やっと湊くんの告白デートの話になりました笑
と言っても今回は前編ということで、次で告白になります!
なので今回は、純粋なデートなのですが……とりあえず最後のイチャイチャを楽しんでください!
拙い文章ですが、今回も最後まで読んでいただけると幸いです!
「――すぅ……はぁ……うん。よしっ」
ゆっくりと深呼吸をして、眼前に広がる美しい景色を目に焼き付ける。
――街を埋め尽くす数多の提灯が、色鮮やかにその身を輝かせながら風に揺れている。
――周囲から聞こえてくるカラフルな人の声が、世界を彩っていく。
――屋台から流れてくる"夏の香り"が、祭りに飢えた人々の鼻腔をくすぐる。
いつも暮らしている街の日常が、非日常に染められていく――
そんな、七夕祭り当日の夜。
俺は1人……これから来るはずの"待ち人"の姿が現れるのを待っていた。
「なんか、懐かしいなぁ……こういうの」
ボソリとそう呟きながら、彼女と出会ってからの日々を振り返る。
「確か、初デートの時もこんな感じだったな」
そう言って、背後に建てられた校門を眺めながら、あの日のことを思い起こす。
あの日も――今日と同じように、この鈴女の校門前で待っていた。
前を歩く人達に注目されるのを、とにかく必死に堪えて。
連日夜更かしして決めたデートコースを、忘れぬようにと確認して。
それで、早く着きすぎたのではと思い始めた時に彼女が現れて……。
「(……いや、それだけじゃない)」
それでいて、確かあの時……。
俺は、初めて見る彼女の私服姿に感動して――
「――悠さん」
突如聞こえた美しい声に惹かれ、思い出から現実に引き戻される。
今の、声は……。
「待たせちゃいましたか……?」
「い、いや……俺も来たばかりだから、大丈夫……だ、よ……」
声をした方を振り返り、その言葉に返事を返す。
しかし……。
自然と紡いだ俺の言葉は……最後まで聞こえることなく、周囲の音に吸い込まれていった。
「……っ……」
薄紫の朝顔の花が描かれた、真っ白な美しい浴衣。
裾から除く彼女の白く細い足を彩る、紫の鼻緒。
そして……。
「湊、さん……」
彼女の艶やかな髪に添えられた、桜色の髪飾り。
それらが合わさり、彼女の元々の綺麗な容姿も相まって……彼女の美しさを際立たせていた。
……そう。
まるで、世界から隔絶されたような……そんな孤高の美しさを、彼女の姿に覚えたんだ。
「……悠さん」
彼女の不安に満ちた瞳が、俺1人に向けられる。
こんな贅沢があっていいのか。
俺だけがこんな思いをしていいのか。
「(……いや、いいんだ)」
自分を安心させるように、そっと深呼吸をする。
だって、俺は……湊さんの……。
「……似合って、ますかね……?」
彼女の口から零れた問いに対して、俺の中の全ての語彙力を総動員させて、返事を考える。
…………。
………。
……。
……けれど。
俺の口から放たれた言葉は……。
「ああ……とても、似合っているよ」
「……えへへ」
そんな、すぐに思い浮かぶほど単純で。
聞き飽きてしまうほど陳腐で。
面白みのない平凡な台詞。
……だけど。
最も――気持ちの伝わる言葉を。
俺は、彼女に伝えたのだった。
「そ、それじゃあ……」
左手で頬を掻きながら、右手をそっと差し出す。
……少し、大胆すぎたかな。
「悠さん……」
「……ほ、ほらっ、七夕祭りじゃみんないるだろうし、俺達が恋人っぽいことしてないと、怪しまれちゃうかも……って」
「……そ、そうですよねっ!……怪しまれちゃいますよね」
俺の苦し紛れの言い訳を聞き、彼女はそっと顔を下に向ける。
その様子を見て、俺は自分の失敗を反省しようとした……けれど。
「……えへへ。悠さんの手、大きいですね」
そっと俺の手を握る彼女の顔は……心なしか、赤らんでいるように見えた。
「……じゃあ、行きましょうか」
「あ、ああ……行こうか」
バクバクと高鳴る心臓を抑えながら、できるだけクールに返事をする。
――なぜ彼女は、緊張せずにこういうことが出来るのだろうか。
――なぜ彼女は、平常心を保っていられるのだろうか。
そんな問いが、頭の中に浮かんでくる。
……けれど。
そんな不安に満ちた疑問は――すぐに間違いだったと気がついた。
「(湊さん……)」
歩き出そうとして、重ねられた小さな手をそっと握り返す。
そうして、握り返した彼女の華奢な左手は……。
彼女の明るい表情とは裏腹に――小さく、震えていたんだ。
「…………」
「悠さん……?」
「あ、ああ……ごめん。……行こうか」
緊張で押し潰されそうになりながらも、彼女は表情一つ変えずに俺の手を引いていく。
やっぱり、湊さんは強いな……。
そう思いながらも、その弱くか細い手を、安心させるようにと強く握り締める。
いくら強いからといっても、彼女は常に強く在るわけではない。
だから、俺が……湊さんを支えないと。
緊張感を気合いで吹き飛ばし、彼女と2人で夜の街を往く。
