コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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episode2

瓦礫を避ける、破損して倒れた機体の上を飛び抜ける。何とかして最短ルートで藤堂の元へ向かおうとライは苦心していた。

操縦桿を操作する度にユーフェミアの銃撃を受けた箇所に激痛が走るが、弱音を吐いている暇はない。確実に藤堂を逃がす為にはとにかく一秒でも早く、彼の元へ辿り着く必用があった。幸い、ここまで敵機にはほとんど遭遇していない。ただそれは、それだけ藤堂や四聖剣を討ち取ろうとブリタニア側も必死になっているということでもあった。

 

「邪魔だ!」

 

ようやく見えた藤堂の月下。その後ろに回り込もうとしていたサザーランドを回転刃刀で素早く斬り伏せる。

 

「藤堂さん!」

 

「ライ君か!」

 

ライの呼び掛けに藤堂が答える。既に彼の月下はボロボロだが、何とか四聖剣と合流を果たしたようで、コーネリア軍の猛攻にもかろうじて耐えていた。

 

「藤堂さん、四聖剣の皆さんと今いる部隊を纏めて撤退して下さい。」

 

扇からライの撤退という判断を聞き、戦いながらもジリジリと軍を後退させていた藤堂に告げる。

 

「しかしライ君、そんな身体の君を残して撤退する訳にはいかない!それに、どれだけ君の操縦技術が優れていても、たった一機では囲まれて殺されるだけだ!」

 

藤堂の言葉も当然であった。時間を稼ぐにしても月下一機では限界があり、何よりその役目を全うできたとしても、逃げるのは至難の技である。

 

「この月下には輻射波動があります。単機だからこそ出来る闘い方もある。それよりも、藤堂さんは今後の日本に必用なんです。今は何よりも撤退を優先して下さい!」

 

ライの言葉に藤堂は歯噛みする。確かに、ハーフであるライや日本人ではないゼロよりも、純粋な日本人であり、武力、指揮力に長けた自分を逃がすのは妥当な判断であろう。しかし、自分よりはるかに若く、負傷を推して出撃してきたライを残していくのは、藤堂にとってそれ以上に心苦しいことであった。

 

「…すまない、ライ君。後で必ず会おう。」

 

そう言い残すと、藤堂は四聖剣と部下達を率いて、戦場を後にした。

 

「…悪いけど、君たちには少しばかり付き合ってもらうよ。」

 

ライはすぐ目の前に展開するブリタニア軍に向けて呟く。たった一機で藤堂や四聖剣を追い詰めた十数機のサザーランドやグロースターを相手取るのだ。結末は誰の目にも明らかに思えた。

そのグロースターの一機が肩部からミサイルを発射する。タイミングを少しずらして、ランスを構えたグロースターが突撃を仕掛けた。その後ろには、スタントンファで殴打すべくサザーランドも続いている。

 

「遅い!」

 

だが、銃弾よりも速度が遅く、はっきりと目視できる分軌道が読みやすいミサイルは、全てギリギリで躱される。続いてグロースターのランスも捌いて懐に入り込み、回転刃刀で突きを繰り出す。グロースターはコックピットごと貫かれ、動作を停止した。続くサザーランドのスタントンファでの一撃は避けきれなかったものの、左手で頭部を掴み、輻射波動を照射する。同時に、後方から放たれるライフルへの盾としても使用し、爆散する前に手放し、ライフルを放っていたサザーランドに一閃。返す刀で後方から接近していたグロースターも斬り伏せる。

 

「ぐっ…」

 

全身の痛みに意識を失いそうになるが、それを堪えて敵に集中力を向ける。

右腕部のハンドガンで自身を囲もうとするナイトメアを牽制。月下から距離を取った一機に機動力の差を利用して急接近し、こちらも回転刃刀で貫く。

体勢を整え、アサルトライフルを構えた数機のサザーランドに目を向けた瞬間、後ろからグロースターがランスを正面に構えて突撃してきた。それを認識した直後には、チャフスモークを放って飛燕爪牙で付近のビルに飛び移っている。一瞬で視界を奪われ狼狽えるサザーランドのうちの数機を、別のサザーランドに向かって飛びかかりながらハンドガンで破壊。

それを見て月下に向かってライフルを放ったサザーランドにも、被弾しながら回転刃刀を振り下ろす。

 

「はああぁぁぁっ!」

 

