コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
「何っ!?黒の騎士団が東京湾に!?」
灰塵壱式と闘うビスマルクが、その最中に入った情報に驚く。
その彼の元に、さらにルキアーノからの通信が入った。
「ヴァルトシュタイン卿、私と直属のグランサムヴァルキリエ隊を。」
ルキアーノはストレスが溜まっていた。戦闘開始当初こそ暁を撃墜して騎士団員を何人も殺害したが、損傷した自軍の戦艦を使って大竜胆を巻き添えにして撃墜しようとした所を星刻に阻止されて以降、彼の手によって自身の凶行は止められていたからだ。
「そんなに功績を挙げたいのか?」
「いえ、破壊したいだけなんですよ。」
ビスマルクは迷ったが、結局はそれを許可した。それにより、星刻が指揮に集中することが出来る状況に戻ったことで黒の騎士団はさらに攻勢を強めてきた。
「押し返せ!神虎を目標に攻撃を続けよ!」
ビスマルクが指示を出したのと同時に、灰塵壱式が突撃をかけてきた。ギャラハッドもエクスカリバーを振るうが、灰塵壱式のMVSとぶつかって止められてしまう。続く追撃をなんとか躱し、体勢を立て直してエクスカリバーを振るう。しかしそれも、灰塵壱式には届かない。先程から、同様のやりとりが何度も繰り返されていた。
「…流石だな。ロック・グルーバー。」
「流石だと?まだ俺もこいつも、底を見せたつもりはないがな。」
ロックから返ってきた言葉に、ビスマルクは笑みを浮かべる。やはりこの男は自身を脅かす実力を持っているのだと。
「まさか、マリアンヌ様以外にこの力を使う日が来ようとは…!」
ビスマルクの言葉と同時に、彼の左目を閉じていたピアスのような物が消滅する。そうして開かれた左目には、赤い翼のような紋章が宿っていた。
「…力?まさか、ギアスか?」
ライやゼロが持つものとは比べ物にならない程小さな力だが、それでも自身も同様にギアスを持っているロックはさほど驚かない。どんな力を持っていても、自分がそれを上回ればいいと考えているからだ。
「左様。この未来視のギアスで、貴様を家族の元へ送ってやるとしよう。」
「…やれるものならな!」
ロックは再度灰塵壱式を突撃させる。しかし放った斬撃は先程とは違い、軽々と避けられた。続く膝蹴りも捌かれ、エクスカリバーによる一撃を喰らう。なんとか反応して回避に移ったものの、灰塵壱式には浅くはない傷がつけられていた。
その灰塵壱式に、ギャラハッドが追撃を加える。いつの間にかエクスカリバーを左手だけで持ち、スラッシュハーケンになっている右手の指先を射出していた。
「ぬぅっ…!!」
咄嗟にガードすることで致命傷は避けたが、またしても灰塵壱式はダメージを負った。ロックは灰塵壱式をギャラハッドに接近させてMVSを振るうが、それも避けられて返しの斬撃をくらった。なんとか左腕のブレイズルミナスで防いだものの自身の劣性は明らかであり、ビスマルクも勝利を確信していた。
「投降しろ、ロック。貴様の敗けだ。命を無駄にするな。」
「投降だと?…ククッ…」
しかしロックは、その言葉を受けても笑ってみせる。不審に思ったビスマルクは、思わずその理由を聞いていた。
「…何がおかしい?」
「いや、あの時と同じだと思ってな。貴様は自身の力を過信し、少し有利になっただけで勝ったと勘違いをする。」
ロックの言葉は、ビスマルクには負け惜しみにしか聞こえない。しかし同時に、ロックが未だ余裕を崩していないのも気掛かりであった。
「…その言葉は、この状況から逆転できると言っているように聞こえるが?」
「だから、そう言っているのさ。貴様にギアスがあるように、俺にも奥の手があるかもしれないと何故考えない?まぁ、気付いたとしてももう遅いがな!」
ロックはコンソールを操作する。すると、灰塵壱式の眼部が緑色から赤色に変化する。加えて威圧感によるものか、ビスマルクの目にはこれまでより機体が大きく見えてさえいた。
「…リミット解除!!」
ロックの言葉と同時に、灰塵壱式の背部にはさらに二対のフロートが出現していた。脚部にも小型のフロートが現れている。
「何ッ!!?」
「行けいっ!!」
