コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
「蓬莱島の状況は?」
斑鳩の指令室に到着したゼロが問う。それに答えたのはディートハルトだ。
「インドからの援軍は、既に到着しております。」
「後は帰って合流するだけだが、天子様の方は…」
ディートハルトに続いた扇の言葉を、爆音が遮った。
「…敵襲!?先行のナイトメア部隊が、破壊されていきます。」
オペレーターの言葉に、扇が命令を下す。
「止まれ!全軍停止だ!」
(おかしい…敵軍と遭遇するにしても、あと一時間は必要だったはず。読んだ奴がいるのか、こちらの動きを!)
ゼロはモニターを注視する。そこには、一機の青いナイトメアが写し出されていた。
「あれは…何故こちらと同じ、飛翔滑走翼を装備している?」
ゼロが疑問を口にするが、誰もそれに答えることは無かった。
『可翔型とはいえ敵は一機。囲んで叩きます。』
そう言って突撃する三機の量産型暁。しかしそのナイトメアは手首からハーケンを射出すると、三機の暁をあっという間に破壊してしまった。
「よくも!」
千葉が回転刃刀で斬りかかる。
「道理なき者がほざくな!」
しかしそのナイトメアは手首のハーケンを高速回転させ、回転刃刀をいとも簡単に破壊してしまった。
『聞こえているかゼロ。』
「まさか、星刻か!」
そのナイトメア、神虎に乗っているのは星刻であった。彼はゼロの手を読み、天子を取り返す為に大宦官から貸し与えられた神虎で向かってきたのだ。
『さあ、天子様を返してもらおう。今ならば命までは…』
言いかけた星刻に突撃するナイトメアがあった。カレンの紅蓮可翔式だ。
「星刻ウゥゥッ!!」
「紅蓮可翔式!」
神虎の刀を、紅蓮が左手のMVSで受け止めた。
「紅月カレンか!しかしこの神虎ならば!」
紅蓮と神虎の出力は互角のようで、どちらも押し切ることが出来なかった。
「…蒼月は!?」
格納庫に飛び込んできたのはライだ。しかし整備員は申し訳なさそうに答える。
「それが…ユニットを外したばかりでして…」
ライは蒼月に騎乗しつつ伝える。
「出来る限り急いでくれ!紅蓮はまだ補給が出来ていない!エナジーが…」
「わ…分かりました!」
ライは手に持つタブレットに映し出される二機の戦闘の様子を、不安そうに眺めた。
紅蓮のゲフィオンミサイルを全て避ける神虎。紅蓮の右手にエネルギーが充填されるのを見て、星刻も距離を取った。
「見せてみろ神虎!お前の力を!」
神虎の胸部が開き、エネルギーを充填する。
「いけない、あれは…」
「知っているのか!?」
整備士の一人に、ゼロが問いかけた。
「作ったのはうちのチームだからねぇ。」
それに答えたのはラクシャータだ。彼女は眉根を寄せ、不機嫌さを隠そうともせず言葉を続ける。
「紅蓮と同時期に開発したんだけど、ハイスペックを追及しすぎてねぇ…扱えるパイロットがいなかった孤高のナイトメア、それが神虎よ。」
神虎から天愕覇王荷電粒子重砲が放たれる。紅蓮からも輻射波動砲弾が放たれ、空中で激突した。両者は一歩も譲らず、ぶつかり合ったエネルギーが中心部で爆発を起こした。
「それが何故敵の手に渡っている!?」
ゼロは思わずテーブルに拳をぶつけた。
「インドも一枚岩ではないということでしょう。」
彼の方へ振り返りディートハルトが答えた。それに続いて、ラクシャータも愚痴を零す。
「マハラジャのジジイ…」
「弱点はないのか!?援護は!?ロックはまだ戻ってないのか!?」
扇が問うが、それにもラクシャータやオペレーター達は明確な答えを示せなかった。
「他のシリーズとは別の概念だからねぇ…輻射機構はないんだけど、あとはパイロットがいなかったってことくらい?」
「捕らえたぞ!勝敗は決した!」
一方、神虎と紅蓮の闘いは佳境を迎えていた。神虎のハーケンが紅蓮の左足に巻き付き、振り回された紅蓮はMVSを落としてしまった。
「そうね。あなたの負け。」
