コードギアス Hope and blue sunrise 作:赤耳亀
「よく仮面を被り続けたな、ナナリーの前で…」
部屋に戻ったC.C.がルルーシュに告げる。彼はベッドに腰掛け、チェスボードを眺めていた。
「いくつルートを探っても、答えは同じだったからな…あの時の結論に間違いはないと。」
「ルルーシュ、もう十分じゃないのか?お前はよくやった。」
ルルーシュの背後に、背中を預ける形でC.C.が座る。
「俺が悪を為さねばならない理由は分かっているだろう。ダモクレスによる支配は、人を記号とするものだ。」
「しかし、ダモクレスにはナナリーがいる。お前は今までナナリーの為に…」
ルルーシュはそれまで下げていた頭を上げ、その言葉に返答した。
「もう特別扱いはできない。消えていった数多の命の為にも、俺達は止まる訳にはいかないんだ。そうだろう、C.C.。」
その言葉を受け、C.C.はルルーシュの手に自身の手を重ねた。
「ああ、そうだな…ルルーシュ。」
「本気なのか、ライ。」
問い掛けたのはスザクだ。彼はライの話を聞き、その決意に驚いていた。
「ああ、これは僕が成すべき事だ。今のブリタニアの…世界の根幹を作ってしまった僕が。君達が世界を変えると決めた時に、自分のやるべき事に気付いたんだよ。」
「しかし、君はまだ戻れる。カレンの事だって…」
ナイトオブゼロとしてではなく、枢木スザクとしての意見をライに告げる。しかしライは、自分の意見を変える様子を見せなかった。
「君とルルーシュこそ、まだ戻れるよ。僕の正体を世界に明かし、僕に全てを押し付ければ…普通に生きて、ナナリーとの関係も修復できるだろう。彼女が生きていた以上、僕はそうする事を勧めたいんだけど…」
「しかし、僕達は多くの命を奪ってきた、その責任がある。今更普通に生きることなんて…」
同じくスザクも、自身を曲げる事はない。これまで自身の弱さを何度も目の当たりにしてきたスザクにとって、この結論だけは変える訳にはいかなかった。
「環境と境遇が人を変える…スザク、罪を罪と認める事は大事だけど、その全てを君が一人で背負う必要はないんだ。その罪が無ければ、自分が自分で無くなってしまう事だってある。君達は抗ってきたんだろう?自身の立場や、生まれに。
だから、僕にもそれを預けてくれ。」
「そうだとしても…それを自分で許すつもりはないよ。僕だけは…」
「…つまり、ルルーシュの事は許してやりたいと?」
ライの質問はスザクの核心を着いていた。ユフィの仇であるルルーシュを、今やスザクの心は許そうとしていた。それは彼の後悔や苦悩、そして決意を知ったからこその思いであった。
「……出来るなら、ナナリーと二人で静かに暮らす、そんな生活を送らせてやりたいと思っているよ、今は。」
「そうか……それならスザク、君に頼みたい事がある。」
ライの瞳はこれまでよりもなお一層強い決意を現し、スザクを見据えていた。
「いいの?一緒に闘うって…ブリタニアを敵にすることになるけど…」
カレンが問い掛ける先に立っているのはジノだ。二人は海岸で話をしていた。その後ろには、ラクシャータの手で強化されたトリスタン、トリスタン・ディバイダーが立っていた。
「今なら…さ、今なら、君の気持ちも少しは分かる気がする。」
「…ええっと…どういたしまして?」
何と返せば良いか迷った末に出たカレンの言葉に、ジノは頬を少し上げた。
「…何だそれ。」
その後ろから、アドニスが歩いてくる。
「ジノ、部隊編成だが……邪魔だったか?」
カレンといる事に気が付き、言葉を止めるアドニス。その彼に、ジノは笑いかけた。
「いや、大丈夫だ。それより、シミュレーターでいいから模擬戦をしないかい?アルビオンと闘う為には、まず慣れておかないとな。機動力なら、バーディクトの方が上だろう?」
「まぁいいが…なら、部隊編成はこちらに任せて貰うぞ。文句は言うなよ。」
アドニスの言葉に頷き、彼の方へ歩を進めるジノ。アドニスはジノからカレンへと目を映した。
「紅月、お前も覚悟を決めておくんだな。こうなった以上、何が起きても…」
それは、ライを殺す事も含めてということだ。戦場で強大な力を持つ敵を殺さず捕らえようと考えることは、自身の命を捨てるようなものだ。
「分かってるけど…でも、私は諦めないから。」
彼女の強い眼差しに、アドニスはいつもの皮肉そうな笑みを浮かべると、ジノと共に彼女の前から去っていった。
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「この闘いこそが、世界を賭けた決戦となる!シュナイゼルと黒の騎士団を倒せば、我が覇道を阻む者は一掃される。世界は、ブリタニア唯一皇帝ルルーシュによって破壊され、然る後に創造されるだろう。打ち砕くのだ!敵を!シュナイゼルを!天空要塞ダモクレスを!!未来は、我が名と供にある!」
蜃気楼のコックピットに立ち、演説するルルーシュ。彼らは富士山近辺に戦力を展開し、攻め入る黒の騎士団とダモクレスを迎え撃たんとしていた。
そして、軍の先頭に立っているのは蒼焔だ。
アヴァロンに戻ったルルーシュは、ダモクレスへと通信を繋いだ。
「ごきげんよう、シュナイゼル。」
「ルルーシュ、降伏するなら今の内だよ。こちらには、フレイヤの用意がある。」