ビスマルクの目の前から、灰塵壱式の姿がかき消える。灰塵壱式はこれまで通り真正面から突撃しただけだが、先程までとはスピードにあまりにも差がありすぎた。
「ぬっ!!?」
そして気付いた時には、灰塵壱式はギャラハッドの懐に入っていた。灰塵壱式はこれまでとは段違いのスピードで、ギャラハッドに数え切れない程の斬撃、膝、脚を繰り出す。繰り出される連撃を防ぎきれず、ギャラハッドは攻撃を受けながら後退するしか無かった。
「…どこへ行った!?」
連撃が止まった一瞬を利用して体勢を立て直すビスマルク。しかし次の攻撃に備えようとした彼は、灰塵壱式を完全に見失っていた。そして気付いた時には、ギャラハッドの頭上から灰塵壱式が急降下してきていた。
「終わりだ!!ビスマルク!!」
振り下ろされたMVSを受け、ギャラハッドはエクスカリバーごと両断された。なお、ビスマルクはその直前に脱出している。
「…フン。脱出が間に合ったか。まあいい。今度こそ明確に俺の勝ちだ、ビスマルク。…そうだ、俺は勝ったぞ、カミラ。」
灰塵壱式のコックピット内で、拳を握りしめるロック。彼は沸き上がる興奮を抑え、星刻の部隊と合流した。
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政庁では、ジノがカレンと面会していた。彼は、カレンに一つの報せを伝えにきたのだ。
「騎士団が来てくれた!?」
騎士団来襲の知らせに喜びを現すカレン。その姿を見て、ジノは彼女がブリタニアに寝返ってくることはないと確信した。事前に誘いをかけていたのだが、結局はフラれた形となってしまった。
「いい顔だ。君はそっちが本当みたいだなぁ。だが、君の望みは叶わない。この私と、トリスタンがいる限りは。」
「…いくらあなたがナイトオブラウンズでも、彼には勝てないと思うわ。」
ジノはカレンが言う彼という言葉がライの事を指している事を理解する。その上で挑戦的な笑みを浮かべると、マントを翻して彼女の前を後にした。
同じ頃、シュナイゼル率いるブリタニア軍の本隊は、ゲフィオンディスターバーの破壊に取りかかっていた。それさえ破壊すれば、戦況は逆転する。
また、彼の搭乗しているアヴァロンからはランスロットが発艦していた。
「やはり来たか、スザク。」
「聞こえるかゼロ、戦闘を停止しろ。こちらは重戦術級の弾頭を搭載している。使用されれば、四千万リータ以上の被害をもたらす。その前に…」
しかし、ルルーシュはスザクの言葉を遮った。
「お前の言うことなど信じられるか!ジェレミア!!」
「イエス・ユアマジェスティ!」
ルルーシュの命を受け、ジークフリートの改造機、サザーランドジークがランスロットに突撃した。
「ジェレミア卿ですか!?何故!?」
「枢木スザク…君には借りがある。情もある。引け目もある!しかしこの場は、忠義が勝る!!」
サザーランドジークの背面が開くと、そこから多数のミサイル発射口が現れた。
「受けよ!忠義の嵐!」
ミサイルをブレイズルミナスで防いだスザクは、ハドロンブラスターを放つ。しかし高い機動力を持つサザーランドジークには、簡単に避けられてしまった。
「ギルフォード、ジェレミアに加勢し、枢木スザクを討て!」
ルルーシュがギルフォードに命令する。しかしブリタニア軍と闘う自分に疑問を抱いていたギルフォードは、その命令にさらに動揺を深めた。
「しかし姫様、枢木は…!」
そのギルフォードを見て、ルルーシュは右手を襟元に持ってゆく。
「説明している時間はない。非常時だ、私を信じて闘ってくれないか?」
「イエス・ユアハイネス!」
ギルフォードはヴィンセントをランスロットに向けて突撃させる。しかしニードルブレイザーによる一撃を、ランスロット・クラブが防いだ。
「ギルフォード卿!一体どういうつもりです!?」
ギルフォードがゼロのギアスにかかっていることについてシュナイゼルやスザクから聞いていないアドニスは、目の前の光景が信じられなかった。彼がブリタニアを、そして皇女であるコーネリアを裏切るなど、考えられることでは無かったからだ。
「アーチャー卿、互いに主君を持つ身。悪く思うな!」
