コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
「ロロが、シャーリーを殺そうとしただと!?」
ルルーシュはライからの報告に驚いていた。しかしそのライは、少し怒ったような目でルルーシュを見つめていた。
「…そもそもは、君がロロと向き合ってこなかったからこうなったんだよ。ロロは、自分の立場を守る為にそうするしかなかったんだ。彼は、それしか知らないからね。」
「……何?」
「彼はナナリーの代わりじゃない。ロロっていう一人の人間なんだ。彼にちゃんと向き合ってきたなら、それに気付けた筈だよルルーシュ。」
ライの言葉にルルーシュは考える。確かに今まで、ロロのことをナナリーのいるべき場所を奪った偽物としてしか扱っていなかった。だからこそロロの暴走に気付けなかったというのは、ライに指摘された通りだ。
「…分かった。あいつとは今後、二人で話す時間を増やす。それに、今までのような上辺だけの関係ではなく、本心を話すように心掛けてみよう。しかし…」
「ああ、嚮団はどんな手を使ってでも君を殺すつもりだな。ジェレミア卿が裏切ったと知れば、V.V.は新たな刺客を送り込んでくるだろう。それも今度は、複数…」
「幸い、ジェレミアの証言で嚮団の場所は割れている。内部構造も、以前の場所で捕らわれていたというロックの証言とあまり違いはないだろう。0番隊と特務隊を投入して殲滅する。」
「…いや、実験体にされた子ども達は出来るだけ保護しよう。やり過ぎると団員に不信感を持たせる事になってしまう。彼らの説得は、僕の役目だが…」
そう言うと、ライは立ち上がった。蒼月で一足先に蓬莱島へ渡り、零番隊副隊長である木下や、直属であるアキト達に説明するつもりだろう。
「今回の作戦は秘密裏に行わねばならない。」
ルルーシュが、部屋を出ようとするライに告げた。
「分かってるよ。だからこそ、説明はしっかりしておかないといけないのさ。後々に禍根を残さない為に。」
そう言うと、ライは部屋を出ていった。
ルルーシュは彼が出ていった扉を見つめ、一人呟く。
「──あいつには苦労をかけてばかりだな。早くカレンを助け出して、少しでも心を楽にしてやらないと…」
言い終わると、PCの電源を付け、嚮団殲滅の決定をC.C.に告げるべく、連絡を入れた。
『教主V.V.、ジェレミア卿より定時連絡です。』
部下からの言葉を聞いたV.V.は、自分の前にあるモニターに繋ぐよう命令する。
『はじめまして、お前がV.V.か。』
「…ルルーシュ。」
そこに映っていたのは、ジェレミアではなくルルーシュだった。彼からの通信を、嚮団員らが分析する。電波の痕跡やルルーシュの背後の景色から、発信元はエリア11のアッシュフォード学園と思われた。
『今さら自己紹介は必要ないだろう。その上で聞きたいことがある。東京決戦の時、ナナリーを拐ったのはお前か?神根島に俺やスザク達を集め、観察者を気取っていたのは…』
ルルーシュの問いに、V.V.は余裕の笑みを崩さず答える。
「うん、そうだよ。でもそれを聞くということは、やっぱり記憶は戻っていたんだね。」
『ああ、俺がゼロだ!』
「じゃあC.C.も一緒なんでしょ?C.C.をちょうだい。そうすれば君は自由に…」
交渉を持ち掛けるV.V.を、ルルーシュが遮った。
『もう遅い!これは俺とお前との戦争になった!』
「ふーん…でも君がここに来る頃には僕達はもう次の場所に…」
V.V.が言葉を返そうとしたその時、爆音が轟いた。
「教主V.V.!ナイトメアが…!」
「何!?」
「黒の騎士団と思われます!」
