コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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episode10 特区日本

『私は、見ることも歩くことも出来ません。ですから、みなさん一人一人の力を借りることと思います。どうかよろしくお願いします。』

 

カメラに向かって深く頭を下げるナナリー。テレビの前に集まってその光景を眺めていた団員達は、これまでとは全く違う総督の姿に戸惑いを覚えていた。

 

『早々ではありますが、みなさんに協力して頂きたいことがあります。私は、行政特区日本を再建したいと考えています。』

 

ナナリーから一切の相談を受けていなかったスザクが、カメラの前だということも忘れて驚きを露にする。それはローマイヤら側近も同様で、事前に聞いていたアドニスだけが平然とした表情を浮かべていた。同時に、彼女の演説の為に集まった貴族達も驚きのあまり大きくざわめいている。

 

『特区日本では、ブリタニア人とナンバーズは平等に扱われ、イレブンは日本人という名前を取り戻します。かつて日本では不幸な行き違いがありましたが、目指すところは間違っていないと思います。等しく、優しい世界を。黒の騎士団のみなさんも、どうかこの特区日本に参加して下さい。』

 

「えっ…!?」

 

まさか公共の電波を使って騎士団に呼び掛けを行うなど考えてすらいなかったカレンも同様に驚きの声を上げる。彼女に続き、玉城や扇らもナナリーの言葉を疑う声を上げる中、ライがカレンの耳元で囁いた。

 

「…こうなった以上、あいつの意思が必要だ。ある程度場所は絞り込めるから、探しに行こう。」

 

ライの言葉に、カレンは大きく頷き、船内のブリーフィングルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「カレン、大丈夫かい?」

 

港から疎開外苑部に入り、ルルーシュの元へと歩む二人。だがカレンは、ライから少し遅れた位置を遅れて歩いていた。

 

「ごめんなさい。少し、痛くて…」

 

そう言って、カレンは下腹部を押さえる。それを見たライは彼女に歩み寄ると、その身体を抱え上げた。

 

「ちょっ…」

 

いわゆる、お姫様だっこの体勢である。カレンは思わず声を上げるが、ライがそれに頓着するような様子はない。

 

「すまない、カレン。僕の気遣いが足りなかった。完全に僕のせいなのに…だから、ルルーシュの元まではこのままで行こう。」

 

「う…うん。」

 

カレンは気恥ずかしさから顔を紅潮させるが、とはいえ憧れのシチュエーションでもあったので、されるがままに大人しくしていた。

しばらく歩き、シンジュクゲットーに入る二人。彼らの前には、腕立て伏せをするブリタニア貴族や、宴会芸を行う日本人達の姿があった。

 

「どうしてこうなったんだ…?」

 

呆れたような言葉を口にするライ。彼は一つため息をつくと、視線を自身の腕の中に収まっているカレンに移した。

 

「カレン、アレを使うから、すまないけど一度降ろすよ。後ろを向いて、耳をふさいでおいてくれ。」

 

「…分かったわ。」

 

彼女が自身の言う通りに耳をふさいで後ろを向いた事を確認すると、ライはギアスを起動した。

 

「今日の事は忘れて、さっさと家に帰れ。」

 

ギアスの上書きは成功し、彼らはフラフラと帰路につく。しかし振り返ったカレンの瞳には去り行く彼らの後ろ姿よりも、右目を押さえて表情を歪ませるライの姿が映っていた。

 

「ライ!大丈夫!?」

 

徐々に表情を緩ませるライ。しばらくしてから右目を押さえていた手を降ろすと、何度か瞬きをしてからカレンへと視線を合わせた。

 

「…大丈夫そうだ。すまない、心配をかけた。」

 

「…もうソレは使わない方がいいと思うわ。また暴走する可能性だってあるんでしょう?」

 

カレンの問いに、ライは苦い笑いを浮かべながら返答する。事実、200年眠っていた事で今は小康状態となってはいるが、とはいえいつまた暴走してもおかしくない状態にあるのは間違いないのだ。

 

「そうだね…今回みたいな事が無ければ、使わないで済むんだけど…」

 

そう言うと、ライは再び彼女を抱えて目的地へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりここに来たのね。ここは、ゼロが…あなたが始まった場所だものね。」

