コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
「久しぶりだな、ルーン。」
朝比奈と模擬戦をする為にシミュレーターの元へと訪れたルーンの目に入ったのは、200年前に死んだと思っていたロックの姿であった。
「あら、ナイト…いえ、ロックさん。聞いてはいたけど、実際に生きているのを見て話し掛けられると驚くわね。」
「お互い様だ。しかし、随分と背が伸びたな。」
「…まぁ、四年経ってるしね。あなたも、少しだけ老けたわ。」
ルーンの言葉に、ロックは片側の頬を上げて笑った。
「言ってくれるな。それより、今から模擬戦か?」
「ええ、こちらの朝比奈さんと。」
二人が知り合いだとは思ってもみなかった朝比奈は所在なさげに立っていたが、自分の事に言及された事で咄嗟にロックへと頭を下げた。
「そうか。なら、観戦させて貰うとしよう。お前や千葉の闘いぶりには、言いたいことも山程あったことだしな。」
ロックの言葉にやりづらさを感じながらも、朝比奈はシミュレーターへと入る。そして十分も経たぬ内に、彼は自分の立ち位置を思い知らされる事となった。
「嘘でしょ…」
ルーンを相手に、十連敗を喫した朝比奈。それも、全て秒殺と言っていい程無惨な負け方であった。
「お前の方が反応が鈍い。それならば相手の動きを予測して次の手を立てておくべきだが、それすらも出来ていないな。」
横から口を出すロックにも、衝撃の為に上手く言葉を返せない。それだけ、彼女と朝比奈の間には埋めがたい程の差があった。
「いくらライ君の妹だからって…ここまで差があるとは…」
何とか言葉を紡ぎだした朝比奈を見て、ルーンが声をかけた。
「もうやめにする?私の方は満足したのだけれど…」
「い、いや、まだ頼む!このまま終わったら、僕はいつまでも弱いままだ。」
操縦桿を握り直す朝比奈。それを見て、ロックがルーンに指示を出した。
「ルーン。少し長引かせてやれ。動きを学習させてやるんだ。」
「面倒ねぇ…まぁいいわ。」
向かってくるの攻撃をいなし、暁の周囲を旋回しながら攻撃を加えていくルーン。返しの斬撃を、自身の暁を側転させることで避けてみせた。
「何っ!?」
「いちいち驚いて動きを止めるな!どんな動きにも対応できる心構えなくして、闘いなどできるか!」
相手の予想外の動きに硬直する朝比奈に、ロックの檄が飛ぶ。モニターでは、ルーンの暁に蹴られ、壁面に叩きつけられる朝比奈の暁が映っていた。
「すぐに体勢を立て直せ!追撃が来るぞ!」
その声に反応して何とか機体をその場から離脱させる。直後に、今まで暁が倒されていた場所にハーケンが突き刺さっていた。
「相手の何が優れていて、何か自分が勝っていることはないか冷静に分析しろ。相手に合わせた闘い方を組み上げていけ。」
朝比奈の暁は回転刃刀を構え直し、ハンドガンで牽制しながら突撃した。しかし、交錯する瞬間には胴体を両断されていた。
「くそっ!…頼む!もう一度だ!」
「はいはい。」
朝比奈の必死な様子に、ルーンは楽しげに頷いた。
「すまなかった!!」
カレンに深く頭を下げるスザク。その彼を見て、カレンは拳を振り上げた。
「何言ってんだ!やっていいことと悪いことがあるだろ!!」
彼女の拳を受けたスザクは、さらに繰り出されると予想される攻撃をも受け止めようと、その場に留まった。しかし、次の一撃はスザクの顔の前で止まっていた。
「フンッ!!抵抗しないところがホント腹立つ!」
拳を納め、椅子に戻ったカレン。唇から流れる血を拭ったスザクは、その程度で済むと思っていなかった為に、やや不審そうな表情で彼女を見た。
「…さぁ、私を殺しなさいよ。捕虜がナイトオブラウンズに手を出したんだから、覚悟はしてる。」
「まさか…いけなかったのは僕だから。ライも僕を信じてくれていたのに、一時の感情で君に…」
スザクのその言葉に、カレンはさらに怒りを現す。彼女からすれば、スザクのこの行動は彼の自己満足にしか映らなかった。
「あんたが彼を語らないで!あんたなんか、大っ嫌い!!」
カレンそう言われても、スザクは呆けたようにしばらくその場に佇んだままだった。
「…悩み事?」
庭園で座り込むスザクに、アーニャが話しかける。
「悩んでばかりだ。八年前に、自分の生き方を決めた筈なのに…」
「信じてるの?八年前の自分なんか。」
携帯電話を片手に、スザクの横に立つアーニャ。彼女はスザクを、どこか訝しげに見ていた。
「人の記憶なんて曖昧なもの。信じるほどの価値はない。九年前、私が書いた日記がある。」
携帯電話を操作し、その日記を呼び出すアーニャ。それを見ながらスザクに言葉を続けた。
「でも私にはこの記憶がない。」
「…えっ?」
「それ以外にも、日記によく出てくる人の名前を覚えていない。過去のデータを引っ張り出して写真も見たけど、それでも思い出せない。私の記憶と、データとしての記録は違っているの。」
その言葉を聞いたスザクは、一つの可能性に辿り着く。記憶を操作する、それは自身が目の前で見せられた力ではなかったか、と。
(──まさか、皇帝陛下のギアス!?何故アーニャに…?)
