湊くんと悠君の関係が全開で大きく動きましたが、今回も色々と起こります笑
というか何より前回のあとがきで言ってたあのシーンを書いたので、楽しみにしていてください!
直接的な表現を避けて避けて最後に答え合わせみたいに明示しているんで分かりにくいかもしれませんが、その文章めちゃくちゃ頑張ったので、今回は地の文に注目していただけると幸いです~!
というわけで、今回の話も最後まで読んでいただければと思います!笑
――薄々、こうなるんじゃないかとは思っていた。
なんというか、そんな予感がしていたんだ。
と言っても、別に自惚れている訳では無い。
では、なぜなのか?
それは……これからも"男"だということを隠しておけばよかったのに、今更湊さんがその事実を告げたからだ。
「(もう、わかんねぇよ……)」
情報過多で痺れた脳を無理やり動かし、自分の頭を整理する。
普通に考えれば、その事実を伏せたままでいたところで、いつも通り問題なかったはずだ。
罪悪感……に関しては当事者ではないから分からないが、それさえ我慢すればそのままの関係を続けていられただろう。
けれど……湊さんはそうしなかった。
俺との関係に、正面から向き合おうとしたのだ。
……だからこそ、俺はそこで悟ってしまったのだ。
そして――
「……あなたのことが……好き、なんです……っ!」
案の定、俺は……もう1つの隠し事について、"彼"の口から告白されたのだった。
「湊さん、それって……」
「悠さんじゃなきゃ、ダメなんです……っ!」
衝撃のセリフラッシュに、またしても思考が停止する。
ここまで言われると、いつもの俺であれば理性が暴走しそうではあるけど……今は脳が麻痺しているせいで、その心配はなくなっていた。
「……悠、さん……ボクだけを、見て……っ」
続けて放たれた確殺の一言に、思わず感情を掻き乱される。
普通、好きな人からそんなこと言われたら大変なことになるが……正直、状況が状況だから、別の意味で大変なことになっている。
"複雑"ってレベルじゃねぇんだけど……っ。
「……ご、ごめんなさいっ!ボク、つい……」
そう言うと、湊さんは下を向いて狼狽えながら、ハッとしたように口元を手で隠す。
状況から察するに、湊さんは自分でも予想外のことを口走ってしまい、動揺を隠せなくなっているのだろう。
そうして、ものの数秒も経たないうちに、彼は……気づけば、完全に泣き出しそうになっていた。
「(……………………)」
……正直な話、湊さんが男だということは、一応理解した。
それに、この様子だと……きっと、俺を騙そうとか弄んで楽しもうとかそういう目的で偽っていた訳では無いのだろう。
だったら……と、もしこの場に他の人がいれば、そう思うかもしれない。
「ゆ、悠、さん……?」
……けれど。
そんな思い切りの良い判断は……今の俺じゃできない。
男から告白されたことなんてないし、どう返せばいいのかなんて分からない。
もしもこれを承諾してしまったら、俺はどうなるんだ……?
「(あー……ダメだな、完全に)」
いつも以上にテンパっているという実感が湧き、心の中で頭を抱える。
そう……こう考えてしまっている時点で、俺は世間や家族……周囲の目を気にしてしまっているのだろう。
情けねぇよ……最悪じゃねぇか、俺。
眼前に迫る現実に気圧された自分が、吐き気を催すほど嫌になる。
けれどもう、どの判断が正しいのか……今の俺には分からない。
「(なんでだよ……なんで……っ!)」
内に向けた怒りの炎が、自らを燃やし殺していく。
というか、そもそも冷静さを欠けているのが問題なのだ。
今より少しでも落ち着いて考えることが出来ていれば、俺は……。
そんなIfの可能性を夢想し……頭を振ってその幻想を振り払う。
だけど、言い訳にしかならないが、男だと打ち明けられただけで脳がバグってるのに、その上に告白までされてしまったのだ。
しかも、今その返事をしないといけないということもあり、頭がぐちゃぐちゃで訳が分からない。
「俺は……」
またしても、そんな弱音しか吐けない自分が嫌になり、湊さんの顔が見れなくなる。
こんな俺を、好きだと言ってくれたのに……。
それなのに、俺は……。
「俺、は……っ」
――と。
そう言いかけた途端、ベンチに置いた震える手の上に、湊さんの手が重ねられる。
「……どう、足掻いても」
「……え?」
いきなりのことに思考が停止し、わけも分からず彼の方に視線を向ける。
これは、一体……。
「これで、ボク達の関係は……元には、戻れません」
そうして放たれた言葉の重みに、心が押し潰されそうになる。
けれど、湊さんもきっと、同じ苦しみを味わっているのだろう。
