コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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episode5 Wasted time

「新総督へ海上で奇襲をかけるとは…スザク、お前は以前のゼロと現在のゼロは同一人物だと思うか?」

 

アドニスの問いに、スザクはゆっくりと首を振った。現在アドニスはランスロット・クラブに、スザクは小型の飛行機に乗り込んでプライベート通信を開いている。

 

「分からない…だけどその、昔のゼロは…」

 

以前ゼロであったルルーシュは、シャルル皇帝によって何度か記憶を書き換えられている。その事をアドニスに説明すべきか隠すべきかを迷ったスザクは、明確な答えを返すことが出来なかった。

 

「いちいち俺にいらん気を回すな。ギアスという力の事はあのV.V.とかいう男から聞いて知っている。皇帝陛下の力もな。」

 

「…そうなの?」

 

スザクはゼロの捕縛、アドニスは藤堂と騎士団幹部の捕縛という功績をもってそれぞれラウンズとなった。その為にどちらも任務で忙しくしていたこともあり、こうして長く話すのは久々であった。それにより、スザクはまさかアドニスがギアスという力の存在を認識しているとは思いもよらなかったのである。

 

「ああ、だからこその質問だ。しかし、それを考えればお前に一度学園まで確認しに行って貰うべきだったな。」

 

ルルーシュがゼロであるならば、今は学園にいない筈。その確認を怠った自分に対して、アドニスは苛立ちを覚えているのを隠さなかった。

 

「まぁいい、とりあえず今は総督救出が最優先だ。だが、もし別人だとするなら一人だけ心当たりがある。あのライという男…」

 

「確かに、彼ならゼロの変わりも務めるかもしれないね。ただ、そう考えれば今回の奇襲は些か軽率だとは思うけど…」

 

スザクの疑問に、アドニスも頷いた。

 

「確かにその通りだ。もしあの男だとすれば、単純に俺の楽しみが増えると思っただけだがな。」

 

アドニスの好戦的な笑みに、スザクも苦笑いを浮かべるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリア11新総督、ナナリー・ヴィ・ブリタニアを乗せた重アヴァロンの操縦室では、警戒アラートが鳴り響いていた。前方には飛行部隊に吊り下げられ、空輸される複数のナイトメアが確認された。

 

「黒の騎士団!?」

 

輸送中の襲撃を全く予期していなかったアプソン将軍は驚きを露にする。彼の動揺は部下達にも伝わり、指令室は少しではあるがパニックの様相を呈していた。

 

「作戦目的は、新総督を捕虜とすることにある。如何なる事があろうと絶対に傷を付けるな。いいな、絶対にだ!」

 

「承知!」

 

ルルーシュが言い終わると同時に、重アヴァロンから戦闘ヘリが複数出撃するのが確認された。

ヘリが騎士団のナイトメアへ機銃を向けた瞬間、騎士団のナイトメア部隊は煙幕を放つ。

 

「なっ…」

 

狼狽えるヘリのパイロットに、アプソン将軍がやや落ち着きを取り戻した調子で告げる。

 

「サーフェイスフレアを張られても問題はない。囲んで叩け!」

 

一方、騎士団側ではナイトメアが空輸機から続々と切り離されていた。切り離されたナイトメアは重アヴァロンに着地し、船体に装備されている機銃を破壊していく。

 

「敵勢ナイトメアさらに三機、本艦の主翼上に取りつきました!」

 

「護衛艦にも取りついたようです。航空戦力を…」

 

部下から次々に上がる報告に、フレアを囲ませていたヘリを戻そうと考えた直後、重アヴァロンの付近で爆発が起こった。それにより、出撃していたヘリが全て撃墜されてしまった。

 

「旗艦以外は用無しだ!」

 

護衛艦のフロートユニットに向かって、紅蓮が次々に左腕部のミサイルを放つ。護衛艦は部分的にシールドを発生させるが、その間をすり抜けて数発のミサイルがフロートユニットに直撃した。

 

「残った空戦部隊も出せ!護衛艦からも砲撃を!」

 

アプソン将軍の言葉に、部下達は異論を挟む。

 

「しかし、敵がフロートを狙っています!シールドを展開している為に照準が…」

 

「ここを守らずしてどうする!…こんなことなら、ギルフォード卿も連れてくるべきだったな。東京疎開から援軍が来るとしても約一時間…」

 

アプソン将軍は歯噛みする。ブリタニアを発つ前にギルフォードから進言されたことが目の前で起こっているからだ。その時はギルフォードの言葉を一蹴したが、黒の騎士団を甘く見ていた、と思われても致し方ない失態だった。

 

「次っ!」

 

護衛艦を墜としたカレンは戦闘ヘリにハーケンを突き刺し、それを軸に重アヴァロンに飛び移る。

 

