コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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episode38 Kingdom come

あれから一ヶ月が経った。貴族や皇族達は、帝都ペンドラゴンにある皇宮に集められていた。

この一ヶ月の間、シャルルが人前に姿を現さなかったことで、今回こうして集められたのはよほど重要な発表があるのだと考えられていた。多数のカメラも入っており、その様子は世界に向けて発信されている。

 

「陛下は行方不明とか言ってなかった?」

 

「報告してきたビスマルク本人がいないのでは…」

 

第三皇女カリーヌの言葉に、第一皇女ギネヴィアが答える。

 

「そんなことより、シュナイゼル達は…?」

 

オデュッセウスの言う通り、この場にはシュナイゼルやカノン、アーニャはいない。カンボジアにいる、とだけは推察されているが、あちらからの連絡は一切無い。

 

「皇帝陛下、御入来!!」

 

入口に立つ兵が声を上げた事で、周囲の視線がそちらを向く。しかし、玉座に向けて歩いてきたのは、シャルルでは無かった。

 

「私が、第九十九代ブリタニア皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです。」

 

ルルーシュは玉座に腰を下ろすと、足を組んで貴族達を見下ろした。

 

「生きていた…?」

 

驚きを隠せないギネヴィア。彼女の言葉に、ルルーシュはあくまで冷静に返答する。

 

「そうです姉上。地獄の底から舞い戻って来ました。」

 

「良かったよルルーシュ。ナナリーが見つかった時にもしかしたらと思っていたけど…しかし、いささか冗談が過ぎるんじゃないか?そこは父上の…」

 

状況を理解出来ていないオデュッセウスが一歩前に出ながらルルーシュに告げる。それに対し、ルルーシュは冷ややかな目で彼を眺めながら答えを返した。

 

「第九十八代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアは私が殺した。よって、次の皇帝には私がなる!」

 

ルルーシュの宣言に、皇族や貴族達がざわめく。ギネヴィアは警備の兵達の方へ振り向くと、怒りのままに命令を下した。

 

「あの痴れ者を排除しなさい!皇帝陛下を弑逆した大罪人です!」

 

それに従い、ルルーシュの元へ駆ける兵達。その彼らを、舞い降りたスザクが蹴り飛ばす。

 

「紹介しよう、我が騎士枢木スザク。彼にはラウンズを超えるラウンズとして、ナイトオブゼロの称号を与える。」

 

「いけないよルルーシュ、枢木卿も…国際中継でこんな悪ふざけを…」

 

ここに至ってもまだ状況を飲み込めていないオデュッセウスが声をかける。それを見たルルーシュは、立ち上がって右手を顔にかけた。

 

「そうですか。では分かりやすくお話ししましょう。」

 

両目からコンタクトを外すルルーシュ。そこには、ギアスの光が宿っていた。

 

「我を認めよ!!」

 

「イエス・ユアマジェスティ!」

 

「「オールハイル・ルルーシュ!」」

 

集まった皇族や貴族達が上げる声に、ルルーシュは満足そうな表情で頷いた。

 

 

「…行かなくていいのか?お前達は?」

 

その様子を、舞台裏で眺めているC.C.。彼女の横には、ライとルーン、ロックとロロが立っている。

 

「…わざわざ今更、表舞台に立とうとは思わないよ、C.C.。彼らが表なら、僕達は裏だ。役割分担って事さ。」

 

ルルーシュとスザクを眺めながら、ライは自嘲気味に呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルーシュ皇帝即位より二週間程が経った。ルルーシュは、歴代皇帝領の破壊に加え、貴族制度廃止や財閥の解体、ナンバーズの解放等、これまでのブリタニアでは考えられないような方策を打ち出していた。当然、貴族達はそれに反発し、反乱を起こす。だが、第九世代に相当する蒼焔を始め、第八世代機の中でも強力な灰塵壱式やヴィンセント・アソールト率いる皇帝直轄部隊により、瞬く間に鎮圧されてしまっていた。

また、報道されぬ事としては、ルルーシュは兵達にギアスをかけて次々と自身の奴隷としている。彼は着々とこれまでのブリタニアを破壊しつつあった。

 

「皇帝陛下ぁ~、その力一度分析させてくれませんかねぇ?」

 

