早坂愛は避けられたい~有能侍女の恋愛伯仲戦~【完結】 作:鍵のすけ
前回のあらすじ!
早坂が熱を出した! 以上!
「とりあえず近くに座るぞ。ほら、食えるか?」
「自分で食べられる……」
手近な椅子を引っ張り、早坂の近くに座った小倉は粥が入ったスプーンを差し出した。一口食べる早坂。その味に、彼女は満足そうに頷いた。
「……おいし」
「当たり前だ。何故なら俺が作っているからな」
「隠し味、何か入れてるの?」
「愛情?」
「一気に食欲無くなったんだけど」
「ふざけんな、食え」
「良く恥ずかしげもなく、そんな事言えるね」
「ユーモア利かせようと、だいぶ言葉選んだのだが?」
調子が悪くてもなお、その毒舌のキレが落ちることは全く無かった。少しだけ、ホッとしたのは絶対に漏らせない。
早坂の食欲は非常に旺盛で、あっという間に小倉お手製の卵粥を平らげてしまった。米粒1つ無かった。
「一瞬で食ったな。ほ~れ、薬」
「ありがと」
「とりあえずは寝ろ。寝てしまえ。そうすれば少しは良くなるだろう」
「……懐かしいと思わない?」
「何かあったか?」
「ずっと前に私が同じように熱を出した時」
言われなくても覚えていた。
同じように早坂が病床に伏した時である。その時もこうして小倉が早坂の看病をしていたのだ。その時は今よりも疲れが祟ったのか、彼女はもう少し苦しんでいた。
その間にも
小倉次郎が行ったのは今と変わらない、ただ愚直なまでに心を込めた看病であった。
その辺の伝えていないこと、正々堂々と胸を張りたいこと、その辺りを全て考慮した彼の返事はこうだった。
「ああ、そんな事があったなー。まあ、あの頃もテキトーにフォローして、寛大な看病をしてやったよなー。まあ、あの頃のお前は体力無かったんじゃないのか? 今もだけどよ」
「はい嘘」
「……何が?」
「テキトーにフォローはしてないでしょ」
その言葉で小倉は悟った。“知っている”と。自分が一言も言わず、悟らせないようにしていた事を。
「私が今よりももっと重い熱を出した時、本家の執事達がやってきた。その時、使用人の1人がしくじった」
本家の執事が四宮の
いつも通り、早坂の名代として監督を務めていた時にソレは起きた。
使用人の1人が起こした事、それは“拭き残し”。壺の陰、そこを拭き残していたのだ。
当然、それは本家の執事の目に止まり、そこを担当した使用人に叱責の矢印が向くこととなった。
何も言えない使用人、四宮の使用人に課せられた鉄の掟とはたったの1つ。“常に完璧を”。
そのまま行けば、クビコース待った無し。そんな当たり前に、小倉は立ち向かったのだ。
◆ ◆ ◆
当時、その使用人にとっては絶対絶命のピンチであった。
そんな時に飄々と現れ、小倉は執事と使用人へ聞こえるように言った。
「おう、ありがとう。そうそうそこを残してくれれば良かったんだよ」
「君は?」
「その人の監督役ですが」
「その壺の陰に拭き残しがあった。これをゲストが見ればどう思うかね?」
執事は冷酷な瞳でそう言う。
「どうも思いませんよ。何故ならその前に俺が彼女に掃除の仕方をレクチャーしますので」
自分よりも年上。それでも小倉は臆さなかった。彼は続ける。
「そこは
「わざと? その間に来客、もしくはお嬢様が見たら何と言うかな」
「絶対にあり得ない状況に、そんな“IF”を気にするだなんて……本家の教育は相当レベルが高いようですね」
その言葉に執事、目を細めた。それが嘲笑と気づけない程の愚鈍さは生憎と持ち合わせていなかったからだ。
「君は、誰に物を言っているのか分かっているのかね?」
「本家の執事様ですよね。だけど仕えている者同士、俺と貴方は同僚だという認識でいるのですが……合ってますよね?」
「それは大きな間違いだ。何故なら私は……」
「かぐや様のお父上の執事だから、ですか? 冗談じゃない。その程度で横暴利かせていい訳が無いんですよ。良いですか?」
一拍置き、小倉は言った。
「こっちだってかぐや様に命賭けて仕えてんだ。この人のやったことはこれからのかぐや様のプラスに繋がっていくという絶対の確信がある。……それに、今日のこの屋敷の仕切りを任されているのは俺、小倉次郎だ。何か貴方の権限で俺とそこの彼女に沙汰を下せんなら、ここの屋敷の主であるかぐや様の目の前で聞こうか」