ギルフォードはランスロット・クラブに向けてMVSを振り下ろす。アドニスもMVSを抜いてその一撃を受けるが、それぞれの闘いに蜃気楼も参戦してきた。ルルーシュは、ランスロットには相転移砲、ランスロット・クラブにはハドロンショットを放っている。
それらを避ける二人だが、ランスロットはサザーランドジークの電磁ユニットによって捕らえられてしまった。
「よし、作戦通りここでスザクを始末すれば、ナナリーを取り返す障害は…」
言いかけたルルーシュが、蜃気楼の絶対守護領域を展開する。
間一髪防ぐことが出来たが、そこには大型のスラッシュハーケンが蜃気楼目掛けて射出されていた。
「ナイトオブラウンズの戦場に、敗北はない!」
トリスタンがサザーランドジークにMVSを振り下ろす。それを輻射障壁で防いだサザーランドジークだが、ランスロットはその隙に脱出していた。
「あの蒼月ってのはいないのか?こちらにとっては好都合だが…」
続いて攻撃を仕掛けてきたのは、ノネットの騎乗する専用機、ラモラックだ。ラモラックの持つ槍での一撃が絶対守護領域で止められたのを見ると、ノネットはそれを見て笑い、その槍であるバイデントを構え直した。
「なかなか堅いな。だが、これならどうかな!?」
ノネットの言葉とともに、バイデントの刃先にブレイズルミナスが現れる。これにより、大幅に威力と切れ味を増加させるのがバイデントの特徴だ。
「くらいな!!」
しかしノネットが再度放った一撃も、蜃気楼には届かなかった。
「今日はお兄様はお休みよ。私が代わりに相手をしてあげるわ。」
ヴィンセント・アソールトが蜃気楼の前でMVSを構え、バイデントを受け止めていた。
「…お兄様だと?義理の妹か何かか?」
ルーンはその問いには答えず、アソールトの両肩からハドロン砲を放つ。ラモラックはそれをあっさり避け、再度接近戦に持ち込もうと突撃した。
一方政庁周辺でも、制空権を奪うために朝比奈隊と千葉隊が、グラストンナイツ率いるガレス隊と激闘を繰り広げている。租界内では、他所でも戦闘の規模が徐々に広がりつつあった。
「答えてくれゼロ!自分が原因で、この闘いを始めたのだとしたら!」
スザクが必死の表情でゼロに問いかける。しかし、ゼロから返ってきた答えは無情なものだった。
「自惚れるな。お前は親を、日本を裏切ってきた男だ。だから友情すら裏切る。ただそれだけ…」
その直後、ルルーシュの目には信じられないものが映っていた。ブリタニアの航空空母が東京租界へと現れたのである。その艦は、グリンダ騎士団の旗艦、グランベリーであった。そのグランベリーから、ナイトメアが続々と降下を開始した。
「…エリア24のグリンダ騎士団だと!?馬鹿な!」
ルルーシュの言葉とほぼ同時に、蜃気楼のコックピット内に警戒アラートが鳴り響く。ルルーシュが見た先には、こちらへ一直線に向かってくるモルドレッドの姿があった。
「ええい!」
モルドレッドはシュタルケハドロンを構えたまま蜃気楼を押しやり、東京租界外縁部まで後退させてしまった。
「あなたのシールドが上か、私のシュタルケハドロンが上か…」
アーニャが言い終わると同時に、モルドレッドがシュタルケハドロンをゼロ距離で放つ。ルルーシュは蜃気楼の絶対守護領域を前方に展開していたが、さらにそれを強化して何とか耐えていた。
「こ、これは…いくら絶対守護領域でも…!」
その蜃気楼に、通信が入った。
『ゼロ、蒼焔の調整が終わった!すぐに援護する!』
「ライか!……いや、こちらはいい!お前は政庁へ行き、カレンを救出しろ!」
絶対絶命でありながら、ルルーシュはライの援護を断った。まさか断られると思っていなかったライは、戸惑いながらも返答した。
『しかし、今の状況で…!』
「お前には、いつもやるべき事を押し付け続けてきた。今だけは、やるべきことより、やりたい事を優先しろ!!カレンを助けるんだ!!」
『……分かった。扇さん、ゼロの援護には別の部隊を回して下さい!僕はこれから、政庁に突撃します!それから、特務隊はグリンダ騎士団を抑えろ!』
言い終わると同時に、蒼焔は斑鳩から発艦した。東京租界で闘うブリタニア軍や黒の騎士団員からは、蒼い彗星が夜空を切り裂くような煌めきが、一瞬だけ眼に映っていた。