コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
日本、アッシュフォード学園。
ルルーシュから指定された会談場所である学園には、多数のマスコミが集まっていた。リポーターとしてカメラに向かう、ミレイの姿も見える。
その中に、一機の小型機が飛来し、中庭に着陸した。
降りてきたルルーシュを出迎えたのはカレンだ。
しかし、彼女に向かって歩を進めるルルーシュを呼び止める者があった。
「ルルーシュ!!教えてくれよルルーシュ!!お前は今までどうして俺に…!」
柵を登り、その頂上から問いかけたのはリヴァルだ。しかし彼は警備兵に引きずり降ろされ、両腕を拘束される。
「離してくれよ!だって、だって友達なんだよ!あいつは…ルルーシュは…!!」
「この…」
なおも抵抗しようとするリヴァルに、警備兵は警棒を振り上げた。だがそこに、割り込んでくる者があった。
「すいません!すぐに退きますから!」
「リヴァル、今はダメだよ!」
それは、ニーナとシャーリーだ。なお、ニーナはフレイヤの開発者として知られている為変装している。彼女らに連れられ、リヴァルは名残惜しそうにその場を後にした。
「はじめまして、黒の騎士団所属の、紅月カレン隊長ですね。」
ルルーシュが前に立つと、自身がゼロだったことなどおくびにも出さずに挨拶をする。カレンも、それに合わせた。
「…はい、私が案内させて頂きます。」
「少し、遠回りしてもよろしいでしょうか?些か緊張していてね。歩きたい気分なんです。」
「…分かりました。」
ルルーシュの言葉に疑問を覚えながらも、カレンはそれを容認した。
「…東京租界がこんなことになってて、しかも今日はブリタニア皇帝との会談があるってのに、俺達はこんなことしてていいのかな…?」
呟いた兵士は、黒の騎士団の団員である。彼は今他の団員達と共に、フレイヤで半分ほどが消滅した元ブリタニア軍基地で作業をしていた。
「仕方ないだろ、命令なんだから。半分消失してるとは言え、こうして学園周辺の基地がいつでも稼働できるようにしとかないと、いざというときに手が出せなくなるからな。」
隣で作業をしていた男が、文句を垂れる男を諌める。その周辺や別の格納庫等へも団員達が物資収集や機体の確認へと出向いている。しかし彼らは目の前の事に集中するあまり、その基地の入り口に立っていた見張りの団員達が高速で突っ込んできた大型バンに撥ね飛ばされた事には気付かなかった。そしてそのバンから、11人の男女が降りてくる。肩の辺りまで伸ばした金髪を揺らしながら、先頭に立った男が格納庫へと足を踏み入れ、そこで作業をしていた団員たちに声をかけた。
「ヘイ、兄ちゃん達!ブリタニアの基地で何勝手なことしてやがんだ!?」
その声に、団員達が一斉に男の方へと視線を向ける。そこにはスーツ姿にサングラスをかけた金髪の若い男がポケットに手を突っ込んだ姿で立っており、その後ろに数人の男女が佇んでいる。彼らは、とても兵士には見えなかった。だが不審者である事に変わりはなく、その為に団員達は彼らに向かって自動小銃を構えた。
「な、なんだお前ら!!ここはお前らみたいな奴等が来るところじゃない!撃たれたくなければ、おとなしく出ていけ!!」
隊長らしき団員が声を荒らげる。だが銃を向けられても男は笑みを浮かべ、サングラスを外してそれを胸ポケットにしまうと、再びポケットにその手を戻した。そしてサングラスを外した事で現れた瞳は、見事なまでの金色に輝いていた。
「ハッ!出ていけも何も、ここは元々お前らのモンじゃねえだろうが。何言ってやがる。」
「い、今は俺達黒の騎士団が占拠してるんだ!それより、お前は一体誰なんだ!?答えろ!!」
