早坂愛は避けられたい~有能侍女の恋愛伯仲戦~【完結】   作:鍵のすけ

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第3話 小倉次郎は話したい

 私立・秀知院学園。

 あらゆる界隈で有名な組織の子どもがひしめく魔境である。将来の日本を担う若者たちなだけあり、その面構えは凡人とは全く違う。

 そんなエリートたちを束ねる集団がいた。

 

 生徒会。

 この学園の自由で、しかし責任を伴う校風を守護するべく存在。

 それだけにそのトップに立つ者には非常に高い能力が求められている。

 エリートを束ねるに値する人物。口で言うのは簡単だが、そう容易くは現れない人材である。

 そう、普通は思うであろう。

 

「さて、と次の授業が終われば昼食か」

 

 いるのである。

 

 白銀御行。

 

 現私立・秀知院学園生徒会会長である彼は全校生徒の出すハードルを飛び越え、エリートたちを掌握していた。その最大にして最強、唯一の武器は『勉学』だった。

 武器を研ぎ続けてきた白銀は根を詰め過ぎているとか既にそういう次元の話ではなく、いつどこでぷっつり糸が切れてしまってもおかしくはないのだ。

 疲れは目に現れ、そして近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

 そんな彼に、近寄る者が1人。

 

「お疲れ様、白銀会長」

「うん? 小倉か」

 

 小倉次郎であった。四宮かぐやに仕える使用人として、可能な限りの情報収集に努めるのもまた仕事の一種なのである。

 

「どうした、神妙そうな顔で話しかけてくるなんて……もしや?」

「いやぁ、またちょっといいバイトを紹介してもらえないかなぁと思いまして」

 

 その瞬間、白銀の目の色が変わる。

 決して裕福な家の生まれとは言えない彼は常日頃からアルバイトに勤しんでいた。勉強するにも金がかかる。特にシャープペンシルの芯などの消耗品の消費が異常なため、自らの手で稼ぐしか無いのだ。

 そのため、白銀は常に一定量バイトを入れていなければ安心できない生粋のアルバイト戦士(ジャンキー)と化しているのであった。

 

「お前も今月は厳しいのか」

「ええ、勉強道具をそろそろ更新しないとヤバいんですが、そうすると……って感じで」

 

 四宮の別邸で住み込みで働く小倉は給金を貯金していた。必要な時に、必要な額を下ろすだけ。

 そんなにお金には困っていないからこそ彼は、ごくたまにアルバイトをすることがあった。

 学校、四宮の別邸の2つの世界だけで生きている自分だからこそ、たまにでも外の世界に触れることで認識や価値観が凝り固まらないようにしているのだ。

 

「うむ、相変わらずお前も苦労しているようだな。分かった。アルバイトならば俺に任せておけ。近いうちにいくつか見繕ってきてやろう」

「ありがとうございます白銀会長!」

 

 そう言った事含め、最初は情報収集がてら白銀に近づいただけに過ぎなかった。何か主人(四宮)の土産話になりそうな話でも聞ければ重畳。その程度。

 だが、中々どうして。とても話が合う。願わくばこんな汚い下心を含めて接触したくなかったと、小倉は思ってしまったくらいには。

 

「ところで小倉、お前は確か帰宅部だったよな?」

「え、はい。そうですね」

「そうだよな。ふむ……」

 

 じっと見つめる白銀。対する小倉は少しだけ緊張していた。

 

(まさか、俺がただの生徒じゃないってことがバレてる……?)

 

 白銀は間違いなく優秀だ。そんな彼がどうでも良いような日常の情報の中から小倉の真実を導き出そうものなら、実に容易く暴かれてしまうだろう。

 そんな懸念を抱かれていることなど知らぬ白銀は決意したように頷いた。

 

「小倉。昼休憩の時、ちょっと時間をもらえないだろうか?」

「良いですよ? あ、でも弁当食べてからでも良いですかね?」

「勿論だ。何なら生徒会室を使ってくれ。俺もそこで食う予定だ」

「うぇっ!?」

 

 ここで思わず声をあげてしまった。もっと良く聞けば良かったと自分の判断ミスを呪う。

 

「どうした? 何か問題が?」

「な、何も無いです。はい、何も、無いです」

「なら良かった。そろそろ鐘が鳴る。授業が終わったら一緒に行こう」

「……了解です」

 

 四宮かぐやから下されている言いつけがいくつかある。

 その中でも、特に守ることを課せられている言いつけが1つだけ。

 

 “小倉くん、生徒会室には絶対に来ないでくださいね。もし来たら……その時は、分かりますね?”

