あとがきに前回載せた「大事な情報」を公開します。
黒王の正体は、まさかの人物です。
戦後の傷が癒え切ってない漂流者達は、最初にして最大の拠点である廃城にて今後の方針を話し合ってた。
「敵の黒幕の正体には近づけたけど、今は立て直しが先だ」
「ったく、根性ねェなてめェら!」
「……軟弱千万……その言葉に、尽きる……」
「いや、この状態で追撃するのは無謀すぎるだろ!!」
総大将・耀哉は戦後復興を宣言するが、力が有り余ってるロジャーと黒死牟は不満気な様子であり、コラソンは必死な表情で諫めた。
戦争は勝っても負けても失うモノが多いのが常。今は身体を休め、力を蓄える他ない。それは黒王軍も同様のはずだ。
(強いて言えば、源義経がどう出るか……)
耀哉の不安要素は、源義経だ。
彼は人類や世界への憎しみが原動力ではなく、黒王軍にいた方が面白いと思っているから居る、食えない性格だ。その上合戦となれば天賦の才をいかんなく発揮する戦の申し子で、剣の腕も柱以上、指揮官としても有能だ。
今回の戦争では、彼は追撃することなくあっさりと引き上げたが、本当は疲弊したところを叩くために自分の部隊を温存させることが目的かもしれない。
下手な廃棄物より質が悪い――それが源平合戦の英雄・源義経なのだ。
「まあ、しばらく黒王もキツいやろ。こっちも敵さんを随分と討ち取ったんやから」
「うむ! だがいつ攻めてくるかはわからんからな! 日々の鍛錬は怠らないべきだ!」
「同感だな」
「ああ、弱点があるとはいえ組織力で言えば奴らが上だからな」
杏寿郎に続き、ジョットややぐらも同意する。
兵力で言えば漂流者側が不利なのは変わらない。戦争は数の暴力、言わば物量が最終的にものを言うからだ。
そんな会話をしていると、「ごめんあそばせー」と軽い調子でサン・ジェルミが現れた。
「ミルズちゃんが手紙を発見したわよー」
「手紙ですか?」
「殺せんせーなら読めるでしょ? 世界中の言語に通じてるから。手紙はバリバリの日本語だけど」
サン・ジェルミから古い手紙を渡される殺せんせーは、裏返して送り主を確認すると、あんぐりと口を開けた。
山口多聞
ミッドウェー海戦における主力空母部隊の一つ「二航戦」の司令官である、旧日本海軍が誇る名将。
彼もまた、漂流者としてこの世界に飛ばされていたのだ!
「や、山口多聞!?」
「ええ、あの〝人殺し多聞丸〟よ」
「まさか、あの多聞丸が……」
近代日本史における、海外にも名が知られる海軍軍人の書状。
紙が破れぬよう恐る恐る開くと、達筆な文字で彼のメッセージが記されていた。
紫なる人物にこの世界に飛ばされた この手紙を読む日本人へ
いつか再び 世界の脅威となり得る存在が現れた有事に備え この書を認める
私は大日本帝国海軍少将 山口多聞である
当方は戦国乱世の武将や伝説の弓の名手を筆頭とした あらゆる時空から飛ばされし者達と共に廃棄物の軍勢と戦い 見事勝利を収めた
しかしいつか 世界を滅ぼさんとする廃棄物の王の再臨に備え この廃城の奥深くに我々の武力と知識を眠らせた
もし 再び世界廃滅の危機が訪れたとしても 我々の戦いの記録は必ず役に立つはずである
諸君らの武運長久を祈る
「山口多聞直筆の手紙……売ればいくらになるかね」
「伏黒さん、この世界に日本の通貨は通じませんよ。そういうこと言うと嫌われますよ」
頭の中で勘定する甚爾に、しのぶが苦言を呈した。
「手紙の内容だと、どうやら廃城は最重要アイテムらしいじゃねーか」
「それに数百年前の話とはいえ、同じ状況下で勝利を掴んだようでござるな」
「記録は上手くいったからこそ残すもの……敵に解読されないよう、あらゆる言語を用いてもおかしくないでしょう」
高杉と万斉、縁壱がそれぞれ口を開く。
情報や記録は資産であり、場合によっては貴重な戦力となる。
山口多聞らが、かつての漂流者達が遺したものは、敵の手中に収まってはならない。
「縁壱さんの言っていることが正しいと思います。謎解きは得意ですので、こういうのは私に任せてください」
Lの提言に、全員が頷いた。
ドリフターズでも最高クラスの頭脳を持つ彼なら、余程のことがない限り解読不可能という事態はないだろう。
「殺せんせー、ぜひ取り組みましょう。一刻も早く――」
「じゃあ、僕も首突っ込んでもいいかな?
