前回は湊くんの未練の話でしたが、今回は周りの人たちの話です~
風莉お嬢様や美結ちゃんの心境が分かるような話となっていますので、いつもと少し違った感じになっていると思います(多分)
とりあえず、まえがきはここまで!
今週もぜひ最後まで読んでいただければ幸いです!
「――湊さん、どうしたんでしょうね……?」
七夕祭りの日から数日後。
最近感じた湊の異変が、確信へと変わりつつあったその日の朝。
私たち3人は、1人欠けた状態で朝食をとっていた。
「なんか、七夕祭りの日から元気ないのだ」
「そうですね……何かあったとすれば、その日でしょうけど……」
向かいの席でそう話す2人と共に、ぽっかりと空いた空席に視線を移す。
あの日以降、湊は朝ご飯を作って皆を起こすと、1人で学園へ向かってしまうのだ。
もちろん、仲が悪くなった訳では無い。
だけど、学園では話すことはできるけど……常に、貼り付けたようなぎこちない笑みを浮かべているのだ。
「お姉様……心配なのだ……」
箸を止め、心配そうに空席を見つめる彼女の気持ちが、痛いくらいに伝わってくる。
正直、湊の異変には……みんな薄々気づいていた。
これは私達だけではなく、皆見さんや七海先生、クラスや学園の大半の人が気づいていたことだ。
だからこそ、早く元に戻って欲しい。
元の元気でみんなを気遣ってくれる、幸せそうな湊に――
「抱え込んでいるなら、迷わず相談して欲しいんですけどね……」
ふと放たれた柚子の一言が、私の心に深く突き刺さる。
……そうなのだ。
湊は、同じ部屋で過ごしているはずなのに……私にすら、言ってくれないのだ。
「(どうしてなの、湊……)」
だからそれが、私の心にずっと引っかかっている。
どうして……どうして……。
「風莉センパイは、何か知ってるのだ?」
彼女の純粋な瞳が、毒となって私を襲う。
「……いえ、何も教えてもらえてないわ」
「同じ部屋の風莉さんですら知らないとなると……流石に心配ですね」
同情に似た視線が、2人から向けられる。
けれど、それ以上踏み込もうとしない2人の気遣いが……今の私には、嬉しかった。
「もしかして……デートで、何かあったのだ?」
「それは……」
「確かに、ちょうど湊さんがデートに行った日から、様子が変ですもんね」
やはり、そうなのだ。
結局、"私が背中を押してしまった"あのデート以降、湊はこうなってしまったのだ。
「……でも、円卓の騎士が何かするとは思えないのだ」
「そうですね……八坂さん自体優しい人ですし、2人とも仲直りしてから凄く幸せそうでしたから……」
多分きっと、八坂さんは何もしていないと思う。
……けれど。
"何もしていない"からこそ……このようなことになってしまったのだろう。
「もしかして……また、喧嘩しちゃったのだ……?」
「そ、そんな……!2人ともまだ仲直りしたばかりですし、そんなことは……」
「――あるかも、しれないわ」
2人にそんなこと言えるはずもなく、近しい理由に賛同する。
今回のことは、喧嘩では無いのだろうけど……きっと、それに近い雰囲気を纏っているのだろう。
「な、なんで……そんな……はっ!?もしかして……"浮気"、とかなのだ!?」
「そ、それは有り得ません!湊さんはあんなにも八坂さんのことを嬉しそうに話してくれるのに、他の人……なんて……」
「え、円卓の騎士だって有り得ないのだ!あんなにお姉様のことを考えて、我輩たちにも分かるくらいにお姉様を大切にしているのに……」
互いを擁護する声がぶつかり合い、訪れた静寂と共に考えが再び振り出しに戻る。
「少なくとも……浮気ではないと思うわ」
そんな静寂を終わらせる一言に、2人がこちらに顔を向ける。
「2人の言う通り、あの2人が他の人に浮気するなんて有り得ないわ」
「じゃあ、なんで……?」
「それ、は……」
そう言いかけて、はっと口を噤む。
きっと、性別のことを話した際に何かあったのだろう。
正直、考えられることとすれば、それしかないのだ。
……けれど。
そんなこと、2人に言えるはずがない。
言ってしまったら、湊は学園に居られなくなってしまう。
だから……どうにか、隠さなきゃ行けないのだけど。
……なんて、言おうかしら……。
「……また、すれ違ってしまったのだと思うわ」
「すれ違い、ですか?」
「ええ……本当に、些細なことだと思うの」
