コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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episode9 Fragment

「大型MVSに磁力シールド、マイクロメーサー砲に加えて、出力もかなり上がった上に以前よりピーキーに…よくもまぁ、私が作ったナイトメアをここまで改造してくれたものねぇ。」

 

蒼月を前に、ラクシャータが不満をこぼす。

 

「すいません。あの闘いで月下は大破に近い状態で、こうするしか…」

 

蒼月から、隣に格納されている大型ナイトメアに目を移す。

 

「こっちは灰塵壱式だっけ?ずいぶん思いきった設計ねぇ…それに、紅蓮を意識したネーミング…」

 

ラクシャータの言う通り、灰塵壱式は接近戦に特化した大型ナイトメアフレームだった。両掌部分に砲口があるものの申し訳程度であり、遠距離戦を得意とする相手に接近する為に一応ついている、という具合だ。

 

「手首周りにブレイズルミナス、膝にも小型MVS…あぁ、足首のとこにもブレイズルミナスが装備されてるのね。それに、あの長刀型のMVS…」

 

タブレットからデータを引き出しつつ、読み上げていくラクシャータ。彼女はデータを読み終わった直後、深いため息をついた。

 

「─整備班のみなさんには苦労をかけてしまいますが…」

 

ライの申し訳なさそうな顔を見て、ラクシャータはその顔に苦笑いを浮かべる。

 

「…まぁいいわ。とりあえず今回は、あんたが帰ってきたってことで良しとしましょう。他人が製造したナイトメアをいじれるのは、こっちも同じことだしねぇ。」

 

ラクシャータの言葉にライは胸を撫で下ろす。最悪の場合、私の月下に何してるんだ!! と、怒られることも想定していた。

 

「ナイトメアのことはこっちでやっとくから、あんたはお姫様のところへ行ってやりなさいな。本当は先にそっちに行きたくてウズウズしてるんでしょ?」

 

ラクシャータに内心を見透かされ、降参とばかりに両手を挙げるライ。ちなみに、お姫様とはカレンのことだ。

 

「──分かってても黙ってて下さいよ…自分でもコントロール出来ないんで、どうしようもないんです。」

 

ライは自分の心境を素直に吐露する。こうした方が、ラクシャータも納得して逃がしてくれると思ったからだ。

 

「はいはい、わかったわよ。何かあったら連絡するわぁ。」

 

そう言うと、ラクシャータはライに背を向けて蒼月の方へと歩いていった。

 

(とりあえず、怒られないで良かった。)

 

ライはホッとしながらその場を後にし、カレンの部屋へ向かう。途中、ゼロの私室にも立ち寄ったが、ノックしても返事は返ってこなかった。

 

(ワンクッション挟みたかったんだけど、ナナリーのことだし仕方ないか…)

 

ライは諦めてカレンの部屋へ向かい、扉をノックする。

 

「カレン、僕だ。入ってもいいかな?」

 

「…ラ、ライ!?ちょ、ちょっとだけ待って!」

 

その声と共に、部屋からはドタバタと音がする。おそらく、片付けの苦手なカレンが脱ぎ散らかした衣服等を隠しているのだろう。

それを理解しているライは苦笑しながら壁に寄りかかり、片付けが終わるのを待った。

 

「…ごめんね、お待たせ。」

 

5分ほど経った頃、プシュッという音と共に扉が開いた。

中からは申し訳なさそうな表情をしたカレンが顔を出した。

 

「大丈夫だよ。こっちこそ、さっきの今で訪ねてきてごめんね。」

 

その言葉を聞いてカレンは安心したようで、ライを部屋の中へ招いた。自分はベッドに腰かけてライを椅子に座らせると、改めて来訪の理由を聞いた。

 

「どうしたの?さっき言い忘れたことでもあった?」

 

「…言い忘れた事というよりも、君にだけは話しておかなければならない事があってね。」

 

何やら言いにくそうにしているライの言葉を、カレンは黙って待つ。

 

「……僕の過去のことだ。記憶が戻った。いや…正確には戻っていた、だな。」

 

「!! そうなの!?」

 

カレンは思わず上半身を乗り出す。ゼロから記憶が戻っているらしい程度の事は聞いていたが、やはり本人から聞くまで信じられないでいたのだ。驚くカレンを落ち着かせ、ライは続きを口にした。

 

「信じてもらえないという思いと、知られたら軽蔑されるかもという思いがあって、ずっと黙っていた。すまない。」

 

ライは頭を下げた。その姿になんと答えたらいいか分からず、カレンはとりあえず続きを話してくれるように促す。

 

「思い出したのは神根島の遺跡に触れたとき…僕はあそこに封じられていた。200年前から。」

 

「…にっ、200年!?どっ…えぇ!?」

 

信じられないといった表情のカレンに、さらに驚愕の過去を告げる。

 

「僕と妹は200年前、後に王となるブリタニア皇族と、当事留学していた皇家の女性との間に生まれた。当然、他の兄弟や家臣からは疎まれ、さらには父が病死したのをいいことに、投獄された。

