早坂愛は避けられたい~有能侍女の恋愛伯仲戦~【完結】   作:鍵のすけ

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第10話 小倉次郎は心配したい

 小倉次郎と早坂愛は小さな頃からの付き合いである。

 それ故に小倉は彼女の、彼女は小倉の、細やかな違いによく気付ける。

 

「ふぁぁ……」

 

 小倉起床。朝4時に寝て、朝5時の起床。1時間の健やかな睡眠時間だ。

 極端な話で言えば、寝なくても何とかなるのだが、曜日の感覚が無くなるので無理矢理でも寝るようにしているのだ。

 簡単にラジオ体操を行い、血行の巡りを良くする。いつも行っているルーティンだ。これをやらなければ身体の調子が悪い。

 

「さーてと」

 

 身支度を整え、部屋を出て、今日のやることを考えながら廊下を歩く。今日も今日とてやることは盛り沢山だ。

 

「……ん?」

 

 立ち止まり、小倉は首を傾げる。だが、気のせいだと思い、再び彼は歩き出す。

 

「……おや?」

 

 再び感じる違和感。それを振り払い、小倉がまた歩くと、彼女に出くわした。

 

「おはよ、小倉」

「おはよう早坂」

 

 早坂はあいも変わらず無表情で、彼に一言挨拶をする。

 軽く手を挙げ、小倉は彼女へ返事をした。そして、じっと彼は早坂を見る。

 

「……何?」

「よし、早坂今日は休め」

 

 突然の提案に、早坂は目を丸くする。

 

「……何で? わっ」

 

 刹那、小倉は早坂の額に手を当て、自分の予感を確信に変える。

 

「熱いな。熱出てるだろ、お前。言っとくがとぼけても無駄だからな」

「……どうして分かったの?」

「俺を誰だと思ってるんだよ。とりあえず今日は寝とけ。病人に仕事されても迷惑なだけだ」

 

 別にこれは意地悪で言っているわけではなかった。この四宮家の“格”の話なのだ。来客は使用人の事情など微塵も興味ない。興味があるのはその時、自分がどうもてなされたか、それだけである。

 もし他の使用人仲間が同じように調子が悪ければ、早坂も、そして小倉自身も無理矢理にでも休ませる。

 

「かぐや様に今日のスケジュールを……」

「頭に入れてるから俺がかぐや様に話してくるよ。だから、今日は一日しっかり休め。休むのも仕事の内だ」

「ちょ……小倉!」

「悪いが無理にでも連れて行くぞ」

 

 がっちり肩を掴み、早坂の私室へ連れて行く小倉。扉を開け、ベッドへ放り出す。

 そして、小倉は今日のスケジュールを組み直しながら彼女へ言った。

 

「絶対寝てろよ? あとで必要な物、持ってくるから」

「……私は、これくらい」

「一度でも倒れたら絶対かぐや様心配するぞ。それでもお前が平気なら見逃してやるが?」

「……意地悪なやろーめ」

「はいはい。じゃ、そういうことで」

 

 ひらひらと手を振りながら、小倉は四宮が起きる7時までに必要な業務をこなすことにした。

 他の使用人らと今日の業務の打ち合わせを終えると、小倉は早坂の代わりに監督を務め、優先順位が高いものからサクサクと仕事をこなしていく。

 そして来たるべき朝7時。

 小倉は四宮かぐやの私室の前にいた。

 

「もしもーし! 起きてくださーい!! 麗しきかぐや様ー! 今日も楽しい楽しい一日の始まりですよー!!!」

 

 ガンガンと扉を叩きながら小倉は彼女に聞こえるように大声を張り上げる。

 彼の予想では、もうそろそろ起きてくる頃合いであった。

 

「うるさーーい!!! 何!? 何なのですか!?」

「あ、おはようございます。かぐや様、見てください今日はいい天気ですよ」

「小倉、私に喧嘩を売っているのです……早坂は?」

「熱出しましたんで、寝かせてます」

「早坂が? 大丈夫なの?」

「その話をする前に、まず着替えてもらって良いですかね? 今日のスケジュールは扉越しに喋るんで、聞いてください」

 

 有無を言わせぬその物言いに、流され、四宮はとりあえず着替えをすることにした。流石に異性の小倉に着替えの後始末をさせる訳にはいかなかったので、ベッドの上に丁寧に畳む。こうすることで、後で回収されるという寸法だ。

 そうしている間にも、小倉は四宮の今日のスケジュールを喋っていた。頭の出来が違う四宮、これを完璧に聞き、インプットする。

 着替えを終えた四宮が出てくると、小倉は恭しく礼をする。

 

「改めまして。おはようございますかぐや様、今日も白銀ちゃんと良いことありそうな日ですぐぼぉぁっ……!」

「おはようございます小倉。今日も減らず口が絶えませんね」

 

