百合が書きたかったのに変な方向に転がった。

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リリーリインカーネーション

 六月、じめじめとして自然には優しいだろうけど人間には優しくない月。そんな曇天の中で私は走馬燈を見ていた。私は冷めた子供だった。親には頭がいいと褒められたけれど、それは幼い私にとって全くの皮肉だった。他人と同じことで同じ感動を得られない。それはとても子供にとって残酷なことだ。

 

 そんな背景もあって幼かった私は仮面を被ることを発見してしまった。格好良く言えばペルソナだろうか、本当の自分の姿を出さないように、本性を覆い隠す仮面。そんなものを長々と被り続けてきた。気が付けば大学は半分を過ぎ、私は就職活動に追われる時期になっていた。

 

 勉強だけは出来たので、地元の国公立大学に入った。それ以上を目指そうという熱量もなければ努力によってそれ以上を目指す目的もなかった。一般的な社畜候補生の私はレールをひた走るだけだ。将来の不安なんかは感じているけどどうでもよかった。

 

 私にとって人生とは傍観するものであり、時間は通過していくものにすぎないからだ。たいして美しくなければ醜くもない平凡な容姿も相まって私は自分を人形だとさえ思う。

 

 あるいはだ、誰かに恋い焦がれるようになればこんな私も代われたのかもしれない。そう思ってももう遅い。私の身体は空中にあってすぐ傍を鉄の塊が走ってくる。死。生物ならば避けられないものが、すぐ近くにあった。死神は怠慢な性ではないらしい。

 

 そうして私は死んだはずだった。

 

 だけれども、私は生きている。これは不思議なことだ。鼻には異臭は入らない。病院の消毒液やら薬品の匂いもしなければ、死体置き場の腐臭も感じない。もっとも後者については実際に嗅いだことは無く想像に過ぎないのだが。

 

 衣擦れの音がしたので私は振り向いた。そこにいたのは豊満な肢体を惜しげもなく晒した褐色の肌をした美女だった。見ているだけで目に悪い。私があのような格好をしたら恥ずかしさで憤死してしまいそうだ。

 

 共感性羞恥というものなのだろうか。私まで恥ずかしくなった赤面してしまう。けれども顔を背けたくても彼女から目を離せなかった。彼女の黒真珠のような瞳や、程よい厚さの唇。あの唇はとても美味しそうなのだ。そしてアクセントになっている泣き黒子。

 

 あの唇で私の唇を奪って欲しい。そんな思いが私の中で浮かんでくる。経験はないけれどそういう知識は私にもある。だからといって初対面の彼女にそんな思いを持ってしまうのはおかしい。一目ぼれというものはこんなに、私の心と脳裏を桃色に染め上げるのだろうか?

 

 下腹部が熱くなって下着が濡れていることが分かった。おかしい。絶対にこんなことはおかしい。私は初対面の人間に欲情するようなふしだらな人間では無いはずなんだ。理性の強さに定評があると自負している私が?絶対におかしい。

 

 死に瀕して、生存本能がそういうことを求めているのだろうか?私は死に瀕しているのか?生きている?これはおかしい?もしやそういう薬を盛られたのではないだろうか?考えが纏まらなくなっていく。このまま桃色に沈んでいってもいいじゃないか。いや駄目だ。絶対に。

 

 砂上の楼閣のようになった理性を引き締めて私は彼女から逃げるように後退る。彼女が近づくとそれに合わせて下腹部は濡れ始める。まるで催眠術のようだ。

 

 そうして私は必死に逃げた。しかし私が必死に逃げた場所はベッドだった。私は愚かにも自分からベッドに入って行ったのだ。とんだ失態だ。逃げなきゃ。

 

 しかし理性とは別に身体は言うことを聞かなかった。私は自然の服を脱いで下着姿になっていた。やめろ。駄目だ。他人に見せるような身体じゃないんだ。上下が揃っているかも定かではないのだ、理性働け。

 

 理性は蕩けてしまったようで、私はそういうものでしか見ることのできない姿勢を作ってしまっている。いやイメージだ。そういうものは見たことがないからイメージでしかないのだ。

 

 そして、そんな私の様子を見て。彼女は優しく微笑む。私の耳をチロリと出した舌で舐める。くすぐったくもあるし、恥ずかしいし、甘い快楽も感じる。そして私の口はそれに反応して情けなくも甘い声をあげている。最低だ。

 

 一通り、舐めるのが終わったらしく、彼女は今度は狙いを私の唇に移した。初めは優しく私の唇を舐める。それからゆっくりと舌を私の口内に入れる。甘くそして暖かい彼女の舌。それを私の舌は快く向かい入れる。最低だ。