「カレン、一人で突っ走りすぎだよ!」

 

朝比奈が慌てて声をかけるが、カレンは聞く耳を持たずにさらに先行する。それを見た朝比奈の月下が紅蓮を追おうとしたその時、月下に向かって銃弾が飛んできた。

 

「東京からの援軍!?早すぎる。」

 

このタイミングでの援軍を予想していなかった千葉が声を上げる。

 

「いや、方角としては後ろ備え。それに、フロートユニット!?」

 

藤堂が月下のモニターを向けた先には、ランスロットに似た薄紫色のナイトメアフレームを先頭として、数機のグロースターもフロートを装備して向かってきていた。

 

「さあ、幕を降ろそう。」

 

ランスロットに似たナイトメア、ヴィンセントに騎乗するギルフォードが呟く。

 

「空が飛べなくったって!」

 

カレンがブリタニアの飛行ナイトメア部隊にミサイルを放つ。それに倣って周囲の無頼もアサルトライフルを放つが、全て避けられてしまった。さらには無頼が攻撃を受け、撃墜されてしまう。

その光景を見た重アヴァロンの乗員は、これでこの闘いを切り抜けられると安心した。しかし、アプソン将軍だけは慌てていた。

 

「ギルフォードめ…勝手なことを!」

 

「しかし、助かりました。」

 

「それは奴の手柄ということだ!」

 

ここまできて、自身の保身を考えるアプソン将軍に部下達は呆れるが、彼はそれに気付かず、ただただ歯軋りしながら戦況を眺めていた。

 

 

 

 

「何っ!?ハーケンを!?」

 

「今だ!紅月君!」

 

重アヴァロンの緣に掴まり、ぶら下がった状態から一機のグロースターにハーケンを突き刺した、藤堂が騎乗する月下。そのワイヤーの上を紅蓮が滑るように走り、輻射波動を浴びせることで撃墜する。紅蓮は爆発の直前にグロースターを蹴って飛び上がっており、重アヴァロンに着地した。

しかし、着地した紅蓮のすぐ近くにいた無頼が、何かに貫かれて撃墜された。

 

「!?」

 

カレンがそちらを見ると、一機の戦闘機がこちらに向かって高速で飛来してきていた。

 

「おかしな戦闘機だねぇ。でもさ…」

 

高速で朝比奈の月下の前を周回し、月下から放たれる銃弾を避ける戦闘機。その戦闘機は一瞬静止すると、ナイトメアに変形した。

 

「ナイトメアッ!?」

 

一瞬の硬直を見逃さず、トリスタンは朝比奈の月下を両断した。

 

「すみません、後は…」

 

朝比奈は脱出に成功したが、形勢は完全に逆転した。

 

「くそっ、ここまできて…」

 

南が騎乗する無頼がライフルをトリスタンに向けるが、直後に頭部を撃ち抜かれる。カレンが振り返ると、その先にはヴァリスを構えたランスロット・クラブが鎮座していた。

 

 

「右翼護衛艦、操舵不能!」

 

一方、重アヴァロンの指令室もパニックに陥っていた。騎士団の攻撃を受けた護衛艦がフロートユニットを破壊され、重アヴァロンに向かって機体を傾けつつ近付いていたからだ。

 

「このままでは本艦に!」

 

「進路変更!」

 

「間に合いません!衝突します!」

 

乗員の誰もが絶望した瞬間、その護衛艦を凄まじい砲撃が貫いた。

 

「…相変わらずだなぁ。モルドレッドのやることは。」

 

ジノが振り返ると、そこにはナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムの乗機であるモルドレッドが四連装のハドロン砲、シュタルケハドロンを構えていた。

 

『アーニャ、助かったのは事実だが…しかし今はそれをあまり使うな。万が一旗艦に当たったら、責任問題では済まないからな。』

 

「守ったのに…」

 

アドニスの言葉に不服そうに呟くアーニャ。その横を、小型飛行機が飛び抜けていった。

 

「ロイドさん、ランスロットは!?」

 

『準備できてるよぉ。早くおいで。』

 

重アヴァロンの横を通り抜けていく小型飛行機を見て、アプソン将軍は歯軋りをしたがら指令室を出ていく。彼は早足で機体後部の銃座に向かうと、そこに座る部下を押し退けた。

 

「将軍!何をなさるおつもりです!?」

 

重アヴァロンの銃座に、アプソン自らが座る。機銃を操作しようとするその手は大きく震えていた。

 

「このままでは降格となる…私自らの手で功績を、黒の騎士団を!」

 

そのアプソン将軍の前に、月下が現れる。

 

「フハハハハハッ!」

 

笑い声を発しながら砲弾を放つが、月下はあっさりと避け、銃弾は重アヴァロンのフロートユニットの一部を破壊する。

 

「愚か者!自らのエンジンを!」

 

