早坂愛は避けられたい~有能侍女の恋愛伯仲戦~【完結】   作:鍵のすけ

4 / 20
第4話 早坂愛は言い返せない

「よし、こんな所か」

「お疲れさまでした」

 

 時間にして20分、といったところであろうか。白銀が資料を纏め始めたところで、彼からの頼まれごとは終了した。

 

「助かったよ小倉。おかげでポイントを押さえた調査が出来そうだ」

「いえいえ、白銀会長の叩き台が良かったからですよ」

 

 弁当を食べた後、すぐに帰宅部に対する意識調査の調査票精査が始まった。

 形式としてはまずざっと見てもらい、白銀が1問1問丁寧に小倉へ確認していくというもの。

 そういった流れだったので特に小倉は身構えることなく、精査に取り組めた。人の上に立つ人間というものは、こういった細かなやり取りにその『格』が透けて見えてくる。

 そういった点で言えば、白銀はパーフェクト。生徒会長だからと傲慢になることもなく、あくまでお願いをしている立場だということを良く理解している聞き方であった。

 

「せっかくだ。コーヒーでも飲んでいくか?」

「え、良いんですか?」

「ああ、俺も飲むからそのついでだ。いつもこの時間飲んでいてな。飲まんと調子が狂ってしまう」

「そういうことならご相伴に預かります」

 

 そう言うと、白銀は頷き、早速コーヒーを淹れる準備に取り掛かった。

 手持ち無沙汰だったので、手伝いを申し出るも、「客人は座っていてくれ」と返されたので小倉はお言葉に甘えることにした。

 彼は職業柄、コーヒーを淹れる立場のため、こうして誰かにされるのがたまらなくむず痒かった。何だかこう、ソワソワする。

 

(会長もこなれてるなぁ)

 

 ぼーっと小倉は白銀の様子を見る。

 手付きはやはり素人だ。しかし、それを補って余りあるほど豆が良いのか香りはまずまず。

 流石天下の秀知院学園、といったところであろうか。こういった所にも質を求めていくのだろう。

 

「待たせたな」

「ありがとうございます」

 

 温かいうちにまずは一口。味、香り、やはり良い豆を使っていた。これは何だろうかと思い出している間に白銀が話しかけてきた。

 

「どうだ? と言っても、恥ずかしながら俺は素人でな。もしかしたら口に合わんかもしれないがそうだったら謝っておく」

「いえいえ! とても美味しいです。白銀会長は何かコーヒーについて勉強を?」

「いいや。ただカフェインを摂ると頭が冴えるのでだらだらと飲んでいるだけだ……とは言え。折角なら美味いコーヒーを飲みたいだろう? それでほんの少し書物をかじってみた程度に過ぎん。勉強だなんて、とてもじゃないが言えんよ」

「だったら鍛えればまだまだ上達しそうですねー」

「ははは。褒めても何も出んぞ……と、言いたい所だが」

 

 立ち上がり、白銀が自分の机の引き出しから何かを取り出してきた。

 

「いつもなら何も出なかったが、今日はこのどら焼きをプレゼントしてやろう」

「こ、これは!」

 

 包みを見て、即座に小倉はそのどら焼きがどんな代物か気づいた。

 

「日本3大どら焼きの中でも頂点に君臨する老舗、『たぬき屋』のどら焼き……だと!?」

「流石、お目が高いな」

「どれだけ大量に作っても30分で売り切れるという“お化けどら焼き”じゃないですか……。どうやって手に入れたんですか?」

「ああ、ちょっと食には異常なほど執着が強いウチのメンバーが――」

 

 そこで開かれる扉!

 その先に立つ者を見た小倉は出来ることなら一刻も早くその場を離れたい気持ちでいっぱいになる!