 

シンジュクゲットー内にある、再開発の為の資材置き場に腰掛け、左袖を肘までまくり上げているルルーシュ。そのルルーシュに、カレンとライが歩み寄った。

 

「ルルーシュ、私は…」

 

彼に言葉をかけようとしたカレンは、ルルーシュが右手に持っているものに気付いて足を止める。それを見たルルーシュは、薄笑いを浮かべながらそれが何かを告げた。

 

「リフレイン。カレンも知っているだろう?懐かしい昔に帰れる…」

 

「…ふざけないで!!」

 

カレンは駆け寄ると、彼の手からリフレインを奪って地面に叩きつけた。

 

「一度失敗したくらいで何よ!また作戦考えて取り返せばいいじゃない!いつもみたいに命令しなさいよ!ナイトメアに乗る!?それとも囮操作!?なんだって聞いてやるわよ!!」

 

「だったら…俺を慰めろ。」

 

立ち上がり、カレンに近付くルルーシュ。カレンの首元へ左手を近付けると、同時に自身の顔もゆっくりと近づけた。

 

「ルルーシュ、歯を食いしばれ。」

 

「えっ…?」

 

ルルーシュが気付いた時には、既にライの拳は目の前にあった。ルルーシュは受け身をとることすら出来ず、地面に叩きつけられた。

 

「ライ…何を…?」

 

ルルーシュが口を拭いながら問い掛ける。

 

「君が殴って欲しそうな、情けない顔をしていたからだよルルーシュ。それに、彼女の事を一体なんだと思っているんだ?」

 

ライの表情は明らかな怒気を孕んでいた。ライは右手を伸ばし、ルルーシュの胸ぐらを掴んで無理矢理立たせると、自分の眼前まで引き寄せる。

 

「君が…いや、お前が始めたゼロだ。僕らは今まで、お前を信じて騎士団に参加していた。カレンも扇さんも、藤堂さんも!お前には事を起こした責任があるだろう!その責任から逃げる前に、やるべきことがあるんじゃないのかルルーシュ!!」

 

「っ!!」

 

「ライの言う通りよルルーシュ!今のあんたはゼロなのよ。私達に夢を見せた責任があるでしょう!だったら…最後の最後まで騙してよ!今度こそ…」

 

二人の言葉にハッとした表情を見せるルルーシュ。その直後、ライがルルーシュを押しやり、涙を浮かべるカレンの肩を抱いて、彼の前から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

騎士団の船へ戻り、ライの私室に入った二人を出迎えたのはC.C.だった。その手はゼロの仮面を弄んでいる。

 

「あいつは何と言っていた?」

 

ライの椅子に我が物顔で座り、まるで自分の部屋であるかのようにくつろぐC.C.に文句を言おうとしたカレンを制して、C.C.が先に問いかけた。

 

「…何も言っていなかったよ。ただ僕らが一方的に話して、腑抜けた顔をしていたから殴っただけだ。」

 

ライの言葉に、C.C.の視線が少し険しくなる。

 

「気合いを入れたという訳か?その程度であいつが戻ってくるのなら…」

 

「それだけじゃないけど、まぁ色々あってね…でも戻ってくるかは分からないよ。ルルーシュ自身の選択だから。」

 

それを聞いたC.C.がしばらく何かを考え込む。そして顔を上げて再び二人に視線を戻すと、ライに向かってゼロの仮面を放り投げた。

 

「…それはお前が持っていろ。必要になるかもしれんからな。」

 

「──それって…」

 

『こちらはブリタニア軍である。』

 

カレンの言葉を遮って船内に響いたのはスザクの声だ。海に潜む騎士団を探す為に船団を率いて出撃してきていたのである。

 

『貴船の航路は申告と違っている。停船せよ。これより、強硬臨検を行う!』

 

「見付かったんですか!?」

 

「おそらくな。」

 

指令室へ飛び込んできたカレンが藤堂へ問う。カレンの後ろにはライ、C.C.も続いている。少し遅れてロックも姿を見せた。

 

『10分待つ。それまでに全乗組員は、武装解除し、甲板に並べ!』

 

スザクの通告を受け、ライとロックは格納庫へと走った。

 


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