コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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episode29 Mad qualia

「全機の降下を確認!これより、アーチャー卿の指揮下に入ります!」

 

ランスロット・グレイルに騎乗するオルドリンがアドニスへと呼び掛ける。グレイルの後方には、ブラッドフォードを始めとして大量のヴィンセントが続いている。ランスロット・クラブは彼らの前に飛来すると、全員へ命令を下した。

 

「全機、広く陣を敷いて東京租界から黒の騎士団を徐々に押し出せ!主力級とぶつかった場合には俺か枢木卿に連絡するか、もしくはオルドリンが対応しろ!行くぞ!」

 

アドニスの命令に従い進撃を開始するグリンダ騎士団。その前に、アキト率いる特務隊が立ち塞がった。

 

「隊長の露払いは、我々が…!」

 

アレクサンダがシュロッター鋼ソードを抜く。それに続いて、アレクサンダ・レッドオーガや牙鉄が突撃をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅月カレンの抹殺は?」

 

ミス・ローマイヤが、傍らに立つ部下に聞く。

 

「ゲオルグ卿が。しかしよろしいのですか?ナナリー総督は…」

 

「総督の為です。中途半端な自己主張など…」

 

その言葉と同時に、政庁は大きな揺れに襲われた。立っていたローマイヤやその部下、そして、捕らわれているカレンも体勢を崩すほどの揺れだ。

カレンが驚きつつも体勢を立て直すと、目の前にはよろめきながら、銃を構えて自身の檻に向かってくる男の姿が見えた。

 

(…ここまでなの?お母さん、お兄ちゃん…ライ…)

 

その男であるゲオルグが檻の前でカレンに照準を合わせた直後、爆音が響いた。そちらを見ると、部屋の入口を破壊して、蒼いナイトメアが侵入してきていた。

 

「な、何故ナイトメアが!?」

 

動揺して動きを止めてしまったのがゲオルグの運の尽きだ。次の瞬間にはライがコックピットから飛び出し、一足飛びでゲオルグの目の前に現れていた。

 

「邪魔だ!!」

 

ライに殴られたゲオルグはその勢いで吹き飛び、落下していった。

ライはそれを確認すると、カレンに視線を移す。

 

「カレン、遅くなってすまない。助けに来たよ。」

 

「ライ!…来てくれるって信じてたから。」

 

ライが扉を開けると、カレンはライの胸に飛び込んだ。ライはそれをしっかりと受け止めると、彼女を強く抱き締めた。

 

「…君を失わずにすんで良かった。それと、中華連邦では援護が間に合わなくてすまなかった。」

 

「ううん。私も、勢いで飛び出しちゃったから…でも、心配してくれてありがとう。」

 

その言葉を聞いたライは、カレンからそっと体を離し、後ろを振り向いた。そこには手に小型のアタッシュケースをもった咲世子の姿があった。

 

「…カレン様にプレゼントをお持ちしました。」

 

そう言って彼女が開けたケースには、カレンのパイロットスーツが入っていた。ライの薦めで蒼焔のコックピットの中で着替えたカレンは、政庁の格納庫へと向かう。そこにあったのは大幅に改造されたと思われる紅蓮で、何も聞かされていなかったカレンはその場に立ち止まり、より鋭角的になった紅蓮を眺めた。

 

「…なんか、違う。」

 

一方蒼焔は政庁を出て、ゼロの援護に向かおうとしていた。しかし政庁の壁面から飛び上がろうとした蒼焔の前に、ランスロット・クラブが現れる。

 

「新型か。だが、止めさせて貰うぞ!!」

 

脚部に小型のフロートを出現させ、MVSで斬りかかるランスロット・クラブ。しかし振り下ろした先には穴の空いた、政庁の壁しか無かった。

 

「…何ッ!?」

 

蒼焔は、ランスロット・クラブの背後にいる。アドニスには、この新型がいつ自身の背後に回ったのかが見えなかった。

 

「アドニス、悪いがすぐに終わらせるよ。」

 

ライが言うと同時に、蒼焔の背部に蒼い翼が現れる。これは以前からセシル・クルーミーによってブリタニア内で提唱されていたエナジーウイングを、タカムラ博士が独自の解釈を加えて完成させたもので、現在特派が開発しているものと同等の性能を誇る。

