コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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episode36 Paint it black

「さあ神よ、決着の時は来た!」

 

黄昏の間で、木のように生える捻れた柱に右手のコードを向けるシャルル。しかし彼の後方から、その言葉を否定する者がいた。

 

「違うな。間違っているぞ、シャルル・ジ・ブリタニア。決着を着けるべきは神ではない。……この俺だ!!」

 

シャルルの前に現れたルルーシュ。しかしコードを持たないルルーシュに、シャルルを殺す術はない。

 

「どのようにして?銃でも剣でもギアスでも、わしを殺すことはできぬというのに…」

 

それを理解しているシャルルは、余裕の態度を崩さない。しかしルルーシュも、その顔には笑みを湛えていた。

 

「感謝する。貴様がこの場所に入ってくれたおかげで、勝利の目算が立った。」

 

「ん…?」

 

ルルーシュの言葉とほぼ時を同じくして、遺跡の扉に設置された爆弾が爆発する。黄昏の間には、複数の稲光が迸った。

 

「出口を封じた!?」

 

「そうだ。ギアスも貴様も、俺と供にこの世界に閉じ込める。現実世界に干渉できなくなれば、貴様が何を企んでいようと意味はない。死んだも同然だ。」

 

「ルルーシュ…」

 

ここにきて、シャルルの顔に初めて焦りが現れる。

 

「貴様の作ったこのシステムが、今貴様自身を閉じ込める魂の牢獄となった。さぁ、俺とともに、永遠の懺悔に苦しむがいい!!」

 

ルルーシュは、シャルルの前に積まれた残骸に腰掛け、解放していた左目にコンタクトをつける。

 

「時間だけはたっぷりある。答えて貰おうか、母さんを殺したのは誰だ?何故お前は母さんを守らなかった?」

 

「おかしなものよ。人には真実を求めるか?ここまで嘘ばかりついてきたお前が…」

 

シャルルの言葉にも、ルルーシュは余裕の態度を崩さない。

 

「そうだな。俺はずっと嘘をついていた。名前や経歴だけじゃない。本性すら全て隠して…しかし当たり前の事だろう。他人に話を合わせる、場にとけ込む…それらなくして、国や民族、コミュニティというものは存在しない。」

 

ルルーシュはニヤリと笑い、シャルルに顔を向けた。

 

「誰もが嘘をつく。家族の前、友人の前、社会を前にして、みな違う顔をしている。しかし、それは罪だろうか?素顔とはなんだ?お前だって、皇帝という仮面を被っている。もはや我々は、ペルソナ無しでは歩めないのだ。」

 

「違うな。」

 

シャルルがルルーシュの言葉を否定すると共に、周囲の景色が変わり、図書館のようになる。シャルルは一冊の本を取り出すと、それを開いた。そこには、幼い頃のシャルルとV.V.が写真のように写し出されていた。

 

「未来永劫に渡って嘘が無駄だと悟った時、ペルソナはなくなる。理解さえしあえれば、争いは無くなる…」

 

「形而上学的な机上の空論だな。」

 

それをさらに否定するルルーシュ。シャルルは本を閉じると、彼の方へ振り返った。

 

「すぐ現実になる。それが、我がラグナレクの接続。世界は欺瞞という仮面を脱ぎ捨て、真実をさらけ出す…」

 

 

 

 

 

 

「Cの世界?」

 

アーニャに起こされたスザクは、彼女の今の人格を聞き、C.C.にも皇帝の目的を教えられていた。

 

「既存の言葉で言うなら集合無意識…人の心と記憶の集合体。輪廻の元、大いなる意思…神と呼ぶものもいる。」

 

それを聞いたスザクは、一つの心当たりを口にした。

 

「ナリタで君に会ったときに…」

 

「あれは個人の意識との混在だ。と言っても、お前が何を見たのかは知らないが…」

 

二人がやりとりをするそばで、破壊された扉の前で機械を操るアーニャ。彼女は立ち上がると、諦めの言葉を口にした。

 

「ダーメ、こんなに壊れていたら…頼むわC.C.」

 

アーニャは彼女の手を取る。

 

「本当に行くのか?」

 

「当たり前でしょ?シャルルは私達を待っているのよ。あなたがコードを彼に渡していれば簡単だったのに…先に行ってるから。」

 

反対の手で、壊れた扉に触れる。すると扉に描かれた紋様が赤く光り、アーニャの体を包み込んだ。

 

「何を…!?」

 

言いかけたスザクの目の前で、意識を失って倒れるアーニャ。倒れる彼女を受け止めたスザクは、ゆっくりとその場に体を横たわらせる。

 

「枢木スザク…似ているなお前と私は。」

 

「似ている?」

 

C.C.を見上げながら、スザクが彼女の言葉に疑問を呈す。

 

「死を望みながら、死ねないところが…」

 

「…本当にそれが望みなのか?迷っているんだろう、C.C.。」

 