『!?』
突然響いた声。
全員が一斉に玄関に顔を向けると、そこには日本刀を携えた長い髪に細身の美青年が立っていた。
廃棄物に味方しているはずの源義経だ。
「義経公……!!」
「……あん時の
全員が警戒心を高める。
その時、しのぶはハッと気づいた。
「――ロジャーさん、あなたの見聞色の覇気とやらでも感知できなかったんですか……?」
「
「ロジャーさん!!!」
「わっはっはっはっはっ!!」
豪快に笑うロジャーに、頭を抱えるしのぶ達。
少し先の未来を視れるロジャーが、気を抜いて探知できなくなっては元も子もない。
もっとも、それ以外でも勘の鋭い者も大勢いるので、彼らに悟られなかった義経はさすがと言える。
「単刀直入に言おう……源義経公、なぜここに?」
耀哉は直球で質した。
敵軍の将がこの場にいることは危険極まりないが、同時に不自然でもあった。
なぜなら、武将であるはずの義経が黒王軍の部隊を率いておらず、単身で廃城にいるからだ。
本当に自分達を壊滅させるつもりなら、すでに奇襲を仕掛けているはず。戦の申し子が「こいつらは疲弊しているから一人で十分」などと慢心するとは思えない。むしろ少数の過剰戦力で徹底的に潰す方だろう。
(事情はどうあれ、何かしらの考えがあって来たに違いないね)
「あの野郎、俺を殺そうとしに来やがったから出た」
あっけらかんとした様子の義経に、全員が思わずコケそうになった。
しかし内容は俄かに信じ難いものだ。あの黒王が、義経の暗殺を謀ったというのだから。
「……黒王も馬鹿じゃねえ。お前にも理由があるはずだろ」
高杉は煙管を咥えながら、鋭い眼差しで見据えた。
平安末期の伝説的武将を、何の考えもなしに切り捨てる訳がない。
そう考えて、「実際は?」と短く尋ねると……。
「お前らの方が面白そうだからって、手切った」
「学校で習う偉人の性格じゃねえぞ、おい」
さも当然のように返答した義経に、鯉伴のツッコミが炸裂。
あまりにも奔放な有様に、かつては同じ組織にいた無惨と黒死牟は愕然とし、殺せんせー達は絶句。サン・ジェルミも天を仰いだ。
そんな中でロジャーと甚爾、高杉だけはゲラゲラと爆笑していた。無法者な強者とは馬が合うようである。
「追手はどうしたでござる?」
「んなもん全員斬って捨てたよ。黒王軍の連中、どいつもこいつも
「異常者め……」
「今のは正しい使い方だよ、無惨」
義経の問題発言に嫌悪を示した無惨に、ちゃっかり同意する耀哉。
そのやり取りを目の当たりにした杏寿郎としのぶは、眩暈を覚えた。もし他の柱達が飛ばされてきたら、何と言えばいいのか。
「……で、何の手土産もなしに来たのか?」
「俺の武力がある」
「成程、自分を売るってのかい」
不敵どころか悪い笑みを浮かべる義経に、甚爾は釣られるように笑って耀哉に進言した。
「総大将さんよ、こいつは迎え入れようぜ」
「甚爾さん?」
「信用するかどうかは別として、現場指揮官は要るだろ? ちょうどいいヘッドハンティングじゃねえの」
甚爾の言葉に、耀哉は考える。
今の漂流者の軍は、命のやり取りを経験した者は豊富だが、戦争や紛争地域で指揮官を経験した者は少ない。カリスマ性とはまた別の、司令官として人を率いる才覚を持つ強い人間がいないのは、今後起こるであろう戦争にはかなりのハンデとなる。
平安末期に起こった多くの合戦を経験している義経ならば、その穴を埋めることは十分可能だ。それが吉と出るか凶と出るかは別なだけだ。
それに、自分の
「……君の言葉を信じよう」
「おっ」
「「お館様!?」」
「私の勘は問題ないそうだ。――大丈夫、私には君達がいる」
柔和な笑みを浮かべる耀哉に、抗議しようとした杏寿郎としのぶは目を見開きながら引き下がった。
この感覚は覚えている。柱合裁判の時と同じだ。