2人にわからないようオブラートに包みながら話を進める。
湊の告白に対して、八坂さんが悪い方に捉えてしまったのかもしれない。
確かに、捉え方によっては騙されていたと考えることもできるから、その可能性も十分にあるだろう。
「――けれど」
「…………?」
「もし……それでもないと、するならば……」
……そう。
もし八坂さんが、ただ"湊のことを受け入れられない"のであれば――
「……彼にも、心の準備が必要だったのかもしれないわね」
はぁとため息をつきながら、窓の外の曇り空を見上げる。
彼は今……大丈夫なのだろうか。
「心の準備……はっ!もしかして、湊さんが何かお誘いしてしまった……とか!」
「確かに、円卓の騎士の嫌なものとか苦手なものとかだったら、こんな感じになってもおかしくないのだ……!」
予想外の方向に進んだ2人を見て少しクスッと笑いながら、湊の恩人に思いを馳せる。
「(八坂さん、あなたは――)」
必ず、湊を救ってくれると……信じているから。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「――飛鳥さん、おっはよー!」
「……おはようございます、美結さん」
後ろめたい気持ちを隠しながら、隣の席に座る恋敵にいつものように声をかける。
そう、あの日――悠さんとデートした日から数日が経った。
あれ以来、悠さんから連絡はないけど、彼は今どうしているのだろうか。
というか、飛鳥さんからその話を避けられてるような気がするけど……果たして、飛鳥さんは私のデートのことをどう思っているのだろうか。
……やっぱり、気になってきた。
「……ねぇ、飛鳥さん」
ドクンドクンと鳴り響く心臓を押さえつけ、興味本位で彼女に尋ねようと口を開く。
「"悠さん"のことなんだけどさ〜」
――けれど。
「――っ!」
……え?
予想外の反応に、頭の処理が追いつかなくなる。
今のは……一体……?
理由は全く分からないが、彼女の様子は……明らかに、いつもの様子とは異なっていた。
「飛鳥、さん……?」
「……?どうしましたか?」
何事も無かったかのように振る舞う彼女に対して、いくつかの疑問が一気に浮かび上がる。
これは……何か、"ある"。
「……何か、あったんでしょ?」
「っ!そ、それは……」
直接的な質問に言葉を詰まらせると、彼女はそのまま俯いてしまう。
……飛鳥さんは、素直で正直で、裏表がないからこそ……色んな人に好かれている。
けれど、今はその彼女の性格ゆえのわかりやすい反応が、その答えを示していた。
「気にしないでください。大したことはありませんから」
「でも、飛鳥さん……」
明らかに無理していることが分かるほどの取り繕った笑みを浮かべながら、彼女はそれでもあたしの目をじっと見つめる。
でもここで、食い下がる訳には――
「大丈夫ですからっ!」
「……っ……」
久々に見る彼女の心の叫びが、周囲の空気を一変させる。
その叫びは、他を拒絶するという意志のこもった……冷たくも悲痛な心の声であった。
「あっ……す、すみません……。授業の準備、しますね……」
「…………」
申し訳なさそうに謝る彼女から、分厚い透明な壁のようなものが展開されていく。
だからこそ、あたしは……それ以上、何も言うことが出来なかったんだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――今日一日、飛鳥さんのことを見ていた。
いつも通り……とは言えないけど、ある程度は普段に近い様子。
だけど、それは……彼女の周りにいる人間からすれば、ただの子供だましに過ぎなかった。
それこそ、クラスのみんなが揃って彼女の異変に気づいてしまっているほどだ。
……だけど。
その中でも、一部の人のみが気づいたこともある。
それは――彼女が明らかに、"悠さん"の名を避けていることだ。
「……飛鳥さん」
「どうしたんですか、美結さん?」
放課後。
表情一つ変えぬまま一人帰ろうとする彼女に、そっと後ろから声をかける。
「彼と……悠さんと、何があったの?」
「――っ、か、考えすぎですよ〜!」
予想通りはぐらかそうとする彼女に、今の想いを伝える。
……あたしは、あなたの彼氏とデートをしてしまったけれど。
それでも、飛鳥さんは……あたしの、かけがえのない友達だから。
「隠さなくて……いいんだよ?」
「…………」
