早坂愛は避けられたい~有能侍女の恋愛伯仲戦~【完結】 作:鍵のすけ
翌日。
早朝に四宮のお弁当づくりを手伝った小倉はいつもとは違う疲労を感じながらも無難に学校生活を送っていた。
彼女は白銀へお弁当を渡せたのか、それだけが気になりながらの1日だったため、割と一瞬で時間が過ぎていた。
時間はあっという間に放課後。
帰ろうかと廊下を歩いていたら、背後からとても良く知る声が聞こえた。
「小倉くん! ちょっと待ってくださ~い!」
「げっ!」
藤原千花!
歩く災厄とも言える彼女はそれはいい笑顔で小倉の元へ走り寄ってくる。
本当ならば今すぐにでも逃げ出したい気持ちで一杯だったが、ここで逃げ出したら絶対に後で面倒くさい事態になるのは目に見えていた。
小倉、覚悟を決める。
その覚悟の度合いはさながら、100万の敵軍相手に殿を務めるかの如く。
「今、“げっ!”って言いませんでした?」
「何の話ですか?」
「う~ん、まあ良いでしょう! 許してあげます!」
にぱーっという擬音がよく似合う程の笑顔を浮かべる藤原。
そんな彼女の一挙手一投足に注意しながら、小倉は当たり障りのない内容からコンタクトを開始していく。
前回やらかしているため、もう小倉に二度目はない。これは最初にして、最後のリターンマッチなのであった。
「どうしたんですか藤原さん。急に走ってくるだなんて……」
「それはですね~。小倉くんとお話しがしたくて!」
これでまだ、先生が呼んでますーくらいの案件であれば小倉も冷静に対応が出来たであろう。だが、今回はその彼の想像を遥かに超えていた。
何の目的もなく、いや目的は一応あるのだが、その内容が小倉のさじ加減で容易く終わらせられる内容ではなかった。
となれば、対処は早いほうが良いに限る。
「ア、ボク、コノアトヨウジガアルノデ。オツカレサマデス。ハハッ」
可能な限り、早口でまくし立て、小倉は一礼し、その場を去る!!
「嘘だ! 絶対嘘だ! 何で私と目合わせないでそれ言ったんですか!? というか、本当だとしてももっと申し訳無さそうに言いましょうよ!?」
「申し訳ない気持ちでいっぱいですよ! だから今すぐにでも消えてしまいたい! じゃ!」
「まー! まー! まー! 消えなくてもいいので! もうちょっといましょう!」
さっさと去ろうとしたら藤原に右腕をがっちりと掴まれてしまった。
このまま振りほどくのも良心の呵責を感じてしまうので、強硬手段にも出れなかった。万が一、そんな手段に及んでしまったことが他の男子にバレでもしようものなら、彼女のファンクラブに袋叩きにされる未来しか見えなかった。
既に小倉に残された選択肢は1つしか無いのだ。
「……まあ、俺も藤原さんとは話してみたかったんで丁度いいっちゃ丁度いいかもですね」
「やった! 小倉くんって良い人ですねぇ!」
「そのまま帰らせてくれると嬉しいんですけどね!」
「うっわ小倉くん、どっちなんですか―!?」
ころころ変わる表情が面白い。この話していて楽しい感が藤原千花の人気の源なのであろう。
実際、他の男子にそれとなく聞いてみたらだいたいがこの理由である。
なるほど、確かに分からないでもない。
「まあ、良いでしょう。今日の私は何でも許してあげちゃう系女子の藤原千花なのです。こほん……早速なんですけど、小倉くんはどうやって会長と仲良くなったんですかー?」
「うーん、いつの間にか仲良くなったとしか」
「え~? そうなんですか~? こう言っちゃあれですけど、会長ってぱっと見怖いじゃないですか? だから自然と仲良くなる人って珍しくて!」
白銀への認識がよく分かるその物言いにツッコミそうになりながら、小倉は何となく彼と仲良くなったキッカケを思い返してみることにした。
「俺って結構影薄いじゃないですか」
「そですね」
「藤原さんって護衛の方いますか? 居なかったら今すぐぶん殴りたいんですが」
「こっわ! え、何でいきなりバイオレンスになるんですか!?」
息を吐くかのごとくディスってくるものだから思わず手が出そうになってしまった小倉である。
冗談抜きで本当に殴り倒したかったのだが、ここは金持ちのエリートだけが集まる私立・秀知院学園。
実際手を出してしまうと隠れている護衛に撃たれる……だなんていう未来もありえない訳ではない。
断じて、これは女性を尊ぶとかそういう次元の話ではない。その行いに命を懸けられるか、否かという話である。
「すいません、何か良い感じに殴る気湧かせてくれますよね。藤原さんって」
「私、小倉くんとお話ししたいだけなのに!?」
「藤原さんだけですよ? 俺をこんな気持ちにさせてくれる人なんて」