その蒼焔の右手から、蒼月に比べても大型化されたMVSが突き込まれた。ランスロット・クラブはブレイズルミナスで何とか防ぐが、とんでもないスピードで後方に押しやられ、ブレイズルミナスも徐々に崩壊してゆく。

 

「ば、馬鹿な…こんな…闘いにならない…」

 

間もなくブレイズルミナスは破壊され、左腕ごと貫かれた。その勢いに任せて後退してMVSを構えるも、すでにそこに蒼焔はいない。

咄嗟に背後に向かってMVSを振るうアドニス。しかし、そこにいた蒼焔は何も持たない左手で振るわれたMVSを掴み、破壊してみせた。アドニスはすぐにヴァリスを構えるも、蒼焔のMVSによって中心部から切断される。

半ばそれを予測していたアドニスは、蒼焔に向けて断たれたヴァリスを投げつけ、次の瞬間には右脚での蹴りを放つ。しかし蒼焔は投げつけられたヴァリスをシールドで防ぎ、ランスロット・クラブの蹴りも左手で受け止めた。そしてその右足を引き千切るように破壊すると、突きを放つ為に右腕のMVSを引いた。

 

「…こんな、こんなことがあってたまるか!!一撃すら……!!」

 

絶望し、死を覚悟したアドニスだったが、予想した衝撃は訪れなかった。

アドニスがそちらを見ると、ラモラックがバイデントで蒼焔の一撃を止めていた。

 

「早くアヴァロンに戻れアドニス!私とて長くは保たん!!」

 

ノネットの言葉に、アドニスは踵を返す。アヴァロンに戻れば、まだ戦場に戻る術はある。今はとにかく早くこの場へ戻り、ノネットを救い出すことをが最優先であった。

 

「あなたの正体を知ったからには、闘いたくはなかったのだが…」

 

呟きつつも、蒼焔のMVSを弾いてバイデントを構えるノネット。ライは無言でそれを見つめ、自身もMVSを構えた。

 

 

 

 

「ナナリー様、租界内のゲフィオンディスターバーは順次無力化されつつあります。政庁周辺での戦闘もシュナイゼル殿下が指揮を取られ、ラウンズの方々も参加していますので、何も心配はいりませんよ。」

 

ナナリーの右手を握り、少しでも彼女の不安を和らげようとするサーシャ。ナナリーはその上から自身の左手を重ね、自分の事よりも他者に対する心配を口にした。

 

「サーシャさん、東京租界に暮らす方々の避難はもう終了していますか?終わっていないなら、その方達を置いて私だけ逃げるわけには…。」

 

「大丈夫です。ゲフィオンディスターバーの為にやや手間取ったようですが、アッシュフォード学園やその他施設が協力してくれている事で、少なくとも政庁周辺の避難はスムーズに行われたようです。それに、ナナリー様はこういった言葉はお嫌いでしょうが、総督が逃げない限り誰も逃げられないのです。…私は兄を亡くしていますが、私のような思いをする人を少しでも減らす為にも、ナナリー様は逃げなければならないのです。」

 

サーシャはナナリーの右手を握る自身の両手に力を込めながら、自身の経験も交えて彼女を説得しようとしている。手に触れることでその者の感情がある程度読み取れるナナリーは、そこにナナリーを守ろうとするサーシャの必死の思いを感じていた。

 

「サーシャさん、あなたは…。」

 

「ナナリー様、私は、私の家は兄の失態によりその立場を剥奪される一歩手前でした。しかし、私があなたに取り立てて頂いた事でなんとか持ち直し、今こうして軍人としての責務を全う出来ているのです。だから、私はあなたを守る事でこの恩をお返ししたい…ナナリー様、どうか私の思いも汲んでいただけませんか?」

 

サーシャは真剣な瞳でナナリーを見つめながら、自身の思いを告げる。その瞳はナナリーからは見えないが、握っている手からは、一つとして嘘を感じることはなく、ただただナナリーを守りたいという思いだけが伝わってきていた。

 

「…わかりました。ルートと避難場所の選定はサーシャさんにお任せします。ただ、一つだけお願いがあります。私の為に、サーシャさんが犠牲になる事だけはやめてくださいね。」

 

「もったいなきお言葉…。では、準備が整うまでもう少しだけお待ち下さい。」

 

そう言ってナナリーの元を離れたサーシャは、現在の状況を確認する為に操縦席へと向かった。

 

 

 

 

 

