ。
彼の笑顔を自分だけに見せて欲しいという思いが、蓋をした心から滲み出てしまうのだ。
悠さんも飛鳥さんも大好きなのに、こんな気持ちを抱いてしまうなんて……あたしはなんて最低な女なのだろう。
こんなの、友達失格だ。
「だから、考えて考えて考えて考えて……考え抜いて、辿り着いたんだ。……前に約束したこの2人きりのお出かけで、この気持ちを抱くのは最後にする……って」
「美結さん……」
「どんなに辛くても、自分を責め続けても……結局この気持ちは変わらなかった。だからこそ、この気持ちを振り切らせて、逆に諦めさせよう……って」
必死に自分を押さえつけた日々が、走馬灯のように蘇る。
結局、想いというのは思いつきでどうにか出来るものではなかったのだ。
だから、あたしは……。
「……だから、さ。悠さん。」
「……ああ」
「あたしの秘め続けたこの想い……聞いてくれますか?」
呼吸を整え、溢れ出す気持ちを言語化しながら、あたしは彼にそう尋ねる。
「大丈夫だよ。……覚悟は、できてる」
「そっ、か……。優しいんだね、悠さんは」
「そんなことはないよ。……結局、1人の女の子を泣かせてしまってるんだから」
――彼の言葉を聞き終わる前に、熱い雫が頬を伝う。
あ、れ……なん……で……?
「あ、あはは……ごめんね、悠さん。変な空気になっちゃって」
「そんなことは……」
「……あたし、さ」
「…………」
「言う時くらいは、いつもみたいに笑っていたいんだ」
笑顔とはかけ離れた表情のまま、彼に対して願いに似た思いを伝える。
「だから……さ」
「大丈夫。大丈夫だから……」
そう言って伸ばされた彼の手が、あたしには届かずにそのまま宙を彷徨う。
――慰めようとしたけど、ここで優しくするのはかえってあたしを傷つけるかもしれない。
悠さんのことだし、きっとそう考えているのだろうけど……まあなんとも悠さんの考えそうなことだ。
これだけ一緒に過ごしていれば……そんな彼の優しさくらい、言わなくても分かるってば。
「美結さんの想いは、ちゃんと受け止めるから」
「……ありがと、悠さん。……うん、もう大丈夫」
彼の優しさに対してバレバレの嘘をつきながらも、ゆっくりと覚悟を決める。
正直、こうしている今も、これ以上堪えることができない程に心が掻き乱されているのだ。
「……悠、さん」
「……ああ」
恐怖と緊張で唇が震え、絞り出された空気が辛うじて音を作り出す。
彼の名を呼ぶことすらままならないような、そんな極限状態に陥ってもなお。
あたしは、言葉を紡ぎ出す。
「……あたし、は――」
この先を言ったら、この関係が終わってしまう。
――叶わない恋という現実が。
――目を逸らしていた現実が。
あたしの心を、粉々に砕いてしまうのだろう。
……けれど。
「あたし、皆見美結は――」
それでもあたしは、嗚咽混じりの声を彼の元へと届け続ける。
「八坂悠さん。あなたのことが……」
昂る感情が理性を破壊し、とめどなく涙が溢れては消えていく。
あたしの中で美しく色づいている鮮やかな記憶――彼と過ごした日々のその全てが、あたしを突き動かしていく。
抑えられない。抑えたくない。
あたしの恋を、最後まで……。
だから、どうか。
この想いよ、どうか……彼の元へと届いて――
「初めて会ったあの日から……ずっとずっと、好きでした」
なんの捻りもない、在り来りで平凡なセリフ。
……けれど。
今のあたしを彼にぶつけるには、そんな陳腐な言葉だけでいいんだ。
いや、その単純な言葉こそが、あたしという人間を表しているのだ。
だから……これでいいんだ。
最後の1歩踏み出せた、小さな勇気。
その勇気を胸に抱き、あたしはおそるおそる彼の様子を伺う。
――夕日がその姿を地平線に吸い込まれ、辺り一面が夜の闇に包まれていく。
そんな中で、人に光を与えようと必死に足掻く街灯の光が、彼の複雑な表情を仄かに照らしていく。
あたしは、自分の都合で彼を困らせてしまった。
大好きな彼に、迷惑をかけてしまったのだ。
……………………。
……そんなことは、わかってる。
わかってる、はずなのに……。
そんなあたしの気持ちとは裏腹に。
心が、軽くなったような……そんな気がしたんだ。
というわけで、いかがだったでしょうか?
もうね、書いてる側としても美結ちゃんのこの恋が辛すぎて胃がキリキリしてました笑
次は悠君視点で返事を……というところですけど、最終章はとりあえず全部きついっす笑
表現的な話をすると、今回「街灯」の描写ありましたけど、あの表現の歪さから美結ちゃんの心情を読み解いていただければと思います!
「心が軽くなった」とか言ってるのにこの表現になっているのは察してください笑
まあとりあえず全体として美結ちゃんの心情と表現を頑張ってみたので、気づいてくれたら嬉しいですね~!
また、前回の話もたくさん読んでいただきありがとうございます!
もうUA増えるたびに嬉しくてやばいです笑
と、まああとがきもこれくらいで。
次の話も……というか最終章の話全部いつも以上に真剣に書いているため遅くなってしまうかもですが、気長に待っていただけたらと思います!精一杯頑張ります!
というわけで、また次の話も読んでいただければと思います!