コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
「…間に合ったとは言えないけど、君を救えて良かったよ、カレン。」
「─ラ、ライ…」
カレンの目の前には、この一年間探し続けた最愛の人が映し出されていた。そして、彼の乗る機体が、紅蓮の右足を掴んで落下を止めていた。
「─い、今まで、どこに…?それに、その機体…」
声を震わせるカレンに対しライは苦笑混じりに言葉を返す。
「この機体は蒼月。どこにいたかゆっくり話したいけど、今は…」
『ベストポジションじゃな~い』
二人の会話に割って入ったのはラクシャータだ。そしてその言葉は、カレンに対して向けられていた。
「ラクシャータさん!?」
『お待たせ。黒の騎士団特製の飛翔滑走翼。教本の予習はちゃんとやってた?』
「は、はい!大丈夫です!」
『じゃあ本番、いってみようか。』
『基本誘導はこちらでやりますね。ゼロ様の救出を頼みます。』
神楽耶もカレンに言葉をかける。
「そういうことだから、すまないけどカレン、放すよ。」
ライが言うと同時に、蒼月は手を放した。紅蓮の落下が再開されるとほぼ同時に、潜水艦から飛翔滑走翼が発射された。
「回れっ!」
その言葉と共に、紅蓮の頭部と、破壊された右腕の中で残っていた肩部分がパージされる。
それを見ると、ライは一度海面近くまで降下し、重アヴァロンに向かって飛んでいった。
「連結!」
紅蓮に向かっていた飛翔滑走翼が言葉通りに連結された。
「続けてぇ、徹甲砲撃右腕部!」
ラクシャータの言葉により、潜水艦から大型ミサイルが発射された。そのミサイルは紅蓮に近付くと減速し、外装をパージした。その中から新たな右腕が出現し、接続された。直後に連結された飛翔滑走翼の上部がパージされ、その中からは新たな紅蓮の頭部が出現した。
「敵がどれだけいようと!」
カレンの言葉と共に右腕を掲げる紅蓮可翔式。その新たな右腕にエネルギーがチャージされていく。
重アヴァロンでは、ギルフォードにより藤堂の月下が撃墜され、コックピットが射出されていた。
『我が隊は、藤堂を追います。』
配下のグロースター数機を引き連れ、ギルフォードがその月下のコックピットに向かっていく。
「ああ、こっちは総督を…ん?」
言いかけたジノの目に、撃墜した筈の紅蓮が飛翔し、戻ってくる様が写し出された。
「空に?黒の騎士団もフロートを?」
一方のカレンにも、撃墜された藤堂から通信が入っていた。
『紅月君、ゼロを!』
「助けてみせます!彼と供に!」
紅蓮に向かって、ヴィンセントとグロースターがライフルを放つ。しかし紅蓮は、それを輻射波動で防ぎつつ接近した。
「この紅蓮が通用しなかったらおしまいね!」
呟くカレンに、神楽耶が苦笑いで答える。
『でも、やるしかないから、撃ってみましょうか。』
「そりゃそうですね!」
紅蓮は右腕をヴィンセントとグロースターに向ける。その掌から輻射波動がビームのように放たれた。
「え、遠距離で…!」
その攻撃にヴィンセントは一瞬だけ持ちこたえ、その間にギルフォードは脱出に成功した。しかし周囲のグロースターは全て、輻射波動にのまれて爆散した。
「スザク、お前は総督を!」
その光景を見ていたジノがスザクに指示を出す。
『油断するな!相手はジェレミア卿に勝ったこともあるパイロットだ!』
「あのオレンジにかよ!」
ジノの言葉と同時に、トリスタン、ランスロット・クラブ、モルドレッドが紅蓮に向かう。しかしその直後、ランスロット・クラブが真下から斬撃を受けた。
『アァドニスッッ!!!』
蒼月が急上昇し、クラブに襲いかかっていた。なんとか一撃は食い止めたものの、蒼月の右腕部についている大型MVSに押され、クラブは戦場から押し出された。
「やはり生きていたかっ!!」
アドニスは笑みを湛えながら、敵機に向かって蹴りを放つ。しかし剣と一体化したシールドに止められ、左腕に持っていたもう一本のMVSでヴァリスを斬り落とされた。
一方で、ジノ達も驚いていた。敵の紅蓮がトリスタンとモルドレッドの攻撃を全て避け、ラウンズ二機を相手に互角の闘いを演じていたからだ。
「おいおい、ラウンズ並の腕前か?」
「でも、これで…」