そうして俺たちは、提灯と星空に彩られた幻想的な世界へと消えていくのであった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――それから俺たちは、色んな屋台を見て回った。
射的や輪投げを楽しんだり、チョコバナナに焼きそばを食べたり……など。
一つ一つ、楽しい思い出を作り上げていったのだ。
……けれど。
「……悠、さん」
「ん?どうしたの?」
彼女は突然足を止めると、少し俯いたまま何かを告げようと口を動かす。
「その……ですね」
「…………?」
「昨日、美結さんから……"告白"されましたか?」
「――っ――」
あまりに唐突な質問に、一瞬頭が真っ白になる。
……けれど。
「(……やっぱり、な)」
正直な話、美結さんと出掛けると告げた日から予想はしていた。
俺自身は"決着をつけてくる"と言ったけど……それはつまり、美結さんから告白される可能性があったということだ。
……まあそもそも、2人で出掛けようと言われた時点でその可能性しかないのだが。
いずれにせよ、あの時湊さんは"俺が美結さんに告白される"という状況を想定していたはずだ。
だからこの質問は、当然のものではあるのだけど……。
「そ、それは……」
「……その反応を見れば、わかりますよ」
「うぐっ……」
「もうっ……どれだけ一緒にいたと思ってるんですか?」
物の見事に見透かされ、湊さんに頬を膨らませながら抗議される。
けれど、その口調は優しく……ってか、とんでもなく恥ずかしい発言をぶち込んできた気がするんだけど……?
彼女に言われたら嬉しい言葉ランキングTOP10(八坂悠調べ)に入るくらいじゃないかこれ……?
「それで……どうだったんですか?」
そんな別の意味で心臓バクバクになる俺にはお構い無しに、彼女は事の顛末を知りたいと前のめりに尋ねてくる。
なんというか、言い難い……けど。
隠し事はなしって決めた以上、腹を決めるしかねぇか。
「俺は……さ」
ゆっくりと息を吸って、その続きを述べていく。
「"好きな人がいるから"って言って……断ろうとしたんだ」
「……ぁ……」
「けど……さ」
湊さんに話しながら、昨日のことが鮮明に"思い出される"。
……いや、違う。
"思い出してしまうんだ"。
――それはまるで、消せない傷跡のように。
――深く強く、奥底に刻まれた記憶が。
「(俺、は……)」
……そうだ。
俺は結局――伝えられなかったんだ。
「俺が言おう言おうと覚悟を決めてる最中に……怖くなっちゃったらしくて、さ」
「……ぇ……」
「俺は何も言えずに……美結さんの後ろ姿を見ることしか出来なかったんだ」
湊さんは目を見開いて驚いているが……それでも、俺は言葉を紡ぐ。
……本当は、彼女を引き留めたかった。
気持ちを伝え、たとえ彼女の決死の想いに応えられなくても、せめてケジメをつけるという形で報いたかった。
だけど……。
――あの時見送った彼女の背中が、瞼の裏に焼き付いて離れない。
これこそが、俺が背負ってくべきものなのだろう。
「ほんと、そういうのは早く決断してあげた方がいいってのは分かってたのにな……」
あの時から絶えず浮かび続ける後悔が、ぽつりと零れ落ちる。
「……感じちまったんだ。これが……誰かを選ぶことの"重さ"なんだ、って」
言葉にできない思いが、仮の形を得てそっと放たれる。
だから、俺は……。
「そう……だったんですね」
「……ああ。だから、返事は言えずじまいって感じなんだ」
複雑な面持ちの彼女に対して、安心させるようにと笑顔を作る。
あーあ……こういうのが上手ければ良かったんだけどな。
「……悠さんは、悪くありません……っ」
「でも、結局突き詰めてしまえば俺の責任だし……」
「――それでもっ!」
俺の言葉を遮るように、彼女は力強く訴える。
「悠さんは、やれる事をやったんですよ。逃げもせずに、自分の気持ちを伝えようとしたんですよ」
「…………」
「だったら……少しは自分を許しても、いいんじゃないですか?」
彼女の言葉が、俺の胸の奥底へと……深く深く突き刺さる。
……正直なところ、今もずっと自分を許せないままでいる。
あの時、もう少し早く結論を出せれば。
あの時、美結さんとの関係が崩れることを少しでも恐れなければ。
彼女に、あんな思いをさせなくて済んだのに……と。
……けれど。
「(……そっ、か)」
湊さんは、それでも"自分を許してもいい"と言ってくれた。
後悔で押し潰されそうな俺を、どうにか救おうとしてくれているのだ。
ならば……俺は……。
少しは……自分を許してもいい、のかな。
「……湊さん、ありがとう」
「いえいえ……まあ、いつも悠さんはそういうところで自分を責めようとしますからね」
「……うぐっ……!」
「……でも」
祭りの熱を冷ますかのような夜風が、連なった提灯を揺らす。
「美結さんの判断は……正解だったのかもしれませんね」
「……え?」
その言葉の意味がわからず、思わず間の抜けた声で聞き返してしまった。
今、なんて……?
