コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
「やった…ブリタニアのこの動きは皇帝が不在だということ。あの時、向こうの世界に置き去りになったようだな。
あいつが言っていたことは気になるが、今はナナリーの安全を喜ぶべきか…」
そう言いながらモニターを眺め、背凭れに凭れかかるルルーシュ。そのルルーシュに、C.C.がおずおずと質問をした。
「あの…私は何をすれば…?」
「そうだな…服を裏返しに着て、歌いながら片足で踊ってもらおうか。」
その質問にいつもの調子で冗談を返すルルーシュ。しかしC.C.はそれが冗談だと理解できず、素直に従おうとした。
「はい、ご主人様。」
返事をすると、服を脱ごうとするC.C.。本気に取ったC.C.を見て、慌てたルルーシュが彼女に駆け寄る。
「よ、寄せ!冗談だ!」
「きゃあっ!!」
しかしルルーシュが近付いた事に驚いたC.C.は、声を上げながら尻餅をついた。彼女は震えながら、謝罪の言葉を口にする。
「ごめんなさい!だからひどいことしないで…」
彼女のその姿を見たルルーシュは、ライがしたように彼女の前で膝をつき、目線を合わせた。
「安心しろ。あの男の言った通り、俺は君にひどいことはしないよ。約束する。」
その時、ジェレミアからルルーシュへ通信が入った。
彼の言葉を受けて斑鳩の一室に訪れたルルーシュの前には、椅子に縛り付けられたコーネリアの姿があった。
「お許し下さいルルーシュ様。ご命令は殲滅とのことでしたが、ブリタニア皇族を手にかけることは…」
「いや、むしろよくやってくれた。」
謝罪を口にするジェレミアだが、ルルーシュはむしろこの状況を喜んでいた。ブリタニアに対して、使えるカードが一枚増えたからである。
「ルルーシュ、お前はその呪われた力で何を望む?」
「姉上、俺はただ、妹を助けたいだけなんですよ。」
コーネリアの問いに、ルルーシュが答える。ただそれは、腹違いの妹であるユーフェミアを殺した上での言葉だ。コーネリアが納得する筈がないことは、ルルーシュも理解していた。
「何を今更…」
「ジェレミア、俺は合衆国憲章の確認作業をする為にライの元へ行く。何かあれば、あいつに連絡を。」
「承知致しました。」
ジェレミアに告げ、仮面を被って部屋を後にするルルーシュ。彼は真っ直ぐに、ライの元へ向かった。
「木下。それ、血の痕ですよね?」
「朝比奈さん…」
格納庫で月下の整備をする0番隊副隊長、木下に問いかけたのは四聖剣の朝比奈だ。木下の月下には、わずかだが血痕がついている。朝比奈はゼロの極秘行動により、合衆国憲章の批准や、各地への進軍が遅れたことを訝しんでいた。そこで、その作戦に参加していたと思われる木下に声をかけたのだ。
「何だったんです?ゼロの作戦って。それに、あのナイトメア…」
朝比奈が指差した先には、ヴィンセント・アソールトがあった。その機体のパイロットについても、朝比奈を含む騎士団員達は何も説明を受けていない。
「…今回の作戦は、ライさんが指揮をとっておられました。作戦を極秘とすると決められたのも彼です。誰かに聞かれたら、自分に聞けと伝えるようにと…」
木下の返答に、朝比奈はさらにキナ臭いものを感じた。しかしゼロと違い、普段から隠し事をしないライがそこまで言うのなら、よっぽどの事であるということも理解できた。朝比奈は木下から聞き出すのを諦め、彼の元を去った。
なお、捕らえた研究者や子ども達は、ゼロのギアスによってギアスに関わることを全て忘れさせた上で、研究者は蓬莱島の監獄に、子ども達は孤児院に預けている。
去っていく朝比奈の後ろ姿を見ながら、木下は深く息を吐いた
「合衆国憲章はこれでほぼ完成かな。後は各国代表に通達するだけだが…」
書類を机に置き、目の前に座るルルーシュに告げるライ。彼の言葉に頷き、ルルーシュは書類を受け取った。
「まぁ、形だけでも合議制を採用したことで、反対する国もいなくなるだろう。これで、ブリタニアに攻勢を掛けられる。」
そう言って笑うルルーシュを、ライが幾分か厳しい目付きで見ながら告げる。