「まさかこっちで同じになるとはね、鬼舞辻」
「っ……猗窩座と童磨を足したような男と馴れ合いたくないわ」
肩を組む義経に、無惨は顔を背けて忌々しそうな表情を浮かべる。
何はともあれ、義経はこちらに与してくれるようだ。これ程心強いことはそうそうないだろう。
「どうやら、方針は決まったそうですね」
「お師匠様、我々は……」
「私達も全ての研究資料を見直す。何か見落としがあるはずだ」
「じゃあ、用心棒は私が請け負うよ。ボランティアでね」
十月機関は別行動を取ることに、ボディーガードとして菜奈が名乗り出た。
彼女なら実力も経験値も豊富なので問題ないだろう。
彼女にかつて興味を抱いていた無惨は、自分の立場のことで精一杯なのか見向きもしなかった。
「おう、ちったぁ進んだか話は」
「志々雄さん!」
そこへ、大きな袋を背負った志々雄が悠然と現れた。
煙管の紫煙を燻らせながら、彼は着物の中からある本を取り出した。
「グ=ビンネンのシャイロックから面白い物を借りたぜ」
志々雄が手にした本は随分と古びており、表紙には「HOLY BYBLE KING JAMES」と書かれていた。
それを見た殺せんせーとLは、目を見開いて口を揃えた。
「「欽定訳聖書……!!」」
欽定訳聖書。
1611年に刊行された、時のイングランド王国国王ジェームズ1世がイングランド国教会の典礼で用いるため聖書の標準訳を求め、彼の命令によって翻訳された聖書である。その荘厳で格調高い文体から、口語訳の普及した現実世界も多くの愛読者を保ち続けている。
つまり、聖職者の漂流者がかつていたということだ。
「
『……!』
「そして同時に、こう考えたらしい。――「他にもできるんじゃねえか」って」
志々雄の言葉に、殺せんせーとLは冷や汗を垂らした。
聖書の中には、神とイスラエル民族との関わりの歴史と救いの約束を描いた「旧約聖書」があり、その中の一書に「出エジプト記」という書物がある。預言者モーセが虐げられていたユダヤ人を率いてエジプトから脱出する様子を描いており、ユダヤ教の成立の最も重要な契機とされている。
その中でモーセは、手にしていた杖を振り上げて海を割り、ユダヤ人を引き連れて渡ったと記されている。
もし黒王が海を割ることができれば……!
「海を真っ二つに割って、黒王軍が来る……!?」
「海に逃げても無駄ということか!?」
「水遁忍術だったら禁術レベルだぞ!!」
「冗談じゃねェぞ、おい……!」
黒王のまだ見ぬ異能の可能性に、緊張が走る。
殺せんせーはLの顔を見て「一度読み直さねばならないようですね……」と引き攣った顔で呟いた。
しかも志々雄が投下する爆弾は、それだけではなかった。
「こいつも貰った。俺が飛ばされる前に入手した武器だ」
袋を開けると、そこにあるのは二股の刃物のような十手風の見た目をした短刀。
それを見た甚爾は目の色を変えた。
「〝天逆鉾〟じゃねえか!!」
「何っ!?」
「本当かいな!?」
まさかのビッグネームに動揺する晴明と秀元。
鬼殺隊の面々や鬼兵隊、無惨と黒死牟も唖然としている。
だが、持ち主だった甚爾は神器ではなく呪具であると説明した。
「こいつは言わば呪霊や呪術師を倒す代物だ」
「ということは、甚爾さん専用になりますね」
「だろうな」
軽く手に取って遊ぶ甚爾。
あの時に死んで以来、もうどこかに消えてるか新しい持ち主を得てるかのどっちかを辿ったんだろうと思っていたが、まさかこうして自分の手元に帰ってくるとは。
これもまた運命なのだろうか。
「これで甚爾さんも即戦力。あとは黒王軍との二度目の大戦に備えましょう」
「これから忙しくなるぞ」
漂流者達は、先人達が遺した全てを駆使し、黒王軍の撃破を誓うのだった。
時同じくして。
黒王軍の本拠地では、ライトが怒りの声を上げていた。