 思いっきり足を踏まれ、悶絶する小倉に対し、それはとても美しい笑みを浮かべる四宮。

 下手に突っ込んだら負けなので、愛想笑いで返しつつ、四宮の後ろを歩く。

 

「あ、かぐや様。俺、今日休むんで1人で学校行ってくださいね」

「あら、小倉はどうするの?」

「早坂の看病します」

「主人の私を差し置いて?」

 

 断じて言っておくが、四宮は別に意地悪をしている訳ではない。

 良いか悪いかは置いておいて、小倉が言っているのはこうなのだ。

 

 “主人と使用人を比べたら、使用人の方が大事です”と。

 

 だからそれをちゃんと、正確に理解した上で言っているのかを聞いているのだ。

 そんな四宮の言葉を、小倉は涼しげに受け止めた。

 

「ええ、申し訳ございませんが差し置かせて頂きます」

 

 だって、と小倉は続ける。

 

「早坂は貴重で、唯一無二の人材です。例え、これで俺の首が飛ぼうとも早期回復させて1秒でも早くかぐや様のサポートに回ってもらったほうが、かぐや様にとっても()()()じゃないですか」

 

 そういうことなのだ。自分はどこまでいっても、四宮にとっては有象無象の1人。それならば、その有象無象を代償に、早坂愛という四宮にとって何よりも信頼のおける者に看病の時間を削ぐのは至極当たり前の話である。

 爽やかに、そして本当に当たり前のように言ってのける小倉に対し、四宮は大きくため息を吐いた。

 

「冗談ですよ。小倉、貴方って時々異常に度胸があるわね」

「何せ、早坂がいないと張り合いが無いですからねー。こればかりは、いくらかぐや様でも譲れませんよ」

「ええ、知っていますよ。だって同じような時期に早坂が来て、そして貴方も来たんですからね」

「まあその代わり、屋敷で早坂が今日やろうとしていたことは全部俺がやります。んで、少しでも俺や、他の使用人の仕事に不備があれば――」

「ええ、分かってますよ。貴方が全責任を負うんですよね? くれぐれも私にそんな事を言わせないように……してくださいね?」

「了解です。まあ、俺がそんなヘマする訳は無いんですがね! あっはっはっは!」

 

 四宮は相変わらずだな、とばかりにケラケラ笑う小倉を見る。

 軽薄な言動をするくせに、仕事には一切の手抜きも穴も無い。主である自分への失礼な物言いや日頃の行いを鑑みても、その仕事ぶりで全てお釣りが返ってきてしまうレベル。

 これで少しでも粗が見つかればそこを徹底的に突けるのに、一切の隙を見せないこの小倉に、四宮はある意味、感動を覚えていた。

 

「さて、と朝食ですよかぐや様」

 

 基本的に主の朝食に同席することは許されないので、その間、小倉は別のことをやる。

 今日に限っては特別編だが。

 手慣れた手付きで土鍋を取り出し、彼は卵粥を作る。恐らく、今の早坂はこれぐらいが丁度いいだろうと踏んでのことである。

 

「あいつ、結構熱高かったからな。これぐらいが胃に負担ないだろう。あ、すいませーん」

 

 同性の使用人を捕まえ、手早く作った卵粥を早坂の元に持っていくよう指示をする。他にやることもあったので、後で様子を見に行こうと思ってのことであった。

 だが、使用人は笑顔でこう言った。

 

「小倉さんが持っていきなさい! 絶対に! 後のことは私たちがやるから! ええ、本当に! 私含め、他の人たちは今日一日早坂さんの部屋に入れない呪いにかかってますから! じゃっ! そういうことで!」

 

 一瞬で使用人は消えていた。他の使用人に声を掛けても皆、同じような事を返すだけ。

 クーデターか? と一抹の不安を感じながらも、仕方がないので、小倉は他の人でも出来そうな四宮の世話を任せ、早坂の部屋へ向かうことにした。

 

「おーい早坂。俺だー小倉だー」

 

 お盆には卵粥と薬、そして水を乗せ、彼は扉をノックした。

 寝ているかなと考えていたら、中から声がした。

 

「……入って」

 

 思った以上に弱々しい声であった。これは相当まいっているな、と予想した小倉は早坂の部屋へ入室した。

 

「よー早坂、元気?」

「ちょー元気」

「嘘つけ」

 

 さっき見たときより、幾ばくか弱々しくなっていた彼女を見て、小倉は非常に調子が狂ってしまった。

 

 

 本日の勝敗――無し。




本日は総合日間43位、二次創作日間10位でした!応援ありがとうございます!

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ボールス卿様、AvengerRaki様、ハーサカ好こ×2様、双剣使い様ありがとうございます!

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