コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
ニーナを確保した事を確認したルルーシュは、後はこの決議に決着をつけるだけ、と気を取り直した。しかしその直後、日本へ向かうアヴァロンから通信が入る。
その内容は、帝都ペンドラゴンが消滅したという知らせだった。
「しまった!先手を打たれたか!」
アヴァロンからは、フレイヤによってクレーター以外は何も無くなったペンドラゴンの様子と、その上空に佇む天空要塞、ダモクレスの姿が映し出されていた。
ルルーシュは人質を収容するよう命令を下すと、足早にアッシュフォード学園を後にした。
『ルルーシュ、やはり君の推測通り…』
その場に駆けつけたランスロット・アルビオンから、スザクがルルーシュへ伝える。小型機に乗り込んだルルーシュは、自身の座席に座りながら答える。なお、彼の横の座席にはC.C.が座っていた。
「ああ、一次製造分のフレイヤ弾頭…間違いなく、トロモ機関が開発していた、天空要塞ダモクレスに搭載されている筈だが…」
ルルーシュが言い切る前に、彼の座席の前にあるモニターに通信要請が入ったと映し出される。それは皇室専用チャンネルであり、現在では使用できる者はごく少数に限られていた。
ルルーシュが手元のパネルでその通信を許可すると、モニターには彼の予想通り、シュナイゼルの姿が現れる。
『他人を従えるのは気持ちがいいかい?ルルーシュ。フレイヤ弾頭は全て、私が回収させて貰った。』
「…ブリタニア皇帝に弓を引くと?」
フレイヤの使用が確認された時点でこの事態を予想していたルルーシュは、余裕を持ってシュナイゼルに質問を返した。
『残念だか、私は君を皇帝と認めていない。』
「成程…皇帝に相応しいのは自分だと…?」
『違うな。間違っているよルルーシュ。』
それを否定されると思っていなかったルルーシュは表情を変える。しかし、今生き残っている皇族の中では、彼以上の人物はいない筈であった。
『ブリタニアの皇帝に相応しいのは、彼女だ。』
「なっ…!!?」
シュナイゼルが右手で示した先にいたのは、フレイヤに巻き込まれて死んだと思っていたナナリーである。傍らにはコーネリアやサーシャの姿もあった。ルルーシュとスザクの表情が驚愕に染まる中、ライだけは蒼焔のコックピット内で肘を着き、事態を冷静に見ていた。
『お兄様、スザクさん、ライさん、私は、お三方の敵です。』
「ナ、ナナリー…生きて…いたのか…?」
『はい。シュナイゼル兄様のおかげで。』
ルルーシュより一歩早く立ち直ったスザクが、彼女に問いかける。
「ナナリー、君はシュナイゼルが何をしたのか、分かっているのかい!?」
『はい。帝都ペンドラゴンへ、フレイヤ弾頭を撃ち込んだ。』
その返答に、スザクはランスロット・アルビオンのコックピット内で思わず身を乗り出す。
「それが分かっていて何故!?」
『では、ギアスの方が正しいというのですか!?お兄様もスザクさんもライさんも、ずっと私に嘘をついていたのですね…本当の事を、ずっと黙って…でも、私は知りました。お兄様がゼロだったのですね。』
ナナリーの言葉に、最も知られたくなかったことを知られたルルーシュは、身体をビクリと跳ねさせる。
『それは…私の為ですか?もしそうなら、私は…』
「フフフフフ…お前の為?我が妹ながら図々しい事だ。人からお恵みを頂く事が当たり前だと思っているのか?自らは手を汚さず、他人の行動だけを責める…」
正気を取り戻したかの様に見えるルルーシュだが、身体の前で組んだ指が震えている事に、C.C.だけが気付いていた。
「お前は、俺が否定した古い貴族そのものだな。誰の為でもない、俺は自身の為に世界を手に入れる。お前が我が覇道の前に立ちはだかるというのなら容赦はしない。叩き潰すだけだ。」
『お兄様、あなたは…!』
ルルーシュの言葉に、返答しようとするナナリー。しかしそれを、ライが遮った。
「もう十分だ。フレイヤを撃ってしまった以上、この先に起こる事は変えられない。陛下、後は…」
「ああ、その通りだな。」
ルルーシュは手元のパネルを操作し、通信を終了する。
『ライさ…』
モニターからナナリーの姿が消えると、ルルーシュはその場で大きく肩を落とした。」
「大丈夫か、ナナリー?」
「辛い思いをさせてしまったね。フレイヤの威力を見せれば、降伏してくれると思ったんだけど…」
ルルーシュとの通信を終え、下を向いたナナリーにコーネリアとシュナイゼルが声をかける。しかしナナリーは、自身の事より他人を気にかけていた。
「シュナイゼル兄様…ペンドラゴンの人達は、本当に大丈夫なのですか…?」
「心配いらないよ。予め、避難誘導を済ませたからね。勿論、被害が皆無とはいかないけれど、最小限に留めたつもりだよ。」
そのシュナイゼルの言葉が嘘である事に気付いたコーネリアが表情を変えるが、ナナリーはそれに気付けない。
「でも、次は人に…お兄様達に使うのでしょう?」
「彼らが、世界平和の前に立ちはだかるのならば…」
シュナイゼルの言葉を聞いたナナリーは、一つの決意を口にした。
「シュナイゼル兄様、私にフレイヤの発射スイッチを頂けませんか?私は闘う事も、守ることも出来ません。だからせめて、罪だけは背負いたいんです。」
ナナリーの決意を聞いた上で、シュナイゼルの嘘に気付いているコーネリアは、鋭い目を彼に向けた。
「…兄上、少しよろしいですか?」
