湊君を攻略したい!   作:Kスケ

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皆さんお久しぶりです!前回の続きです!
今回は湊くんの決意の話なんですけど、同時に風莉の初恋に関する話でもあります。
本編のネタバレをガッツリ含んでいますが、そこは許してください笑
というか、前回の投稿から結構経ってしまいました……すみません。
ということで、まえがきはここまで!
今回の話もぜひ読んでいただければ幸いです~!


最終試験かざり

 

 

 

これは、美結と悠がデートしている時に起きた――ある2人の決意の話。

 

「――風莉さん」

 

理事長としての仕事を終わらせてゆっくりと部屋でくつろぐ彼女に対して、少し居住まいを正して話しかける。

今日は、七夕前日……つまり、悠さんが美結さんとデートをしている日だ。

正直、悠さんからその話を聞いた時はかなり複雑だったけど……美結さんのことも考えると、これで良かったのかもしれない。

だって、想いを伝えられないまま諦めるなんて……そんなの……っ。

 

「……どうしたの、湊?」

 

不思議そうに首を傾げながら、こちらの様子を伺うお嬢様。

危ない危ない、今は"僕たち"のことを考えないと……。

 

「そ、その……悠さんの、事で……相談したいことが、あるんです……っ」

 

深呼吸した上で言葉を詰まらせつつも、風莉さんに要件を伝える。

そうして僕は、表情を強ばらせながら続きを待つ彼女に対して、今抱えている悩みを打ち明けるのであった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 

 

 

 

「――そう」

 

湊の話を聞き終わり、傍に置いてあった紅茶を1口飲む。

そして同時に――私の恋心は、完全に崩れ落ちたのだった。

 

「つまり、あの一件で……彼のことが好きだと自覚してしまったのね?」

「……はい」

 

頬を赤く染めながらも、少し複雑な表情で――“初恋”の彼は頷く。

祝福したいという気持ちが膨らんでいくと同時に……ナイフで刺されたような痛みが、胸の中に拡がっていく。

あの時……諦めたはずなのに……。

 

「……でも、ボクは"男"なんです」

「…………」

「ボクは悠さんのことが好きです。この気持ちは……もう、どうしようも出来ません。ですが、ボクは……」

 

今にも泣き出してしまいそうなか細い声で、彼は自分の罪を告白する。

 

「……悠さんに、隠し事をしてるんです。……本当は、"男"だってことを」

 

ずっと我慢してきたであろう罪悪感が、彼の中から溢れていくのがわかる。

責任の一端は私にあるというのに……彼は、全て自分で背負ってしまったのだろう。

その思いを必死に隠して、彼と会っていたなんて……。

 

「本当は、今すぐこの気持ちを伝えたいんです……っ。それに、もしかしたら……悠さんも、ボクの気持ちを受け取ってくれるかもしれません……」

「…………」

「……ですが、それはボクの秘密を知らないから言えるんです……っ」

 

自身の取るべき選択に葛藤する思いが、一つ一つの言葉から痛いほどに伝わってくる。

 

「悠さんが、このことを知ったら……」

「湊……」

「悠さんは……ボクの、こと……っ」

 

最悪の結末を想像してしまい、怯えるような表情で彼は泣き出してしまった。

――八坂さんに想いを伝えたい。

けれど、彼に告白するには……本当の事――男であることを打ち明けなければならないのだ。

 

「ボクの……こと……っ」

 

……逃げようとすれば、その事実を伝えずに、彼に告白することだってできるはず。

だけど……そんなの八坂さんが可哀想だし、何より正義感の強い湊には不可能なことだ。

――八坂さんは、湊のことを愛している。

それは、最初の頃に告白してきたことからも……今までの態度からしても、間違いないと言える。

だからこそ、湊が彼のことを好きになった今――本来なら、祝福しているはずなのに……。

事態は、私たちの想像以上に複雑なものとなってしまった。

……湊の告白を受け入れるのか拒絶するのかは、彼にしかわからない。

けれど、最悪の場合……湊は、振られてしまうだけじゃなくて。

今まで騙していたことや、その在り方によって……拒絶されてしまうこともあるかもしれないのだ。

だからこそ、湊は……彼に軽蔑され、せっかく元に戻れたこの関係すらも消えてしまうのが怖くて、幼子のように怯えているのだろう。

 

