コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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episode12 Slaughter order

シズオカゲットーにある、行政特区日本の予定地。その中にある式典会場には、百万人を超える日本人が集まっていた。その人々に紛れる形で、変装した騎士団の団員達も会場に入っている。

なお、ライはその銀色の髪が目立ちすぎる為、カツラをかぶっての潜入となっていた。

ブリタニア側の監視員の中には機情に所属するヴィレッタもおり、扇の存在を探している。

 

『日本人のみなさん、行政特区日本へようこそ。たくさん集まってくださって、私は今、とても嬉しいです。新しい歴史の為に、どうか力を貸してください。』

 

式典会場ではナナリー総督の演説が始まっていた。

 

『それでは式典開始前に、私たちがゼロと交わした確認事項を伝えます。』

 

ミス・ローマイヤが読み上げる。その内容は、

 

行政特区に参加する者は局舎として罪一等を減じる

 

三級以下の犯罪者は執行猶予扱いとする

 

ゼロだけは、国外追放処分とする

 

以上の三項目であった。

 

『ありがとう、ブリタニアの諸君!寛大なるご処置、痛み入る。』

 

突如として会場内のモニターが切り替わり、ゼロが写し出される。

 

「姿を現せゼロ!自分が安全に、君を国外に追放してやる!」

 

スザクがナナリーの前に出てゼロに語りかける。しかしゼロは応じず、質問を返した。

 

『人の手は借りない。それより枢木スザク、君に聞きたいことがある。日本人とは、民族とは何だ?』

 

「…何!?」

 

『言語か?土地か?血の繋がりか?』

 

ゼロの質問に戸惑いつつも、スザクは自身の信じる答えを告げた。

 

「違う!それは……心だ!」

 

『私もそう思う。自覚、規範、矜持…つまり、文化の根底たる心さえあれば、住む場所が異なろうと、それは日本人なのだ!』

 

「それと、お前だけが逃げることに何の関係が?」

 

スザクが口にした時、ライやカレン、藤堂ら騎士団達は鞄に隠していたスイッチを押し、その鞄から煙幕を噴射させた。

会場は一瞬にして煙幕に包まれ、視界が遮られてしまう。

 

「何が起こったのです?」

 

目が見えない為に状況を把握できないナナリーに、アーニャと選任騎士候補であるサーシャ・ゴットバルトが駆け寄る。

 

「総督、今は。」

 

それだけ告げると、アーニャはナナリーの車椅子を押して、サーシャと共に彼女の安全を確保する為に舞台裏へと連れ出した。

 

「仕方ない…全軍、鎮圧準備に入れ。」

 

命じたのはギルフォードだ。会場に配備されたナイトメア部隊や、フロートで空中から監視していた部隊が銃を向ける。

 

「待て!相手は手を出していない!」

 

それを止めるスザク。

煙幕が薄まり始めた為、会場に目を向けるスザクとローマイヤ。するとそこには、100万人を超えるゼロが立っていた。

 

「この手があったか!圧倒的な戦力差を逆手に取って、百万人を…」

 

「手を出すなよジノ!それではただの虐殺だ!」

 

「分かっている!」

 

状況を理解したジノとアドニスが歯噛みする。この状況で手を出せば、ナナリーは第二の虐殺皇女としての謗りを免れない。

 

『全てのゼロよ!ナナリー新総督の御命令だ!速やかに、国外追放処分を受け入れよ!

どこであろうと、心さえあれば我らは日本人だ。さあ、新天地を目指せ!』

 

画面の中のゼロの言葉に、会場にいるゼロ達は移動を開始する。

その先には、巨大な海氷船が迫っていた。

 

「仮面を外せ、イレブンども!」

 

そう言って銃を構えたのはヴィレッタだ。それに応じて銃を構えようとした玉置のゼロを、扇のゼロが慌てて遮る。

 

「撃つな!我々は、闘いに来たんじゃないんだ。」

 

「その声…扇!?」

 

ヴィレッタは目の前に立つ、長身のゼロの正体に気付く。自分が探していた扇要が、仮面を被っているとはいえ目の前にいるのだ。

 

「あ、いえ…俺は…ゼロです。」

 

ヴィレッタの言葉を扇は否定する。ヴィレッタを探していたのは扇も同様であるが、ここで時間を取られるわけにはいかなかった。

また、会場内各所でも同様の事が起こっていた。警備に当たっていたブリタニア軍人がゼロ達に銃を向け、仮面を外すよう命じる。そうなるであろう事を事前に予測していたライは、ロックと騎士団員達に矢面に立ち、有事の際にはすぐに動ける状況を保つよう伝えていた。

 

(さて、後はスザクとアドニスがこちらの思う通り動いてくれれば…あの二人なら、万が一にも虐殺という命令を下す事はない筈だけど…)

 

ライはこの策の落とし穴に気付いていた。それは、一人でも命令を待たずに発砲した時点で特区成立は不可能となり、ナナリーの面子も丸潰れとなる。そして、それを最もやる可能性が高い人物が、補佐官であるローマイヤであった。