神殿の入口側から、C.C.に声がかかる。そこに立ってるのはライだ。

彼はある程度ブリタニア側の戦力を削り、援軍も得た事でこちらに駆け付けていた。

 

 

 

 

 

 

グレートブリタニアに戻ろうとする小型機からは、こちらへ向かってくるアヴァロンと斑鳩の姿が見えていた。

 

「シュナイゼル殿下と、黒の騎士団!?」

 

彼らがこちらへ向かう事など聞いていなかったビスマルクが驚きを露にする。斑鳩からは、神虎と斬月、そして紅蓮聖天八極式や暁隊が出撃してきていた。

 

「ライ、私は、あなたを取り戻す。」

 

操縦桿を握るカレンの手に力が入る。しかし、彼女らの前に立ち塞がる複数の機体があった。

 

「それが噂の第九世代か。だが、ここを通してやるわけにはいかんな。」

 

ゼロの戦死という情報を聞いた時点で、ライと連絡を取り合って神根島に駆け付けたロック。灰塵壱式の背中には、六枚のフロートが出現している。

 

「…そうね。お兄様の邪魔はさせないわ。」

 

ヴィンセント・アソールト、そしてロロが操縦する蜃気楼も灰塵壱式に並んだ。さらに、機体を前進させようとする暁隊の一部が後方から放たれた弾丸によって次々と撃墜されてゆく。団員達が振り返ると、こちらにジャッジメントを向ける複数のアレクサンダの姿があった。

 

「…隊長は、殺させない。」

 

出撃してきたアキトらは暁隊に襲い掛かる。それを見て、ロックらも騎士団へと攻撃を仕掛ける。

彼らの闘いに巻き込まれぬよう、ビスマルクは機体を大きく迂回させ、アヴァロンに向かった。

 

「ロック君!我々の邪魔をするつもりか!?それに日向君、マルカル君らもどういうつもりだ!?」

 

藤堂の問いに、まずアキトが返答すべく口を開いた。

 

「自分達は、日本を取り戻したい訳じゃない。仲間と共に静かに暮らせる場所が欲しい、その為に闘っているんです。そして、俺達にとっては隊長もその仲間です。」

 

それに続いて、ロックも自身の行動の理由を告げる。

 

「言った筈だ、藤堂将軍。俺は、あいつの騎士だと。あいつの道を切り開くのが、俺の役目だ!」

 

灰塵壱式が振るった拳により、斬月は斑鳩付近まで弾き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな…」

 

「大きくなったわね、ルルーシュ。」

 

ルルーシュの前には、生前の姿と変わらないマリアンヌが立っていた。彼女はルルーシュを見つめ、目を細める。

 

「来たか、マリアンヌ。」

 

シャルルが彼女に声をかけるが、ルルーシュが彼に向けて声を張り上げた。

 

「これも幻想か!?こんなことをして…」

 

「うーん、本物なんだけどなぁ。ま、このシステムでしか、元の姿形は取れないけど。」

 

そう言って、片足を上げながらくるっと一回転して見せるマリアンヌ。その姿に、ルルーシュは驚きを通り越してショックを受けていた。

 

「ルルーシュ、先程の問いに答えよう。今より半世紀程前、ワシと兄さんは地獄にいた。親族は全て帝位を争うライバル…暗殺が日常となった嘘による裏切りの日々。みな、死んでいった。」

 

彼は幼いV.V.とシャルルを描いた絵の前に立ち、言葉を続ける。

 

「わしと兄さんは世界を憎み悲しみ、そして誓った。嘘のない世界を作ろうと…」

 

「私もC.C.もその誓いに同意したわ。でもV.V.は…シャルルに黙って私を殺した。シャルルが私に出会って変わったからと…そしてナナリーを目撃者に仕立てたの。

私のギアスは人の心を渡るギアスだった。肉体が死を迎えた時、初めて発動した力。私はその場にいたアーニャの中に潜んでV.V.をやりすごしたの。」

 

信じられないといった表情のルルーシュ。マリアンヌはどこか彼のその表情を楽しむように、言葉を続けた。

 

「そして知ったわ。私の意識を表層に上げたとき、C.C.と心で話す事が出来るって。

事実を知ったC.C.は嚮団をV.V.に預け、私達の前から姿を消したわ。」

 

「兄さんは嘘をついた。嘘のない世界を作ろうと誓ったのに…」

 

二人の言葉に、ルルーシュが激昂する。

 

「ふざけるな…死んだV.V.に全て押し付けるつもりか!?俺とナナリーを、日本に人質として送った癖に!!」

 

「必要があった!」

 

「何の必要だ!?親が子を遠ざけるなんて…!!」

 

ルルーシュはそこで、以前C.C.から言われた言葉を思い出す。本当に大切な者は、遠ざけておくものだといった彼女の言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「反乱軍は、黒の騎士団の協力もあって鎮圧されつつあります…が。」