「そんなこと、分かってるんです……分かってたんです……っ」
「湊、さん……」
続けて零れ落ちた後悔の言葉が、胸に深く鋭く突き刺さっていく。
湊さんは、この思いを背負ってまで、俺に告白してくれたのだ。
そんなの……想像しただけでも、胸が痛いほどに苦しくなってくる。
「でも……でも……っ」
「――っ――」
偽りの恋人として、共に時を過ごした友として……彼/彼女を慰めてあげたい。
いつものように抱き寄せて、頭を撫でて安心させてあげたい。
けれど……いくらそう考えても、今の俺に湊さんに何かしてあげる資格は……ないんだ。
「ごめんなさい、悠さん……」
自分の無力感に絶望し、再び彼から視線を逸らす。
返事が出せないからこうなっているのに……そうだとわかっているのに……それでも、様々なしがらみが俺の決断を邪魔する。
「こんなこと、言われても……悠さんを苦しめるだけ、ですよね……」
「そんな、ことは……」
言いかけた言葉を……そっと胸の奥へと飲み込んでいく。
ここでどんなことを言おうとも……彼に返事を出さない限り、互いに苦しむだけなのだ。
湊さん……君の好きな男は、そんな決断すら下せない男なんだよ。
なのに、なんで……君は……。
「だから……"最後"に……」
「……え……」
突然放たれた"最後"という言葉に、全身が強ばっていくのを感じる。
そうして頭に疑問符を浮かべたまま、次の言葉に備えて身構える。
「これ以上、ないくらいの……忘れられないような、思い出を……っ」
湊さんの言葉に連れて、周囲の音が次第に小さくなっていく。
それはまるで、嵐の前の静けさのような……そんな、不思議な現象であった。
「思い出を、くださいっ――」
そう言うと、湊さんは身を乗り出して――
「――――」
その時――世界が、停止した。
最初に音が消え、感覚が消え、そして……全ては白く包まれた。
薄らと見える視界の先に、電車が通っているのが見える。
けれども……そこに音はなく。
ただ電車がそこにあるという情報だけが、頭の中に刻まれた。
――そうして、何分経ったのだろうか。
何十分か何時間か、もしくはそれ以上か。
はたまた、ほんの数秒なのか。
そんな、須臾と永劫の相反する時の流れを、この身に感じる。
……けれど。
その刻は、長くは続かなかった。
次の瞬間、五月蠅いくらいの電車の音が、耳の中で暴れ回る。
意識をかき消すほどの勢いで鳴り響くそれは、別の意味で周囲の音でかき消すほどの……猛々しいものであった。
……………………。
再び訪れた……1、2秒の静寂。
けれども、その一瞬だけでは……自分の身に何が起きたのか、理解することは出来なかった。
……そうして。
次第に離れていく湊さんの姿を捉えたまま、2、3度瞬きをする。
すると……遠くの方から、再び祭りの音が聞こえてくるのだった。
「――ご、ごめんなさい……っ」
「…………」
"感触"の残る唇に、そっと手を伸ばす。
初めて感じた……生暖かい感触。
それは、この世のものとは思えないほど柔らかく、触れれば消えてしまいそうな……そんな儚い感触であった。
「か、勝手に……こんなこと、して……」
周囲にはまだ、甘い匂いが漂っている。
男を誘惑する……甘くて、妖艶な蜜の香りが。
「迷惑、でしたよね……」
「あ、いや……」
脳内にかかった靄が消え始め、次第に理解が追いついていく。
俺は……湊さんに……。
「……返事は……また、今度でいいですから」
そう言っていきなり立ち去ろうとする湊さんに、咄嗟に声をかける。
「……ぁ……み、湊さん……1人じゃ、危ない……」
「そこの大通りを通ったら、すぐ……ですから」
動き始めたばかりの頭を使い、決死の思いで言葉を紡ぐ。
そんな、文にすらならないような拙い言葉の羅列は……果たして、彼女を引き止めるためのものだったのか。
それは……俺自身であろうと、分からない。
……けれども。
湊さんを心配して放たれた言葉は……俯いたままの湊さんに、苦しそうな声で軽くあしらわれてしまったのだった。
「だから……だから……ぁ……っ」
ポタリ、ポタリ――と。
夜の闇で見えにくい足元の地面の上に、確かな水の跡ができていく。
「湊、さん……?」
そうしてできた大きな影は……今の彼の表情を理解させるには、十分過ぎるものであった。
「ご、ごめんなさいッ……!」
俺が様子を察したのを知ってか知らずか、湊さんはそう言うと下駄を履いたまま走り出す。
「……っ、湊さん……!」
咄嗟に伸ばされた手が――何も得られず虚空を切る。
掴もうとした細い腕が――俺の元から離れていく。
そうして、湊さんは……夜の静寂の先にある――大通りの人混みの中へと消えていくのであった。
「…………」
彼の去っていった方を眺めながら、一人感傷に浸る。