ライは注意深く彼らの様子を観察する。その内の一人であるスザクは、この状態でどう処置を行うかを巡ってローマイヤと口論になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「特区日本は、どうなったのです!?」

 

ナナリーの横を歩くサーシャが彼女に答える。

 

「未確認ですが、ゼロが会場内に現れたとの報告があります。念の為、一時待避を…」

 

「ですが、ゼロは…」

 

「事前の取り決めで、ゼロは国外追放処分となっています。ただ、万が一の事がありますので、事態が落ち着くまではどうか枢木卿にお任せを。」

 

彼女の言葉に、ナナリーは不安そうに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「枢木卿、百万の労働力、どうせ無くすなら見せしめとして…」

 

「待ってください!」

 

言いつつ銃を構えるローマイヤを止めたスザク。ゼロが映るモニターに向き直ると、そちらに向かって叫ぶ。

 

「ゼロ!みんなに仮面を外すよう命令しろ!このままではまた、大勢死ぬ!」

 

『どうするんだスザク、責任者はお前だ。』

 

トリスタンからジノが問いかける。

 

(黒の騎士団がいなくなれば…エリア11は平和になる。ナナリーの手を汚すことも無くなる。)

 

スザクを見つめながら、ルルーシュは思案する。一方のスザクは、どういう決定を下すかを決めかねていた。

 

(しかし…これは卑怯な騙し討ちだ!)

 

迷うスザクを尻目に、ローマイヤが目の前のゼロに銃を向ける。

 

「…死になさい、ゼロ!」

 

そのローマイヤの前に、ランスロット・クラブから降りたアドニスが立ちはだかった。

 

「また虐殺を行えと言うのか!?あなたは人命を…!総督の立場を何だと思っているんだ!?」

 

「ああ、そうだよな…」

 

アドニスが目の前に現れたことで一瞬躊躇したローマイヤの手から、スザクが銃を取り上げた。

 

「ユフィもナナリーも許すつもりだった!」

 

「相手はゼロです!」

 

「ゼロは国外追放!約束を違えれば、他の国民も我々を信じなくなります!」

 

反論するローマイヤをスザクが説得にかかるが、ローマイヤは納得できないようで、さらに反論を重ねる。

 

「国民!?イレブンのことか?あなたがナンバーズ出身だからといって…」

 

ローマイヤの言葉は侮蔑に満ちていたが、スザクははっきりと否定する。

 

「ナンバーは関係ありません!それに、国策に賛同しない者を残して、どうするのです!」

 

「この百万人は、ブリタニアを侮蔑したのですよ!」

 

自分の言動を棚に上げ、異を唱えるローマイヤ。しかし、スザクが結論を曲げることは無かった。

 

「そのような不穏分子だから、追放すべきではないのですか!」

 

「ミス・ローマイヤ!ここでこいつらを殺せば、ブリタニアは他国からも信頼を失い、戦禍が広がるだけだ!あなたはその責任を取れるとでも言うのか!?」

 

アドニスとスザクの言葉に反論の術を見出だせずに黙り込んだローマイヤの姿を確認し、スザクは再びゼロの映るモニターに向き直る。

 

「約束しろゼロ!彼らを救ってみせると!」

 

『無論だ。枢木スザク、君こそ救えるのか?エリア11に残る日本人を!』

 

「その為に、自分は軍人になった!」

 

スザクはゼロの問いに迷いなく答える。

 

『…分かった。信じよう、その約束を。』

 

その言葉を最後に、モニターからゼロが消える。

それを見て、百万人のゼロが移動を再開した。

 

「急ごうぜ、今の内だ。」

 

扇に告げたのは玉置だ。扇もそれに応じ、ヴィレッタの横を抜けていく。

 

「さ、さようなら、ブリタニアの人…」

 

その背中を、ヴィレッタは悲しげに見つめていた。

 

 

 

海氷船に向かうゼロの中から、一人のゼロがスザクに向かって歩を進めてきた。

 

「ありがとう、スザク。君のおかげで、悲劇を繰り返さずにすんだ。」

 

軽く仮面を上げると、そこにいたのはライだった。

 

「ライ、君は…」

 

「次はまた戦場で会うことになるだろうけど、それでも僕は信じているよ。いつか君と僕の道が交わることを…」

 

そう言うと、ライは仮面を被り直し、スザクの前から去っていった。その後ろ姿を見ながら、スザクは以前の特区日本が施行される直前に、彼と交わした言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(これは、僕が発砲命令を出さないと信じての作戦だ。ゼロは、僕の事をよく知っている。そして、彼が未だ付き従っている事を考えると…)

 

スザクは、やはりゼロの正体はルルーシュではないかと疑いを深めていた。

式典会場に一人立ち尽くすスザクを、離れゆく海氷船からライは眺め続けた。彼の姿が見えなくなるまで。

 




今日はこれが最後の更新です。お付き合い頂きありがとうございました。

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