早坂愛は避けられたい~有能侍女の恋愛伯仲戦~【完結】   作:鍵のすけ

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第12話 早坂愛は看病し返したい

「完 全 回 復」

 

 翌日、早坂はいつも通りの時間に目覚めていた。

 食事を摂り、薬を飲み、ぐっすりと寝る。シンプルだが、今の自分にとってはとても効果的な休息方法であった。

 

「昨日の分を取り戻さないと……」

 

 一日何もしなかっただけで何ヶ月も仕事をしなかったような気分になる。

 この精神的遅れを取り戻すため、やる気を満ち溢れさせる早坂である。

 

「……ん?」

 

 少し感じる違和感。

 どこかデジャブを感じさせるこの状況に、彼女の足はいつもより早く動いていた。

 使用人たちと挨拶をし、打ち合わせをし、日々の業務を始める。

 そんな矢先に、彼は現れた。

 

「おはよう早坂」

「おはよ小倉」

 

 いつもどおり人当たりの良い笑みを浮かべて、小倉は彼女へひらひらと手を振った。

 その時点で早坂、違和感を感じた。

 

「ん?」

「ん?」

 

 目をゆっくりと開いては閉じ、彼女は有無を言わさずに小倉の額に手を当てた。

 

「うぉおおお!? 何だ!? 何だいきなり!?」

「やっぱり熱い」

 

 その言葉に小倉、ドキリとする。だがまだ何とか言い逃れできるはずだと思考をフルに回転させた。しかしそんな時間を与えてくれるほど、早坂は優しくなかった。

 ここは逃げるが勝ち、判断したが時既に遅し。小倉はがっしりと腕を掴まれてしまった。

 

「何故逃げる」

「逃げなきゃひどい目に遭わされそうな気がした」

「分かってるなら逃げるな」

「俺は大丈夫だ」

「大丈夫じゃない奴は皆そう言う。皆さんお願いします」

「は? どういうこと……はっ!?」

 

 他の使用人たちに拘束され、ずるずると引きずられながら小倉は叫んだ。

 

「おいふざけんな! 皆も何であいつに協力してんですか!?」

「小倉さん、今日は寝ましょう!」

「花咲さんあとその他諸々、絶対この事は忘れないぞ~!」

 

 ぽーい、と自分の部屋に放り投げられてしまった彼はすぐに部屋を出ようと思ったら、開かない。開けようとガチャガチャドアノブを回していたら、外から早坂の声が聞こえた。

 

「小倉、出ちゃ駄目だからね」

「早坂、俺は別に熱なんか出しちゃいないぞ」

「そう思うなら、まずは体温を測ってもらおうか」

「は? 分かったわ。じゃあこれで平熱なら即刻俺は仕事に戻らせてもらうぞ」

 

 ため息と同時に、非接触式の体温計を額にかざす小倉。

 彼は嘆息していた。

 非常に失礼で、あり得ない。

 自らに課している鉄の掟がある。それは徹底した体調管理。

 風邪など引く方がどうかしている。常に鋼の精神で自らをマネジメントしているのだから体調を崩すだなんてそんな馬鹿な事あってたまるか。

 

「うーん40度かぁ」

 

 高熱(アウト!)

 普通ならばすぐにベッドで絶対安静か、病院に足を運ぶレベルだろう。だが、今の小倉の表情に苦痛の色はなかった。

 むしろ絶好調、と言っていいだろう。

 

「おい早坂ぁ! 平熱だぞ! すぐ仕事に戻らせてくれ!」

 

 そんな彼の訴えを彼女はバッサリと刈り取る。

 

「いつもより声の張りが無い奴が平熱はあり得ないから」

 

 同時に扉が開け放たれ、そこには少しばかり不機嫌そうな表情を浮かべる早坂がいた。

 

「早坂……」

「良いから寝る」

 

 まるで相撲取りのようにひたすら張り手を喰らい、ベッドに倒される小倉。見ようによっては胸キュンシチュエーションなのだろうが、今の彼にとっては絶体絶命の状況と同義である。

 何せそこには鬼のような形相で早坂が睨んでいたのだから。

 

「小倉ァ」

「何だよ。俺はいたって平気だ。仕事も問題なくこなせる自信があるんだよ」

「私はこっち。明後日の方角見て誰と喋ってんの」

「ああ、悪いこっちだったか早坂。悪いな。寝起きだからかちょっぴり頭の回転が鈍いみたいだ」

「その目があっちこっちに行ってる気味の悪いバナナのぬいぐるみが私に見えてるなら本気で救急車呼ぶけど良いの?」

「待て待て待て待て。呼ぶな呼ぶな」

 

 寸でのところで意識を取り戻した小倉は、携帯を握る早坂の腕を掴む。その腕を、早坂が触れる。すると、彼女は更に顔をしかめる。

 高熱だというのは間違いないと思っていた。しかし間違いないのはそれが思った以上に高かったことだ。

 

「だったら寝てて。仕事中に倒れられる方が迷惑だから」

 

 キツい事を言っているのはよく分かっている。だが、小倉の性格を考えたら、いくら扉や窓を頑丈に施錠しても絶対に抜け出して仕事をしている未来が鮮明に見えていた。

 だがここで、彼の性格を正確に捉えていた早坂は仕掛けた。

 

「ただし、今日一日で治すこと。そうしなかったら許さない。欠勤扱いで給料も差っ引くから」

 

 交換条件!