「追え! 追うんだ! 追撃だ、追撃するんだLを!!」
「追撃隊はもちろん出しましょう。だが全軍でなどと……疲労と損害が大きすぎる」
参謀のラスプーチンは難色を示した。
というのも、本拠地の北壁は漂流者軍の別動隊のせいで甚大な被害が出たからだ。
少数の奇襲であったが、これにより鬼の鳴女は討ち取られ無惨も行方不明、人外達も無視できない数の死傷者が出ている。マモン間原での大戦でも廃棄物が討ち取られているので、追撃よりも立て直しが優先だからだ。
だが、ライトはそれでもLを殺すことが大事だと述べた。
「あなた方はLを!! エル=ローライトという男を知らないから言えるんだ!! 生かしておけば必ず再起する!! 神をも脅かす!! 一個人で状況を簡単に覆してしまう!!」
鬼気迫る表情にラスプーチンが怯む。
そこへ黒王が声を掛けた。
「ライト、心配することはない」
「黒王……!」
「奴らも追撃できない状況。それに今回我々が敗北したのは、想定外の
『!?』
ふと、黒王の声が急に変わった。
低く威厳に満ち溢れた声色が、青年のように軽くてどこか不気味な声色に。
それは、黒王が本性を現したことに他ならない。
「こ、黒王様……!?」
「今までずっと仮の姿を演じてきたことは謝るよ。あの声じゃないと付いてきてくれなさそうだからさ。まさか〝彼女〟がこんな能力を与えてくれるとは思わなかったけどね」
黒王は身に纏っていたローブとフードを脱ぎ、正体を露わにした。
黒髪の長髪に特徴的な前髪。
大きめの耳に大きなピアス。
黒の僧衣と袈裟。
そして、額の大きな縫い跡。
それは、まさに最悪の敵というべき廃棄物だった。
「私の本当の名は
*
とある異空間。
廃棄物を送り出す
「ようやっと現したわね。さあ、お行きなさい!! ここから先は救世主の御業と呪術師の呪いで奴らを殲滅するのよ!!」
悪い笑みを浮かべる彼女は、おまけと言わんばかりにある〝
「こいつなら羂索でも問題ないでしょ。せいぜい足掻くがいいわ紫!! いくら民生屋のあなたでも〝歌の魔王〟を超えることはできない!!」
――トットムジカの名の下にね!
狂喜する継戦器に対し、民生屋こと紫は例の廊下で静かに業務をこなし、ある人物を迎えていた。
「……は? 俺、傑達といたはずだよな?」
白髪と碧眼という日本人離れした美形の男性は、唖然とした表情で廊下に仁王立ちしていた。
漂流者と廃棄物の戦争。
紫と
その果てに何が待ち構えてるのかは、正しく神のみぞ知る。
JUMP DRIFTERS To Be Continued
という訳で、本編はここで区切ります。情報過多ですけど。
黒王はメロンパンでした。まあ、黒幕なら夏油よりこっちの方がいいかなって思ったので。(笑)
そして最後にチラッと出た漂流者、あの人です。呪術廻戦の原作がああなっちゃったので、まさかの参戦で希望を持たせました。
それとEASYが最悪の刺客をぶち込みました。当然、彼女なりの細工を施してます。送り出す側はやりたい放題でしょうし。
そして前書きにあった「大事な情報」についてですが……ふたつあります。
一つは、本作のエピソード0。いわゆる第1幕以前の島津豊久達の話の投稿を予定しております。感想欄でかなり所望されておりましたので、しっかりやります。予定している話数は不明ですが。
そしてもう一つは、新作に関して。
新作で呪術廻戦をやろうと思ってます。大よその流れは決まってて、原作よりは明るいと思います。
ひとまず本編はここまで。エピソード0をやって連載を完結させようと思います。
2020年05月11日から、約3年4ヶ月。とても楽しくやれました。応援ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。
……まあ、もう少し続くんですけどね。