コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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遅くなって申し訳ありません。よろしくお願い致します。



episode16 Unprecedented anger

ゼロと星刻は其々自軍に対して戦略を説明していた。

 

「地形は高低差が少ない。地理的優位は望めない。」

 

 

 

「加えて敵軍は急拵え、指揮系統はゼロに集中させるしかない。しかしナイトメアフレームの性能は敵が勝る…」

 

 

 

「となれば、中華連邦軍の選択肢は!」

 

 

 

「神虎を前面に押し立てての中央突破!!」

 

その言葉と同時に大竜胆から神虎が発進する。その神虎に向かって、ライの蒼月が突撃していた。

 

「蒼月、リミッター解除。行くぞ!!」

 

ライがコンソールを操作する。すると蒼月の背部に、折り畳まれていた小型のフロートが一対出現した。

 

「星刻ッ!!」

 

神虎と激突する蒼月。蒼月が急激に加速したことで弾き飛ばされた神虎だが、すぐに蒼月がターンしてきたことから剣をぶつけ合う。

 

「第三龍騎兵隊、射程ではこちらが勝る!砲撃しつつ突進せよ!」

 

蒼月と闘いつつ指示を飛ばす星刻。蒼月の剣を弾き、距離を取ってハーケンで攻撃しようとするも、星刻が気付いたときには蒼月は神虎の懐に入っていた。

 

「何!?」

 

突き出された大型MVSをギリギリで躱す神虎。蒼月は左腕についているハーケンを放つが、これにも反応され、右肩の一部を削った程度に終わった。しかし、蒼月の速度に星刻は驚嘆していた。

 

「ここまでの使い手とは…侮っていたつもりはなかったがな!」

 

蒼月は現在、神虎を超える機動力を見せている。当然、パイロットにかかる負荷も神虎以上だが、ライがその影響を受けている様子は見られなかった。

再び距離を詰める神虎。蒼月に向かって刀を振るうも左手のMVSで簡単にいなされ、蒼月の蹴りをモロにくらってしまった。

 

「…カレンは返してもらう。その気がないなら、ここで死ね!」

 

眼下では、千葉と朝比奈の部隊が鋼髏の大部隊を左右から包囲しつつあった。正面からも、特務隊が進撃している。それを突破したとしても、その奥には斬月と灰塵壱式が控えていた。神虎と蒼月の闘いも蒼月がかなり押している為に、ゼロは勝利を確信する。

だがその直後、部隊の足元を水が流れ始めた。

 

「フハハハハ。星刻、運河の決壊がお前の策か!水量は減らしておいたんだよ!」

 

下策と断ずるゼロと違い、星刻と闘いながらもライはその策の真価に気付いていた。

 

「ッ!! 全軍、斑鳩まで後退しろ!!」

 

「何?」

 

ライの指示に疑問を呈するゼロ。しかし、ライの焦りは本物だった。

 

「藤堂さん、ロック!飛翔滑走翼を持たない部隊を一機でも多く引き上げるんだ!!」

 

ライの声と同時に、泥沼となった地盤に沈みゆく暁部隊。そこに至って、ようやくゼロは星刻の狙いに気付いた。

ここは手抜き工事によって地盤が極端に緩くなっており、それを知る星刻の部隊だけが安全地帯から砲撃を行う事が出来ていた。前線に出ていた部隊で泥沼に飲まれずに済んだのは、機動力に優れるが故に即座に待避したアレクサンダ隊だけである。

 

「この策の意味を一瞬で理解するか…ライ、やはりお前は恐ろしい男だ。だが、我が国に勝利をもたらすのは、我が国の大地そのもの。ゼロ、お前の敗けだ!」

 

斑鳩に向けて天愕覇王荷電粒子重砲を構える神虎。絶対的に有利な状況を覆されたことでゼロは憤り、目の前のテーブルに拳を叩き付けながら怒りの叫びを上げた。

 

「星刻ウゥッ!!」

 

「どこを見ている!?」

 

その神虎を斬りつけたのは蒼月だ。星刻は蒼月からかなり距離を取ったつもりであったが、その距離を一瞬で詰めて右腕のMVSを降るってきていた。

左腕を盾にし、右腕のハーケンもあてがって防いだものの、砲撃は逸らされた上に胸部には小さくない傷を負ってしまった。

 

「…やはりお前を倒さねば黒の騎士団を潰すことはできないようだな!だが、ここにお前を留めておくことに意味がある!全軍、進軍開始!」

 

「貴様ごときが私を…?笑わせるな!」

 

マイクロメーサーキャノンを拡散型にして放つ蒼月。両腕のハーケンを回転させることで神虎を守りきった星刻だったが、今のライを相手にそれほど長く持たせることは出来ないかもしれないと感じていた。

 

「艦首、拡散ハドロン重砲セット!」

 

「ゲフィオンコントロール、同調よし!」

 

「照準合わせ…いけます!」

 

