コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
「あー…接続がうまくいってへんなぁ。」
斑鳩の格納庫では、蒼焔の最終チェックが行われていた。ライがコックピットでキーを差して蒼焔を起動しようとしていたが、モニターには何も映らず、コックピット内には通信すら入らない。
「…ライよ、一旦降りてくれんか?どこが接続出来てへんのか確認するでな。」
タカムラの言葉に従い、蒼焔から降りるライ。ラクシャータの指示を受けて蒼焔の調整を手伝っている整備員達が、コックピットを取り外しにかかる。
「博士、すごく申し訳ないんですが…僕達はこれから戦争に…」
ライがタカムラの様子を伺いながらおずおずと告げる。それを見たタカムラも頷きを返し、しかしどこか余裕のある表情で彼を見た。
「わかっとるて。ただ、この蒼焔やったら一機で戦況を変えることも可能や。だから、多少遅れても大丈夫やと思うけどなぁ。」
それほどの戦力だから、自身が遅れることで騎士団が苦戦することがあっても大丈夫だと言うのだ。その性能を体感していないライは半信半疑のまま、整備員達と共に調整を急ぐしか無かった。
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「確かめたい。君がユフィにギアスをかけたのか?日本人を虐殺しろと…」
スザクの問いに、ルルーシュはやや視線を逸らしながら答えた。
「ああ、俺が命じた。」
「何故そんなギアスを…答えろ!」
ルルーシュはスザクと、ユフィの記章から視線を外したまま、それでも彼の問いに返答する。それはゼロとして、友達や家族を裏切っていたことの告白だった。
「日本人を決起させる為だ。行政特区日本が成立すれば、黒の騎士団は崩壊していた。」
「人間じゃない…」
ルルーシュの独白に、スザクは目に涙を浮かべながら自身の思いを口にした。ただ、ユーフェミアの件に関してはギアスの暴走に気付かなかった為に起こった事故だが、ルルーシュはあえてその部分を省いて説明していた。
「君にとってはユフィすら、野望の為の駒に過ぎないのか!?」
「そうだ、全ての罪は俺にある。だが、ナナリーは関係ない!」
「卑怯だ!ナナリーをだしにして…」
罵倒を続けようとしたスザクの前で、ルルーシュは腰を落とし、正座した。そして、スザクに懇願の言葉を口にする。
「スザク、すまない…俺は今、生まれて初めて人に頭を下げている。恥も外聞もない。これ以上は何もいらない。だからナナリーを…」
そのルルーシュの頭を、スザクが強く踏みつけた。ルルーシュの顔が砂利に押し付けられるが、スザクはそのままさらに力を込めた。
「今になって…何だそれは!許されると思っているのか!?こんなことで…」
「思わない…でも、今の俺にはこれしか…ナナリーを救うにはお前に縋るしかないんだ!」
スザクに踏みつけられたまま、ルルーシュはスザクに返答する。しかし、スザクが足から力を抜く様子は無かった。
「僕が、俺が許すと思うのか!?みんなが許すと思っているのか!?お前に惑わされた人達が…死んでいった人達が…ユフィだって!」
スザクは自身の言葉と共に、なおも足に力を込めた。ルルーシュはそれに対して呻き声は上げるものの、反抗するそぶりは見せない。
「今更謝るぐらいなら、ユフィを生き返らせろ!今すぐだ!お前の悪意で世界を救ってみせろ!今すぐに!君は奇跡を起こす男ゼロなんだろう!?」
「奇跡なんてない…全ては計算と演出。ゼロという仮面は記号なんだ!嘘をつくための装置に過ぎない…」
「何が装置だ!そんな言い訳が通ると思うのか!嘘だというのなら、最後まで突き通せ!」
そう言うと、スザクはルルーシュの頭から足を退け、彼の胸ぐらを掴んで顔を起こさせた。
「しかし、過去には戻れない。やり直すことはできないんだ!!」
ルルーシュの言葉を受け、スザクは彼を突き放した。鳥居の手前に倒れるルルーシュに向かって、スザクはさらに問いを重ねる。
「答えろルルーシュ!何故俺に、生きろとギアスをかけた!?何故だ!?