「しかし、油断するなよルルーシュ。皇帝があちらに閉じ込められたというのはあくまで推測でしかないんだ。Cの世界は、人の思考によって…」
ライが言いかけた時、彼の部屋の扉が開いた。入ってきたのはルーンである。彼女はライに歩み寄ると、徐に背後から彼に撓垂れ掛かった。
「…ルーン、何の用だ?」
彼女の行動を不審に思ったライが問う。それに対して、ルーンは微笑みながら答えを返した。
「お兄様の仕事ぶりを見に来たのよ。いけないこと?」
ライの耳元に顔を寄せ、囁くように告げるルーン。それを見たルルーシュがあらぬ勘違いをした。
なお、ライによってルーンは既にルルーシュに紹介されている。
「お前達、本当に兄妹なんだろうな?そんな姿、カレンに見られたら…」
「カレン?」
ルルーシュの言葉を聞いてそちらに顔を向けたルーンが、顔を険しくさせた。そしてライに向き直ると、彼の首を軽く絞めながら、攻めるような言葉を口にする。
「──お兄様、私という者がありながら…」
彼女の言葉に、ため息をつくライ。首にかかる腕を外すと、困ったような表情でルーンに返答した。
「今の君がそういうことを言うと、本っっっ当に冗談に聞こえないからやめてくれ。カレンの事は、彼女を助けたら紹介するから。」
その言葉とともに、椅子を引いてルーンから離れるライ。その行動に、ルーンが不満を露にする。
「…あらそう。私はお邪魔みたいね。部屋に戻るから、ゼロと二人でいちゃつきあってなさいな。」
それだけ言って、ライの部屋から出ていくルーン。その背中を見つめていたライが、右手で頭を抱えてため息をついた。
「あいつは…一体何しに来たんだ…」
ボヤくライに、ルルーシュが苦笑しながら自身の推測を告げた。
「…二百年以上離れていたんだから、甘えたいんじゃないのか?お前に。
なにしろ彼女には、この時代に信用出来る相手がお前しかいないのだからな。」
「そうだけど…かといってこれじゃ、僕の邪魔をしに来ただけだよ…」
苦笑いを浮かべるライに、ルルーシュが同意する。
「違いない。まぁとにかく、合衆国憲章も完成したことだし、各国代表と式典の確認をしてくるとしよう。」
ライの部屋から少し離れた場所から、ゼロが彼の部屋を後にした事を確認した朝比奈は、このまま彼の部屋へ行くべきか迷っていた。
ゼロとライの行動で合衆国憲章の批准が遅れたのは事実だが、それを遅らせてでも必要な作戦であったのかもしれない。それにゼロならともかく、ライまで秘匿した作戦を無理に聞き出そうとすることは、彼が他者に知られたくないと思っている何かしらの事柄に、土足で踏み込むことになる可能性もあるからだ。
だが結局彼は、逡巡の末にそれでも彼の元へ行くべきだと判断し、歩を進めた。そしてドアをノックしようとしたその時、横から彼の腕を掴む手があった。
「…お兄様のことは、今はそっとしておいてあげてほしいのだけれど。」
いつの間にか、朝比奈の横に立っているルーン。朝比奈は彼女の方へ体を向けると、自身が知らされていない事による疑問を口にした。
「…お兄様?君は、彼の妹なのかい?」
「そうよ、死んだと思われてたみたいだけど。あなたは四聖剣の朝比奈さんね。」
自身の名前が知られていたことに少し驚く朝比奈だが、彼女がわざわざ自分を止めに来た理由を聞く為に、黙って先を促した。
「…お兄様は、カレンさんだったかしら?彼女が捕らわれているのに助ける手段どころか、その場所すら特定できていないことで自分をすごく責めているみたい。だからこそ、それを打ち消す為に仕事を山程抱えて…兄妹の感動の再会、なんて思ったけれど、私や、他の誰かでもその穴は埋められないみたい。だから…」
彼女は朝比奈から、ライの部屋の扉へ目を移す。彼女が先程ライの邪魔をしたのは、兄の精神状態を確認する為であったのだ。それと気付かれない為に、構って貰いに来ただけという態度を取ってはいたが。
彼女の言葉を聞いて、朝比奈も責任を感じていた。カレンと星刻が闘った際、目の前にいたのに彼女が捕らわれるのを止められなかったのは自分なのだ。それ故に、ライやゼロを疑う前に自分にはやるべきことがあるのだと気付いていた。
「…とは言え、妹である私すら頼らないなんて、ムカつくけどもね。朝比奈さん、暇があるならシュミレーターで一戦、どう?」