斬撃を受けたサザーランドが頭部から動力部までを破壊され、パイロットは脱出した。直後に後方からグロースターのミサイルが放たれるがそれも屈んで避け、味方が軒並み破壊されたことでパニックに陥ったのか、真っ直ぐ突っ込んでくるサザーランドを左手で掴んで輻射波動で破壊。その間に落ちていたグロースターのランスを拾い、ミサイルランチャーを装備したグロースターに投げつける。

グロースターは咄嗟に機体を動かして避けるが、その先にはライがすでに行動を予測して予め飛燕爪牙を放っており、動力部に直撃したことで活動を停止した。

 

「ハァッ…ハァッ…あと、一機…!」

 

ライは残るグロースターに向かって輻射波動と回転刃刀を構える。すでに月下はかなりの損傷を受けているが、ここでこのグロースターを破れば、藤堂を逃がすだけではなく、自分も生き延びることが出来る可能性が飛躍的に上がる。ライにとっては、今以上に無理をしてでも倒しておきたい相手であった。

 

「以前から強敵だと思っていたが、ここまでとは思っていなかったよ。」

 

そうオープンチャンネルで伝えてきたのは、コーネリアの騎士であるギルフォードであった。彼は黒の騎士団の双璧とも呼ばれる青い月下を強敵として相応に評価しているつもりであったが、目の前の月下は自らの想像を遥かに越えた力を持っていた。

 

「だが、例えどれだけ強い敵であろうと、姫様の道を切り開くのが私の役目!」

 

叫びながら、ギルフォードのグロースターはランスを構える。ライもグロースターに合わせて動こうとしたその時、頭上からグロースターに声がかけられた。

 

「ギルフォード卿、そのナイトメアは自分に任せて頂けませんか?」

 

外部スピーカーで彼にそう伝えたのは、今や東京租界では唯一の飛行型ナイトメアフレームとなったランスロット・クラブであった。

 

「部下や親衛隊が敗れ、お気持ちはお察ししますが、今は藤堂を追われるべきかと思います。雑事は、自分が。」

 

丁寧な言葉使いでありながらどこか不遜さを感じさせるのその人物は、特別派遣嚮導技術部、通称特派に所属するデヴァイサー、アドニス・アーチャーである。

 

「…了解した。この場は君に任せよう。」

 

そう言い残すと、グロースターは藤堂を追うために踵を返した。

 

「待て!」

 

ライがそのグロースターを追おうとするが、その前にランスロット・クラブが立ちはだかる。

 

「アドニス…!」

 

「青いナイトメアのパイロットよ。降参するなら、今だぞ。」

 

ランスロット・クラブは、ヴァリスを構えながらライに伝える。そのクラブに向かって、ライは無言で回転刃刀を構えた。

 

「ふん…やはりそうか。ならば手加減はせんぞ!」

 

クラブがヴァリスを放ち、月下が輻射波動で受け止める。両者共に結末が分かりきった闘いが始まった。

 

「シッ!!」

 

飛燕爪牙を駆使してビルの間を飛び回り、クラブに肉薄する月下。しかしクラブはそれを躱しながら、的確に攻撃を加えてゆく。

 

「諦めの悪い…とっとと終わらせて貰う!」

 

クラブがMVSを振るう。回転刃刀でそれを受け流した月下は、ランドスピナーをフル回転させてクラブの元へ飛び掛かった。

 

「おおぉっ!!」

 

回転刃刀を何度も振り下ろす月下。クラブは右腕を破壊されるも、直後にMVSで月下の左腕、輻射波動甲壱型腕を斬り落とした。これにより、月下の戦闘力は半減したと言っていい。それでもライは諦めず、月下の右腕を大きく引いて鋭い突きを放った。

 

「チィッ…!」

 

その突きがクラブの左腋ごとフロートの一部を貫く。だがその勢いに逆らわず機体を横回転させると、脚部にブレイズルミナスを発生させて月下に蹴りを放った。それを受けた月下はビルの壁に激突し、パイロットも意識を失ったのか動きを止めた。

 

「こちらアーチャー、これより、青いナイトメアのパイロットを確保する。」

 

アドニスが指令部に伝え、機体を月下に寄せる。だがその直後に爆音が響き渡り、クラブの後方にあるビルを突き破って、灰色のカラーリングが特徴的な大型ナイトメアが現れた。

 

「あの男との契約が、役に立つ日が来ようとはな…」

 

灰色のナイトメアのパイロットは、コックピットの中で誰ともなく呟いた。

 




紅月カレン
身長168センチ
公式では160、wikiには168と記載されていましたが、公式で168となっているC.C.が163のアーニャと並んだシーンでアーニャより小さく見えたので、テレコになってるのかな?と思い、168の方を採用しました。

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