お前が命じた生きろというギアスは、俺の信念を歪ませた。何故そんな呪いをかけた!?」
ルルーシュは上体を起こし、スザクの問いに答えた。
「俺が、生き残りたかったからだ。」
「クロヴィス殿下暗殺の罪に問われた、俺を助けたのは!?」
「日本人を、信用させる為だ。」
「ホテルジャックから、生徒会のみんなを救ったのは!?」
「黒の騎士団のデビューに、利用できると思ったからだ。」
スザクの問いに対し、ルルーシュは考えうる最悪の答えを続ける。しかしその様子を見たスザクは、ルルーシュが自身が罰を受ける為にそうしていたのを見抜いていた。
「…嘘だな。…ルルーシュ、君の嘘を償う方法は一つ。その嘘を本当にしてしまえばいい。君は正義の味方だと嘘をついたな。だったら、本当に正義の味方になってみろ。ついた嘘には、最後まで…」
「…しかし、どうすれば?」
倒れたルルーシュの横に、スザクが膝をつく。そして、彼の眼をまっすぐ見て自身の答えを告げた。
「この闘いを終わらせるんだ。君がゼロなら…いや、ゼロにしかできないことだ。世界が平和に、みんなが幸せになるやり方で。そうすれば、ナナリーを…」
スザクは、ルルーシュに右手を差し出した。
「助けて、くれる…?」
「ナナリーの為に。もう一度、君と…」
その言葉を受け、ルルーシュはスザクの手を取ろうとした。
「すまない。だがお前となら、どんなことでも…」
二人の手が触れようとしたその時、一発の銃弾が二人を遮った。
それに気付いたスザクが周囲に目を向けた時には、三機のガレスが二人を囲んでいた。
「このヴィンセント・アソールトって機体、随分ピーキーな設定だねぇ。そんな機体のパイロットがまさかあんたみたいなお嬢ちゃんだとは思いもしなかったけど…」
タブレットからデータを引き出しながら、ラクシャータはどこか嬉しそうに告げる。彼女の前に立つルーンも、微笑を浮かべたままそれに答えた。その後ろにはリョウが控えている。
「これでも、お兄様の機体よりはマシな方だとは思いますけど…」
「へえ…やっぱりあの話、あんたがライの妹だってのは本当だったんだねぇ。確かに、戦闘データや機体設定は随分似ているとは思ってたんだけどさぁ。」
ラクシャータは蒼月とアソールトのデータをタブレットで比較している。ルーンも横から、そのデータを覗き込んだ。
「うーん…これを見ると、私もまだまだだと分かるわね。それにしてもお兄様の戦闘データ、凄まじすぎて気持ち悪いわ。」
彼女の言葉に、ラクシャータは笑い声を上げた。
「フフフッ…あのコにそんな事を言えるのはあんたぐらいかもねぇ。で、あんたはこの黒の騎士団で、何をするつもりなの?」
「私がする事は一つだけ。お兄様の助けになるだけです。その為に、会ったことはないけれど…カレンさんを助けるのに全力を尽くす。その後の事は、その時考えます。」
ルーンの答えに、ラクシャータはさらに笑顔を強くする。
「あんた達兄妹って、人間らしくて本当におもしろいわぁ。あ、そうそう。リョウ、前にあんたの戦闘データがアレクサンダ向きじゃないって話をライから聞いてると思うんだけど…」
ルーンからリョウへと視線を移したラクシャータは、ヴィンセント・アソールトの隣に立つ機体を指差した。
「そのデータに基づいてあたしがあんた専用に作ったのがあのナイトメア、牙鉄よ。」
牙鉄と呼ばれたナイトメアは、カラーリングこそリョウが以前騎乗していたアレクサンダと同系統だが、骨太な見た目がいかにも近接戦闘用である事を表していた。
「アレが俺の…」
「そうよぉ。データは送っといたから、ちゃんと見といてね。じゃああたしはアソールトの整備を見てくるわ~。」
タブレットを手に去っていくラクシャータに、ルーンとリョウは深く頭を下げた。
『そこまでだゼロ!すでに正体は知られているぞ!』
ガレスから声が響く。それと同時に、ブリタニアの歩兵がスザクを守るように現れていた。
「スザク…お前、初めから!!」
騙された。そう思って声を上げるルルーシュを、歩兵達が拘束する。それを見たスザクは歩兵達にやめさせる為に命令しようとしたが、それは彼の後ろから現れたシュナイゼルの副官、カノンによって止められた。
「立派な功績を上げられたわね、枢木卿。これで戦争は終わったわ。」
二人のやりとりを見たルルーシュの目には、明らかな憎悪が宿っていた。今まで自分の嘘を否定してきたスザクが、自分に対して同じことをしていたと確信したからだ。
もちろん、これはスザクの計らいではなくシュナイゼルの策略なのだが、今のルルーシュにはそれに気付ける余裕はない。
「そうか、俺をまた売り払うつもりで…裏切ったなスザク…俺を裏切ったなあぁぁぁ!!!」
『悲しいね。皇族殺しのゼロ。その正体が我が弟とは。なんという悲劇か…
だがルルーシュ、皇帝陛下には私から取り成そう。もちろん、お咎めなしとはいかないだろうけど、命だけは救ってやれるかもしれない。』
ルルーシュは車に押し込まれ、モニターに映るシュナイゼルと対面していた。
「哀れむつもりですか、俺を!?」
『ルルーシュ、私は今でも君の兄のつもりだよ。悪いようにはしない。私を信じてくれないか?君の兄を。』
「残念ですが兄上、私はもう信じることはやめたのです。友情は裏切られたから。」
そう言ったルルーシュは襟の部分に右手で触れる。
次の瞬間、ギルフォードが駆るヴィンセントが車両を斬り裂き、ルルーシュをその場から助け出した。ルルーシュは保険として、事前にジェレミアを使ってギルフォードを呼び出し、彼に自分が右手で襟に触れた際は自身をコーネリアと認識するよう、ギアスをかけていたのだ。
ルルーシュは付近の森に隠していた蜃気楼へ戻ると、ギルフォードと供に東京疎開へ向かった。
東京租界では、外縁部に集結した多数のサザーランドが砲口を飛来した蜃気楼に向けていた。
「俺が租界で何の目的もなく学生をやっていたと思うなよ。東京租界、今貴様を止めてやる!」
ルルーシュが手に持つスイッチを押すと、租界中で列車に装備されていたゲフィオンディスターバーが作動する。それにより、サザーランドやグロースターなど、対策を取れていない第五世代機と、東京租界の電力そのものが動きを止めた。
「よし、条件はクリアされた!藤堂!」
「承知した!漆号作戦開始!」
藤堂の命を受け、斑鳩が東京湾海底から浮上する。戦闘員達もそれぞれのナイトメアに騎乗した。
「…ライ君は?」
藤堂が南に問うが、彼は首を振る。
「新しい機体の調整に手間取っているようです。蒼月からいくつか部品を移したことで、その蒼月も使えなくなっています。」
それを聞いた藤堂は一つ息を吐き、南に伝言を頼んだ。
「彼らに機体の整備を急ぐよう伝えてくれ。とりあえず今は、我々だけで攻勢をかける。」
南が頷くのを確認し、藤堂は自身の専用機である斬月の元へ向かった。