斑鳩からはハドロン重砲が放たれようとしていた。敵軍の進撃を挫き、そのスキに地上部隊を出来るだけ救出して撤退するつもりだ。

 

「よし、敵軍両翼に向け、発射!」

 

ゼロの命令により、ハドロン重砲が放たれる。それによって多数の鋼髏が撃墜された。

 

「藤堂とロックは部隊の救出を!ライはそのまま神虎を足止めするんだ!」

 

「…分かった。」

 

ゼロはこのままでは終わらないということを理解しているライは、撤退の目的におおよその予測が出来ていた。今すぐにカレンを助けたいのは事実だが、とはいえ目の前で抵抗できずに撃墜されていく味方を見捨てて、彼女の元へ行くことも出来ない。ゼロの命に従って神虎と徐々に距離を取ると、いつでも撤退できる戦闘体勢を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼロが撤退先に選んだのは、歴代の天子が眠る天帝八十八陵である。殿を務めていた蒼月の収用まで完了し、残すは斑鳩のみとなった。

ゼロはここで、籠城戦を展開するつもりだ。

その斑鳩を追おうとする星刻とその部隊は、大宦官が率いる大隊から砲撃を受けていた。

 

「天子様を取り戻すのではないのか!?」

 

聞いたのは香凛だ。彼女も大竜胆の中で兵士達から銃を向けられている。

 

「ここまでで十分。私達には強大な援軍もいるしなぁ。」

 

大宦官の言葉で、モニターがズームされる。そこには、ランスロット・クラブとトリスタン、モルドレッドが映っていた。香凛は知る由もないが、アヴァロンにはまだノネットも控えている。

 

「愚かな…この中華連邦で他国に…ブリタニアに支援を頼むとは!しかもあの艦はアヴァロン!

分かっているのか大宦官ども…相手はEUの半分を奪い取った男、第二皇子シュナイゼルだぞ!」

 

星刻が嘆く。国を、そして天子を憂う者として許せることではないが、かといってここから独力で逆転する術など無いに等しいということも彼は理解していた。

 

「大宦官は私達だけでなく、星刻までここで抹殺するつもりだな。」

 

冷静に状況を分析して言葉を放つC.C.。それに答えることなく、ゼロが告げた。

 

「ディートハルト、仕掛けの準備だ。」

 

「なっ…ここでですか!?」

 

星刻だけではなく、追い込まれているのは自分達も同じである。ディートハルトの驚きは当然だった。

 

「全て揃った、最高のステージじゃないか!」

 

余裕を見せるゼロだが、仮面の下には必死に思考を続けるルルーシュの表情が隠されていた。

 

「どーするってんだよ!援軍もないってのに!」

 

そのゼロに食って掛かったのは玉置だ。彼の言葉は、騎士団員達に共通する思いでもあった。

 

「落ち着け!こっちには天子様がいる。相手だって下手に手出しはできないから…」

 

扇が言い聞かせようとするも、直後に中華連邦軍から砲撃を受けて斑鳩の船体が揺さぶられる。それを見て、ゼロが中華連邦の目論見を団員に伝えた。

 

「中華連邦は、この天帝八十八陵ごと我らを押し潰すつもりだ。つまり、天子を見捨てた…」

 

それは、天子を盾にするという手が使えなくなったことを意味していた。天帝八十八陵に籠城してしまっている現状、正面突破以外に道が無くなったというのと同義である。

 

『ゼロ、こちらは全機の補給が完了した。いつでも発艦可能だ。それと、特務隊全機への飛翔滑走翼の装着も終わっている。』

 

そこへ、ライからの通信が入る。彼がこの戦場から退く気がない事を理解しているゼロは、むしろこの状況では最も頼もしい事であると考え、深く頷いた。

 

 

 

「貴様ら天子様を!」

 

大宦官の乗る大竜胆に斬りかかる星刻。しかしその斬撃は、トリスタンに受け止められている。

 

「君かい?クーデターの首謀者は?」

 

「ブリタニアは退け!これは我が国の問題だ!」

 

問いかけるジノにそう返す星刻だったが、ジノがそれに応じることはなかった。

 

「でも、国際的にはあっちが国の代表だからさ…」

 

そう言って構え直すトリスタンの後ろには、モルドレッドとランスロット・クラブも迫ってきていた。

 

 

 

 

 

「こちらの航空戦力は限られている。一騎当千の気構えで当たれ!」

 

命令を下したのは藤堂だ。彼の声に従い、斑鳩からは飛翔滑走翼を装備した暁やアキト率いるアレクサンダ隊、フロートを装備している蒼月と灰塵壱式を含めた空戦部隊が出撃していた。

なお、レイラはライの補佐という立場を与えられている為にブリッジで戦闘を見守っている。

 

「貴様らごときが、この俺と灰塵を止められると思うな!」

 

真っ先に中華連邦の戦闘機部隊に突っ込んだロックが、次々とその戦闘機を破壊してゆく。戦闘機部隊側も反撃しているが、灰塵壱式には傷ひとつつけられていなかった。

 

