コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
蜃気楼を確認する為、指令室に移動していた面々は、突如現れて部隊とモルドレッドを無力化したライに驚いていた。それはカレンとの再開を邪魔しないでおこうという気遣いからそうしたのだが、とは言え、シュナイゼルとの会談という重要事項に彼を呼ばなかった事を後悔する。最も、ライはナナリーに関する情報を探す為に斑鳩を離れていたのだが、それを知っているのはカレンだけだ。
「ライ君、聞いてくれ。ゼロの正体はブリタニアの元皇子だったんだ!我々をずっと騙していたんだ!」
藤堂が声を上げる。しかしそれを聞いても、モニターに表示されているライの表情が変わることは無かった。
「知っていますよ。あいつがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだということは。」
ライの告白に、団員達に動揺が広がる。それを抑えようと、扇がさらなる真実を告げた。
「そ、それだけじゃない!彼はギアスという力を使って人を操っていたんだ!彼が起こした奇跡は、全てそのギアスによるものだったんだ!」
「…ギアス?」
「ああ、信じられないだろうが…特に君は、彼と親しかったし…」
扇の言葉に、ライが少し下を向く。扇は彼が落ち込んでいるのだと思ったが、すぐにライから笑い声が聞こえたことで、そうではないことに気付いた。
「フフフフ…成程な。シュナイゼルの策か。」
顔を上げたライの表情には、明らかに侮蔑の色があった。彼はギアスという単語が扇から出たことで、自分がいない間に何があったかを大まかに理解したのだろう。
「藤堂さん、僕はあなたを買い被っていたようです。」
「…どういう意味だ?」
ゼロが自分達を騙していたと知ってもなお、彼を追う、もしくは責めるといった様子を見せないライを藤堂は訝しんでいた。
「こうもいいようにシュナイゼルに踊らされ、あっさりゼロを切り捨てるとは…僕はあなたが、もう少し冷静な判断が出来る人だと思っていたんですがね…あの時、あなたを助けたのは間違いだったかな?」
ライが言っているのは一年以上前の東京決戦のことだ。そこで彼は、身を呈して藤堂を助けた。その為に、一年間も騎士団から離れることになった経緯がある。
「しかしライ君、事実としてゼロはギアスで日本人の虐殺を…!」
「どうせそれも、録音か何かを聞かされただけでしょう。そんなもの、簡単に作ることができるし、仮に事実だったとしても、ゼロが本当の事を語っている保証がどこにあるんですか?」
必死に訴える藤堂とは逆に、ライの声は冷えきっていた。それこそ、扇や玉城だけでなく、藤堂までもが呑まれてしまいそうな程に。そのやりとりを、カレンは不安そうに見ている。
なお、ライ自身は虐殺の真実を知っている。そして、止められなかった事に責任も感じていた。ただ、それをこの場で認めてしまうことは、だからゼロを許して下さいと言い訳しているのと同じ事だ。既にそれが許される状況でないことは、彼自身も理解していた。
「ライ!あいつは俺達をペテンにかけたんだぞ!ギアスという力を使って、犠牲の上に奇跡を演出して!!そんな力の為に俺達は…!!」
藤堂の後を継いで言葉を放ったのは扇だ。彼は騎士団創設時からのゼロの腹心であり、彼がゼロを否定するということは、団員達にとって計り知れない影響力を持っている。
「お前だって、信じていたんだろう!だから、認めたくない気持ちも分かる!!だけど、あいつが俺達を騙していたのは事実なんだ!!」
「あいにく僕は、彼に騙されたことがないのでね…そんな言葉遊びを、ここでするつもりもありませんが。」
扇の言葉にも、ライはゼロを否定することを良しとしない。そんな姿を見て、扇の中にある疑惑が宿っていた。
「まさか…君もギアスにかけられているのか!?」
その問いに、ライは思わず唇の端を上げた。自分がゼロをここまで擁護することに対して、ギアスにかけられているのでは疑う程に彼らからの信頼は厚かったらしい。
「ギアスとは、自分がかかっているかどうか疑える程、甘くはないですよ。
それに、ゼロが僕にギアスを使うことはありません。何故なら…」
ライは一度右目を閉じる。そしてそれを開いたときには、右目に赤い光が宿っていた。
「僕もギアスを持っている事を知っているから。能力は、ゼロと同様の力、絶対順守です。」
扇や藤堂の表情が驚愕に染まる。ギアスという力はルルーシュ固有の力だと考えていたのだが、まさかライまで持っているとは思っていなかったからだ。
そしてそれを見せたということは、この先を共に出来ないという証明だった。
「王の力は人を孤独にすると言うが、あなた方はただ単にシュナイゼルに踊らされただけだ。そんな程度の事も見抜けない奴等を信頼していたと思うと、ゼロも報われないな…」
自嘲気味に笑うライ。だが今度は朝比奈がその言葉に反発する。
「だが事実は事実だ!ゼロが僕達を騙していたのは…」
「見返りは、日本の返還か?」
朝比奈の言葉を遮り、ライが彼らの最も突かれたくない部分を突いた。その言葉に何も返せない扇や藤堂を見ながら、ライは言葉を続けた。
「僕らがやっているのはお遊戯会じゃない、戦争だ。騙しただの騙されただの…結局あなた達がやったことは、ゼロを差し出して自分達の望みを叶えただけじゃないか。あなた達に、ゼロを批判する資格があるのか?」