 こうすることで彼の中にある罪悪感を少しでも緩和してやろうという彼女の心憎い気遣いであった。

 もちろん一日で治らなくてもそんなことをするつもりは毛頭ない。

 大事なのは、今日一日を休ませることだ。

 

「……了解。じゃあ、かぐや様に一言言ってくるわ」

 

 そんな彼女の意図を汲み取った小倉はここで降参する。いつまでも駄々をこねて、彼女の仕事の時間を奪っていたくないという思いが一番にあった。

 今回は彼女の厚意に甘えることにする。

 とはいえ、一応雇い主に対して筋だけは通したい小倉の申し出を早坂はすっぱりと却下した。

 

「私から言っておくから。風邪移ったら大変だし。だから、アンタはさっさと寝る」

「あ~もう、今日は最初から最後までお前に負けっぱなしかよ……」

 

 ぱたりと扉を閉めた早坂は、その足で主の元へと向かう。そろそろ起床時間ということもあり、諸々の報告が出来ることだろう。

 

「おはようございます。かぐや様」

 

 入室をし、着替えの手伝いをする最中、早坂は口を開いた。

 

「本日、小倉には休暇を与えました」

「あら、珍しいわね」

「風邪を引きました。熱も高いので、今日一日は部屋で休むようにと」

「あぁ……ならもう4年ぶりなのね」

 

 唐突に話を発展させた主の言葉に、早坂は首を傾げた。

 

「4年ぶり?」

「ええ、私の記憶が正しければ、小倉は4年前の今の時期に高熱を出したっきり、一度も調子を崩した事がなかったはずよ。で、今日熱を出したから丁度4年目だなぁって」

「オリンピックか何かですか……」

「まあ、それなら仕方ないわ。人間それほど頑丈には出来ていないもの」

 

 着替えを済ませた四宮は何の気無しに早坂を見る。

 

「じゃあ今日は帰りの車でスケジュールチェックは出来ないわね。確認が必要なことは後で電話するからその時に教えてくれるかしら?」

「は?」

「え?」

 

 四宮と早坂。ここで見つめ合う。片方は“どうしてここで疑問形?”という顔、もう片方は“突然どうしたんだこの主は?”という顔である。

 早坂の表情の意味に気づいた四宮は、言葉が足りなかったともう一言付け足した。

 

 

「だって小倉の看病するんでしょう?」

 

「何でそうなるんですか……!」

 

 

 ここまで高速の反応をされると思わなかった主である四宮かぐや。彼女としては従者がこんな反応をすることの方が意外なのだ。

 何せ、従者にこの言葉を投げるだけの根拠が天才・四宮かぐやにはあるのだから。

 

「だって貴方、今すごいソワソワして、落ち着きがないわよ?」

「な――――――!」

 

 一撃必殺(クリティカル)!!!

 オブラートに包まない、抜身の刃が早坂の首を刎ねた!!!

 早坂愛、膝から崩れ落ちそうになる……が大地をしっかりと踏みしめる。

 

「良いわよ。自分のことくらい、自分で出来るわ。それに今日の会長に告白させる作戦は、早坂の協力はいらない内容ですし」

「良いのですか……? 2日もかぐや様の側に居ないのですが……」

「私に何度も同じことを言わせないで。ああ、そうだ小倉に伝えておいてください。さっさと治してまた馬車馬のように働きなさい、とね」

「……ありがとうございます」

 

 その時の早坂の表情について言及したら、きっと面白い反応が見られるだろうと一瞬四宮は考えたが、今日だけはそれを収めてやる。

 出ていく早坂の後ろ姿を見て、四宮は一言呟く。

 

「あんなに緊張感ある表情をしていたのに、途端に緊張が緩んだ顔になるだなんて……。小倉絡みになった時の早坂は時々からかいたくなるのよね」

 

 ここで四宮、思考を切り替えた。

 

「さて、今日こそ会長に告白させてみせるわ」

 

 昨日寝ている間に導き出した完璧な作戦が、四宮にはある。

 ずっと続いてきたこの恋愛頭脳戦も今日でようやく決着を付けられる確信があった。

 今回の作成を脳内シミュレーションすること、およそ1万回。その全てが白銀に告白をさせているという恐るべき結果。

 これには四宮、笑いをこらえることが出来ない。

 世界が鮮やかに見えてくる。全てが自分の成功を祝福しているようだ。

 

 

「待っていなさい!! 会長!!!」

 

 

 その後の四宮かぐやを語っておこう。

 作戦を携え、いざ生徒会室へ入室をしようとした刹那、丁度出てきた白銀とぶつかる四宮。

 図らずも抱きつくような格好になってしまったことに対するあまりの衝撃で脳内メモリが全て焼き切れ、作戦が吹っ飛んでしまったというとんでもないやらかしをしてしまったことは、いつか語る日が来るだろう。




続きます

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