早坂愛は避けられたい~有能侍女の恋愛伯仲戦~【完結】   作:鍵のすけ

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第5話 四宮かぐやは問い詰めたい

 突然の四宮の来訪!

 心臓が止まりそうになる小倉!

 出来得る限り自然にその場を離れようとしたが、上手く扉の前に位置取られてしまい、逃走は許されない!

 さながら敗戦した軍隊を取り囲み各個殲滅するかのごとく鬼畜具合。

 小倉は深呼吸をする。臆せば負けである。ましてやこの四宮かぐやの前ならば尚更である。

 

「きょ、きょきょきょきょ今日の昼の件とは一体何のことですか? 俺って昼休みという概念がないので、ちょっと言っている意味が……」

 

 まずはジャブ。とぼけることでこの事態を上手くはぐらかせるか試みることにした。

 

「今日、会長と一緒に入りましたよね? 生徒会室に」

 

 だが、四宮かぐやによる電光石火のカウンター!

 これがリングの上ならば、既に沈んでいたかもしれない鋭く強烈な一撃。

 終われない。ここで、終わるわけにはいかない。

 

「一体誰がそんなことを! 俺があの天下の白銀会長と生徒会室に入るだなんてそんな馬鹿な話、一体誰が? かぐや様、もしかして踊らされているのでは……」

「早坂から聞きました」

「弁明の時間を頂けないでしょうか我が偉大なご主人かぐや様」

 

 刹那、小倉は額を地面に擦りつけた。それはそれは綺麗な土下座であったそうな。

 嫌な予感がしていたが、ここは賭けであった。例え、早坂の名前が出された時点で土下座しようと最初から決めていたとしても、である。

 

「顔を上げなさい」

「ういっす」

 

 無言で続きを促されたので、小倉は先程早坂へした話をもうちょっと丁寧に補足し、説明を行った。

 それを聞いた四宮、形の良い顎に細い指を当てる。

 

「なるほど、会長が帰宅部である小倉に……」

 

 四宮は頭の中で自分の把握している情報と、小倉が述べた説明との擦り合わせを瞬時に行い、とりあえず嘘は言っていないことを認めた。これで適当に言い訳をしようものなら、給料一部カットで対応しようと思っていが、それは一旦取り下げる。

 同時に、彼女の頭の中ではまるでパズルを組み立てるかのごとく、カシャカシャと動いていた。

 

「小倉、貴方ってどれくらい会長と仲いいの?」

「俺ですか?」

「ええ、会長はいくら悩んでいるからと言って適当な人間に声を掛けたりはしないわ」

 

 四宮の知っている限りの白銀像だけで話をするならば、白銀御行はいくら困っているからといって、その辺にいる適当な人間には声を掛けない。それをするくらいなら自分が死ぬ気で頭を捻るのだと知っているから。

 だが、今回のケースは()()()()()()()()()

 となれば、それだけ親しいし、信用をしているのだと導き出すのは当然の帰結。

 

(早坂とは違い、男性だからこそ得られる情報というものがある……私としたことが、こんなにも簡単な事に気づかなかったなんて)

 

 瞬時に組み立てられる打算。

 早坂だけに頼ってきた情報網が更に広がることで、白銀御行に告白をさせるという詰将棋をまた一手進めることが出来る。

 そんな彼女の思考に気づく様子もなく、小倉はこう返した。

 

「割と仲良いっすね。ってか、あの人に声かける人あんまりいないから、そういうのもあって親しく思ってくれてるんじゃないんですかね?」

「へぇ……」

「まあそういう点でいけば、精神的ボッチのかぐや様と相性良いんじゃないっすかね? あっはっはっは!」

 

 瞬間、全身が強張った。具体的には、凍てつくような眼の四宮が小倉のネクタイをねじりあげていたからである。

 

「私、正直な人は好きよ? こういうことをしたくなるぐらいにはね」

「ギブ……死ぬ……ギブ……」

 

 一体どこでこのような技を覚えてくるのだろうか。これほどまでに的確に、効率よく締め上げてくる人間が現代の世にいてたまるか。やっていることと眼だけ見れば、まるで稀代の暗殺者と対峙しているかのような感覚になっていた。

 

「良いですか小倉。たまに言っていますが、私は貴方の首をいつでも飛ばせるということは、覚えていますよね?」

「あ、ははは……社会的になのか肉体的なのかまるで判断つかねーっすね」

「軽口を叩く相手は選ぶことね、そしてあまり生徒会室には近寄らないで。もし私と貴方の関係が勘付かれれば、分かるわよね?」

 