 

 四宮かぐやは白銀御行の事が好き、というのは小倉も知っていた。だからこそ、彼女がそこまでキツく言う理由も想像がつく。

 

(万が一にでも、俺とかぐや様の関係を勘付かれてしまえば致命的だもんなぁ。分かる分かる)

 

 相当ヤバい出来事になりそうな予感がムクムクと湧いてくるが、ここまで来てしまえばもう断れない。むしろそうすることによって不信感を抱かれ、今後の関係に影響してくるのは間違いない。

 

 小倉は授業中、現実逃避とばかりに、今日の昼食である早坂のサンドウィッチの事を考えていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 授業が終わり、今すぐにでも逃げたかったがわざわざ白銀から迎えに来てもらっては、その選択肢は一瞬で消えてしまうのは当然といえよう。

 生徒会室へ向かう道中、白銀は小倉に言った。

 

「すまないな小倉、わざわざ足を運んでもらって」

「いえいえ。それで、俺に何の用なんですか?」

「なに、最近帰宅部が増えてきているようでな。部活動を強制させる、という訳ではないのだがやはり少し気になる。部自体に問題があるのか、それとも家庭の事情なのか、もしくはまた別の問題なのか……とかな」

「まあ帰宅部が増えているってことは部を辞めたってことですからね」

「そういうことで、生徒会は近々意識調査を行おうかと考えている。それには調査用紙が必要だ。ここまで言えば分かるか?」

 

 小倉は頷いた。となると、今日限りで終わるかどうか怪しくなってきたな、と彼は少しだけ冷や汗をかく。

 

「早い話が調査用紙を作成するための意見出しですかね? 俺、帰宅部だし」

「その通り。今回のターゲットは帰宅部だ。そうなると、こちらとしては同じ立場の人間の意見を事前に聞いておきたい。この聞き方では回答しづらいか、とかこれは把握しておいた方が良いのではないか、とかな」

「趣旨は理解しました。もちろん喜んで協力させていただきます……とは言っても、俺こそ元々帰宅部だったのでどこまで白銀会長の参考になるか分かりませんがね」

「それで良い。助かる」

 

 もう少しで生徒会室へ続く一本道の廊下へ出る。その直前、小倉は背後から強烈な悪寒を感じた。

 振り向いては駄目だと心の中でもう1人の自分がガンガン警鐘を鳴らすが、それでも振り向かざるを得なかった。絶対に後悔することが目に見えていたから。

 

 

「あれ~~? 会長と小倉くん? 何してるし~~?☆」

 

 

 このセリフに星が付きそうなくらいにきゃぴきゃぴした声を聞いた瞬間、小倉は1回目のゲームオーバーを迎えていた。決して気取られず、振り向くとそこにはよぉく知るサイドポニーが。

 

「ん? お前は確か……」

「も~~会長さんひどいし~~。早坂! 早坂愛だし!」

「ああ、そうか早坂だったな。こんな所で会うなんて珍しいな」

 

 このあまりに高い変装ぶり(社交性)に思わず吹き出しそうになった。なんせ、小倉が知っている早坂はいつもドスを利かせた喋り方しかしていないだけに、そのギャップの破壊力たるや。

 

「ちょっと友達と内緒の話してた所~! そ・れ・に・し・て・も」

 

 にこにことした愛嬌ある笑顔を浮かべたまま、早坂は言う。

 

「二人こそどこ行くつもりだったし~~? この先なら生徒会室だよね~~?」

「ああ、そうだ。ちょっと小倉に頼みたいことがあってな」

「そうですよ。いやぁ、生徒会室って普段入らないからとても楽しみだなぁ! あっはっはっはっ!」

「そうだったんだ~! 小倉くん会長()()()()()()協力してあげなよ~~!」

 

 そう言いながら早坂は目をパチパチと動かす。視線の先には勿論小倉。そして、このアイ・コンタクトの意味を彼は頭の中で言語化して受け取っていた。意味するところはこうだ。

 

 “ア ト デ シ ッ カ リ ハ ナ シ ヲ キ カ セ ロ”。

 

「もちろんですとも! 白銀会長には普段からお世話になってるから誠心誠意協力させていただきますよ!」

「じゃあウチ、これから友達の所に戻るから~~! ばいば~い会長に小・倉・く・ん!」

 

 小倉は涙目になっていた。この先の生徒会室への廊下が断頭台への道に見えるような気がするのは、絶対に気のせいではないであろう。




早坂を必ず出していきたいところです
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