「気づいてるんだよ……飛鳥さんが、いつもと違うってこと」
信じられないという目を向けてくる飛鳥さんを見つめながら、ゆっくりと彼女に語りかける。
「悠さんと何かあったんでしょ?何か、辛いことがあったんでしょ?」
「そ、それは……」
「だったら……あたしたちに頼っても、いいんだよ?相談してくれていいんだよ……?」
彼女は俯いたまま前髪に手を伸ばすと……ハッとなにかに気づいたように、その手を引っ込める。
――今日の彼女は、悠さんから貰った髪飾りを着けていない。
だから、今の行動は……無意識に彼に助けを求めていることを暗に示しているのだろう。
「あたしだけじゃない。西園寺さんだって、柚子さんだって、ひなたちゃんだって!」
「……っ……」
「飛鳥さんの力になりたいって思ってるんだよ……?」
だからこそ、それが放っておけなくて……。
たとえ少しでもいいから、今の彼女を助けたいのだ。
「でも、ボクは……」
「飛鳥さんを助けたいと思っているのは、悠さんだけじゃないんだよっ」
それでも強情なままの飛鳥さんに対し、畳み掛けるように想いをぶつける。
「あたしたちだって……"友達"、なんだからっ!」
「――――」
ようやく……伝えられた気がする。
彼女が家出した際に、言えなかった言葉を。
……悠さんであれば、こんなの苦労せずに言えていたのだろう。
いや、言えたからこそ、彼が飛鳥さんを支えているのだ。
誰よりも、彼女のために寄り添おうとした彼だから……。
……けれど。
あたしだって……あたしたちだって、同じ気持ちだ。
それだけは変わらないと、胸を張って言える。
でも、それでも……あたしは、随分と……時間がかかってしまった。
「……うぅ……」
――と、考えているうちに、目の前の少女から啜り泣く声が聞こえてくる。
「あ、飛鳥さん……!?」
「ありがとう……ございます……」
震える声からも嬉しさを滲ませる彼女は、両手で涙を拭って真剣な眼差しでこちらを見つめる。
「……ですが」
けれど、その瞳には。
抱え込んだ孤独と絶望の闇が、彼女の心を蝕むように宿っていた。
「これは……ボクと、悠さんの問題なんです」
「飛鳥さん……」
「だか、ら……」
滴る雨から流れる滝のように変わりゆく涙をそのままに、彼女は嗚咽混じりの声で一歩一歩と後退る。
「……ごめんなさいっ」
そして、悲しげにそう言い放つと、袖で涙を拭いながら教室の外へと駆け出してしまった。
「……行っちゃった」
哀愁漂う彼女の後ろ姿を眺めながら、ポツリとそう呟く。
やはり、飛鳥さんがここまで情緒不安定になるなんておかしい。
……ならば。
「(もう1人に……聞けばいいんだ)」
決意を固め、机に置いてある荷物を手に教室の外へと飛び出す。
……きっとこれは、彼女への贖罪なのかもしれない。
けれど……許されなくてもいいんだ。
だってあたしは……それくらいのことをしてしまったのだから。
「(……だけど、それでも……)」
それでも、あたしは。
飛鳥湊という少女の、一人の友達として。
彼女の涙を……そっと拭ってあげたいんだ。
校門を抜けて、真っ直ぐに通い慣れた彼の家へと歩みを進める。
そうして、あたしは。
――何があったのかを知るために。
――大切な友達を助けるために。
全てを知る彼の元へと、一人向かうのだった。
いかがだったでしょうか?
まあ今回も結局美結ちゃん回になってしまったわけですが、湊くんへの罪悪感みたいなものが見え隠れしているかと思います。
まあ、ここと次の話が美結ちゃんの最大の見せ場なので、次の話とか楽しみにしてほしいですね笑
ということで、次は悠君と美結ちゃんの話です!
もう書いてるこっちが美結ちゃんに同情してしまい辛いのですが、美結ちゃんの最後の頑張りを最後まで見ていただけると幸いです!
追記
累計UA45000突破ということで非常に嬉しいんですまじでありがとうございます!!!!!!
実は同時に累計文字数を300000文字に到達できるように目指しているので、ここ最近は非常にドキドキです笑
もうあと少しで2人の関係の行きつく先へと到達してしまいますが、最後まで頑張って真剣に書いていきますので、皆さんも最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
描写とか展開とか考えすぎて停滞していますが、気長に待っていただけると幸いです!