 

「あれぇ? 会長と……えっと」

「初めまして。小倉次郎と申します」

「あ、一緒のクラスの小倉くんですか! 私は藤原千花って言います! よろしくお願いします!」

 

 そう言って、ゆるふわ巨乳少女・藤原千花は人懐っこい笑みを浮かべた。

 対する小倉も笑顔で返す。

 

 彼の言葉に嘘はなかった。ただし、“秀知院学園(ここ)では”という枕詞を使っていなかっただけで。

 小倉次郎は藤原をよく知っていた。あの四宮かぐやの厳しい試練をあっさりと乗り越え、友人関係になれた剛の者。

 当時、その話を聞いた時、小倉は「今、宝くじを買えば大当たりするんじゃね?」という事を考えたくらいには驚天動地の出来事であった。

 だからとても印象に残っている。人間性といい、()()()()ことといい。

 

「あーっ! 会長それぇ!」

「ああ、藤原書記から貰ったものだ。何だか勿体なくてな。取っておいてしまったんだ」

「え~っ! 何で食べてないんですかぁ!? とっても美味しいですよ!」

「だからそこの小倉と半分で食おうと思っていた」

 

 瞬間、藤原の思考回路がフル稼働する!

 たぬき屋のどら焼きは藤原千花といえど、そう簡単に手に入るものではないのだ。取り置きNG、買い占めNGなど彼女が思いつくあらゆる手は“出入り禁止”という一言で終わってしまう。

 店主が絶対に権力に屈しないこともあり、安定確保が難しい、彼女を以てしても現代の宝と呼ぶべき逸品。

 それが今、半分こで自分を差し置いて食べられそうな事態に、彼女は脳細胞レベルで覚醒する。

 

 

「小倉くん! 私とババ抜きで勝負しましょう!」

 

 

 そこで藤原千歌、さながら刀を抜き放つが如く、トランプを懐から取り出した!

 その眼には決して逃げることは許さぬとばかりの炎を燃やし。

 

「ババ抜き、ですか?」

「はい! それで私が勝ったらそのどら焼きは3等分にしましょう!」

「藤原書記、それは流石に意地汚い気が……」

 

 白銀が明らかにヒイていることが分かっても退かないのが藤原である。というより、彼女も自分の言っていることがよく分かっているのか半泣きで反論した。

 

「だってぇ! 私もそのどら焼き食べたいんですもん! 知ってますか会長!? そのどら焼き、ちょ~~~~~~~~~~~~~~~~手に入りにくいんですよ!?」

「お前という奴は……」

「さあやりましょう小倉くん! 会長は放っておいて!」

「いや、じゃあ僕はいらないんで代わりに藤原さんが……」

「それじゃあ私、ただただ食い意地が張ってるって思われてしまうんですよぉ! お願いだから戦ってくださぁい!」

 

 この話を持ちかけた時点で既に食い意地が張っているのでは、と喉元どころか既に舌の上まで来ていたが小倉は何とか飲み込んだ。

 彼は白銀へ視線を送った。

 すると、白銀は諦めたように首を横に振る。

 

(ああ、これもうババ抜きやらないと気が済まないやつなんですね)

 

 面倒臭い(カオス)

 あろうことに、この状況を作り出しているのがたった1人だという現実に軽く身震いしながらも、小倉は覚悟を決める。

 右手を握っては開き、握っては開き。準備は整った。

 

「良いですよ。やりましょう藤原さん」

「良いんですかぁ!? じゃあやりましょう!」

「ええ、良いですよ。ですが俺――」

 

 後から白銀は、その時の小倉の表情はしばらく忘れられないだろうと、振り返った。

 何せ彼は、それはとてもとても邪悪な笑顔を浮かべていたのだから。

 

 

「――こういった賭けババ抜きで負けたこと、たったの一度も無いですよ?」

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「それで、結局俺が勝利。藤原ちゃんが食い下がってきたけど全勝っていう訳。どう? 俺すごくない?」

「どーせイカサマでしょ? 何だかんだ勝負強そうな書紀ちゃんがそんなに負ける訳ないし」

「いやいやほんとだって。俺、昔っからババ抜きだけはマジで負けたことないから」

 