嚮団施設の外壁を破壊し、内部に侵入する蒼月。その後ろには、暁隊とアレクサンダ隊が続いていた。なおC.C.は専用にカラーリングされた、薄紫色の暁直参仕様を操縦している。
『V.V.の現在位置は特定できた。アキトとリョウは左から、ユキヤと木下は右側、ロックは後方に回って順次制圧を開始しろ。』
ライが命令を下す。その声に従い、部隊を分けて進撃するライ達。V.V.を包囲するように、四方から攻め混む形だ。
「なるほど、そういうことかい。」
状況を理解して立ち上がるV.V.。そのV.V.にルルーシュが告げた。
「ああ、少しの時間で良かった。お前が油断すれば、俺がまだエリア11にいると思い込み、脱出する時間が少し遅れるだけで…」
ルルーシュの周囲を囲っていた壁が倒れて行く。その周囲には砂漠があり、後方にはロロとヴィンセント、ジェレミアとサザーランド可翔式、そして蜃気楼が立っていた。
それはルルーシュが既に付近におり、嚮団の刺客であった2人が裏切っていることを意味していた。
「…彼女を呼んで。ヴィンセント・アソールトの出撃準備だ。それと、アレの用意を。」
V.V.の命令に従い、嚮団員がどこかへ通信する。するとほとんど間を置かず、黒く長い髪を靡かせながら、長身の女性がV.V.の前に現れた。
「V.V.様、お呼びですか?」
V.V.の前に跪くその女性。V.V.は彼女に命令を下す。
「呼ばれた理由は分かってるよね、ルーン。ヴィンセント・アソールトで出撃し、黒の騎士団を殲滅して。…もしかしたら、狂王様も来てるかもね。」
「畏まりました。」
V.V.の言葉に頷き、その場を後にするルーン。彼女は真っ直ぐに、ナイトメアの格納庫へ向かった。
「木下副隊長、研究員と思われる人々の収用、完了しました。」
0番隊の副隊長である木下に報告する団員。彼らは事前にライからここが研究施設だと聞かされており、殺害の必要性が無ければ捕らえるだけに留めるようにと命じられていた。そして実験により、特殊な能力を得た兵がいる可能性も。
その場合も、出来る限り捕らえ、ロロかライ、もしくはゼロに報告するよう伝えられていた。
「死者がゼロとはいかないが…当初の予定よりは少なく済みそうだ。だが、本当に反撃が一つもないな…」
心に迷いを抱えながら包囲網を狭める騎士団員達。その前に、まだ幼い子ども達が姿を現した。
「こんなに小さい子どもまで…?」
コックピットのハッチを開き、自身の目で確認する騎士団員の男、森。その森を、子ども達の一人が指差した。
「な、なんだ…!?」
森の身体は自身の意思を無視して動きだし、暁のコックピットハッチを閉じた。そして隣にいた暁を回転刃刀で突き刺す。
混乱する森の前に、黄金色をしたヴィンセントが現れる。そのヴィンセントは消えるようにして暁の周囲を飛び回り、最後は暁の背後に現れ、暁の胴を両断した。なお、森はその直後に脱出している。
「…この力、ロロお兄ちゃん?」
「みんな、久しぶりだね。ここから脱出するから、僕に着いてきて!」
そう言うと、ロロはヴィンセントを駆けさせた。
「包囲はほぼ完了したな。一斉にポイントα7に…」
命令を下しかけたライの蒼月を、スラッシュハーケンが襲った。咄嗟にMVSで防御したライだが、それとほぼ同時に蒼月に突撃してきたヴィンセントの強化型と思われる機体が、MVSを振り下ろしてきた。
「…くっ!!」
その一撃も何とか防いだものの、斬撃の鋭さは並大抵のものでは無かった。騎乗しているのは相当な腕を持つパイロットであると思われる。蒼月は勢いに押され、嚮団施設から押し出された。
「…嚮団にこんな隠し玉がいたとはね!だが、君に時間をかけるわけにはいかない!!」
