コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
「ぐ…」
ライが目を覚ますと、そこは古ぼけた医務室であった。眠っている間につけられたのであろう人工呼吸器を外そうと右腕を持ち上げると、そこには点滴が繋がれている。呼吸器を外してから上半身を持ち上げようとするが、身体は全くいうことを聞いてくれない。諦めて首だけを上げて自身の身体を見ると、至るところに巻かれた包帯と吊り下げられた自分の足が目に入った。
「そうか…僕はアドニスに敗れて…」
彼は覚えている最後の記憶をハッキリとしない頭から引っ張り出す。ランスロット・クラブの蹴りを避けられず、壁に叩き付けられた事までは覚えていたが、そうであれば自分は捕らえられたということだろうかとぼんやり考えていた。
(しかし、そうだとすれば随分とボロいな…)
もう一度室内を見渡すと、くすんだ洗面台や錆の浮いた鏡、年季の入った薬のボトルなどが置かれているこの部屋の状態は、とてもではないがブリタニアの医務室だとは思えなかった。
(だとすれば、ここは一体どこなんだろう…?でも、どちらにしろこの身体では逃げられないのは一緒か。)
ここがブリタニアの施設だろうとそうでなかろうと、これだけボロボロになってろくに身体も動かせない彼では逃げだす事など不可能である。ライはため息をつくと、霞んだ頭のままで思考を続けた。
(もしブリタニアの施設であれば、怪我がある程度治った時点で移送されるだろう…そうなったら、騎士団との合流はいよいよ不可能に…)
そこまで考えて、ライは重要な事を思い出した。
「そうだ!黒の騎士団は…!?カレンは!?」
腕の力だけで無理矢理上半身を起こす。あの時の状況では壊滅させられた可能性が高い上に、ゼロを追ったというカレンの情報もここでは入手出来ない。ライはようやくハッキリしてきた頭を回転させ、なんとか逃げる算段を立てられないか考えようとしたが、それと同時に医務室の扉が開いた。
「目が覚めたか。」
入ってきた男は長身で、プラチナブロンドの髪を肩の手前あたりまで伸ばしている。そしてその顔はライのよく知っている人物のものであった。この時代に生きている筈のない人間ではあるが。
「…ロック、なのか?」
「そうだ。久しぶりだな。」
ライが驚いて目を丸くする様子に、頬を上げてニヤリと笑ってみせるロック。目の前の状況が信じられないライは言葉が出ない。二人の間にしばらく沈黙が続いたが、ロックがおもむろに口を開いた。
「まぁ、信じられないのも分かる。だが俺の役目は騎士としてお前を守る事だ。だからこそ、あの魔術師と契約したのさ。」
「魔術師って…もしかして君は、コードマスターなのか?」
ライの質問の意味が分からず、一瞬口をつぐむロック。彼は口で言うより見せた方が早いと、自身の左目に刻まれたギアスを起動した。
「コードマスターというのがどういうものなのかは知らんが…あの時俺は奴と契約し、お前が起きるまでという条件で眠りについた。そしてこれが、契約によって得たギアス、任意捜索だ。まぁ大層な名前が付いているが、俺が指定した人物の居場所を知れるだけのショボい能力さ。」
「君までギアスを…あの男…君にまた会えたことは、素直に嬉しいけど…」
ライがようやく驚愕から立ち直って笑顔を見せる。ロックはそれを見て一つ息をつくと、色々と質問したそうなライを抑えて先に問うた。
「それはそうと、お前女が出来たのか?眠っている間にずっとカレン、カレンとうわ言を言っていたぞ。見合いの話が出ても、貴族の娘から言い寄られても全く興味を示さなかったお前が、成長したものだな。」
「確かに、何よりも大事だと思える女性には出会ったよ。それを成長と言っていいのかどうかは分からないけど…というか、見合いは全部、妹が勝手に断っていたからね。」
その言葉に、ロックは思わず笑みを深める。
「ルーンか。全く、お前もつくづく妹に甘いな。」
「そう言うなよ、僕にとってはたった二人の肉親だったんだから。それより、説明してくれないかな?あれからどれだけ経っていて、ここはどこで、君はここで何をしているのかを。」
ライの言葉を受けて、ロックは部屋の隅から錆びた車椅子をベッドの前まで運び、足をつっていた布を外して彼の身体を持ち上げると、そのまま車椅子へと下ろした。
「お前をここに連れてきてから今日で調度一週間だ。ここの説明に関しては、見せなければならないものと会わせたい男がいる。とりあえず、格納庫へ行くぞ。」
