早坂愛は避けられたい~有能侍女の恋愛伯仲戦~【完結】 作:鍵のすけ
「さて、昼休みか」
今日も今日とて勉学に励む小倉。
日々業務で精神をすり減らしている中の一服の清涼剤といっても良いだろう。だから、彼には勉強に対するモチベーションが割と高かったのだ。
気づけば、もう昼食の時間であった。
早速、彼は手作りのサンドウィッチをどこで食べるか考える。
最近小倉はどこで食べると気持ち的に美味いかを探る遊びをしていた。
(屋上、廊下の隅っこ、中庭、教室、今日はどこにするか……)
すると、小倉に近づいてくる者がいた。
「よう小倉」
「あれ白銀会長どうしたんですか?」
「何、今日石上と一緒に弁当でも食うかという話になってな。それで、もしお前の都合が良ければだが、一緒にどうだ?」
「ってことは生徒会室ですか?」
「そうなるな。ついでに少し雑務を片付けるつもりだ」
「ふむ……」
小倉は前回、生徒会室で昼食を食べたことがある。しかし、その時は仕事のことが頭にあったので、ただただ早坂のサンドウィッチが美味いという記憶しか無かった。
だが、今回はそういった仕事ではなく、ただのプライベート。生徒会室で食べると気持ち的に美味いかどうかを探れるまたとない機会。
小倉の返事はすぐに決まった。
「白銀会長と石上が良いなら、是非とも一緒に食べさせてください」
実は小倉、生徒会室に入ることに対して、制限がなくなっていた。
四宮は小倉にこう言った。
“同性の貴方だからこそ出来る情報収集がある。そうよね? だから貴方にはもう生徒会室に来るなとは言わないわ。――言っていること、分かるわよね?”
あの時の主の表情は、とても優しく、それでいて凍てついていたことは今でも思い返せる。多少のことは見逃されるだけに、しくじった時に跳ね返ってくるリスクがデカいというのは今は頭の隅に追いやっておく。
「お疲れ様です会長、それに小倉先輩」
「先に来てたんだな石上。よし、じゃあ早速食うか。小倉は適当な所に腰掛けてくれ」
「お邪魔しまーす」
三人は早速互いの弁当をテーブルの上に置いた。白銀はザ・お弁当という非常にオーソドックスな物、石上はコンビニ弁当、そして小倉は手作りのサンドウィッチである。今日は小倉が弁当を作る番だったので、早坂も同じ物を食べている。
「石上の弁当、随分とボリュームがあるな。最近のコンビニ弁当は凄いな」
「まあ、その分栄養とか金額とか放り投げているんですけどね。小倉先輩はそれ、手作りですよね? 料理良くやるんですか?」
「趣味程度に。あんまり金掛けたくないし、それなら自分で作ったほうが良いなーってだけの気持ちで始めたかな」
それに白銀、頷く。
「うむ、分かるぞその気持ち。それに、自分の食べたいものだけを詰められる手弁当の可能性は侮れないものがある」
「石上も今度作ってみてみ? 割とイイもんだぞ」
「そっすね……コンビニ弁当も味濃いのしか無いから結構飽きが来てしまうんで、自分で作るのはアリっすね」
小倉的には縁がない体験である。彼は情報収集として男子たちと一緒にいることが多いが、それだけである。
距離感を徹底的に保ち、あと一歩を踏み込ませない。決して面白くはない立ち回りである。
だが、この瞬間は。生徒会メンバーと話すこの瞬間だけは、何故か小倉はそんな立ち回りをしようという頭が無かった。
(そういや早坂も確か、良くつるんでいる奴が2人いるって言ってたな。……こんな感じなんかね)
そこで、小倉何気なく生徒会室を見回す。学校活動の心臓部なだけあり、その広さと家具や調度品の質は一級品。そしてどこかいい匂いもする。
その香りをオカズに、小倉はサンドウィッチを一口。今日はレタス多めのハムサンド。本来の予定なら豚カツサンドにでもしようかと思っていたが、早坂からのリクエストを受けたので仕方なく切り替えたという裏話がある。
滅多に入ることがない生徒会室、そのプレミア感もあり、いつも食べるレタスハムサンドの味が一段グレードアップしたような気がした。
「……い。おい、聞いてるのか小倉?」
「うぇっ!? ああ、すいません! ちょっと考え事をしてました! それで何でしょうか?」
「そうだ。その喋り方だ」
「これですか?」
腰低く接するための、いわゆる仮面である。何か気に障ることがあっただろうか、と小倉は少し心配になる。
「石上とのやり取りを聞いてれば、そっちの喋り方の方がリラックスして喋っている気がしてな。もしそっちが嫌でなければ、俺にもそういう接し方で来てくれないか?」
まさかのお願いに、小倉は思わずサンドウィッチを落としそうになった。
「え、良いんですか? そんな事言われるとは思ってもいなかったんで……」
「そうか? まあ、前からだいぶ他人行儀だったなと思っていたんだ。この際だ、気楽にいこうじゃないか」