オープンチャンネルでに告げ、上空で蒼月の体勢を立て直すライ。その彼に、強化型の機体であるヴィンセント・アソールトのパイロットが言葉を返した。
「あら、つれないこというのね。お・に・い・さ・ま。」
「なっ…!?」
蒼月のモニターに映し出されたのは、自身の記憶より成長しているものの、間違いなくライの妹であるルーンだった。しかし、彼女は死んだはず。直接手を下した訳ではないにせよ、彼女が死んでしまう原因を作ったのは他ならぬライ自身なのだ。
「ルーン…なのか…?」
彼女の顔を見て、動きを止めるライ。その彼の蒼月を、再びアソールトのMVSが襲っていた。
「200年も経ったから、愛しい愛しい妹の顔も忘れちゃったのかしら?なら、思い出させてあげる!」
そう言いつつ、MVSでの連撃を繰り出すルーン。ライは何とかその全てをギリギリで躱したものの、反撃が出来ないでいた。
時を同じくして、ルルーシュもV.V.が操縦するナイトギガフォートレス、ジークフリートに襲われていた。ルルーシュもライと同様に、ジークフリートの攻撃で上空に追いやられていた。そのジークフリートを追って、ジェレミアとC.C.も上空に飛び出した。
「ジェレミアとC.C.がジークフリートに…それなら僕は…ライさん、すぐ援護に回ります!」
その状況を見て、ライに通信を繋ぐロロ。しかしライから帰ってきた返答は意外なものであった。
「ロロ、こちらはいい!君もゼロの援護に行くんだ!」
「でっ…でも!ライさんが!」
ライの言葉に戸惑うロロ。しかしライは、はっきりと援護が不要だと口にした。
「僕の方はなんとかする!今は、V.V.が最優先だ!特務隊も、ゼロの援護を!」
「…わかりました。ライさん、死なないで下さいね。」
そう言ってロロは蜃気楼の元へ向かう。普段のライならロロの言葉を聞いて、彼もずいぶん変わったと感心したところであっただろうが、今はその余裕が無かった。
「ルーン……君が生きていてくれたことはすごく、すごく嬉しい。謝罪もしたい、聞きたいことも山程ある。だけど、V.V.に味方するというのなら、僕は君を止めなくちゃならない。」
少しだけ落ち着きを取り戻したライがルーンに告げる。彼女はそれを見てニッコリと笑い、言葉を返した。
「あら、また殺すということかしら?」
「殺しはしない。だが、その機体は破壊させて貰う!」
ライは蒼月をヴィンセント・アソールトに向かって駆けさせた。
「V.V.、お前をそこから引きずり出す!全軍、攻撃開始!」
ゼロの命令を受けたジェレミアや騎士団員が、一斉にジークフリートに向けて銃撃を放つ。それに合わせて、蜃気楼も脚部からハドロンショットを放つも、V.V.はジークフリートを高速回転させることでそれらを全て弾いてみせた。
「チィッ…電子装甲は健在か…」
その様子を見て毒づくルルーシュ。一方のV.V.は余裕の態度を崩すことなくジークフリートを操縦し、量産型暁を撃墜してゆく。
「マリアンヌの子どもが調子に乗っても!」
そのジークフリートに、ジェレミアのサザーランドが追い縋る。
「それは我が忠義の為にあるべき機体だ!」
「ジェレミア、君はゼロを恨んでいたよね?」
そのジェレミアに、V.V.が質問を投げ掛ける。
「然り。これで皇族への忠義も果たせなくなったと考えたからな。されど仕えるべき主がゼロであったなら、マリアンヌ様の為にも!」
「お前まで…その名を口にするか!」
ジェレミアの言葉に怒りを露にしたV.V.は、ジークフリートの大型ハーケンをサザーランドに向けて放つ。ジェレミアはなんとか致命傷だけは避けたが、サザーランドの左足を破壊されてしまった。