直後、スザクの隣にいたアーサーが前方に向けて威嚇をする。同時に、一本のナイフがスザクに向かって飛来していた。
そのナイフを、スザクは左手で受け止めてみせる。
「必要なものとは何だ?裏切りの枢木卿。それは命だ…」
スザクに向かって歩いてくるのは、ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリーであった。彼は挑発的な笑みを崩さず、先の攻撃を謝罪しようともしない。
「…白ロシア戦以来ですね、ブラッドリー卿。」
立ち上がったスザクは、険しい表情で挨拶を口にする。
「相変わらず女をオトすのは大得意らしいなぁ。例の虐殺皇女様も…」
「それ以上言えば、名誉をかけて決闘を申し込むことになります!」
ユーフェミアに言及されたことで、彼を睨み付けながら告げる。一方のルキアーノは涼しげな表情のまま、懐から数本のナイフを取り出した。
「ほぉう。忘れたのかな?私が人殺しの天才だってことを…血筋ってぇものを理解できないナンバーズ上がりが…」
その時、二人の中間地点にナイトメアが降り立った。そのナイトメアは通常のものより遥かに大きく、背後にはそれに負けない程の大きさの剣を背負っていた。
「これは、ギャラハッド!?」
驚きの声を上げるスザク。同様にそれを見たアーニャも驚く。ルキアーノを含め、来訪を全く知らされていたなかったのだ。
『二人とも、相手を間違えるな!』
ギャラハッドから声を上げたのは、ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタインだ。
「ヴァルトシュタイン卿、どうしてここに…?」
『愚問だなアーニャ。黒の騎士団が攻め込むとすればこのエリアしかない。
ルキアーノ、ヴァルキリエ隊もその為に連れてきたのだろう。お前のスタンドプレーは戦場で示せ。今はシュナイゼル殿下指揮の元、我らが力を合わせる時。』
ビスマルクの言葉に、ルキアーノは笑みを交えて返した。
「分かってますよ。あなたが言われるなら…」
ルキアーノはスザクとアーニャに背を向け、その場を去った。そして彼が向かったのは、捕虜として捕らわれるカレンの元である。
ナナリーと楽しげに話していた彼女であったが、ルキアーノが現れたことにより、一瞬で表情を厳しくする。
「ほぉう。話には聞いていたがこんなお嬢ちゃんが黒の騎士団のエースとはねぇ…」
歩み寄るルキアーノを、ナナリーが制止する。しかしそれを半ば無視するように、彼は檻に近付いていった。
「あなたがブリタニアの吸血鬼さん?」
挑発的な言葉を口にしたカレンに対し、ルキアーノは余裕を持って切り返す。
「ああ、ここが戦場ならあんたの血も吸えたのに残念だよ。」
「で?私は本国送りってことかしら?」
「いや、人質としてしばらくここにいて貰う。人質に必要なものとは何だ?」
今やルキアーノは額を檻となっている強化ガラスに着けんばかりだ。彼は懐に手を入れ、自身の持つナイフをちらつかせる。
「そう、命だ。命さえあればその身体に何が起ころうと…」
「…そこまでです。あなたはどこへ行っても問題ばかり起こしますね、ブラッドリー卿。」
ルキアーノの後方より声をかけたのはアドニスだ。その顔には笑みを湛えてはいるが、身体から放つ雰囲気は明らかに怒気を孕んでいる。
「おやおや、これはこれはアーチャー卿。捕虜を好きにするのに何か問題でも?」
「彼女は枢木と自分が、このエリアで責任を持って管理している。あなたが手を出す権利はないと言ってるんですよ。」
「フン…皇族から外された賤民が偉そうに…」
そう返答したブラッドリーに対し、アドニスも臨戦体勢に入る。二人はしばらく睨み合ったが、諦めたルキアーノは一つ息をつくと、彼の前を去っていった。
「…礼は言わないわよ。」
アドニスに言うカレンだが、それを受けて彼も苦笑した。
「そんなつもりで助けたのではないがな。俺も、いらん恨みを買いたくないだけだ。」