ロックが車椅子を押し、ライが左手に点滴を吊るしているスタンドを持って二人は医務室を後にする。電源の入っていない自動扉をロックが片手で開け、ライが座る車椅子を押して格納庫へ入る。まず彼の目に飛び込んできたのは、ボロボロになった月下の姿だった。
「分かってはいたけど…自分の愛機がここまでの姿になっているのを見るのは辛いね。」
「まぁ、もうこのままでは使えんだろうな。だが、改修すればなんとかなるだろう。アレを見ろ。」
ロックが指差した先には、グレーのカラーリングが特徴的な大型ナイトメアが鎮座していた。
「あの機体は灰塵壱式。アレを造った男が、ここにいる。」
「アレを…こんな施設でか?」
疑問を呈するライの元に、格納庫の奥から現れた一人の老人が歩み寄った。彼はゆっくりとした、しかしキツめの口調でライに話し掛ける。
「ワレがライか?ワシはチャド・ティーチー・タカムラ。あのナイトメアの製造者や。ワレの月下っちゅー機体も、ワシが改造しても構わんか?」
「は、はい。よろしく、お願いします…」
チャドの口調に面食らいながらも、ライは月下の改造を了承した。
「おっしゃ。ほな気合い入れてやろかぁ。」
すぐに月下に向かっていくチャド。その後ろ姿を見ながら、ロックが伝えた。
「あの男の目的はまた後で聞け。大事な事は、俺とあの男の目的が一致することと、それを達成するにはお前が必要だと言う事だ。だから、さっさと治してしっかりリハビリをしろ。」
「…分かったよ。とりあえず、君の目的とやらを聞かせてくれ。」
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ゼロから連絡を受け、中華連邦から潜水艦で日本を目指していた神楽耶やラクシャータらは、先行している無人機から送られてきた戦闘の様子を見ていた。
「─やはり、飛行型ナイトメアが…」
神楽耶の言葉にラクシャータが答える。
「私達が着くまで持てばいいけど、ナイトオブラウンズがこんなにも出張ってくるのは予想してなかったわねぇ…」
モニター内からはブリタニアの飛行型ナイトメアが騎士団を翻弄する姿が映し出されていた。戦況は悪くなる一方で、味方機はどんどん数を減らしている。
「ここでゼロが負けたら、元の木阿弥だ。なんとか持ちこたえてくれれば…!」
祈るような気持ちで、ラクシャータらと合流した扇も同調する。彼の言う通り、ゼロがここで捕らわれれば、彼らは再び中華連邦で大宦官達のご機嫌を伺う生活に戻るか、ブリタニア軍に捕らわれるかしかない。その時、オペレーターの一人が声を上げた。
「…正体不明の飛行物体が接近中!」
その言葉に、神楽耶らはそちらを向く。レーダーからは、二機の不明機がこちらに近付いてくる様子が写し出されていた。オペレーターは急いでデータを確認する。
「……一機の識別信号を確認!────月下です!!」
オペレーターの声に、神楽耶らは目を見開いて驚く。月下は、藤堂と四聖剣の搭乗機だ。そしてその月下は予備も含め、今回の作戦に全て投入されている。残る月下は東京決戦で破壊され、パイロットも殺された可能性が高いとゼロから聞いている。だからこその驚きであったが、それが治まる前にその月下から通信要請が入った。
「…繋ぎますか?」
オペレーターの言葉に、神楽耶が答える。
「繋いで下さい。」
今まで戦況を映していたモニターの半分に、月下のパイロットが写し出された。
『神楽耶様、お久し振りです。戦況を教えて頂けませんか。』
その言葉を発したのは、行方不明となっていたライであった。ゼロから彼が死んだ可能性を聞かされ、ハーフとはいえ皇家の血を引く者として半ば兄のように慕い、その身と行方を心配していた神楽耶は安堵する。しかしすぐに頭を切り替えると、ライに現在の戦況を伝えた。
「現在、ゼロ様は重アヴァロン内にて新総督捕縛に向かっているものと思われます。艦上では戦闘が続いていますが、ナイトオブラウンズとその専用機であるトリスタン、モルドレッド、ランスロット・クラブの姿が見られます。他に、新型量産機とみられる機体も…」
「かなりの窮地ですね…分かりました。一刻も早く、援護に向かいます。」
そう言うとライは通信を終え、機体を加速させる。潜水艦に近い無人機からは、月下の改造機と思われる機体と、その倍近くあろうかという大きさのグレーのナイトメアが写し出され、重アヴァロンに向かって遠ざかっていった。