部隊の隊長の問い掛けに、男はその笑みをますます深めてから答えた。
「俺の名は、アダム・ストローマン。ナイトオブワンに雇われた、傭兵さ。」
その言葉に、隊長は一瞬で判断を下し、部下達に命令を下した。
「撃てっ!!」
だがその命令の直前にアダムの手がするりと、まるでそう動くことが自然であるとでもいうように、そして何よりも迅速に腰へと回されると、そこから二丁の拳銃を取り出して団員達が引き金を引くよりも遥かに速く、24発の銃弾全てを団員達の頭に正確に撃ち込んでいた。
「ハッ!相手の力くらい、正確に見抜けてこそ一流の兵士ってもんだぜ、兄ちゃん達。まぁ、言ってももう遅いけどな。」
死体の山となったその格納庫内を進みながら、アダムはマガジンに銃弾を詰めてゆく。その後を、残りの傭兵達が続いた。そこへ、銃声を聞き付けた多数の団員達が駆け付ける。
「な、なんだお前ら!と、とりあえず、撃てっ!!」
自動小銃を構えようとする団員達の前に、アダムの後ろから、短めの金髪を後ろで一まとめにした細身の女性、アリシアが進み出た。彼女は、男性でも持ち上げるのに苦労しそうな程大型のガトリングガンを軽々と持ち、団員達に向けて一斉に掃射した。さらにそのアリシアの横へと進み出た、短く刈り込んだ黒い髪と、長身かつ体格のいい男、ボトムスが懐からとんでもない程大口径の拳銃を取り出すと、ガトリングガンの掃射から逃れようと遮蔽物に隠れた団員達に向けて、凄まじい一発を放つ。その特大の弾丸は遮蔽物を簡単に砕き、団員の体を粉々にした。
「な、なんだあの化物拳銃っ…!!?」
壁に隠れて様子を見ていた団員が驚きの声を上げたその時、彼の懐に、小柄だが筋骨粒々の、坊主に近いくらいにプラチナブロンドの髪が特徴的な男が入り込んでいた。
「ヘイ、油断は禁物だぜ!!」
そう言うと、彼は団員の腹部に強烈なボディアッパーを放った。それをくらった団員は、あり得ない程の飛距離を放物線を描きながら吹っ飛ばされ、積み上げられた機材に突っ込んでいった。
「このケイン・ヴァスコットの拳に、壊せないものはねーんだよ。」
その光景を見た別の団員が、増援を頼もうと斑鳩に通信を繋ごうとする。しかし通信機からは、
『ビビィイイイィィィィーーーッッッ!!』
という特大の電子音が鳴り響いただけであった。
「う、うわっ!!」
余りの音量に、思わず通信機を取り落としてしまう団員の男。そこへ腰まで伸ばした長い金髪と、なんの感情もこもっていないようなアイスブルーの瞳が特徴的な男、フロストがとんでもないスピードで駆け寄ったかと思うと、右手に持っていたサーベルでその団員を頭から両断してしまった。
「通信は、エイデンがシャットアウトしている…。お前達は全員、ここで終わりだ。」
そう言いながら、奥へと駆けてゆくフロスト。一方彼の口から名前が出たエイデンはというと、一人バンの中に残って基地の防犯カメラへの進入や騎士団の通信妨害を一手に引き受けていた。
「ダニエル、あと3センチ左、10センチ上だ。撃て。」
エイデンがマイクを通して指示を出すと、集団の最後方で狙撃用ライフルを構えた、右耳のつけねから両目を通って左耳のつけねまで大きくはしった傷痕が特徴的な盲人の男、ダニエルが何の迷いもなく発砲した。
「ぐあっ…!!」
2階からアダム達を狙っていた団員が、その弾丸をくらって一階へ落ちた。それを見た、2階にいた団員達は上からの狙撃を諦め、側面を突こうと移動を開始する。その間にも、別の格納庫から駆け付けた団員達に、ダークブラウンの髪を短く刈り揃えた男、ウイリアムと、真っ黒な髪を肩の手前まで伸ばしたロバートが、お互いが一丁ずつ手にしたリボルバーを交差させて、団員達の頭を正確に撃ち抜いていった。