そこまで言うと、ライの目線が動いた。徐々に蒼焔から離れ、ゼロを追おうとしていたモルドレッドや暁隊の動きに気付いていたからだ。
「ルーン、フロートを斬り落とせ。」
ライがそう言った直後、そこに現れたヴィンセント・アソールトが暁隊の飛翔滑走翼を攻撃してゆく。同時に、蒼焔はモルドレッドに右腕のメーサーキャノンを向ける。
「ギアスが認められない以上、僕があなた達と共に歩むことはもうない。世話にはなったが、だからといって殺されてやろうとは思いませんよ。」
スペックで大きく劣るアーニャのモルドレッドは、蒼焔がこちらに攻撃する様子を見せた時点で斑鳩へ撤退を始めた。その為、ライは暁隊の飛翔滑走翼を破壊する事へ頭を切り替え、次々と暁を戦闘不能にしていった。
「嘘よ…ライ。やっと、やっと会えたのに…」
カレンが目に涙を浮かべながら、モニターへと近付く。その足取りは非常に心許ない。
「ライ、お願い!斑鳩に戻って!私は、私はあなたと…!!」
「…すまない、カレン。君とだけは、道を違えたくはなかった。だが騎士団にはもう、僕の居場所がない。出来れば、君とだけは闘わないで済む未来を願っているよ。」
その言葉を最後に、蒼焔からの通信が終わった。カレンはライと違う道を歩むことになった事実を受け入れられず、その場にへたりこむ。モニターには、斑鳩から離れていく蒼焔とヴィンセント・アソールトの姿が写し出されていた。
「ロロ!何故俺を助けた!俺はもう…俺はもういいんだ!」
蜃気楼のコックピットに乗り込んだルルーシュは、操縦しているロロに訴えかけた。全てを失った彼は、自身の敗北を認めて潔く死ぬつもりだったのだ。
「駄目だよ、兄さん。だって…
僕はずっと、誰かの道具だった。僕は、嚮団の道具で、その次は、兄さんの…」
地上から蜃気楼を狙うサザーランド部隊を見て、ロロは自身のギアスを広範囲で展開する。
「やめろロロ!こんな広範囲でギアスを使えば、お前の心臓が…!」
「確かに…僕は兄さんに使われていただけなのかもしれない。でも、あの時間だけは、兄さんと過ごした時間だけは、本物だったから…!」
サザーランド部隊を破壊するも、その先にはヴィンセント・ウォード隊が控えていた。
それを見たロロは、再度ギアスを展開して部隊を殲滅する。しかし、さらにその先からブリタニアの航空部隊が迫っていた。自身の身体はすでに悲鳴を上げているが、それでもロロはもう一度ギアスを使おうとする。だが、後方から超高速で突っ込んできた蒼い閃光が、一瞬で彼らの戦闘力を奪った。
「ロロ、よく頑張ったな。」
ライの蒼焔が蜃気楼に追い付いてきていた。彼の助けと、後に追い付いてきたアソールトによって、なんとか蜃気楼は富士の樹海へ隠れることに成功した。
「ロロ…お前、どうして…?俺はお前を…」
ナイトメアから降りた四人がルルーシュを中心として立っていた。その中で、ルルーシュはロロが彼を助けた理由を理解できていなかった為、真っ先に彼に問いかけたのだ。
「…僕は道具としてじゃなく、その…自分の意思で兄さんを助けたいって、そう思ったんだ。」
「…えっ?」
ロロを捨てたルルーシュに対して、それでも彼を助けたいと言ったロロの言葉に、ルルーシュは驚く。そのルルーシュの肩に、ライが手を置いた。
「前に言っただろう、ルルーシュ。ロロは一人の人間だって。
それに、僕も君を親友だと思っている。君はまだ、一人じゃないんだ。」
「…ああ、そうだな。まだ俺は全てを失った訳じゃない。お前達のおかげで思い出したよ。俺にはまだ、成さねばならないことがあると。」
その姿を見たライは表情を引き締める。ルルーシュが成さねばならぬこととは、皇帝シャルルと対峙することだ。そして、彼の目的を止めること。彼と供に、死地に赴く覚悟をライは決めていた。
「皇帝は神根島か。おそらくラウンズも複数いると見ていいだろう。ルルーシュ、どうやって皇帝を止めるつもりだ?」
「一応考えはある。だが、こちらの世界に戻ってこれるかどうかは分からんな。」
その言葉だけで、おおよそルルーシュの考えを理解したライは、それをより細かく組み上げてゆく。
「となると、Cの世界に入るのは君と、あの世界のことをある程度理解している僕が適任か…しかし、敵も護衛の戦力は保持しているだろうから、僕ら三人である程度敵機を減らす必要があるな…いや、ギアスを使えば多少楽にはなるが…」
考えを纏めたライは、ルーンとロロに目を向ける。
「ルーン、ロロ。悪いけどもう少し付き合ってくれないか?真にこの世界を守る為に…」
「わざわざ頼まなくっても、私はお兄様に着いていくわよ。頼りない兄を助けてあげるのは、妹の役目だしね。」
ルーンの軽口に、ライは苦笑する。彼女に続いてロロも、賛同の声を上げた。
「僕も、兄さんに着いていきます。これは、僕の意思です。」
その光景を見たルルーシュは、一瞬下を向いて肩を震わせた後、三人それぞれに視線を合わせながら告げる。
「ありがとう、お前達。俺は、お前達に報いる為にも、この命を無駄にしないと誓おう。」
ルルーシュの言葉に、ライは深く頷いた。
同じ頃、スザクはフレイヤの爆発で出来たクレーターの中心地に出来た水溜りの前に立っていた。スザクを見つけたジェレミアに声をかけられるも、彼が去るまで声を上げるどころか、視線を合わせることすらしなかったスザクだが、彼は突如として身体を震わせた。
「フフフ…ハハハハハハ……フハハハハハハッ!!」
スザクは大声で笑い続けたが、周囲には誰もいない。その中で、彼の笑い声は只々大きく響き渡った。