アーニャはモルドレッドのシュタルケハドロンを構え、照準を合わせる。しかしその目の前に、大型でグレーのカラーリングが特徴的なナイトメアフレームが立ち塞がった。
「はぁっ!」
モルドレッドが吹き飛ばされる。アーニャは遅れて理解した。今自分は、思いっきりブン殴られたのだと。
「いきなり…ボクサー!?」
正体不明のナイトメアは、アオモリで確認されていたボクサーと思われた。そのボクサーに、シュタルケハドロンの照準を向ける。しかし敵も、その場に留まって機体の腰に装着された長刀の鯉口を切っていた。
『…遊びたいけど、これで終わり。』
アーニャがオープンチャンネルでボクサーに告げ、シュタルケハドロンを発射した。
「はあぁぁ!」
しかしボクサーが腰から抜いた長刀型のMVSにより、モルドレッドが放ったシュタルケハドロンは両断されてしまう。ボクサーはほぼ無傷であり、その光景にアーニャは唖然といった表情を浮かべていた。
「嘘…シュタルケハドロンを…!」
「モルドレッドか。久しぶりだな、アーニャ。」
ボクサーからの通信にアーニャは眉をひそめる。どこかで聞いた事のあるような声のような気もするが、その声の主が誰であったのか彼女には思い出せなかった。
「戦場で会った以上、悪いが手加減は出来んぞ!」
モルドレッドとの距離を素早く詰めるボクサー。咄嗟に操縦桿を倒し、間一髪で敵の攻撃をかわしたアーニャ。あと一歩操作が遅れていれば、ボクサーの持つMVSによって少なくともシュタルケハドロンは両断されていただろう。
「鬱陶しい!」
紅蓮が輻射波動砲弾を放つも、トリスタンはギリギリで避ける。フォートレスモードのトリスタンの飛翔速度はかなり速く、カレンは捕まえあぐねていた。そこへ横から、トリスタンに向けてハーケンが放たれた。
『カレン、ここは僕らに任せて、ゼロを追ってくれ!』
彼女にそう伝えたのはライだ。クラブを相手取りながら、スキを見てトリスタンへも攻撃を放っていたのだ。
「気をつけて!」
ライに告げると、紅蓮を重アヴァロンに向けて前進させる。今まではトリスタンに邪魔されていたのだが、ハーケンを避けた事でそこに道が出来ていた。
『行かせるか!』
紅蓮を追おうとしたトリスタンに蒼月が右腕を向ける。すると、MVSが盾の内側に収納され、そこに銃身が現れていた。
「嘘だろッ!」
そこから放たれた砲撃をなんとか避けて体勢を立て直すと、トリスタンと重アヴァロンとの間に蒼月が陣取っていた。
「ラウンズを二人同時に相手にするというのか…後悔させてやろう!」
「ああ!ラウンズとして、負ける訳にはいかない!」
アドニスとジノが左右から同時に機体を突撃させる。蒼月は二刀のMVSを構え、迎え撃った。
「カレン?この状況でまた来るなんて…まさか、旗艦の中にゼロが!?」
追ってくる紅蓮の姿を認めたスザクが驚く。
「どけえぇぇ!」
紅蓮の背部から、ミサイル状の物体が放たれる。
『喰らわせな、ゲフィオンネット!』
ラクシャータの言葉と共に紅蓮の背部から発射されたミサイルは、ランスロットの周囲に留まり、内部のゲフィオンディスターバーを起動させた。
「それは、対策済みさ!」
ランスロットはハドロン砲を紅蓮に放つ。しかし紅蓮は最小限の動きでハドロン砲を避け、ランスロットに接近した。
「でも、足は止まったね!」
ランスロットがMVSを抜き放つより早く、紅蓮が輻射波動を照射する。かろうじてブレイズルミナスで防御するも、ジリジリと押されていく。
「そんな!ユグドラシルドライブのパワーも上がっているはずなのに…」
驚愕するスザクに、セシルから通信が入る。それは、総督の現在位置を知らせるものだった。そして、その通信に一瞬気を取られた為に出来たスキを、カレンは見逃さなかった。
「しまった!」
紅蓮の胸部から射出されたハーケンで頭部の左側に一撃をくらう。
「いたぁーーーーーーっ!!!」
アヴァロンでは、ロイドが顔を抱えて叫び声をあげる。ランスロットの左頬にあたる部分が、ハーケンによって抉られていた。
しかしランスロットは攻撃を食らって後退する機体の勢いを利用して反転。重アヴァロンに向かった。
『カレン、今はスザクより…』
『ゼロ様を!』
千葉と神楽耶から立て続けに通信が入るが、肝心のゼロの居場所が判明していない。
「分かってるけど、どこに!?」
戸惑うカレンの目の前で、ランスロットは重アヴァロン内部に侵入していった。