小倉には許せないものがあった。理不尽である。理不尽には挑戦しなければならないのだ。
だから彼のこの行動にヤキモキする者がいるのだ。
◆ ◆ ◆
「無茶は止めてって、何度も言ったはず」
「向こうの質が悪いんだよ。それに、あの場では俺は悪者であってはならないんだよ」
「……言ってる意味は、分かる」
人を守るというのはそれ相応の代償を払わなければならない。
小倉はそれを平然とやってのける。
(……ほんと、立ち回りが下手くそというかなんというか)
早坂が後日聞いたこの一件だけでなく、彼は幾度も似たような件で意地を徹している。放っておけば良いのに、いくらでもしゃしゃり出てくるのだ。
そんな愚直さは持ち合わせていないからこそ、早坂は彼の思考がたまに分からなくなる。
「おっと、悪いな。病人の前で長居しすぎた。俺は戻るよ、サボりと思われたくないしな。土鍋は後で取りに来るから……っ?」
小倉はそこで動きを止める。自分の服の裾を、早坂が掴んでいたからだ。
「……もう少しサボらない?」
「サボろう」
彼は即答した。心労が溜まっているのだろう。どうにも弱気な印象を拭えなかった。
とはいえ。
こんな状態の、同い年の相棒を捨て置くほど心に余裕が無いわけではないので、小倉は再び椅子に座る。
「……小倉はさ」
「何だ?」
「小倉はよくもまあ、私に話しかけられるよね」
「お? 喧嘩か?」
「私がいつも突き放しても、アンタはどうしても話しかけてくる。嫌にならないの?」
「それは――」
そこで言葉を止める小倉。
正直に言おう、自分のこの感覚に説明を付けられなかった。たまにモヤモヤとするこの気持ち、この気持ちに名前を与えられなくては、迂闊に彼女の問いに答えてはいけない気がして。
そんな彼に、早坂は言う。
「……私だったら嫌になる」
掛け布団を深く被り、すっぽりと身を隠した早坂。
色んな言葉が小倉の思考を駆け巡る。今の彼女に掛けられる言葉が一体どういうものなのか、長い付き合いのはずなのに、ごくたまに分からなくなる。
そんな時の小倉は、決まってこういう風に思考を整理していた。
「ばーか。それならもうちょっと可愛げある態度でいてくれりゃ良いだけだろうが。何でお前はいつもいつも素直になれないんだか――」
「――だし」
最後の言葉を言う前に、早坂に言葉を遮られた小倉は良く聞き取れなかったため、もう一度言葉を促した。
「これで精一杯素直になってるつもりだし……! かぐや様と、そしてアンタだけには私は……」
「早坂……?」
すぅ……すぅ……と、布団の中から寝息が聞こえる。薬が効いてきたのだろう。掛け布団が被さったままでは窒息する危険もあったので、小倉は布団を少しだけ下にずらしてやった。
そこには安らかに睡眠に入った彼女の寝顔が。
日頃の疲れが溜まっているのだ、しばらくは絶対に起きないはず。
「まあ、一回起きりゃだいぶ回復してるよな。というかそうじゃなかったらかぐや様に土下座して病院に連れて行くわ」
空になった土鍋を抱え、小倉は部屋の扉まで歩いていく。部屋を出ていく寸前、彼はほぼ無意識に呟いていた。
「早く体調戻せよ。お前がいないと張り合いが無くて、やる気出ないんだわ」
それだけ言い、小倉は廊下に出た。それだけで、終われば良かったのに。
少なくとも彼は、そう思っていた。
「……皆さん??」
全員ではなかったが、使用人達が部屋の前に居た。
途端に使用人達は各々言い訳を述べ、どんどん去っていく。狭い世界だ。こういったゴシップの的になるのはとても複雑な気分だが、みんな早坂の事を心配しているのだろうという前向きな考えにマインドセットする。
彼は逃げ遅れた使用人の肩をがっちりと掴む。運が良いのか悪いのか、それは以前、小倉が命賭けでフォローした使用人であった。
「
「ひ、ひぃ~~勘弁してくださいよ小倉さん~~~! 皆、行くもんだから私もちょっと野次馬根性爆発しちゃっただけなんですよ~~~!!」
あとで1人1人と今後の職業選択の自由について語り合わなければならないと、小倉は本気で考えることにしたのはまた別の話である。
本日の勝敗――小倉の敗北。
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