「……そう、ね」

 

湊の悩みが分かり、一旦頭の中を整理する。

そうして、少し考えた末に自分の中の"答え"に辿り着くと……私は頬の力を弛めた。

 

「……確かに、本当のことを言ったら、八坂さんは驚くと思うわ。……それに、騙されていたことにも、ショックを受けると思うわ」

「――っ、やっぱり……」

「でも!」

 

今にも不安に押し潰されてしまいそうな彼の言葉を遮り、私はゆっくりとその続きを述べていく。

 

「彼は、あなたを非難したりしないし、あなたのその在り方を認めてくれると思うわ」

「――っ――」

 

「それに……」

 

目を大きく開き、"信じられない"と言わんばかりの表情を浮かべる彼に、安心させるように優しく微笑みかける。

 

「断言はできない……けれど」

「…………」

「私が見ていた限り、彼は……それくらいで湊を諦めるほど、簡単な人じゃないと思うわ」

 

彼と何度も会って感じてきたことを、そのまま湊に伝えていく。

だって、彼は……それくらい、湊のことが――。

 

「……なんで」

「……え?」

「なんで、そう言えるんですか……っ」

 

疑心暗鬼に陥ったままの泣いてる男の子に対して、優しい口調でその理由を告げる。

 

「だって、それは……」

「…………」

「私が見ている中で、彼ほど湊のことを大切に……一番に思っている人は、いないから……かしら」

 

話し終わると同時に、湊の顔がほんの少し赤くなる。

その表情は、未だ不安で怯えていたが……どこか少し嬉しそうな、そんな穏やかなものであった。

 

「で、でも……っ。悠さんが、本当にそう思ってくれているか分からないですし、その……」

「湊……」

 

それでも、一瞬のうちにその表情は再び暗くなり、彼の心を不安が巣食い始める。

確かに、不安になる気持ちは分かる。

けれど、このままじゃ……湊が幸せになれない。

だから……私は……。

 

「告白……したいんでしょう?自分の気持ち……伝えたいんでしょう?」

「それ、は……」

「……なら、逃げてはいけないと思うの」

 

目の前にいる恋する男の娘に、アドバイスするように自分の気持ちを告げる。

 

「想いが伝わっても、伝わらなくても……言葉にしなきゃ、ダメだと思うの」

「風莉、さん……?」

「想いを伝えずに後悔することだって、あるんだから……」

 

困惑する湊に対して、私自身が経験した想いをそのまま伝える。

私は……タイミングを失って、何も伝えられなかった。

だから、湊には……そんな思いして欲しくない。

 

「でも……最後は、湊が決めなきゃいけないわ」

「…………」

「正直、八坂さんがどういう反応をするかは分からないわ。それこそ、私が言った通りにならない可能性だって……無くはないのだと思う」

「……やっぱり……」

「――けれど」

 

私の言葉で、再び失意の底に沈んでいく湊。

でも、これだけは……これだけは、伝えなきゃいけないのだ。

 

「このまま本当の事を言わずに苦しみ続けるのは、湊だって辛いだろうし……私にも、耐えられない」

「風莉さん……」

「だって、私は……ただ、湊が幸せになって欲しいだけだから」

 

今までの感謝と己の信条を胸に、胸に秘めた願いを言い放つ。

このまま耐えるだけじゃ、湊の精神がすり減っていく一方なのだ。

だからこそ、あなたには……。

 

「だから……あなたが一番幸せになれる方向へ進んで欲しいの」

「……っ……」

「他の誰でもない……あなたの、ために……!」

 