「そういうことなら、徐々に慣れていき、いく」
「はっはっは。上出来だ」
それぞれ食べ終わり、少しだけ休んでいると、石上が口を開く。
「そういえば、もうちょっとでテストでしたっけ? お二人の調子はどうですか?」
「俺はまあ、いつも通りだな。やれることをやるだけだ。小倉はどうだ」
「俺は……いつもよりは勉強の時間を取らないとマズいかもですね……」
「そうなのか? 確か、小倉はいつも10位には入ってるだろ。そこまで今回は辛い所なのか?」
訂正しようとして、小倉は止めた。
確かに彼の言うことに嘘はなかった。具体的に言わなかっただけで。懇切丁寧に説明するのも何だか気恥ずかしかったので、小倉は口を閉じる。
「そんな所と言えばそんな所」
◆ ◆ ◆
今日も日常の業務を終えた早坂は、お気に入りの某動画サイトにアップロードされている動画を見ようとしていた。
そんな時、部屋の扉のノック音が聞こえた。扉を開くと、そこには小倉の顔が。
「さて、早坂。お勉強の時間だ」
「お休み小倉、明日も早いから寝坊しないように……っ」
すぐに閉めようとした扉に足を入れ、ストッパーにしてくる小倉。彼は足の痛みに耐えながら、言った。
「おいもうちょっとでテストだぞ! 今回も勉強しなきゃお前、順位落ちるって!」
「私は落ちても大丈夫だから……」
「大丈夫じゃねえわ! 勉強は大事な武器になるんだよ! 戦士で手前の武器メンテしない馬鹿はいないだろ? 同じなんだって! 仕事もそうだが、俺たちは勉強も同じくらい頑張らなきゃならねえんだ!」
「いっつも、同じこと言ってくる……っ! 私はこれから動画を見るの……っ!」
「それはまた今度だ。大丈夫だって! いつも通り30分で終わってやるから! だから30分だけやる気出せ!」
この時期の小倉のやることは決まっていた。
早坂にテスト勉強をさせることである。別に、誰かから頼まれた訳ではない。ただ、小倉が必要だと思ってやっていた。
ただでさえ、勉強する場にいるのが奇跡的な職場なのだ、やるに越したことはない。
「小倉はどうしてそこまで私に勉強させたいの……っ」
「お前がテストの順位低いとか思われるのが癪なんだ……よっ! お前は優秀で、頑張れる奴なんだからやらなきゃならんだろー……っが!」
一気に開け放つ小倉。
そこで彼が目にしたのは、髪を下ろした早坂の寝間着姿であった。決して派手ではなく、質実剛健な彼女らしい最低限の可愛らしさが保証されたデザイン。
だが、今の小倉にはそれに見惚れている時間は1秒もなかった。
「……私は今、ベッドに入ろうとして、こういう姿になっているんだけど、何か感想は?」
「おう可愛いな。じゃ、30分だけ勉強するぞ」
「少しでもドキっとするかなと思って聞いた私が馬鹿だった」
「何でだよ、割と勇気出して言ったぞ」
「はいはい。……あ~何か話してたら、少しだけやる気出たから今日は口車に乗ってあげる」
「今日だけじゃなくてこれからも口車に乗ってくれや」
顎で入室を指示した早坂は一瞬だけ小倉の顔を盗み見た。
少しだけ目に疲れが見える。当然だろう、以前に聞いた睡眠時間がずっと続いているのなら、この時間は自分以上に貴重なはず。
それを自分のために使ってくれる、というのだから無碍に出来ようはずがない。
だから、もしあえて、この状況に対して言葉を紡ぐなら。
「……ありがと」
「はいはい。どういたしまして。今回はテストの順位、2桁台目標だからな。気合入れていくぞ」
「小倉って、先生にでもなったほうが良いんじゃない? 似合ってると思うけど」
「それも良いかもな。けど、どうやら俺はこの仕事の方が性に合ってるんだと思うわ。それにその仕事にはお前が……」
何気なく早坂の顔を見てしまった小倉。髪を下ろしている分、普段と印象が違う。
いつもならこの後は軽口を叩けるのだが、そんな彼女を見ていたら何故か喉から言葉が出なかった。
「どうしたの小倉?」
「ええい。聞くな聞くな、さっさとやるぞ」
たかが30分、されど30分。そんな時間が恐らく、2人にとってはとても大切な時間なのだ。
本日の勝敗――小倉と早坂の勝利。
本日は総合日間18位、二次創作日間24位でした!応援ありがとうございます!非常に嬉しいです!
新しく感想をくださった
AvengerRaki様、クレイモア様、早坂大好き様ありがとうございます!
新しく評価をくださった
霞花 悠馬様(10評価と一言評価ほんとうにありがとうございます)、とんぬらんど様(10評価と一言評価ほんとうにありがとうございます)、怠惰な羊様(10評価と一言評価ほんとうにありがとうございます)、新垣千様、せいばー00様、Mr.パラダイス様、くらーく様ありがとうございます!