呆れながらも藤堂が機銃に砲撃を放つ。それを受け、アプソン将軍が居座る銃座ごと機銃は爆散した。

それを見届けた藤堂は、艦内へと入って仙波が操縦する月下との合流を果たす。

 

「ゼロとは?」

 

仙波の問いに、藤堂は自身も情報を持たない事を伝えた。

 

「ECCMの影響か連絡が取れん。後方の千葉、紅月と合流し、艦内探索をかけたいが…」

 

「しかしこの艦は、墜落しかけています。時間が…」

 

言いかけた仙波の月下を、横から突然MVSが貫く。その刃はコックピットまで到達しており、一目見ただけで脱出は不可能だと藤堂は理解する。

 

「仙波!」

 

「他愛もない。」

 

MVSを持つランスロット・クラブから声がかかる。

 

「…こんな、ところで!」

 

その声を最後に、仙波の月下は爆発した。

 

「仙波ぁっ!」

 

振り返った藤堂の月下の右腕を、別のMVSが斬り取る。

 

「藤堂、陸戦兵器での奇襲とは、お前らしからぬ戦だな。」

 

ギルフォードの言葉通り、この作戦はもしライがいたなら必ず反対するであろうものであった。それを分かっていながら黙認した藤堂は仙波の死や騎士団の被害を見て、自身がそうしなかった事を後悔する。だがその間にも、戦況は悪化の一途を辿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総督現在位置確認後、送信願う。」

 

「チャンネルMB、ラジャー。」

 

一方、重アヴァロンの後方に迫るアヴァロンからは、ランスロットが発進しようとしていた。

 

「ランスロット・コンクエスター、発艦!」

 

「発艦!」

 

ナイトオブセブン及びナイトオブイレブン専用ナイトメア開発チーム、【キャメロット】に所属する、セシル・クルーミーの声に従い、ランスロット・コンクエスターはアヴァロンより発進した。

 

「あっ!」

 

それに気付いたカレンが乗る紅蓮に向かって、ランスロット・コンクエスターがヴァリスを放つ。

 

「くっ!!」

 

咄嗟に輻射波動で防ぎ、左腕をランスロットに向ける。しかし、左腕のミサイルランチャーは空砲を響かせた。

 

「…弾切れ!?しまった!」

 

ライのことで取り乱し、それを作戦に集中することで何とか抑えていたカレンであったが、やはり平常通りと言えるまでには至っておらず、ミサイルを撃ち尽くしていた事にすら気付けていなかった。

 

「カレン、僕はナナリーを助けなくちゃいけない。今更許しは、請わないよ!」

 

ランスロットは背部に装備されたハドロンブラスターを起動し、ヴァリスに接続する。

 

「隠れろ紅月!艦内に入れば…」

 

月下を下がらせようとしていた千葉に言われるも、カレンは惑う。既に過去の話ではあるが、ランスロットに対抗できるのは、騎士団内には紅蓮の他にはなかった。その自分が逃げてしまえば、確実に味方の犠牲が増えてしまう。

 

「でも、みんなが逃げ切るまで…」

 

振り向きかけた紅蓮に、ランスロットからハドロンブラスターが放たれる。ヴァリス同様、こちらも輻射波動で受け止めるが、右腕は簡単に崩されてゆく。

 

「まさかっ!」

 

ハドロンブラスターは紅蓮の右腕ごと頭部を貫いた。右腕が爆発した勢いに負け、紅蓮は重アヴァロンから放り落とされた。

 

「脱出レバーを!紅月!」

 

千葉が慌ててカレンに指示を飛ばしつつ、確認の為に飛び出してくる。

 

「駄目!動かない!」

 

カレンは何度もレバーを引くが、紅蓮のコックピットは射出されない。

 

「整備不良!?こんな時に…」

 

呆然とする千葉の月下。その頭を、後ろからモルドレッドが掴んだ。

 

『おしまい、かくれんぼは。』

 

外部スピーカーで告げるアーニャのモルドレッドに、押さえつけられながらも回転刃刀を振るう。しかし、モルドレッドには一切のダメージを与えられなかった。

その光景を見た千葉は脱出レバーを引いた。コックピットが射出された直後、月下は爆発した。

 

 

 

 

カレンは何度も脱出レバーを引くが、脱出装置は一向に作動しない。

 

「──落ちちゃう!ごめんね、紅蓮…」

 

カレンは脱出を諦めた。この高さから海上に落ちれば、命が助かることはまずないことは明らかだった。

 

「──お母さん、お兄ちゃん…ライ…」

 

呟きながら目を閉じるカレン。しかし突如、紅蓮の落下が止まった。

 

『…間に合ったとは言えないけど、君を救えて良かったよ、カレン。』

 




アドニスとスザクの会話を追加、その他細かい点を変更しています。

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