「C.C.!何故ナナリーの事が分からなかった!?」
アヴァロンの私室にて、ルルーシュはC.C.を怒鳴りつけていた。彼女とライは椅子に腰掛け、ルルーシュとスザクは扉の近くに立っている。
「私は神ではない。ギアスによる繋がりがない人間の事までは…」
「結果的に、君に対して最も効果的なカードとなってしまったな。最も、シュナイゼルはそうなるタイミングを慎重に計っていたのだろうが…」
あくまで冷静に告げるライ。その姿を見て、ルルーシュは一つの疑惑を抱いていた。
「ライ、お前まさか…知っていたのか!?ナナリーが生きているということを!!」
「…あくまで可能性の話だ。彼女は君に対する切り札になり得る。だからこそ、シュナイゼルが何かしらの手を打っている可能性があるとは思っていた。だけど、そんな不確定な事を…」
ライの言葉を聞いたルルーシュは、激昂して彼に詰め寄った。
「ライ!お前は…!お前は!!」
しかし掴みかかろうとしたルルーシュの腕をスザクが止め、なおも彼の胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。
「戦略目的は変わらない。ナナリーが生きていたからと言って、立ち止まることは出来ない!何の為のゼロレクイエムだ!?」
そこまで言うと、スザクはルルーシュから手を離した。彼はズルズルと、その場にへたりこむ。
「約束を思い出せ。」
言うべき事は言ったとでもいうように、部屋から出ていくスザク。その後ろを、C.C.が追い掛けてきた。
「…スザク。」
「僕は彼の剣だ。彼の敵も弱さも、僕が排除する。だからC.C.、君は盾になってくれ。護るのは君の役目だ。」
「勝手な言い分だな…」
C.C.をその場に残し、去っていくスザクの背中に、C.C.は言葉を投げ掛けた。
「ルルーシュは、君の共犯者なのだろう?」
スザクの言葉を受け、自身の思いを再確認しようとするC.C.の横を、ライがすり抜けていった。
「…スザク、話がある。誰にも聞かれたくない話だから、悪いけど、僕の部屋まで来てくれないか?」
ライの言葉に疑問を覚えながらも、スザクは頷き、彼の後に続いた。
「それが何か?」
フレイヤの効果範囲と起爆時間のリミッターを解除し、避難誘導など無しにフレイヤを撃ち込んだ事を問い詰められたシュナイゼルは、涼しげな顔で問い返した。
「で、では、ペンドラゴンの住民は…」
コーネリアは、半ば予測していたこととは言え、兄であるシュナイゼルが行った事に驚愕を隠せないでいた。
「消えて貰ったよ。その方が幸せじゃないのかな?ルルーシュに忠誠を誓う人生よりは…」
「しかし、ナナリーには…!?」
「嘘も方便だよ。ナナリーがルルーシュに立ち向かうと決意して貰う為には、余計な情報はいれない方がいいだろう。」
これは結果的に、コーネリアもナナリーも、シュナイゼルの掌の上で転がされていたという事と同じだ。彼女は鋭い目で、彼を見ながら改めて問うた。
「兄上はそうやって人を操るのですか?」
「コーネリア、人々の願いは何だい?飢餓や貧困、差別、腐敗…戦争とテロリズム、世界に溢れる問題を無くしたいと願いつつ、人は絶望的なまでに分かりあえない。なら…」
「理想としては分かりますが、民間人を…!」
シュナイゼルはコーネリアに背を向け、付近のモニターへと足を進める。
「戦争を否定する民間人だって、警察は頼りにするよね。みんな分かっているんだ。犯罪は止められないと。人それぞれの欲望は否定できないと、だったら…」
シュナイゼルがそれを操作すると、部屋に設置されている大型モニターに光が灯った。
「心や主義主張はいらない。システムと力で、平和を実現すべきでは?」
大型モニターには、今後のダモクレスの予定軌道が映し出されていた。
「このダモクレスは、10日後に合衆国中華の領空に入り、第二次加速に移行する。その後、地上300キロメートルまで上昇する予定だ。その位置から、戦争を行う全ての国に、フレイヤを撃ち込む。」
「待って下さい!ルルーシュを討つ為ではなかったのですか!?これでは、世界中が…恐怖で人を従えようというのですか!?」
コーネリアの必死の訴えにも、シュナイゼルはその涼しげな顔を崩すことはない。
「平和というのは幻想だよ。闘う事が人の歴史…幻想を現実にする為には、しつけが必要では?」
「人類を教育するつもりですか!?そのようなこと、神でなければ許されない!」
「だったら、神になろう。人々が、平和を私に望むのならば…」
それを何でもない事のように口にするシュナイゼル。コーネリアは彼の瞳を見て、深い虚を覗いたような気分になっていた。
そこへカノンが現れ、黒の騎士団が自分達と供にルルーシュと闘う事に合意したと告げた。そして、黒の騎士団にグリンダ騎士団が合流したことも。
「ありがとうカノン。ルルーシュの暴虐を経験した民衆は、よりマシなアイディアに縋るしかないよね。」
「その為に、ルルーシュの行動を見過ごしたというのですか!?」
「最も被害の少ない方法だよ。例え10億20億の命が無くなったとしても、恒久的な平和が…」
コーネリアは、それを聞いてシュナイゼルの考えに対して行動を起こす事を決意した。彼女は腰から剣を抜くと、彼に向けてそれを構えた。
「違います!強制的な平和など、それは…!」
しかしシュナイゼルが指を鳴らすと同時に、彼女を多数の銃弾が貫いた。
「…悲しいねぇ、コーネリア。」