 

 舌が絡め合わされて私の口内が蹂躙される。それでも嫌な気持ちが湧いてこない。彼女も息苦しくなったのだろうか、私の口から舌を抜く。ぷはあ、という息を吐く音。そして私と彼女の舌を銀色の唾液の橋が伝う。私の今の顔は熟れた果実のように真っ赤で蕩けてしまっているだろう。

 

 それから、私の口内をまたしても彼女の舌が蹂躙する。気持ちよさに身体が震えていることが分かる。やられてばかりでは癪なので彼女の口内を責めたらあえなく返り討ちにあった。

 

 そうして、彼女の手が私の下着の中に入っていく。ここから先は私の羞恥心が保たないので話さない。絶対にだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドは私と彼女の液体で湿っていた。それも主に私が分泌した液体によってだ。私は貞操を失い、奪った彼女はホクホク顔をしている。満更ではないように感じる私がそこにはいた。最低だ。最悪だ。

 

「話をしましょう?」

 

「そう。それには及ばない。私は警察に訴えようと思う」

 

「合意」

 

「うっ、いやそれは……その、違くて、えっと」

 

「誘った」

 

「違う、それはその、本心から望んだ訳では無くて」

 

 すっと、谷間の間から彼女は何かを取り出した。そしてそれはカメラのように私には思えた。

 

「それで、私を脅そうという訳?」

 

「そう、そしてあなたは私から逃れることは出来ない。何故ならあなたは既に私の虜だから」

 

 クソが。自由を奪われて弄ばれるくらいならここで死んでやる。

 

「怖い顔をしないで。私にはあなたが必要なんだから」

 

 またキスだ。そんなもので騙されるものか。もっとだ、もっとされなければ私は騙されてなんかやらないのだ。

 

「もっと。もっとして」

 

「駄ぁ目」

 

「もっとしてよ。いいじゃない。もっと」

 

「貴女と私の将来に関わる大事な話をしたいの」

 

「むう、分かった。仕方が無い」

 

 大事というなら聞いてやらんこともない。

 

「私は異界の女神。名は無いわ。司るのは境界と淫蕩。貴女を助けた理由は私の眷属、使途そんな役割をしてもらうためよ。ここまでで質問は?」

 

 正直疑わしいが、もう後戻りはできないのだ。それに私はもう彼女の虜になっている。淫蕩を司るらしいからそれで私を懐柔したのだろう。人権を蝕む恐ろしい存在だ。

 

「ないです。それより……]

 

「はぁ、真面目な子を選んだつもりだったのだけれど……」

 

 

 

 

 

 

 私は楽しいことを覚えたばかりの子供のように彼女にのめり込んでいた。どんどん堕ちていくような感覚が癖になって。快感へと変わっていく。私の気が済むまで神様には甚振ってもらった。

 

「ねえ、そろそろいいかしら?」

 

「駄目です。まだです。私は満足していません」

 

「貴女さっきまで、白目を剥いていた気がするのだけれど……」

 

「神様。駄目です。私をもっと見ていてください。私を愛してください。私を離さないで。私だけを見ていてください。私を。私を。私を」

 

「聞き分けがない子は嫌いなのだけれど……」

 

「はい、行きます」

 

 何かを失った気がするけれど私は神様との絆を得たのだ。

 

 このベッドから家電までを備えた神域から離れる時が来たらしい。神様の空間である神域は生活感に溢れていて過ごしやすかった。神様の匂いがいたるところでして大変捗ったのだ。

 

「ゲートを開くから離れていてね」

 

 神様がゲートを開いた。原理は不明だが、移動できるらしい。トンネル効果でも利用しているのだろうか、不思議だ。

 

「さあ、行くわよ」

 

 神様が私の腕をつかむ。豊満な胸が私の二の腕に当たって気持ちがいい。思考が桃色に汚染されている。なんてことだ。

 

 

 ゲートを抜けた先は、街だった。人間の匂いがする街並みだ。下水道は整備されていないのか、もしくは十分に働いていないのだろう。牧場の匂いがする。

 

 街の真ん中に出たわけだが往来する人々は不躾な視線を投げかけてくるだけで、投石したり警邏に通報したりはしないようだ。この街は閉鎖的ではないらしい。

 

 土の地面が剥き出しの道に、お世辞にも綺麗とは言えない建物が並ぶ通りは、長くいたいと思える場所ではなかった。神様が私の右腕に絡めている腕を引っ張り、ここから動こうという意思を伝える。それでも神様は全く気が使いない様子だった。

 