「あ、あれやりたいですっ!」
そう言うと、彼女はヨーヨー釣りの屋台を指差して、俺の服をぎゅっと引っ張る。
「え、あ、今の……」
「行きましょう、悠さんっ!」
俺の言葉を聞いてか否か。
彼女は俺の手を引くと、屋台に向かって駆け出すのだった。
……ということで、結局話を逸らされてしまったわけなのだが。
まさか、この言葉の真意をこの後すぐに知ることになるなんて。
この時の俺には、まだ知る由もなかったんだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「お、初々しいカップルじゃねぇか」
「「……っ……」」
そうして、俺たち2人は彼女の手に引かれるままに屋台に着いたわけなのだが……。
慣れたはずの今更ながらのからかいに、2人揃って顔を真っ赤にして緊張してしまうのだった。
「ふ、2人分で……」
「あいよっ!兄ちゃんも嬢ちゃんも、好きなの取ってってくんな!」
おじさんから"こより"――紙でできた釣竿みたいなもの――を2つ渡され、目の前の子供用のビニールプールの前に座り込む。
赤、青、黄、緑、紫、橙……数え切れないほどのカラフルな水風船が、小さな世界の水面に揺らめいている。
そのどれもが提灯の薄明かりを反射して仄かに煌めいており、その幻想的な景色に思わず声が漏れた。
「頑張りましょう、悠さん!」
「おし!ちゃんと取るぞー!」
隣で気合いを入れる彼女と並んで、ギュッと拳に力を込める。
恥ずかしいとこだけは見られないようにしないと……!
「どれにしようかな……」
空いているもう片方の手で色々なヨーヨーを指差しながら、彼女はゆっくりと標的を選んでいく。
「そうですね……ボクはあれにします!」
「じゃあ……俺はあれかな」
湊さんらしい紫色のやつを横目に、俺は透明なやつに狙いを定める。
「うーん……難しいですね……」
「あ、取れた」
「早っ!?」
……と、失敗しないようにと緊張していた割にはすんなりと取れてしまい、自分でも拍子抜けしてしまった。
「お!あとは嬢ちゃんだけか」
「うぅ……ボクもぉ……!」
俺に先を越されたのがショックだったのか、彼女は小さく握り拳を作ると、思い切って紫色のヨーヨーに"こより"を近づけていく。
そして――
「……あ、取れました!悠さん取れましたよ!」
紫色のヨーヨーを釣り上げ、彼女は嬉しそうにガッツポーズをとる。
そうして、あまりの嬉しさに立ち上がろうとした瞬間――
「わわっ……!」
湊さんは、後ろを歩いていた人とぶつかってしまい……そのまま俺の胸元へと飛び込んでくるのだった。
「湊、さん……?」
一瞬感じた少しの痛みを堪えながら、俺の胸に顔をうずめる彼女に声をかける。
あまりに一瞬の出来事で、俺はしゃがんだままだったけれど……運良くどうにか受け止めることができた。
……のだが。
「(これ、は……)」
目の前にある彼女の顔から、そっと視線を逸らす。
……そう。
"受け止めることができた"、それ自体は良かったのだ……が。
――外れかけた理性を、どうにかして抑え込む。
その結果として……俺は、湊さんに押し倒される形となってしまったのだ。
「うぅ……ごめんなさい、悠さん……」
覗き込むような上目遣いで、彼女は申し訳なさそうに謝ってくる。
けれど、無慈悲にも……それは"逆効果"となってしまっているのだ。
「(俺の心臓がもたねぇ……っ!)」
なにしろ、今の彼女は……俺の右足に跨って胸に飛び込んでくるような姿勢だ。
つまり、何が言いたいかと言うと――尋常じゃないくらいに顔が近いのだ。
あと少ししたら、互いの口がぶつかってしまうくらい近いのだ。
……俺の理性、保つかな……?