そうして、私の話を聞き終わると……湊は深く頭を下げて、私に一言感謝の気持ちを述べた。

 

「……ありがとう、ございます……っ」

 

その言葉は、短くてありきたりであったけれど……深い思いの籠った、彼からの精一杯のお礼であった。

……………………。

……子供のように泣きじゃくる初恋の人の頭を、泣き止むようにと落ち着くようにとそっと撫でる。

そうして、私は彼が決断を下せるまで、彼の部屋で相談相手になるのであった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「――そう言えば、八坂さんとはどうなのかしら……?」

 

その日の夜。

2人きりの部屋の中、電気を消して眠りにつこうという時に、私は単刀直入にそう尋ねる。

……あの後、湊は少し落ち着いたようで、目元を赤くしながらも普段通りに家事を行ってくれた。

だからこそ、彼の中で決心がついたのだと思うのだけど……。

それはそれとして、少し彼について聞いておきたいのだ。

 

「そ、それは……お嬢様たちが来た時に話したじゃないですか……っ!」

 

窓の外の月明かりだけが照らす、仄暗い部屋の中。

その中でも、表情が思い浮かぶ程の慌てた声で彼はそう叫ぶ。

 

「あの時、全て話した訳では無いのでしょう?有耶無耶にしていることもあったし」

「うぐっ……そ、それは、そうですけど……」

 

どうやら図星だったようで、狼狽えながらどんどん声が小さくなっていく。

 

「教えて、湊」

「なんでですかっ!」

「じゃあ、お風呂のことでいいから」

「お、お風呂……ですか……っ!?」

 

予想外の質問に驚きを隠せないというのが、その強ばった声から伝わってくる。

光の加減でちょうど彼の顔が見れないのだけど……正直ちょっと見てみたい。

 

「だって、八坂さん1人で入れるような状態ではなかったのでしょう?だから、どうしていたのか気になって……」

「うぅ……す、少しだけ……ですよ?」

 

そう言うと、彼は恥ずかしそうに言葉を詰まらせながらも、ゆっくりと事の次第を包み隠さず話し始めた。

………………。

…………。

……。

 

「……2人とも、大胆……ね」

「だから言いたくなかったんですよぉ……っ!」

 

話を聞き終わり、最初に出てきた感想が……何よりもまずそれだった。

特に身体を洗う時の会話……あれは完全に恋人同士のもののような気がしたのだけど……。

これ……もう付き合ってるのよね……?

 

「で、でも……そうやって介護されて、彼も嬉しかったと思うわ」

「そう……なら、いいんですけど……」

 

私の言葉を聞いて、どこか少し嬉しそうに声を弾ませる湊。

"恋する乙女"って、こういうのを言うのかしら……。

 

「……まあ、こういう"人をお風呂に入れる"ってことをするのは2回目でしたし、前は女の子相手でしたけど……割と大変でしたね……」

「……ぇ……」

 

湊から放たれた突然の言葉に、全思考が停止する。

今、湊の口から何か大きな情報が出てきた気がするのだけど……?

 

「あ、ええと……昔あんな感じで、女の子にシャンプーをしてあげたなぁ……、と悠さんのお世話しながら思い出したんです」

「え……?ちょっと待って、湊」

「……?」

 

普段と違う私の反応に、慌ててその理由を付け足してくれたのだけど……今はもうそれどころじゃない。

もしかして、湊……。

 

「その話、って……」

「随分前の話ですけど……あの時は、女の子がおしっこを漏らしてて……とりあえず、家のお風呂に入れてあげたんです」

 

私の言葉をトリガーに、彼は懐かしそうに過去の思い出を語り始めた。

 

「そしたら、1人で洗えないらしくて、お風呂場でシャワーも浴びないでじっとしてたんですよ」

「…………」

「それで、ぼーっとしてたから、結局手伝うことになってしまって……は、恥ずかしかったんですけど……っ」

 