アーニャが騎乗するモルドレッドは、蜃気楼の展開する絶対守護領域にシュタルケハドロンを放ち続けていた。

 

「もう少しで……うっ…!?」

 

そのアーニャを、突如として謎の頭痛と強烈な目眩に似た症状が襲った。彼女は咄嗟に両手で頭を抱える。

 

「何かが…!!」

 

その言葉を最後に意識を失うアーニャ。操縦する者がいなくなったことで、モルドレッドはゆっくりと地表に落下していった。

 

「モルドレッドは…!?」

 

突如モルドレッドが墜落したことで、状況を確認する為にモニターを見ようとするルルーシュ。しかしその直後、彼を別の衝撃が襲った。

 

「ぐっ!!」

 

ルルーシュが周囲を見ると、ハーケンで蜃気楼の手足を拘束し、空中に固定する四機のヴィンセントの姿があった。さらに蜃気楼の正面に、ヴィンセントの改造機と思われる機体が飛来した。

 

「ゼロよ。ブラックリベリオンは失敗に終わる定めだったようだなぁ。」

 

「…!!またナイトオブラウンズが!?」

 

ゼロの前に現れたのは、キュウシュウで闘っていたはずのルキアーノと、彼の専用機であるパーシヴァルだ。

 

「教えよう。大事なものとはなんだ?それは命だ。」

 

パーシヴァルの右手に装備されている鉤爪のようなクローが回転し、ブレイズルミナスを発生させたルミナスコーンを構えた。直後にそれを蜃気楼に突き込むが、ルルーシュはギリギリで絶対守護領域を発生させ、なんとか防ぐことに成功する。

 

「ククッ…堅いだけのナイトメアフレームなど…ヴァルキリエ隊、絶対に離すなよ!」

 

(まずい…モルドレッドの時に消費したエナジーが…)

 

焦りながらコンソールを操作するルルーシュ。しかしそこへ、斑鳩から通信が入った。

 

『ゼロ!聞こえますか!?』

 

「こちらの援軍はどうなった!!?」

 

『間もなく玉城さんが…それより、太平洋上に敵影です!!』

 

「それがどうした!?」

 

『ゼロ、俺だ。』

 

オペレーターに変わって答えたのは扇だ。彼が出てくるということは、敵影はただの援軍ではないのだろう。しかし続く扇の言葉は、ルルーシュが全く予想していなかったものであった。

 

『敵影の正体は、ブリタニア皇帝の旗艦らしいんだ!』

 

「何ぃっ!?あいつもこのエリア11に!?」

 

その通信の直後、地上から玉城率いる暁隊の砲撃が行われた。

 

「ゼロを離しやがれ!テメーらは、この玉城真一郎様が…」

 

しかしパーシヴァルがシールドから放ったミサイルによって、暁隊は全て撃墜されてしまった。しかし、ルキアーノの注意が一瞬とはいえ逸らされたのも事実で、それを確認したルルーシュは絶対守護領域を解除し、相転移砲をパーシヴァルに向ける。

だが、それを読んでいたルキアーノは、右腕のルミナスコーンで相転移砲の射出口を破壊した。

 

「待っていたよゼロ!攻撃する瞬間にはシールドは張れまい!

さぁ、お前の大事なものを飛び散らせろぉ!!」

 

凶器の笑みを顔に貼り付けながら、さらにルミナスコーンを突き出すルキアーノ。四肢を固定されている蜃気楼は抵抗することができない。ルルーシュの頭は絶望に染まっていた。

 

「このポジションでは…!ナナリー!!」

 

しかしその直後、蜃気楼の四方を囲むヴィンセントが、高速で飛翔する紅い光によって全て撃墜された。

 





【挿絵表示】

こちらにも載せておきます。相変わらずスマホのカメラで撮っただけなので、見辛くて申し訳ありません。
蒼炎とありますが、蒼焔の間違いです。

蒼焔
全高5.29メートル
重量8.32トン
エナジーウイングは片方の翼にブレイズルミナスが3枚装備されている。他にも、腰に小型のエナジーウイングが一対
装備され、蒼月と比較しても機動力が大幅に上昇。また、ブレイズルミナスのカラーはブルー。
全体の出力も段違いに上昇しており、MVSは超大型兼超高出力MVSに、マイクロメーサーキャノンはブラストメーサーキャノンに強化されている。
ブラストメーサーキャノンは引き続き拡散させることが可能。

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