「相手が悪いぜ!残念だったな!騎士団の雑兵野郎ども!」
「結局、末端の兵士なんてこの程度だあよ。」
2人が言葉を交わし合っているうちに、先ほどまで2階にいた兵士達が側面へと回り込んでいた。しかしそこへ、漆黒の髪を短く切り揃えた女性が立ち塞がる。
「甘いね、分かりきってんだよ。そう動くってことくらい!このジュビア・ルーシャスの裏をかこうなんて、100年早いね!」
そう言った女性、ジュビアは膝から下を機械化された脚を使って大きく跳躍し、驚愕する騎士団の面々の中央へと降り立った。そして左足をしっかり地面につけると、その場で回転するように右の回し蹴りを放つ。その一撃を受けた団員達は1人残らず吹っ飛ばされ、全員が死亡した。
ここまで約3分。たったそれだけの時間で、100人近くいた団員を殲滅してしまったアダム達。そこへ、戦闘が始まってすぐに部隊を離れて行動していた、カールとジンダーから連絡が入った。
『アダム、見つけたぜ。第三格納庫の地下五階だ。』
『見りゃあ分かると思うけどぉ、ビスマルクさんが欲しがってたのはこいつで間違いないと思うよぉ。』
その言葉を聞いたアダムはニヤリと笑い、その通信へすぐに返答した。
「よくやった、カール、ジンダー。早速、ビスマルクの旦那に報告するぜ。」
『見つけたぜ、ビスマルクの旦那。』
基地の前に止められたバン。その横に立って基地のフェンスにもたれ掛かっていたビスマルクが、アダムからの通信に答える。
「やはりここだったか…。アダム、良くやってくれた。しかし、フレイヤに巻き込まれていなかったことは、運が良かったと考えるしかないな。」
ビスマルクの言う通り、この基地はフレイヤによって半分程が消失している為、これは一種の賭けであったのだ。
「これで条件は揃ったな。シュナイゼル殿下に連絡を取れ。」
傍らに待機していた部下にそう命令を下すと、ビスマルクは目的の物に向かって、ゆっくりと歩を進めたのであった。
「私、あなたには感謝してる…あなたがいなければ、私達はシンジュクゲットーで死んでいた。黒の騎士団も無かった。彼と出会うことも無かった…」
カレンの言葉を、ルルーシュは黙って聞いていた。
「ゼロに必要とされた事も光栄で、でも、ゼロがルルーシュだと分かって、訳がわからなくなって……そんなあなたがスザク達と手を組んで、今度は何をやりたいの?…力が欲しいだけ?地位がお望み?それとも、これもゲームなの?」
カレンとルルーシュは階段を上がる。カレンはその途中で足を止め、ルルーシュへと振り返った。
「ブラックリベリオンの時、扇さんはあなたを守れと言った。私の…お兄ちゃんの夢を継ぐ者だって……ルルーシュ、あなたはどうして、斑鳩で私に生きろと言ったの!?」
その質問に、ルルーシュは答えない。それを理解したカレンは、別れの言葉を口にした。
「…さようなら、ルルーシュ。」
言い終わると、カレンは表情を引き締め、紅月カレンとしてではなく、黒の騎士団員として彼に告げた。
「最高評議会は、体育館で行う予定です。」
それだけ伝えると、カレンは踵を返した。その彼女の背中に向けて、ルルーシュは一言だけ呟いた。
「…カレン、あいつに会わせてやれなくて、すまない。」
その言葉にカレンは一瞬足を止めかけるも、振り返ることなく足を進めた。
「超合衆国最高評議会議長、皇神楽耶殿。我が神聖ブリタニア帝国の超合衆国への加盟を認めて頂きたい。」
ルルーシュは評議員達に囲まれる中、彼の正面に立つ神楽耶を真っ直ぐ見て伝えた。最も、ルルーシュから彼女まではかなり距離があったが。
「各合衆国代表、三分の二以上の賛成が必用だと、分かっていますか?」