ライとカレンの関係、そしてライの過去を知っているアドニスが答える。ライとは敵対しているが、とはいえ彼の力は純粋に認めており、恨み辛みで闘いたいわけではないというところだろう。
「まあしかし、あの男の実力は本物だ。俺以外に、敗れてほしくはないが…」
「ライがあんなのに負ける訳ないじゃない。…って、皇族!?あなたが!?」
カレンと同様に、それを知らなかったナナリーも驚きを隠せないでいた。だがアドニスは困ったように笑うと、言いにくそうに言葉を返した。
「…俺の、祖父が皇族だっただけだ。あまり誰彼構わず話さんでくれると有り難いが…」
そう言うと彼は、ナナリーとカレンの前から去っていった。
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「あ、あのっ…いってらっしゃいませ…」
オドオドとした調子ながら、ルルーシュに挨拶をするC.C.。その様子を見たルルーシュも、笑顔を浮かべて返事をした。
「…いってきます。」
彼はゼロの仮面を被り、部屋を後にする。向かった先は超合衆国設立の式典会場だ。なお、ライは機体調整、ロックとルーン、朝比奈は修行の為参列していない。
「最後に、合衆国憲章第十七条、合衆国憲章を批准した国家は、固有の軍事力を永久に放棄する。その上で、各合衆国の安全保障については、どの国家にも属さない戦闘集団、黒の騎士団と契約します!」
神楽耶の宣言に、ゼロがカメラの前に姿を現す。星刻や藤堂、香凛も彼の後に続く。
「契約、受諾した。我ら黒の騎士団は、超合衆国より資金や人員を提供して貰う。その代わり、我らは全ての合衆国を守る盾となり、外敵を制する剣となろう!」
カメラには、ゼロの言葉と同時に団員達それぞれの役職が流されていた。
ライはその中で、作戦補佐、第一特務隊隊長を兼任していた。現在は零番隊もカレンに変わって指揮しているが、その存在は公表されていない為、そこに記載はない。また、彼のファミリーネームは記憶喪失時代にそれを探してフラフラと歩き回っていたことにちなんで、ウォーカーとなっていた。
なお、ロックは第二特務隊隊長、ルーンとレイラは第一特務隊副隊長である。
「それでは、私から最初の動議を。」
神楽耶もカメラに振り向き、言葉を放つ。彼女は、黒の騎士団として最初に放つべき一手を発表した。
「我が合衆国日本の国土が、他国によって蹂躙され、不当な占領を受け続けています。黒の騎士団の派遣を要請したいと考えますが、賛成の方はご起立を!」
神楽耶の言葉に従い、各国代表全員が立ち上がった。その瞬間、黒の騎士団とブリタニア軍激突の場所が、日本に決定した。
「これにより、黒の騎士団に日本解放を要請します。」
「いいだろう。進軍目標は、日本!!」
しかし、参加者達が声を上げる中において、突如として会場のモニターが切り替わった。
『ゼロよ。それでわしを出し抜いたつもりか?』
そのモニターには、Cの世界に閉じ込められた筈のシャルルが映っていた。その姿を見たゼロは驚きの余り思わず後退る。
『だが悪くない。三極の一つE.U.は既に死に体、つまり貴様の作った小賢しい憲章が、世界をブリタニアとそうでないものに色分けする。
単純、それ故に明快。畢竟この闘いを制した側が、世界を手に入れるということ…』
ゼロだけでなく、星刻やディートハルトらも突然のことに飲まれ、言葉を失っている。藤堂だけが、後退るゼロを冷静に眺めていた。
『いいだろうゼロ。挑んでくるが良い。
全てを得るか全てを失うか…闘いとは元来そういうものだ。オールハイル・ブリタニアアァァッッ!!!』
シャルルの宣言に、それを見守るブリタニア軍人達も声を上げる。完全にシャルルに舞台を乗っ取られたと思ったその時、藤堂が声を上げた。
「日本、万歳!!」
それを受けた千葉や、騎士団員達も我を取り戻し、口々に叫びを上げる。
「「「日本、万歳!!」」」
団員達の声が響く中、ゼロは一人、と斑鳩の私室に戻って行った。
今日はこれで最後の投稿になると思うのですが、寝付けなければもう一話投稿するかもしれません。そうなった場合はまた読んで頂けると有難いです。