その僕の前にある男が現れ、契約を持ち掛けてきた。力を与える代わりに見返りを貰う、と。僕は母と妹を守る為、彼と契約して力を手に入れた。……ギアスを。」

 

「!! …ギアス!?ちょっ…ちょっと…」

 

ライの告白にカレンは先程以上に驚愕した。その力はゼロだけのものと思っていたが、まさかライも同じ力を持っていたとは考えてもいなかった。

 

「僕の力は絶対順守。ゼロのギアスとほぼ同様だ。誓っていうが、君や騎士団の仲間に使った事はない。」

 

ライの言葉にかろうじて頷くカレン。その様子を見ながら、ライは続きを話した。

 

「…僕はギアスを使って、兄達を同士討ちに見せかけて殺し、宰相の助けもあって12歳で王位についた。そして、周辺諸国と何度も戦争になった。」

 

ライはじっ…とカレンを見つめる。その瞳に、カレンは思わず唾を飲み込んだ。

 

「17歳の時、その戦争の裏でこちらの領土を掠めとるスコットランドを攻めることになった。そこで……ギアスが暴走した。」

 

ライがカレンから視線を外してうつむく。

 

「僕は…僕は母を…妹も戦争に追い込んでしまった…僕が力を求めたばかりに!僕は、母と妹を守る為に手に入れた筈の力で、母と妹を殺したんだ!」

 

ライの声は震えていた。握りしめた拳からは血が滴っているが、それに気付いた様子もなく、彼はさらに話を続ける。

 

「…僕の両手は真っ赤に染まっている。そして、それを隠して君のそばにいた。君に対する明確な、裏切りだ。」

 

裏切りという言葉にカレンは体を震わせる。この先にライが続けようとした言葉がなんとなく察せられたからだ。

 

「…僕は、本当は君の傍に立っていい人間じゃないんだ。僕は…僕は…」

 

その時、独白を続けようとするライをカレンがゆっくりと抱き寄せた。ライはビクリと体を震わせる。

 

「…あなたは悪くない。」

 

カレンの言葉に、ライは目を見開く。

 

「あなたは悪くないわ、ライ。大丈夫、大丈夫だから。あなたは私を裏切らないし、私も、あなたを裏切らない。」

 

カレンは言い聞かせるようにゆっくりとライに告げた。その言葉で緊張が解けたのか、ライの瞳からは大粒の涙が溢れだした。

 

「──カレン、君は…」

 

「大丈夫。私はあなたを許すわ。ちゃんと、言ってくれてありがとう。」

 

その言葉で、ついにライは崩れ落ちた。子どものように声を上げて泣くライを、カレンは背中を撫でながら慰め続けた。

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、目の前にはライの寝顔があった。彼の寝顔は知らなければ本当に女性のようで、カレンは吸い込まれるようにその寝顔を眺めた。

 

(依然はもう少し寝顔に険があったような気がするけど…)

 

アッシュフォード学園に拾われた際や、神根島から救出した直後等、眠るライの横でカレンは観察や看病をしていた。その頃と比較して、かなり穏やかな寝顔になった気がする。

カレンが右手でライの髪をそっと撫でると、ライは何かもごもごと口を動かし、寝言ともつかぬ声を発する。

 

(…なんか、かわいい。)

 

そのまま右手を髪から、頬、首へと移し、胸元に持っていく。指先に触れるライの体は細身だが筋肉質で、何ヵ所も触るだけで分かる程の傷痕が残っていた。

 

(昨日も思ったことだけど、こんなにたくさん傷を負って戦ってきたのね…)

 

ライの傷痕は胸部だけでなく、腹部や四肢にもある。昨夜何度も触れた箇所だが、今もそれを愛おしく感じたカレンは、傷痕を何度も撫でた。

 

「んん…」

 

それにより、ライが目覚めたようだ。カレンはぼんやりと目を開けるライに微笑みながら目覚めの挨拶をする。

 

「おはよう、ライ。」

 

「…おはよう、カレン」

 

幾分寝惚けたような表情で挨拶を返したライは、そのままカレンを引き寄せた。

 

「ラッ…」

 

思わぬ行動に一瞬焦るカレンだが、ライはカレンを抱き締めたまま口をひらく。

 

「…昨日はごめん。迷惑かけた。それに…」

 

その言葉を聞いて、カレンはライの背中に手を回す。

 

「ううん、辛かったことを、話してくれてありがとう。私は、何も後悔してないから…。」

 

カレンの言葉を聞いて、そっと体を離す。

 

「ありがとう、カレン。なんだかとても、スッキリした気がするよ。」

 

そう言うとライはベッドから降りて、カレンに背中を向けたまま服を着る。その背中も傷痕だらけで、ライの着替えが終わるまでカレンはその背中を眺めていた。

 

「一旦自室へ帰るよ。その後、二人でゼロの元へ行こう。」

 