 得意げな小倉、対する早坂はジトーっとした視線を送るだけであった。

 2人にとっては“いつもの場所”である使用人たちの休憩室で軽い夕食を取りながら、小倉は今日の出来事を報告していた。

 元々、早坂から白銀と何を話したか報告する脅し(お願い)を受けていたので、逃げるわけにはいかなかった。

 

「それにしても、アンタが余計なことを言っていなくて安心したって一応言っておく?」

「俺を誰だと思ってるんだよ」

「軽薄クソむっつり猿」

「オッケー。どうやらお前の頭にはカフェインが足りてないらしいな? 今なら樽でぶっかけてやるがどうする?」

「かぐや様へ、小倉にいじめられたって言う」

「まじですいませんでした。俺が人間のクズです」

 

 早坂にとっては冗談かもしれないが、本当にやられたら比喩表現抜きで消される未来しか見えなかった彼は額をテーブルへ擦り合わせる。

 プライドなんてクソッタレ。生きていることこそが素晴らしいのだ。

 

「あ、ところで早坂」

「何?」

「今日用意してくれた昼のサンドウィッチ、美味かったよ。ありがとうな」

「――っ」

 

 プイ、と早坂はいきなりそっぽを向いたので、小倉は冷や汗が吹き出ていた。

 何かマズイことを言ってしまったのだろうか。言ってしまったのなら、恐らく自分に明日が無いことが確定する。

 怯えながら小倉は早坂を見る。彼女はどこか遠くを見るようにしながら、一度大きく深呼吸をした。

 

「……本当に?」

「何が?」

「本当に、美味しかった?」

 

 彼女にしては珍しく、どこか自信なさげに時々視線を空中に彷徨わせながら、念を押してくる。

 普通の男子高校生ならばそこで理性を失ってしまうほど、どこか早坂に“か弱さ”が滲み出ていた。ただでさえ美少女、これにはもはやときめくなという方が無理な話。

 しかし、そこでその“か弱さ”を鋭敏に感じ取れない思考停止野郎(ボンクラ)こそが小倉次郎なのであった。

 

「当たり前だろ。お前の料理なら無限に食えるぜ! って感じ」

 

 そこで早坂、立ち上がる。

 本格的に怒らせてしまったのか、と小倉が身構えていると、彼女は聞こえるか聞こえないかといったくらいの声量でぽそりと一言呟いた。

 

 

「―――――ほんっとアンタ、キライ。ダイキライ」

 

 

 小倉が引き止める前に、早坂は部屋を飛び出していった。

 彼はしくじった、という気持ちと“何だか耳が赤かったような?”という気持ちの2つを背負っていた。

 彼女にしては珍しい、不可解な奇行。ずっと彼女と居た小倉にはそれくらいにしか映らなかった。

 

「何なんだ……?」

 

 誰も答えてくれないのは分かっていたが、それでも一人()ちずにはいられない。

 

 

「ええ、何なんでしょうね? 早坂があんなに取り乱すだなんて。これは、昼間の件と一緒にじっくりと聞かせていただきたい所ね――小倉」

 

 

 全身が凍てつくかのような圧倒的覇気!!!

 こんな覇気が出せるのは世界でもこの()()だけだろう。

 

「こ、こんな所に珍しいですねぇ、かぐや様」

 

 小倉次郎にとって仕えるべき主・四宮かぐやは、それはそれはとても慈愛に満ち溢れる微笑を浮かべていたそうな。

 

 

 本日の勝敗――小倉の完全敗北。




5月11日の二次創作日間ランキングに43位で載っておりました!ありがとうございます!
そして、感想や評価、そしてお気に入り登録をしてくださった皆様ありがとうございます!

感想をくださった
朝日水琴様、トネッピー様、そしてメッセージで感想をくださった空牙刹那様ありがとうございます!

評価をくださった
せっつぁん様、ガンガンいけいけ雨霰様、猫耳の女の子様(一言評価ありがとうございます)、ky1570様(一言評価ありがとうございます)、AvengerRaki様(一言評価ありがとうございます)、ケチャップの伝道師様、ハーフシャフト様ありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。