「……あれ、なんか……?」
そんな現実逃避をしている最中、右の太ももに何か硬いものが当たったのを感じる。
そうして、その異物が気になって右足を少し動かす……と。
――もにゅっ。
「んんっ……ぁ……っ!」
「――え?」
突然聞こえた謎の声に、頭の中がパニック状態に陥る。
今の声は、一体……?
そうして、困惑する頭をフル動員させると……ある一つの答えにたどり着いた。
「(今の……喘ぎ声、だよな……?)」
あまりに扇情的な声に俺の思考は撹乱されてしまい、先程まで考えていた"硬いもの"のことが、次第に頭の片隅に追いやられていく。
……いや、それよりも今の声だ。
今のは、一体……?
「み、湊さん?今の、って……」
「んっ……ふぅ、ふぅ……っ、す、すみませんっ!今退きますから!」
そう言うと、彼女は目をぐるぐると回しながらも、俺の体から一瞬で離れてしまった。
正直、もう少し堪能したかった気もするが……起き上がってしまった俺の息子を隠すのには、今がちょうど良かったのかもしれない。
「湊さん……?」
「す、すみません……っ!お恥ずかしいところを……」
離れてからも謝り続ける湊さんに対して、安心させるようにと言葉を述べていく。
「あ、いや、それは大丈夫なんだけど……」
その次の言葉を言おうとして……そっと口を閉じる。
これは……素直に言っていいのか?
言うかどうかという躊躇いが、頭の中で回り続ける。
……けれど。
「(……いや、ここで止まっていても仕方ないか)」
永遠のような一瞬の逡巡を乗り越え、覚悟を決めて踏み込んでいく。
背に腹はかえられないが、ここは素直に聞くしか――
「今の、"声"って……」
「………〜〜〜ッッ!き、気にしにゃいでください……っ!」
思いっきり噛みながら、顔を赤くしてテンパりまくる湊さん。
先程聞こえた艶やかな声とは違って、それはとても可愛らしい幼い声なのだが……うん。これもいいな。
……これ以上、考えるのはやめよう。
てか、これ以上言うのもやめておこう。
このままじゃ湊さんがやばくなりそうだし。
ぶっちゃけ……俺も、やばい。
「つ、次の屋台……行こっか?」
「は、はい……お願い、します……」
強引に話を逸らした後、転ばないように注意しながら、彼女の手を握って立ち上がる。
「おじさん、ありがとうございました」
「おうよ!」
「あ、ありがとうございました……!」
お互いに取れたヨーヨーを指に付けながら、おじさんに礼を言って祭りの喧騒の中へと歩き出す。
「あ、ところで兄ちゃん」
……と、歩き出した途端、湊さんに聞こえないほどの声でおじさんから声を掛けられた。
「どうしたんですか?」
「いや、どうってこたァねぇんだが……今日はちゃんと、"満足"させてやれよ?」
「――っ、そ、それは!?」
「まあ若ぇし、大丈夫か!嬢ちゃんのこと幸せにしてやれよ!」
おじさんからの言葉で恥ずかしくなり、思わず言い返そうとした瞬間……ドンと背中を叩かれ湊さんの所へと押し出される。
そうして気持ちの整理がつかないまま、俺はありがとうと述べて、少し先で不思議そうな顔をして待つ彼女の所へと戻るのだった。
「悠さん、どうかしたんですか?」
「ああ、いや……」
さっきとは打って変わって平気そうな顔で、彼女は俺の顔を下から覗き込んでくる。
そういう動きの一つ一つが俺にとって致命傷なんだが……まあ、いいか。
とりあえず、今の話聞かれてなくてよかった……。
「んー……内緒、かな」
「え、なんでですか!?もう……っ!」
そう言って叩いてくる湊さんを軽くあしらいながら、お祭りデートを再開する。
……と、口では軽く言っているが、この時既に俺の心臓は破裂寸前なくらいにバクバクと高鳴っていた。
――だからこそ。
彼女の示した最後のヒント――右の腿に当たった"硬いもの"――のことは、俺の記憶から完全に抜け落ちてしまっていたんだ。
いかがだったでしょうか?
湊くんが色々と可愛くて尊死していたのですが、皆さんもそうなっていたらありがたいですね笑
ということで次の話が告白になるわけですが……正直ここで色々と言うとネタバレになってしまうから黙っておきます笑
まあそれでも一つ言えるのは、「湊くんは頑張った」ということだけですね……。
と、それは置いといて……
累計UAが4万超えました!!!
めちゃくちゃ驚いていますが、本当にありがとうございます。
まさかここまで来るとは思わず、嬉しさで装填しそうですが……昇天するのは完結したらにしておきます笑
自分なんかのこんな拙い上に業の深い話がまさかここまで読んでもらえるとは……最初のころには考えられなかったですね。
もう感謝しかありません!
……ということで、あとがきはここまで!
また次回も読んでいただければと思います。