ライが振り返りながら言う。視線が合うとなんだか急に恥ずかしくなったカレンは、布団に首まで潜り込んだ。

 

「う、うん。わかったわ。」

 

少し顔を赤らめながら言うカレンを見たライは、微笑みを浮かべながらカレンの部屋を後にした。そしてそれを、通りかかったC.C.に目撃されてしまった。

 

「…なんだ、ようやくかお前たち。ずいぶんかかったな。」

 

「…いやC.C.、頼むからそういうからかいだけは勘弁してくれ…」

 

狼狽するライを面白がり、C.C.はなお続ける。

 

「そもそも去年だって、周りからすれば付き合っているようにしか見えないのに、実際に付き合い始めるまでどれだけかかった?全く、お互いがピュアなのか鈍感なのか…」

 

C.C.のからかいは、カレンの部屋へ丸聞こえである。カレンは急いで服を着ると、扉を空けてC.C.に噛みつく。

 

「C.C.!!どうしてそうあんたは人のことに首を突っ込みたがるのよ!?」

 

怒るカレンを前にしても、C.C.は表情を崩さない。むしろ少し楽しそうだ。

 

「…C.C.、こうなることが分かっててやったんだろ。カレンをからかうのは程々にしてくれ…僕達は今からゼロの元へ行くよ。」

 

「ゼロならすでにアッシュフォードに帰っているぞ。」

 

「えぇ!?」

「僕達に一言もなしにか…」

 

C.C.の言葉に二人は驚く。ナナリーの件について共有できる自分達に相談すらなく、アッシュフォードに帰ってしまうまでは予想していなかった。

 

「…まあいい。とりあえず指令室へ行こう、カレン。」

 

「分かったわ。」

 

慌ただしく出ていく二人の背中を、C.C.は黙って見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナナリー総督、少しよろしいですか?」

 

執務室で仕事にかかる彼女の元を訪れたのはアドニスだ。彼は今後の方針について彼女問う為に出向いたのである。

 

「畏れながら、自分には総督は黒の騎士団と闘うつもりがないように感じられまして、今後の方針を伺おうと思ったのですが…」

 

「アドニスさん…。すみませんが皆さん、少し外して頂けますか?」

 

ナナリーは周囲にいた文官達を下がらせると、改めてアドニスに向き合った。アドニスは彼女の正面に椅子を置いて腰掛けている。

 

「アドニスさんは気付いていらっしゃるのですか?」

 

「…お前の兄の事か?それとも、今後の方針の事か?」

 

ナナリーが皇族復帰するより前にスザクを通してナナリーと知り合っていたアドニスは、周囲に誰もいなくなった事で敬語を使うのをやめていた。そしてナナリー自身も、忌憚のない意見が欲しいが為にそれを望んでいる。

 

「今後の事です。私は、ユフィ姉様の意思を継いでこのエリアに平和をもたらしたいと考えています。ですが…」

 

「黒の騎士団がそれに賛同してくれるのかわからない、か。」

 

「はい、そうです。あの…まだ誰にもお話ししていない事なので、出来れば内密にして頂きたいのですが…」

 

ナナリーの頼みに、アドニスは頬を上げながら答えた。

 

「分かっているさ。だが、ユーフェミア皇女殿下の意思では無かったとはいえ、実際に被害を受けた者やその親族らは反発するだろうな。そして最悪の場合、黒の騎士団はそれを理由にこちらを潰しにかかるだろう。ただ、あちらはまだ戦力が揃っていない事だけが救いだな。」

 

「やはり、反対されると思いますか?」

 

アドニスの言葉に、ナナリーは不安そうな面持ちを見せた。それを見て、アドニスは先程自分が述べた言葉と反対の事を口にする。

 

「もちろん、賛同する者もいる筈だ。闘う力を持たない者、今のような状態から抜け出して平穏に暮らす事だけを望んでいる者も多いだろうからな。だが物事というのは、常に最悪の場合を想定して考えなければならない。そういう意味では、騎士団をこのエリアから排除しなければならない可能性は十分に考慮しておくべきだ。」

 

彼女にそう伝えてから、アドニスは数枚の書類を差し出した。

 

「そうなった場合、騎士団が目指すのは中華連邦となると予想している。であれば、俺達ラウンズも闘いの場所をそちらへ移さねばなるまい。だから、お前の選任騎士を選んではどうかと思ってな。」

 

彼女はその書類を手にとって一枚ずつ指で読み取っていった。

 

「全員俺と面識があり、腕は一流だ。かつ、お前が気を使わなくていいように女性ばかり選んでいる。どうするかはお前の自由だが、選任騎士がいた方がスザクも安心するだろう。」

 

そう言うと、アドニスは執務室を後にした。ナナリーは机上に書類を広げ、そこに点字で記載された名前を読み上げる。

 

「シェイナ・ベーガ、リリー・ライオット、メイジー・ルビー、ヴァレリー・スプリングフィールド、サーシャ・ゴットバルト…」

 


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