もっと強くならなければ。そう思った直後の朝比奈にとって、その言葉は渡りに船であり、すぐに彼女の言葉に同意して、ライの部屋の前を去った。
「ゼロ、こちらでしたか。」
式典の打ち合わせを終え、私室に戻ろうとしたゼロを呼び止めた騎士団員。彼の口からは、謎の来客が告げられていた。
「蓬莱島へ近付く不審船があったので拿捕したのですが、乗員の一人がライ特務隊隊長と知り合いだと…自分の名を出せば分かると言っているのですが…」
彼は元々ライの部屋へ行こうとしていたらしい。しかし道中でゼロを見付けたので、先にゼロに報告したようだ。
「ふむ…そいつの名前は何だ?」
「はい、チャド・ティーチー・タカムラだと名乗っていました。」
「チャド・ティーチー・タカムラ……タカムラ博士だと!?」
その名は、確かにライから聞いた名だ。東京決戦で破壊された月下をアオモリで改造し、ロックが騎乗する灰塵壱式の設計、建造も行ったという男だ。その男が、どうやらエリア11から抜け出し、こちらへやってきたらしい。
「すぐにそいつを会議室に連れて来るんだ。それと、ライにもこちらに来るように声をかけてくれ。」
「わかりました。」
ゼロの命を受け、彼は走り去った。30分程経った頃、彼は一人の老人を連れて現れた。
「おぉ、久しぶりやのぉ、ライ。それにお初にお目にかかるでぇ、ゼロ。」
「お久しぶりです。タカムラ博士。一体どうしたんです?」
「あなたがチャド・ティーチー・タカムラか。ライから話は聞いている。」
其々が挨拶を口にする。タカムラは よっこいしょ と言いながら席に着き、わざわざ危険を犯してエリア11を抜け出してきた理由を話始めた。
「以前話をしよった、新型が完成の目処が立ったからなぁ。やけど最終調整はあそこの設備では難しゅうて。やからここの設備を借りて、ついでにワレに合わせて調整しながら完成させたいっちゅう風に思ったんや。」
彼の言う新型とは、ラクシャータの月下、それをタカムラ自身が改造した蒼月のデータに基づいて造られたものだ。ライが騎士団の元へ駆け付けようとした頃にはすでに設計だけは成されていたが、これまでとは全く違う装備を追及した為に、今までかかっていたのだった。
「…その新型というのは、蒼月よりも性能が上なのか?」
ゼロが疑問を口にする。近々ブリタニアとの全面戦争に突入する為に、戦力は多い方がいいと考えるのは当然だった。
「そうやなぁ、完全に凌駕してるとゆうてええと思うでぇ。パイロットが同じなら、一分も保たんやろ。ただ、蒼月のコックピットをそのまま使うから、蒼月が使えなくなるけどな。」
その言葉を聞いたゼロは決断する。ライへ向き直り、彼にゼロとしての命令を下した。
「ライ、お前は今から博士と新型の調整に入れ。式典にも出なくていい。少しでも早く完成させて、その力でカレンを助けてやれ。」
「…!! ああ、分かった!」
その言葉を聞いたライは、タカムラと供に部屋を後にし、彼が持ってきたという新型の元へ向かった。
「…ホンマは、ロックの機体も持ってきたかったんやけどな。」
船に積んできたコンテナを斑鳩へ運び込む様子を見ながら、タカムラはライに伝える。
「彼の新型も建造してたんですか?」
「ふむ。やけど、ブリタニア軍に施設を急襲されてしもうて…持ち出せたのはこれだけやったんや。ロックには後で謝っとかんとあかんなぁ。」
タカムラは幾分残念そうに語る。ブリタニア軍から灰塵壱式の正体やその建造元を探られていたのは事実で、ライとロックが居なくなったことで移動や防衛の手段が無くなってしまった。その為にいつかはそうなるだろうと予測して新型の建造を急いでいたのだが、ブリタニア軍側もいつまでもやられてばかりはいられないと調査を奮励したのだろう。ナイトメアの積込作業中を襲われ、その作業が終わっていたライの新型しかこちらへ運ぶことが出来なかったのだ。
「博士のせいではないですよ。ロックも、灰塵壱式が気に入っているようだから文句は言わないでしょう。それより…」
ライの目の前で、運び込まれたコンテナが開かれる。そこには、蒼月よりも鋭角的なデザインのナイトメアが鎮座していた。
「ナイトメアフレーム蒼焔。これが、ワレの新しい機体や。」