 そうしている内にゲームオーバーを迎えたらしい。私達は囲まれていた。道路の中央でぼうっと突っ立て居ればそうなるだろう。

 

「ああ、お嬢さんたち。どこから来たんだい?」

 

「誰よ、あなた?」

 

「おいおい、俺の顔を知らないのか。こいつはお上りさんってとこかねえ」

 

「ねえ、面倒くさいわ。私の前に跪いて」

 

 神様が何かをしたらしい。私達を囲んでいた男の何人かが倒れる。

 

「おいおい。面倒起こそうって言うのかい?」

 

 私達に話しかけてきた、男が顔を覆っていたフードを外す。現れた顔は美形だった。頬の傷が野性味を醸し出している。そして、尖った笹のような耳。ファンタジーにおいてはエルフとかアールブとか言われる種族らしい。

 

「か、神様。何をなさっているのですか?まだ話をする余地はありましたよ!」

 

「私が気に入らなかったからよ。だから払ったの」

 

「ええっ、そんな話し合いという言葉をご存知なかったと?」

 

「初耳だわ」

 

 私達がもめてる様子を見て、男は苦笑いを浮かべている。

 

「やる気があるならやる、ないならやめる。さっさと決めろ。面倒だ」

 

「ちょっと待ってくれませんか?」

 

「面倒だ。無力化してから考えさせてやるよ」

 

 男が、瞬時に神様を狙い拳を振り上げる。私にはその様子が何故か見て取れた。運動音痴ではなくとも運動は得意ではなかったはずなのに。拳の向かう先が見えればあとは簡単だ。それを止めればいい。

 

 私が拳を止めたのを見て、男は眉間にしわを寄せていた。

 

「おいおい、素人じゃないのか?面倒くさい。これで沈んでくれよ」

 

 瞬時に神様に蹴りを放つ様子が見て取れた。だから私はそれを防ぐべく男に対処しようとした。

 

「いや訂正するぜ。お前は素人だ」

 

 そう男は告げる。その瞬間私の身体に思い一撃が走った。

 

「フェイントすら知らないんだからな」

 

 そう男が口にしたのを私は覚えている。そしてそれから、私の視界が閉じていくことが分かった。

 

 

 

 背中に布の感触がした。それでも布の中身はフワフワしていないし、若干固い。どうやら中身は藁らしい。

 

「ああ、済まんな嬢ちゃん。悪気はなかったんだ。本当だぜ。手加減はしたんだ」

 

 下が妙にすーすーしている。私の下半身には簡易な布が撒かれているだけだった。

 

「神に誓って妙なことはしていないぜ。ただ濡れたままだと悪いとおもっただけだ」

 

 私の顔に血流が集まっていくことが分かる。漏らした。これも神様のせいだろう。私の緩くなった膀胱の責任を神様は負うべきだ。

 

「さて、その神様が問題なんだ。あんたの連れ、ありゃあアストラルの奴だろ。ああいうのには屑が多い。あんたも騙されたクチだろ?」

 

「い、いえ、神様はそんな人では有りません!」

 

「いや、俺の部下を倒した痕跡から分かるぜ。色欲系の術式だ。間違いない。俺も昔引っかかって痛い目にあったからな」

 

「う、否定できない」

 

「そうだろう。それがあの術式の厄介なところだ」

 

「で、でも私神様が好きなんです!」

 

 そう、結局は私は彼女が好きなのだ。放したくないくらいに。神様を監禁したいくらいには好きなのだ。男は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。

 

「ああ、自己紹介がまだだったな。俺はメノモッソ。この歓楽街を色々あって仕切っている」

 

「えっと、私は令泉栞です。神様の眷属をしています」

 

「あんた、契約までしちまってるのか。最悪だ。もう人間じゃないぜ。神様ってのがどんな奴かは知らないが、これじゃあ俺の手に余る。アストラルの奴らに手を出すことは御免だ」

 

「アストラルっていうのは一体なんですか?」

 

「人間より上位の化け物どもの総称だ。俺は専門家じゃないからそれくらいしか知らないぜ」

 

「じゃああなたは?」

 

「馬鹿言うなよ。俺はただの落伍者だ。そりゃあ人間やめた奴らはそうなるがよ。俺は人間を止めてはいないぜ」

 

「はあ、その耳は一体なんですか?」

 

「おっと、その話はあとだ。あんた、神様に会いたいんじゃないのか?」

 

「そ、そうでした」

 

 そのあと、神様と私とメノモッソさんで話をした。その結果、メノモッソさんが昔の知り合いを通して上に話をしてくれるらしい。異世界と言えども根回しは重要というわけだ。

 

 

 

 

  




作者にもこの小説の方向が不明です。

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