「ロロ、ジェレミア!まずはジークフリートのハーケンを破壊するんだ!その後、多方面からの攻撃で電子装甲を無力化する!」
「分かった!」
「イエス・ユアマジェスティ!」
ルルーシュの命令に従い、ジークフリートのスラッシュハーケンを攻撃するロロとジェレミア。ロロは肘部のニードルブレイザーでハーケンの一つを破壊した。
「ロロ、君も僕に嘘をついたんだね。…君は、失敗作なんだよ。ギアスを使ってる間は自分の心臓も止まってしまうなんて。死んでもおかしくない欠陥品の君に、役目を与えてあげたのに…!」
ジークフリートのハーケンが、ヴィンセントの脚部を貫いた。咄嗟にアキトが援護に入るが、ジークフリートの体当たりによってその場から弾き飛ばされる。
「下がれ、ロロ!それ以上近付けば撃墜される!」
ルルーシュの言葉に従い機体を後退させるロロ。しかしV.V.はヴィンセントの動きを予測して、ヴィンセントに肉薄していた。
「ロロ!」
その直後、ジークフリートとヴィンセントの間に灰塵壱式が割り込んだ。灰塵壱式は長剣型のMVSを振るうと、電子装甲ごとジークフリートを弾き飛ばす。
「久しいな。V.V.とやら。」
「そうか…君はロックだね。せっかく見逃してあげたのに、僕に楯突くなんて!」
V.V.の言葉に、ロックはコックピットの中でニヤリとした笑いを見せた。
「あいにく、俺の主は一人と決まっているのでな。貴様には悪いが、ここでケリを着けさせて貰おう!」
一直線にジークフリートへと向かう灰塵壱式。しかし彼の剣がジークフリートに到達するより前に、地上より放たれた多数の弾丸がジークフリートの装甲を撃ち抜いていた。
「誰だい?ジークフリートの弱点を知っている攻撃…」
V.V.がそちらを見ると、乗り捨てられた暁を使い、多数の銃砲をジークフリートに向けるコーネリアの姿があった。
彼女はユーフェミアの汚名を返上すべくギアスについて単身で調査し、その結果として嚮団までたどり着いた後にV.V.の手で捕縛されていたのだ。しかし騎士団が嚮団に攻め寄せた事により、脱出の機会を得ることとなっていた。
「V.V.といったか…この私を脆弱にして惰弱と侮ったな。」
コーネリアが一人呟く。彼女の姿を見て驚くルルーシュだが、先にV.V.を仕留めるべく命令を下す。
「ジークフリートの装甲は破損した!後は直接…!」
蜃気楼は胸部の相転移砲の発射口をジークフリートに向ける。コーネリアも、かき集めた銃砲をジークフリートに向けて再び放とうとしていた。
「ユフィの仇…そこで滅せよ。」
「「ギアスの、源!!」」
コーネリアが砲撃を放つと同時に、蜃気楼からも相転移砲が放たれる。直撃を食らったジークフリートは、多数の傷を負いながらもルルーシュだけは仕留めるべく、回転しながら蜃気楼へ向かう。
しかしそれも再び放たれた蜃気楼の相転移砲に加え、アレクサンダやヴィンセントからの掃射によってとどめを刺されたことにより、果たすことは出来なかった。
「ルルーシュ…この呪われた皇子め!!」
コーネリアに向かって墜落するジークフリート。咄嗟に反応出来なかった彼女を、ジェレミアが救出した。
地下の脱出口では、嚮団幹部達が研究データを持って脱出しようとしていた。しかし脱出機の射出口の先には、C.C.が騎乗する暁が待ち構えていた。
「すまない、これはお前達を放置した私の罪だ。だから、ギアスの系譜はここで終わらせる。それが、おそらく私とルルーシュの…」
そう言うと、C.C.は暁が持つロケットランチャーを脱出機に向けて放つ。直撃を受けた脱出機は、登場員と、彼らの持つデータとともに爆散した。
今日は休日なので多めに更新できたらなと思います。