「いや、ちょっと良い感じに言っても誤魔化されませんよ私!?」
雰囲気良くしても駄目なものは駄目である。分かっていたことだが、チョロそうだと高を括ったのがいけなかった。
とりあえず、話を戻そう。
「まあ、そんな感じで影薄いんで周りから距離取られてたんですが、その時に話しかけてくれたのが白銀なんですよ。あの時は本当にありがたかったですね。白銀との会話で話しやすいと思われたのか、その後は他の人からも声をかけられるようになりましたし」
「へぇ~それじゃあ会長は小倉くんの友達作りのキューピッドさんなんですね!」
「そういうことです。感謝してもしきれません」
これは演技ではなく、心からの、小倉の言葉であった。情報を効率良く収集するためのキャラ付けで陰気な人間を演じていたが、やはり陰気者に声をかけてくる者はそうはなく。
今更方針を変更するのも割と労力がいるので悩んでいたところに助け船を出してくれたのが白銀御行であったのだ。
「ねえ小倉くん」
「なんです?」
「私に敬語、要りませんよ? もっと楽に話しましょうよ~!」
こう距離をどんどん詰めてくるのは嫌いではない。だが、それだけに自分が気楽に接したときにボロを出してしまう確率が跳ね上がってしまう。
本当ならすぐに首を縦に振りたいところではあるが、少しだけ悩んでしまう小倉であった。
「……分かりました。努力、してみます」
「約束ですよ~! あ、ちょっとごめんなさい」
断りを入れて、藤原は震えている携帯を耳に当てた。
いくつかのやり取りをしたあと、すぐに彼女は顔を真っ青にする。
「うわぁぁ! ごめんなさい小倉くん! 私、この後生徒会室で打ち合わせあるってすっかり忘れてました!」
「うぇ!? それはマズい! 怒られる奴!」
「また今度ゆっくり話しましょう! じゃあ!」
すたこらと走っていく藤原の背中を見送る小倉。
嵐が過ぎ去った後とはこれほど穏やかなものなのかと、少々の感動を覚え、彼女との会話の余韻に浸る。
もしも。
もしも自分が四宮に仕えていなかったら。
何も考えずに藤原千花と話せていたのだろうか。
しばし、妄想し、頭を横に振る。
「はぁ、疲れてんだな俺。藤原ちゃんとの話を楽しんでしまうとは」
「本当だね。随分楽しんでたね」
「うぉぉ!? 早坂!?」
いつの間に後ろにいたのか。早坂愛が目を細めてそこに立っていた。
「気配消すの止めろ」
「癖になってんだよね、気配消すの」
「どこかで聞いたセリフだな。いつからそこにいた?」
「捕まってた所から?」
「最初っからじゃねえか! 助けろよ!」
「だってぇ~小倉くんが書記ちゃんと話しててすっごいニヤニヤしてたから~?」
「ギャルモード似合ってねえぞ」
ピシリ、と早坂固まる。
「に、似合ってない……? これでも私、結構男子から人気あるんだけど?」
「は? それは話が変わってくるぞ。他の男子見る目ありすぎるだろう」
「なっ……!」
「思ったよりバレてるのか。早坂が可愛いことに」
「な、何を言っているの……!?」
突然の言葉に早坂、赤面する!
その表情に気づかないまま、小倉は半ば怒り気味に続ける。
「悔しいがお前は可愛いからなぁ……あんまり目立って欲しくはないんだが、まあそれももう仕方ないか」
「かわ……」
既に早坂、余裕なし!
「お前のことだから大丈夫だとは思うけど、くれぐれも男は選べよ。ろくな事にならなそうなら、俺が喝を入れてやるから」
握りこぶしを作る小倉を不思議そうに見る早坂。
そんな彼女の視線に気づいた小倉はその意図を問うと、予想外の答えが返ってくる。
「小倉って、私が彼氏作ってその彼氏からひどい目に遭わされていたら助けに来てくれるの?」
「……あ」
そこでようやく小倉、自分が何を言っていたかを理解することになる。瞬間、完全にしくじったことを理解する。
すぐに何か誤魔化そうと思考を巡らせるが、その前に早坂が言った。
「まぁ、その時が来たら楽しみに待ってるよ、お・ぐ・ら・さん?」
「うわああ! 忘れろ! 今のは忘れろ!」
「忘れませーん。守ってくださいねー」
「恥ずかしい……恥ずかしい……」
既に真っ赤な早坂、赤面する小倉。
2人は気づいていなかった。最近の2人は前より沢山感情を吐き出していることに。
そんな2人に対しての壁が、近づいてきている。
本日の勝敗――引き分け。
更新頻度が落ちている…それでも付き合ってください(懇願)
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霞花 悠馬様ありがとうございます!
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