神虎のハーケンを伝って流された電流を、左手でハーケンを掴んで輻射障壁を起動することで防いだ紅蓮。カレンはこれを見越してわざとMVSを捨てたのである。
「何っ!?」
「これであなたは逃げられなくなった。さぁ、直に叩き込むよ!!」
右腕を神虎に向ける紅蓮。それを見て、星刻は呟いた。
「そうか、殺すもやむなしだな。」
「やれるものならね!」
カレンは紅蓮を突撃させる。しかしその直後に紅蓮は失速し、降下を始めてしまった。
「──エナジーが!!」
星刻は両腕のハーケンで紅蓮を拘束し、斑鳩に向き直る。
そして右手に持つ剣を紅蓮に向けた。
「このような真似したくはないが、私には目的がある。天子様だ!天子様を…」
一瞬神虎が動きを止めた。そのスキに砲撃しようとした朝比奈と千葉であったが、逆に後方から砲撃を受けた。輻射障壁で防いだものの、多数の鋼髏が迫ってきているのが2人の目に入る。
「対空射撃を続けよ!星刻様の援護を!」
部隊のやや後方に位置する大竜胆で指揮を取るのは、星刻の腹心である周香凛だ。神虎は紅蓮を捕らえたまま、大竜胆に向かって帰投する為にそちらへ向かった。
「香凛か、助かる!」
神虎の移動を感じ、紅蓮のコックピット内でカレンは慌てた。
「えっ!?やだ、ちょっと待って…」
『カレン!!まだ通信できるか!?』
そのカレンに話しかけたのは、蒼月に乗るライだ。
「ごめん、ライ!捕まっちゃって…」
「大丈夫だ!何も心配するな!すぐに助ける!」
ライは必死にカレンに伝える。
「分かってる!ライ、愛して…」
そこで通信は切れた。ライはすぐに指令室に通信を繋いでゼロに伝える。
「ゼロ!蒼月を出すぞ!」
「待って下さい!」
ゼロが答える前に、ライに返したのはディートハルトだ。
「私は撤退を進言します。紅月カレンは一兵卒に過ぎません。」
「何っ!」
「見捨てろというのか!?」
抗議する扇と南に向かって、ディートハルトは冷たく言い放つ。
「みなさん、これは選択です。中華連邦という国と、一人の命。比べるまでもない。ここは兵力を温存し、インド軍との合流に備えるべきです。ゼロ、ご決断を!」
そのディートハルトに向かって、ライが口を開いた。
「黙れ。殺されたいのか?」
普段の彼とは全く違うそのあまりに冷たい声に、全員が押し黙る。
「私は一人でも行く。発艦口を開けろ!」
「し、しかし、情けと判断は分けるべきです!大望を成す為なら時には犠牲も必要です!」
口調が変わったライに驚きながらも、ディートハルトはなんとか自分の意見を口にする。そこへ、中華連邦の別働隊を潰しにいっていた灰塵壱式が戻ってきた。
「カレンが捕らえられたのか?救出なら付き合うぞ、ライ。」
ロックが告げる。彼はあくまでライの協力者であって、黒の騎士団の団員ではない。その彼がライに手を貸すなら、いよいよ止められる者は団内には存在しない。
「…自分達も、出撃準備は出来ています。大切な人を失いたくないという思いはよく分かる…我々も手伝います。」
続いて、アキトからも通信が入った。それを受けて、ゼロはこの場での判断を下す。
「…ライ、ロック、特務隊を率いて出撃したとしても、お前達だけではカレンを助けられる可能性は限りなく低い。」
ゼロがライに告げる。
「お前も、カレンを見捨てろというのか?」
ゼロの言葉に、ライは怒りを滲ませる。今はなんとか藤堂が止めているが、いつまでも押さえつけてはいられない状態であった。
「いや、決着をつける!全軍反転せよ!」
ゼロの言葉にライは動きを止め、ディートハルトは疑問を呈する。
「何故です!?組織の為にも…」
「インド軍が裏切っている可能性もある。」
ゼロがディートハルトの言葉を遮った。
「それは…」
「千葉と朝比奈に鶴翼の陣を敷かせろ。星刻に教えてやる。戦略と戦術の違いを!」
そう言うと、ゼロは再びライに声をかけた。
「ライ!お前には、先陣を頼む!」
「!!…ああ、任せてくれ!」
(…カレン、必ず助けるぞ!!)
必ず彼女を救ってみせる。ゼロのこの場で闘うという決断に、ライはそう決意を新たにした。