早坂愛は避けられたい~有能侍女の恋愛伯仲戦~【完結】 作:鍵のすけ
「なあ早坂」
「何よ小倉」
小倉はここに至るまでの経緯を振り返りながら、あえて口に出す。
「何で俺と早坂、デートしてるんだろうな」
「かぐや様に聞いてよ」
2人の男女がそれなりの格好をし、街に立っている。傍から見ればカップルとしか見られないであろう2人の顔は仏頂面。
それもそのはず、これは立派なお仕事なのだから。
どちらともなく2人は歩き出す。目的はない、とりあえず街をぶらぶらするだけだ。
その間に小倉は今日の目的を整理する。
「確か今日ってかぐや様が会長をデートに”誘わせる”場所を探しに行くんだよな?」
「そう。それで1人よりも2人ということで私も何故か付いて来ることになったってわけ」
「まあ男1人でデートスポットうろつくだなんてしたくなかったから丁度良かったよ。お前が来てくれて」
「そ」
――あなた達、デートしてきなさい!
これが主・四宮かぐやから下された特命である。
恋愛頭脳戦は今、四宮の方に傾いている(本人談)らしいので、それをより盤石のものとするべく、更なる手札を増やすのが目的である。
とはいえ、このままただ歩き回るのも芸がなかったので、とりあえず近くの喫茶店に入って一度作戦を練ろうと早坂が提案する。
早速入店し、席に座ろうとした早坂は小倉の次の行動に驚きを見せる。
「どうぞ、早坂様?」
「何のつもり?」
「まあ曲がりなりにもデートだからな? その辺演出したいな、というこの小憎さが分からんかな?」
「まっっっっっったく。でもありがと」
一応お礼だけは言うのが早坂愛の良いところだな、というのが小倉の率直な気持ちである。
これでただただ憎らしい存在ならば彼も割り切れた。
だが、彼女はそうではなかった。だからこそ、小倉は彼女に弱かったのだ。
「早坂っていつもコーヒー飲むよな。そんなに好きか?」
「そういう小倉もいつもコーヒーでしょ。そんなに好きなの?」
「質問に質問で返すなよ……。まあそうさな、コーヒーは俺にとって思い出の飲み物だからな」
「へぇ、アンタにもそういうセンチメンタルな思い出があるんだね」
「……覚えてないのか?」
「え?」
正直に言おう。
小倉はこの件に関して、これ以上突っ込まれることが非常に恥ずかしかった。
なにせ、小倉が四宮家に働き始めの頃の話だ。
彼が何か言う前に注文していたショートケーキが届く。
「ほら食おうぜ。これ食ったらあの2人でもハードル高くなさそうな場所ピックアップしに行こう」
「了解」
「やる気十分で嬉しいよ。そんな奴には、ほいこれ」
そう言い、小倉は早坂のショートケーキへ自分のイチゴを乗せた。頼んでおいて何だが、小倉は甘いものをあまり食べない。
「良いの?」
「ケーキ本体まで食える。だが、イチゴまでとなると手に負えなくなる。ということで助けてくれ。な?」
「そこまで言うならありがたく頂くね」
そういう所だ、と早坂は僅かに目を細める。
なんだかんだと言いながら、最終的には自分のために何かをしてくれる。ずっと言い合いを続けて、ずっとギスギスしてくれていればそれで良いのに。
一口サイズに切ったケーキを口に運ぶ。とても甘い。
ぼーっと咀嚼をしながら、彼女はそこでふと気づく。
(私って、小倉とどういう距離感でいたいの?)