その様子を見て、興味深そうにルルーシュに聞いたのはロイドだ。しかし彼の言葉に答えたのはルルーシュではなく、彼に謁見を認められたジェレミアであった。

 

「死にたいのか?ロイドよ。」

 

「あ~怖い怖い怖い!」

 

ジェレミアの言葉に、ロイドは笑顔のまま怯えて見せる。

 

「全く…」

 

その様子に苦笑いを浮かべながら、ジェレミアはルルーシュの前に跪いた。

 

「ジェレミア・ゴッドバルト、只今、ローゼンクロイツ伯爵の討滅より帰還致しました。」

 

「御苦労だった。しかし…我ながら人望がないな。こうも各地で貴族達が反乱を起こすとは…」

 

「既得権益が奪われるとなれば、抵抗もする。」

 

ルルーシュの隣の椅子に、チーズ君のぬいぐるみを抱えたまま座るC.C.が答えた。

 

「だからこそ分からせる必要がある。血統書や過去の栄光に縋る、愚かさと浅ましさを。」

 

ルルーシュの言葉に、ジェレミアが深く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

旧エニアグラム領。

ルルーシュが皇帝に即位してから、領地を返上して行方を眩ませたノネット。しかし彼女が住んでいた邸宅には、今はアドニスが一時的に身を寄せていた。そして、我が物顔で椅子に腰掛ける彼の前には、一人の大柄な男が立っていた。

 

「もう一度言う、アドニス。我らと供に闘って欲しい。」

 

アドニスにそう告げたのはビスマルクだ。彼はルルーシュ即位以降、アヴァロンから離脱して連絡すら寄越さなかったアドニスを、なんとか探しだしていたのだ。

 

「あの蒼焔という機体に対抗できるのは、現状では黒の騎士団の紅蓮と、お前のランスロット・クラブ・バーディクトだけだ。我らと供にシャルル皇帝の意思を継ぐ者として、ラウンズを率いて闘って欲しい。」

 

ビスマルクの言葉に、アドニスはいつもの皮肉そうな笑みを浮かべながら返答する。

 

「お断りします。ヴァルトシュタイン卿。」

 

まさか断られると思っていなかったビスマルクは、眉をひそめながらアドニスを見た。

 

「あなたの企みに乗るつもりはない、という事です。大方、俺かマリーベルの血筋を利用して傀儡政権を作ろうと考えているのでしょうが…事実は、我々は敗れ、仕える主を失った。それだけです。」

 

アドニスとて、ルルーシュを認めようとは思っていなかった。しかしながら、ビスマルクに利用されて使い潰される事と天秤にかければ、まだしも何もしない方がマシだという事である。

 

「それに、ラウンズの指揮なら俺よりあなたの方が適任でしょう。クラブは貸せませんが、余っている機体ならどこにでもありますよ。」

 

その言葉は、ビスマルクの専用機であるギャラハッドが撃墜され、今は彼が乗るべき機体が無い事を知っての皮肉だ。ビスマルクはそれを受けて一つ息を吐くと、諦めの言葉を口にした。

 

「……分かった。ラウンズの指揮はジノか、三ヶ月前にナイトオブツーに任命されたばかりだが、ブロックラップ卿に頼むとしよう。しかし気が変わったら、いつでも連絡して欲しい。」

 

それだけ伝えると、ビスマルクは彼の前から去った。そしてエニアグラム邸を出ると、ポケットから携帯電話を取り出して連絡先を呼び出し、自身の耳へと当てる。しばらく呼び出し音が鳴ったあと、その相手が電話に出た。

 

『久しぶりだな、ビスマルクの旦那。あんたから連絡があるたぁ珍しいじゃねえか。』

 

電話の向こうの相手は相手がナイトオブワンであると分かっていながら、それをまったく気にしていないような口調であった。

 

「仕事だ、アダム。私から直接、お前たちに依頼をしたい。」

 

ビスマルクの言葉に、電話の向こうの相手、アダムは低い笑い声を漏らした。

 

『俺らを頼らねえとなんねえとは、随分追い込まれているようじゃねえか。まぁいい。報酬さえ弾んでくれるなら、俺らはどんな仕事でも受けるぜ。』

 

アダムの答えに、ビスマルクは納得したように頷いてから、依頼内容を話し始めた。

 