 

アヴァロンにて、シュナイゼルの前に跪くビスマルクが彼に鋭い目を向ける。

 

「ん…?他に何か?」

 

「シュナイゼル殿下は、どこまでご存知なのですか?」

 

「怖いねえ。何の話だい?」

 

 

アヴァロンから少し離れた場所では、紅蓮聖天八極式と灰塵壱式が闘っていた。灰塵壱式に装備された三対のフロートと脚部にも現れている小型のフロートのおかげで、第九世代並とまではいかずとも何とか闘える程度のスピードで灰塵壱式は紅蓮に追いすがっていた。

 

「ロック!あんたはどうして、邪魔をするの!?」

 

「…さっきも言った筈だ!俺は生涯奴の騎士…ならば、その道を妨げるものを取り払うのが俺の道だ!例えあいつの恋人だとて、手加減は出来んぞ!」

 

「彼の道って、それは一体どんな道なのよ!?私は、彼さえいれば…」

 

操縦桿を強く握りしめ、ロックに訴えかけるカレン。だがロックは、無情にもそれを否定した。

 

「裏切ったのはそちらの方なのだろう。そこに至るまでどのようなやりとりがあったのかは知らんが、貴様にそれを言う資格があるのか!?」

 

灰塵壱式が腰から長刀型のMVSを抜いて振り下ろす。その一撃を辛くも受け止めた紅蓮であったが、体勢を崩されて大きく押し込まれた。

 

二機がぶつかり合う下では、C.C.とスザク、そしてライが話をしている。

 

「私はルルーシュを利用していた。全てを知っていながら、私自身の死という果実を得る為に…あいつが生き残ることだけを優先して…」

 

「後悔は?」

 

スザクの問いに、C.C.は誰にも目を向けずに答えた。

 

「まさか…私は永遠の時を生きる魔女。捨てたんだ、人間らしさなんか…」

 

「なら、何故シャルルを拒んでルルーシュの元に戻ったんだい?C.C.。君は、閉じ込めているだけなんだろう?自分の本心を…」

 

「ああ、君と僕は似てなんかいないよ。例え愚かだと言われても、立ち止まる事はできない!」

 

スザクの言葉を聞いたライは、彼に手を差し出す。

 

「スザク、僕の手を取れ。僕が、君をCの世界に連れていこう。」

 

ライが扉に触れると、先程と同じように扉の紋様が赤く光だした。

 

「あ、ああ。」

 

まさか彼までCの世界に干渉できると思っていなかったスザクは驚きながらも彼の手を取る。ライはC.C.に目を向け、彼女に告げた。

 

「C.C.、君の気持ちにも、考えにも決着を着けよう。僕らと一緒に来るんだ。君の事は、僕が守ってみせる。」

 

ライの言葉にC.C.は戸惑う素振りを見せたが、やがて頷く。二人の姿が扉の前に消えたのを見ると同時に、彼女も右手を扉へ伸ばした。

 

 

ルルーシュは、二人の思いと真実に目を見開いたまま言葉を返せないでいた。

 

「そう、兄さんの目から逃がす為にお前達を日本に送り込んだ。マリアンヌの遺体も密かに運び出させて…」

 

「身体さえ残っていれば私はまたそこに戻れる可能性がある。」

 

「わしは全てを守る為、目撃者であるアーニャとナナリーの記憶を書き換えねばならなかった。」

 

シャルルの言葉に、ルルーシュは更なるショックを受ける。

 

「ナナリー!?目が見えなかったのは、心の病ではなく…」

 

「偽りの目撃者とは言え、命を狙われる危険はあったわね。」

 

「ナナリーを救う為には真実に近付けない証が必要だった…」

 

目が見えなければ、ルルーシュのように母の死の真相を調べることはできない。また、それがトラウマになっていれば自分から遠ざけるだろうという判断だ。

 

「元々の計画では不老不死のコードは一つで良かったの。でも、研究が進むにつれもう一つのコード、つまりC.C.がいないと100%の保証はないと分かったわ。」

 

「マリアンヌによるC.C.の説得が上手くいかぬ以上、もはやお前を使うしか…」

 

「じゃあ、俺は何の為に…」

 

ルルーシュは、自身がこれまで築き上げてきたものが全て崩れてゆくのを感じていた。自身が母の為、ナナリーの為と思って行動を起こしてきたのは全て無駄でしかなかったと言われたのと同じだったからだ。

 

「ラグナレクの接続が成されれば、そのような悲劇は無くなる。」

 

「仮面は消える。みんなありのままの自分でいいの。」

 

「そうか…ブリタニアと黒の騎士団の闘いですら、C.C.を誘い出す為の…つまり、俺は始めから、世界のノイズで、邪魔者で…

フッ…どう思う、お前達は?」

 

ルルーシュが振り替えると、そこにはライとスザク、C.C.が立っていた。

 


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