正直に言おう。
彼との言い合いは決して悪い気持ちにはなっていない。だけど、仕事が絡んでしまえばその手際の良さから謎の対抗心を燃やしてしまう自分もいる。
ならば今この瞬間はどうだろう。
「おーい早坂」
「……」
「おーい」
「……」
「…………駄メイド」
「――何か言った?」
瞬間、小倉は彼女から発せられる殺気に似た気配に背筋を凍らせる。
こと仕事に関してはプロ根性が極限まで培われている彼女に対して掛ける言葉にしては、あまりにも無謀と言えた。
咄嗟に両手を挙げていなかったら手に持つフォークで串刺しにされていたのではないか、そんな悪い予感が彼の頭をよぎる。
「すまん、いくら呼びかけても上の空だったから喧嘩を売ってみた」
「お望みならいくらでも買うけど? あ、一週間以内に屋敷出る準備しておいてね」
「何やらかす気だよ! 謝る! 謝るから!」
「誠意はここの奢り」
「分かった! 払わせて頂きますから追い出さないでくれ!」
言われなくても、最初から払うつもりでいた小倉にとってこれはまさに九死に一生を得た、といった所。財布に沢山用意しておいて良かった、と改めて彼は自分の用意の良さを自画自賛する。
「小倉はさ」
コーヒーを一口飲み、早坂は言う。
「私と仕事していて楽しい?」
「楽しいに決まってるだろ。どうした急に?」
こういう所も早坂は複雑な感情を抱いていた。
彼はいつもいつも素直に感情を伝える。決して誤魔化さず、はっきりと言う。
某会長や某雇い主も同じくらい素直ならばとっくの昔に交際スタートしているであろう、と確信出来るくらいには。
だからこそ早坂は、その彼の言葉に嬉しさを感じていた。
職業柄、飾らない自分で居られるのは主とそして小倉ぐらい。
中でも小倉に関しては、全く取り繕っていない自分で接していたので、余計に嬉しいのだ。
「まあ、いつもいつもツンケンしている早坂様を見ていると、たまに自信無くすことはあるけどな」
「自信?」
思わぬ言葉に、早坂はつい聞き返してしまった。
あの自信の塊である彼から出る言葉にしてはあまりにも弱気だったからだ。
皮肉でも返されるかと思えば、彼の口から出る言葉は少しばかり自信なさげなもので。
「まあ、分からぬ奴には分からぬってことだ」
「何それ変なの」
「ええい、これ以上突っ込むな早坂。それ食ったら行くぞ」
「おーらい」
どこへ行こうか、喋りながら2人がそれぞれコーヒーとケーキを食べ進める。
食事終了の寸前、ふいに“その瞬間”がやってくる。
「あれ、早坂?」
「ほらーやっぱり早坂だ」
声のした方を向くと、そこにはいつも早坂がツルんでいるギャル2人が立っていた。
小倉は名前を知らないが、早坂が案外上手く彼女らと付き合えていることだけは知っていた。
「そっちの彼は……もしかして小倉!?」
「何か雰囲気違くない!?」
いつも学校で身につけている縁無し眼鏡がなかったら、自分のことはバレないだろうという驕りが招いた結果なだけに、小倉は思わず片手で顔を覆ってしまった。
小倉と早坂が何かを言う前に、早坂の友人たちは盛り上がる。
「何で、早坂と小倉がここでお茶してんの?」
「もしかして付き合ってたり!?」
やんややんやと言われる中で小倉の耳に飛び込んできたのは聞き捨てならないことで。
彼は思わず立ち上がった。
「えーっと早坂さんの友達方、それは勘違いですよ。そんな事あり得ません」
「え……」
早坂が驚いたようなそんな表情で小倉を見上げる。
「俺、結構甘いものが好きでここに来たら、たまたま早坂さんと出くわしたので同席させてもらっただけですよ」
「え、そうなの早坂?」
「……」
友人の問いに黙る早坂を見て、“さっさと誤魔化してくれ”と願いながら小倉は更に続ける。
そこで、止めておけば良かったのだ。
「だいたい、俺が早坂さんとだなんて畏れ多いが過ぎますよ。早坂さんだって困っているからこの話は終わりにしましょ――」
次の瞬間、さっきまで座っていた早坂が立ち上がっていた。
うつむいているのでどんな表情を浮かべていたかは分からない。
しかし、彼女の口から出た言葉で自分はやらかしてしまったのだと言うことだけは良く理解できた。
「私は酷い奴だと自覚してるけど……アンタはもっと酷い奴」
そう言い残し、早坂は荷物を持って、店から出ていった。
止める隙もない、一瞬の出来事であった。
ちらりと見えた、早坂の横顔は――。
「くっそ……こんな事言うつもりなかっただろうが小倉次郎よぉ」
悲しそうにしていた。
そういう表情なんか浮かべさせてやるものかと、常に頑張ってきたというのに。
彼は、芯にヒビが入ったような感覚を覚えた。
そして、何故か妙に口の中で主張するコーヒーの味。
「早坂……」
彼女のいない席が、妙にしっくり来ない。
投稿遅れてます!申し訳ないです!
この物語もそろそろ終わりを迎えますので、もう少しだけ応援お願いいたします!
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AvengerRaki様ありがとうございます!
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