――止められなかった。
――止めることができなかった。
それは、物理的な問題ではなく……精神的な問題によるもの。
あと少しで届くはずなのに……俺はその手を伸ばせなかった。
そう、それはあまりに単純で……あまりに陳腐な問題。
引き止めたところで何を言うのか……悩んでしまったのだ。
「(あぁ……)」
本当は、こういう時にビシッと決断できる方が良いのだろう。
そうすれば、湊さんにあんな思いをさせないで済んだのかもしれない。
けれど……俺はそんなに頭の回転がいいほうじゃない。
だからこそ、躊躇ってしまったのだ。
そして同時に、考えてしまったのだ。
決意もなくただ引き止めるだけでは……かえって湊さんを傷つけてしまうのではないか、と。
「また、だ……」
この脳内のやり取りに既視感を感じ、はぁとため息をつく。
結局、同じじゃないか……美結さんの、時と。
俺が……先延ばしにしてしまったんだ……。
「湊、さん……」
去っていく後ろ姿を思い出しながら、熱の冷めた口元をそっと手で押さえる。
――湊さんの温もりは、もう既に無くなった。
――湊さんの香りは、もう既に消え去った。
けれども、その感触だけは……俺を縛り付けるかのように、今もまだ残り続けていた。
初めてのキスは――涙混じりで、少ししょっぱかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
歩く。
歩く、歩く。
静寂に包まれた夜の街を、呆然としたまま歩き続ける。
気がつけば、周囲の家の明かりも消えており、あれほど賑やかだった祭りの喧騒も嘘のように消えていた。
あれから一体どれほどの時間、こうして歩いてるのだろう。
ふと疑問に思い、力の抜けた手を辛うじて動かし、スマホの画面をちらりと見る。
「(時刻は――そう、か)」
電子画面に表示された針……ではなく、その隣の日付が全てを伝えてくれた。
7月8日……つまり、気がつけば"今日"は"明日"になっていた。
ならば、当たり前だが……さっきのことも、"昨日のこと"になってしまうのか。
時の流れの無情さが、傷心の身に深く染み渡る。
いや、それよりもあれだ。
俺は、2時間……いや、3時間以上歩いていたのか。
「ほん、と……」
自分でも自分が馬鹿らしくなり、不意に現れた黒猫に視線を向ける。
闇に溶け込んでいながらも甲高い声でニャーと鳴くそれは、さながら夜の番人と呼ぶべき風格を纏っていた。
と、再び動き出した黒猫を追いかけて、屋根の上を見上げる。
「(あぁ……)」
あまりの美しさに、思わず声が漏れそうになる。
辺り一面に広がる――星々の楽園。
……そう。
まるで、プラネタリウムのような光の海が……頭上の世界に広がっていた。
それは、あまり近くに街灯の光がないせいなのか。
その景色は、いつも見るようなものとは異なり……とても幻想的な空間を創り上げていた。
「何やってんだろうなぁ……俺」
そんな幻想的な世界に包まれながら、自分の醜さが際立っていくのを感じる。
もう、ダメだ。
帰ろう。帰ってしまおう。
帰って……帰って……。
……………………。
帰っても、彼女――彼はもう来ないのだろう。
それは、LINGという文明の利器が……最後の手段になり得てしまうからだ。
まさか、心待ちにしていた湊さんとのトーク画面が……これ程までに、複雑なものになるとは。
ため息をついて、一際輝く3つの星のうち、2つの星に目を向ける。
星空に浮かぶその夫婦の星は……夜空を流れる光の大河によって、再び引き裂かれてしまっていたのだった。
いかがだったでしょうか?
はい、キスシーンでしたということだったんですけれども、この文章に結構な時間取られました……笑
他にも、悠君の心情とか結構頑張ったんですけど、特に一番最後のところはこだわりました。
もう七夕でやるなら絶対この描写入れるって決めていた織姫と彦星の話ですが、湊くんたちは一度離れ離れになっていて再び再開(和解)してからのこの七夕祭りとなっているわけで、いってしまえば元の伝承を思いっきりプロットに入れたままこの話書いてます笑
まあ、なのでやりたかったことの一つを達成できたので、今幸せです笑
ということで、今回も長々とあとがきを書いてしまいましたが……すみません笑
前回も見てくださった方、感想くださった方、評価してくださった方、ありがとうございます!!!
毎回次の話を書くための原動力になるので、本当に嬉しいです!!!笑
次回予告?かもしれませんが、次は逃げた湊くん視点やります!!!
そのままいけたらお嬢様たちの視点まで行きたいですが、ダメだったら次にします笑
ということで、また次回も読んでいただければ幸いです~!