 そう言って解放された小倉はすぐに酸素を取り込む。

 

「そうだと思います……だけど、俺はあると思いますがね。リスクを背負わなければ勝ち取れない情報……ってやつが」

「ナンセンスね。そんな情報なんて無い」

「そうですかね?」

「ええ、必要なら必要な人材を雇えば良いだけの話よ。わざわざリスクを背負ってまで得られる情報があるならむしろ教えて欲しいぐらい――」

「意識調査の質問事項精査の時に俺、会長がかぐや様のことを普段どう思っているか聞いたんですよね」

 

 

「――人間、リスクを負わなければ勝ち取れないものがあるわ。情報もそうよ。リスクを背負ってこそ掴み取れる情報がこの世には無数に存在するのよ!」

 

 

 一体、普段どんな食生活を送っていればこんなに鮮やかに立場を変えることが出来るのかと疑問に思ってしまう。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「なあ早坂、俺に言いたいことは無いか?」

「何の話だし~?☆」

 

 翌日、学校の廊下で小倉は早坂をひっ捕まえ、誰も居ない廊下へと引っ張ってきた。

 にこやかに怒る小倉、にこやかに返すギャルモード早坂。

 

「いや、今誰もいないし。その猫かぶりしなくて良いから」

「ありがとうね小倉くん! 四宮さんにこっぴどく怒られたって聞いたから今日のお昼のサンドウィッチとっても美味かったし!☆」

「オーケー。喧嘩売ってると見てよろしいですね?」

「結果的に四宮さんが見逃してくれたんだから結果お~~らい?」

「お~~らい? じゃねえ! おかげで今月の給料ヤバかったらしいぞ俺! “小倉は今月のお給料、別に90パーセントカットでも十分に生きることは出来ましたよね?”だってよ! 実質死刑宣告だよこのやろう!」

「その時はウチが面倒見てやるのもやぶさかではなかったし?」

「なんだその疑問形は! ……はぁ、文句言ってたら何かスッキリしたわ」

 

 早坂愛の作戦、成功である。

 昔から小倉は、こうして口に出させることでガス抜きを完了するのだ。だからこそこういった事で拗れたことは一度もないのだ。

 すっかり元の調子に戻った彼は、早坂をじっと見る。

 

「どしたし?」

「……まあ、どこで誰が聞いてるか分からないからそれでも良いか。はぁ、教室戻るわ俺」

 

 そう言うと、小倉は背を向け、教室へ歩き出す。

 彼も彼で、今この場に早坂と2人きりでいるというのは中々危ない行為であったのだ。

 早坂はいわゆる陽キャたちの中、対して小倉は陰キャたちの中に溶け込むのが一番のカモフラージュとなっている。そんな相反する2人がこうして意味ありげに廊下にいるという噂が広まってしまえば、非常に面倒くさいことになる。

 リスクマネジメントを考慮するなら、そもそも屋敷の方で話をするべきだった。

 頭に血が上ってしまっていたな、と少しだけ反省する小倉。

 

「……小倉」

 

 唐突に聞き覚えのある声色。振り向くと、目つきが小倉のよく知る早坂になっていた。

 首を傾げて次の言葉を待つと、早坂は視線を反らしながら、こう言った。

 

「さっきの、冗談じゃないから」

 

 さっきの、とは何だろうかと少し固まると早坂は駆け足気味に小倉を横切った。

 声を掛けたが、あっという間に去っていくという最近良く受けるこの対応に彼は疑問符が浮かぶばかり。

 

「うん? ……何だったんだ? あいつって基本、俺を茶化すことしか言わねーからどこの事か全く分からんな」

 

 

 廊下を1人早歩きしていた早坂は自分の口の軽さに、恥ずかしさを感じていた。自分らしくないと、いつも思う。

 彼、小倉次郎を目の当たりにすると、小倉次郎と会話をすると全部の調子が狂ってしまう。

 声が聞こえてきた。いつも早坂がつるんでいる女生徒2人の声である。

 早坂はこめかみに人差し指を当て、心のスイッチを切り替える。いまから自分は彼女たちと馴染むための人格になるのだ。

 

 切り替わる刹那――早坂は最後に自分の口から滑らせた言葉を一度だけ思い返した。

 

 

(その時はウチが面倒見てやるのもやぶさかではなかったし――ほんとだし)

 

 

 本当に、調子を崩してくる男なのだ。今日の夜の賄いは、彼が嫌いな辛い料理にしてやろうと、そう彼女は心に決めた。

 

 

 本日の勝敗――早坂の勝利。




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