「もちろん、それが民主主義というものでしょう。」
「…そうですね。」
ルルーシュの言葉を受けて、神楽耶は手元のパネルを操作する。するとルルーシュの足元からパネルが競り上がり、彼の周囲を囲ってしまった。
(ギアス対策か。しかし、これでギアスの事は神楽耶と騎士団の中核メンバーしか知らないとハッキリしたな。)
そう結論付け、笑みを浮かべるルルーシュ。その直後に彼の周囲のパネルから光が浮かび、そこに神楽耶の姿が映し出された。
『あなたの狙いは何ですか?悪逆皇帝ルルーシュ。』
「これは異な事を…我がブリタニアは、あなた達にとっても良い国では?」
『果たしてそうかな?』
神楽耶が映るパネルの右隣に、星刻の姿が映し出された。
『超合衆国の決議は多数決によって決まる。』
神楽耶の左隣のパネルには、藤堂の姿も現れていた。
『この投票権は、各国の人口に比例している。』
それに続いて、扇や香凛の姿も現れる。
『中華連邦が崩壊した今、世界最大の人口を誇る国家はブリタニアだ。』
『ここでブリタニアが超合衆国に加盟すれば、過半数の票をルルーシュ皇帝が持つことになる。』
『つまり、超合衆国は事実上、あなたに乗っ取られてしまう事になるのでは?』
神楽耶の問いに、ルルーシュは無言を貫く。それを見ながら、星刻はブリタニアが超合衆国へ参加する為の条件を通告した。
『違うというのなら、この場でブリタニアという国を割るか、投票権を人口比率の20%まで下げさせて頂きたい。』
それを受けて、ルルーシュはようやく口を開いた。
「…神楽耶殿、一つ質問してもいいだろうか?世界を統べる資格とは何だろうか?」
『それは…矜持です。人が人を統べるには…』
「いい答えだ。あなたはやはり優秀だ。しかし、私の答えは違う。…壊す覚悟だ!世界を…自分自身すら!」
そう言うと、ルルーシュは空を指した。体育館の外で様子を見守っていたカレンの目には、蒼い彗星が体育館に落ちたように見えた。
『随分と、無礼な会談ですね。』
ルルーシュを囲むパネルを破壊し、各国代表に武器を向ける蒼焔。同時に、ブリタニア軍が日本に向けて進軍を始めたとの報せが入る。
これで、騎士団側の戦力は評議員達だけに構っている訳にはいかなくなった。
「貴族制を廃止しながら、自らは皇帝を名乗り続けた男…やはり、目的は…」
藤堂の言葉に、星刻が同意する。
「そうだ。ゼロは、ルルーシュは世界の敵となった!退け!ここは退くんだ紅月君!!」
学園地下基地からは、紅蓮聖天八極式率いる暁隊が出撃しようとしていた。
「でも、あの蒼焔と闘えるのは紅蓮しか…」
「ここで戦闘になれば各国代表も失う事になる!いきなり国の指導者がいなくなったら…」
「でも、天子様だって危ないのに!!」
カレンの言葉に、星刻は苦虫を噛み潰したような表情になる。
「分かっている!!だが、相手はルルーシュだ。人質を殺す覚悟があってのこと…!ここは各国の判断を待たねば、超合衆国そのものが崩壊する。勝つのはブリタニアとなってしまう!!」
ブリタニア軍の兵士達が人質を囲んでいく中、神楽耶は蒼焔を見上げ続けていた。
「ライさん…どうして…?」
「さあ、皇議長!投票を再開して頂こう。我がブリタニアを受け入れるか否か。」
神楽耶は両腕を反射的に顔を背け、その姿のまま言葉を返した。
「このようなやり口…」
「認めざるをえない筈ですが?…さあ、民主主義を始めようか!!」
同じ頃、リヴァルのバイクで連れ出されたニーナは、検問によってブリタニア軍に止められていた。銃を構える彼らを前に、リヴァルにも逃げる道は見出だせなかった。
「おめでとう~~!」
自身らが殺される事を覚悟した時、兵達の間からロイドが姿を現した。