一方、アドニスは彼が出ていった扉をしばらく眺めていた。だがそこへアドニスが座る椅子の後方の部屋から様子を伺っていた者達が現れ、彼に問い掛ける。

 

「あれで良かったの?アドニス…ブリタニアという国を取り戻したいのなら…」

 

そう口にしたのはマリーベルであった。その後ろにはグリンダ騎士団の主要メンバーも揃っている。

 

「お前は、ビスマルクについていきたいと思うか?」

 

「…いえ、私も利用されるだけだとは理解しているわ。ただ、シュナイゼル兄様に頼るのも、私には…」

 

彼女らはアドニスがアヴァロンから離れる際にこの先に何が起こるかを予測し、自分達がただの戦力として利用されるのを危惧してアドニスと同じくシュナイゼルの元から離脱したのである。

 

「ああ、あの方は全てを、自分ですら駒としか見ていない…命を無駄にするだけだな。だからこそ、俺達は俺達の道を見付けなくては。」

 

そうは言うものの、アドニスにもマリーベルにも、オルドリン達にも自分達の目指すものは見えていない。沈黙が部屋を支配しようとした時、先程ビスマルクが出ていった筈の扉が開き、一人の男が入ってきた。

 

「ここにいたのか。」

 

「!!…おに、いや、オルフェウス!」

 

そこに立っていたのはオルドリンの双子の兄、オルフェウス・ジヴォンである。テロリストとして指名手配を受けている彼だが、危険を犯してまでここに現れた理由はアドニスやマリーベル、オルドリンにすら分からなかった。

 

「何をしにきた?以前俺が言った事を本気にしたか?」

 

アドニスが言ったこととは、彼に対する引き抜きである。その際、気に入らなければ正面から叩き潰してやるとも告げたのだが、それだけの為にここに現れた訳ではないことは誰の目にも明らかであった。

 

「いや、頼まれ事でな。この国に入るには、俺のギアスが最も有用だったと言うだけだ。」

 

そう言って彼はポケットから携帯電話を取り出すと、画面を操作してから自身の耳に当てた。

 

「…俺だ。あぁ、今目の前にいる。変わるよ。」

 

アドニスに電話を差し出すオルフェウス。それを訝しみつつも、アドニスは受け取った電話を耳に当てた。

 

「誰だ?」

 

『……紅月カレンよ。』

 

思わぬ通話相手に、アドニスは驚きで目を見開く。彼女がわざわざオルフェウスを使ってまで自分に連絡を取ろうとした理由に、アドニスは心当たりは無かった。

 

「…何の用だ?」

 

『私は、ライを取り戻したい。あなたに協力して欲しいの。』

 

彼女の申し出に、アドニスはさらに驚きを重ねた。彼女が自分を頼る等、考えた事すら無かったからだ。

 

「何故俺にそれを求める?」

 

『…こっちは、おそらく戦争になると見ているわ。それに備えて、戦力は出来る限り多い方がいい。それに…あなただって彼と決着を付けたいでしょう?』

 

カレンの言葉に、アドニスは思わず笑みを浮かべた。

 

「殺してしまう可能性もあるぞ。」

 

『…いいえ、そうはならないと思うわ。あなたは、優しいから。』

 

それを受けて、アドニスは声を上げて笑った。

 

「優しいと来たか!……まぁ、いいだろう。合流場所を指定してくれ。」

 

アドニスが申し出を受けてくれる可能性はかなり低いだろうと思っていたカレンは、彼がそれを了承した事に驚きつつも合流場所を伝える。

 

「出来ればブリタニア領じゃないところがいいわ。途中まで斑鳩で…」

 

「いや、いい。俺が日本まで行こう。」

 

『……ありがとう、アドニス。』

 

アドニスは電話を切ると勢いよく立ち上がり、黒いバンダナを額に巻く。

 

「…いいのか?」

 

オルフェウスの問いに、アドニスはいつもの皮肉そうな笑顔を彼に向けた。

 

「いつまでもここにおれん事は分かっていた事だしな。お前達はどうする?」

 

振り返ってマリーベルらに問い掛ける。彼女達も表情を引き締め、アドニスに向かって大きく頷いた。

 

「行きましょう。」

 

アドニスはグリンダ騎士団を引き連れ、地下の格納庫に向けて歩き出した。

 


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