「…遊びはおしまい。」

 

そうして暴れ回る灰塵壱式に攻撃を仕掛けてきたのはモルドレッドだ。

アーニャはモルドレッドに内臓されているミサイルを一斉に放つが、ロックはそれに気付いて灰塵壱式の前腕を回転させ、そこにブレイズルミナスを発生させた。それを拳に纏い、全てのミサイルを叩き落とす。

 

「…アーニャか。戦場で会うのは二度目だな。覚えていないようだが。」

 

灰塵壱式が腰から長刀型のMVSを抜く。それを見つつ、アーニャはオープンチャンネルで彼に直接尋ねた。

 

「…あなたは、誰なの?」

 

 

 

一方、黒の騎士団の出撃を受けて、アヴァロンからはランスロットとヴィンセントが出撃していた。

ノネットの専用機はラモラックであるが、到着が間に合わなかった為にアヴァロンにあったヴィンセントで出撃してきたのだ。

 

「へぇ、黒の騎士団も戦力が揃ってきてるじゃないか。これは私達もうかうかしてはいられないなぁ。」

 

そう言うノネットであったが、その表情は非常に楽しそうだ。ナイトオブラウンズとなり、専用機を得て以降は戦場で苦戦することすら無くなった彼女にとって、この状況は不謹慎ながらも嬉しいものであった。

 

「ん?あいつ強はそうだなぁ。枢木、あれは私が貰うぞ!」

 

「あ、ちょ…エニアグラム卿!?」

 

ノネットが向かった先には中華連邦の戦闘機部隊を次々と墜とす蒼月があった。その蒼月に向かって、ヴィンセントがMVSを振り上げる。

 

「何!?」

 

しかし、その一撃は蒼月が左手に持つMVSで簡単にいなされてしまった。直後に斜め下から大型MVSでの突きが放たれるが、ヴィンセントは辛くもこれを躱した。

 

(──今の動き…まさかな。)

 

蒼月の動きにノネットは覚えがあった。それはエニアグラム家に伝わる、王から伝授されたという剣による突き技だ。それを記した書を片手に、何度も繰り返して練習したノネットにとって、似ているでは済まされない程の動きだった。

 

(出来すぎているが、しかし…)

 

思考を巡らせることでほんの一瞬出来たスキを、ライは見逃さなかった。

ノネットが気付いた時には蒼月はすでにヴィンセントの目の前におり、右手のMVSを振るってきていた。

 

「チィッ!私としたことが!」

 

超接近戦を強いられたことで躊躇いを見せたノネットだが、接近戦自体は彼女も得意とするところだ。ノネットは頭を切り替え、嬉々としてそれを受けた。

蒼月のMVSの斬り下ろしを何とか防ぎ、肘のニードルブレイザーを向ける。しかしその動きを予測していたライは至近距離からハーケンを放っており、ニードルブレイザーが起動するよりも早く、ヴィンセントの左腕を破壊した。

その衝撃に抵抗せず、一回転しながら斬撃を放つヴィンセント。しかし蒼月の左腕に持つMVSに止められ、右の大型MVSによって再び放たれた突きを、避けることは出来なかった。

 

「まぁこんなものか…量産機では、あれには勝てんと分かっただけでも収穫だな。」

 

突きが当たる直前に脱出したことで、難を逃れたノネットが呟く。彼女の脳裏には、二度に渡って放たれた蒼月の突きが焼き付いていた。

 

(だが…あの突きの完成度は一体どういうことだ…?多少練習した程度では、あそこまでの鋭さに至るなど考えられんが…)

 

事実、ノネットでさえ未だその技を再現しきれているとは言えない。また、エニアグラム家以外にその伝承が残っているというのも聞いたことがない。ノネットの疑問は尚も深まるばかりだ。

 

(ありえないことだが…それに、ロックのあの時代という言葉…)

 

考えた挙げ句、ノネットは一つの結論に辿り着いた。

 

 

 

「邪魔だ!」

 

中華連邦の戦闘機部隊を退け、大竜胆に向かうライと蒼月。その蒼月に対し、スラッシュハーケンが飛来した。

 

「…アドニスか。」

 

ライが目を向けた先にいるのはランスロット・クラブだ。

 

「今貴様に付き合っている暇はない。悪いが早々に倒させて貰う。」

 

そう言って突撃する蒼月。リミッターは解除されたままなので、その速度は他の飛行型ナイトメアを凌駕している筈だった。

 

「何っ!?」

 

しかしランスロット・クラブは蒼月の一撃を避け、すぐさま反撃のMVSを振り下ろしてきた。よく見るとランスロット・クラブの脚部には、小型のフロートらしき翼が現れている。

 

「機動力を重視しているのが貴様だけだと思ったか?奥の手があるのは、こちらも同じことだ!」

 

そう言いながら2本のMVSを柄の部分で接続し、蒼月に向かって振るうアドニス。ライの言葉とは裏腹に、この闘いが早々に決着することはなさそうであった。

 


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