今の私を構成する最も大切な記憶が……"彼の口から"語られていく。

やっぱり、湊……あの時のこと、覚えて……っ。

 

「今思うと、懐かしいなぁ……」

 

遠い過去に思いを馳せるように、彼はボソリとそう呟く。

 

「あの子……元気にしてるのかな?」

「――っ!」

 

その言葉が聞こえた瞬間。

2人のために蓋をしていた想いが……壊れた蛇口のように一気に溢れ出した。

 

「(そう……覚えてたのね……)」

 

言葉では言い表せないくらいの喜びを噛み締めると同時に、胸がぎゅっと締め付けられる。

今すぐ……湊に伝えたい。

あの時の少女は、ここで幸せに暮らしてるんだって。

あの時の少女は、あなたに感謝しているんだって。

あの時の少女は、あなたに……恋をしてしまったんだって。

……けれど。

これを告げてしまったら……決心したはずの湊の気持ちが、鈍ってしまうかもしれない――

 

「(……いえ、そんな都合のいい話はないわ)」

 

隣で話す彼を一瞥し、自分の理想を否定する。

湊は、八坂さんのことを本気で好きになっている。

だから、この事実を告げたところで……彼の気持ちは変わらないだろう。

結局……私は振られてしまうのだ。

……………………。

けれど、彼の気持ちを掻き乱すことには変わりない。

だって、私に告白されたら……彼は困ってしまうだろう。

困って、悩んで、考えて……その上で私の告白を断って。

私の辛さを慮って……振ってしまった自分を責め続ける。

今まで一緒に暮らしてきたからこそ、その姿は容易に想像できるのだ。

……ならば。

こんな大切な時に……大好きな彼の邪魔をしたくない。

それだけは、してはいけないんだ。

だから、彼が湊を幸せにできるなら……私は……っ。

 

「そう……だったのね」

「そうなんですよ……って、風莉さんなんで泣いてるんですか!?」

 

突然湊に言われ、自分の頬を熱い液体が流れ落ちているのに気がつく。

自分で"言わなきゃ後悔する"って言っておきながら……結局、自分は言えないのね。

 

「……いい話ね」

「そういう話じゃありませんでしたよね!?」

「でも……」

 

薄いレースのカーテンから、青白い月の光が射し込む。

その淡い光に照らされた彼を見つめながら、私は最後の最後に想いを伝えることにした。

 

「その子もきっと……あなたに感謝していると思うわ」

「風莉さん……」

 

その言葉を聞いて、湊は少し驚くような表情を浮かべると……。

 

「もし、そうだったら……嬉しい、ですね」

 

そう言って、ふにゃりと顔をほころばせて笑った。

 

「……眠れないようですし、飲み物でも取ってきましょうか?」

「ええ……お願いするわ」

 

私に気を遣って起き上がった湊に対して、感謝の言葉を述べる。

そうして、"少し待っていてください"と言って、彼はゆっくりとドアを開けた。

……彼の姿が、次第に遠のいていく。

その背中は、遠く……そして、二度と届かない場所に行ってしまったことを物語っていた。

これで……良かったんだと思う。

未練はあるけど、それで湊が幸せになれるのなら……私は、これでいいの。

だから、この想いにも……別れを告げないと。

ありがとう。あの日からずっと、彼を好きでいさせてくれて。

──さよなら、私の初恋。

 

 

 




いかがだったでしょうか?
書いてるのに自分でも風莉のとこがきつくて辛かったので、皆さんもダメージを受けているのかな?とは思いますが……きつい笑
これで次からいよいよ湊くんが一歩先へと足を進めてしまうのですが……果たしてうまくいくのか……?
皆さんそのあたり楽しみにしていてください!
ということで、今回はここまで!
みなさんいつも読んでいただきありがとうございます!
また次の話も読んでいただければ幸いです!

………………。
…………。
……。
本当は、クリスマス湊くんが書きたかった……
イチャイチャさせたかった……
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