シュナイゼルが告げるが、既にそれを理解しているルルーシュは笑みを湛えたままだ。
「フレイヤ?撃てるかなあなたに…我が旗艦アヴァロンには、各合衆国の代表方がおられるが…」
シュナイゼルの前にあるモニターには、身を寄せ会う神楽耶と天子の姿が映し出されていた。
「シュナイゼル、あなたにとっては関係ない人達ではあるがね…」
「そうだねルルーシュ。世界の平和と僅かな命…」
『撃つなよシュナイゼル!』
それに横槍を入れたのは星刻だ。彼はダモクレスもフレイヤも認める気はないが、それでもルルーシュを討つ為にシュナイゼルと手を組んだのだ。しかし話の流れ次第では、土壇場でそれを覆す事も考えねばならなかった。
「各合衆国では、代表代行が選出されたと聞きましたが?」
『いざという時の覚悟はある。しかし、だからといって無駄にしていい命など存在しない!』
その言葉を受け、ルルーシュもシュナイゼルも、自らが望む方向へ流れが傾いていることを感じていた。
「黎星刻、我が方の戦力はこのダモクレス以外はモルドレッドを含む三機のみ…フレイヤを使わないのであれば、この場は全体の指揮権を、私に預けてほしいが…」
『相手はルルーシュだ!』
「心配はいらないよ。指揮を取るのがあの銀髪の少年ではなく、ルルーシュなら…私はね、一度だってルルーシュに負けた事は無いんだ。」
『…分かった。』
通信を終えると、星刻は扇や香凛らに向けて告げる。
「神虎を出す!全軍に指揮系統を伝達してくれ!」
星刻とシュナイゼルの交渉が終わるのを
待っていたルルーシュは、それを確認すると最後の言葉を放った。
「では手合わせと行きましょう。」
「そうだね。」
ルルーシュとの通信が切れたのを確認したシュナイゼルは、カノンに声をかける。
「カノン、君の読み通り…」
「はい。これで黒の騎士団は、殿下の手足です。」
それを聞いたシュナイゼルはすぐに指示を出す。モルドレッドを含む騎士団の航空戦力は、広範囲に部隊を広げ、ブリタニア軍側を包み込もうと動き出した。
「通常戦闘で来るか…左翼を伸ばせ!半月羅漢の陣を敷く!」
ルルーシュの言に従い、中央を開ける形で陣を移動するブリタニア軍。その先頭には灰塵壱式の姿が見えた。
「ジノの部隊は前進!敵左翼が伸びる先を抑えて!」
「牽制か…?こちらの左翼を後退させろ。」
伸ばしかけた陣を後退させるルルーシュ。しかしシュナイゼルは追撃をかけることなく進撃を停止させた。
「陣立を北斗七星陣に変更!」
「六番隊はアーニャを中心に北東へ!仰角40度!アーニャ、そこで停止、200メートル上昇!」
両軍は進軍と後退を繰り返し、戦闘は一向に始まらない。しかし見る者が見れば、何が起こっているかは明らかであった。
「達人同士の闘いが一瞬で決まるように…」
「見えない攻撃が二人の間を行き交っている…」
藤堂と星刻が呟く。そして、その均衡は徐々に崩されつつあった。
「囲まれつつあります!!」
セシルの言葉に、ルルーシュは舌打ちをしつつ、反撃の指示を飛ばした。
「反撃だ!ライの蒼焔を前面に押し立てろ!第四戦闘速度でいい。アレクサンダ隊も続け!」
「変わらないねルルーシュ。君は防御よりも攻撃が好きだった…だからこそのわずかな隙…星刻。」
「我らの技量まで折り込み済みか!」
左翼の部隊を率いて進軍する星刻。しかしそれを、ヴィンセント・アソールトに騎乗するルーン率いる部隊が迎え撃った。
「…お兄様の予測が的中したわね。部隊を徐々に下げつつ、迎え撃ちなさい。」
全体が囲まれ始めた時点で、ルルーシュは自分を使って状況を好転させようとするだろうと予測したライは、そうなった場合の本陣の守りをルーンに頼んでいた。但し、星刻率いる左翼部隊とルーン率いる一部隊では兵力が違いすぎる為、時間稼ぎしか出来なかったが。
「チィッ…戦線を下げよ!陣形を立て直す!」
ルルーシュの言葉に従い、ライの部隊を残してアヴァロンと本隊が下がる。
足並を揃えて包囲しようとする騎士団だったが、たった一機、紅蓮聖天八極式とそれに率いられたグリンダ騎士団だけが先行していた。
「ライ!あなたをここで止める!!」
「カレンか!!君とだけは、闘いたくは無かったんだがな!!」
両者が左腕に持つMVSがぶつかる。遅れて配下の部隊も激突し、両部隊の闘いは一気に混戦の様相を呈す。
さらに紅蓮に続いて進撃してきた神虎がブリタニア軍の戦艦、ドレッドノートを破壊した。
「黒の騎士団…敵に回すとこれ程厄介な相手だったか…」
ルルーシュの見るモニターには、ぶつかり合う紅蓮と蒼焔の姿が映し出されていた。蒼焔が足止めをくらったことにより、騎士団側の進撃速度はどんどん上がっている。ロロやジェレミアもそれを止めようと奮戦しているが、戦況は騎士団とシュナイゼルの側に傾いていた。
「ライ、一旦変われ!戦陣を立て直す!」
蒼焔に向かって飛来したのは灰塵壱式だ。しかし蒼焔と灰塵壱式との間に割り込み、灰塵壱式が咄嗟に繰り出した拳を止めた者があった。
「…モルドレッド、アーニャ・アールストレイムか。」
「──ロック…全部思い出した。あなたの事も、過去の事も…あなたはどうして、私の前から去ったの?私は、あなたに…」
ロックに対して、何かを訴えようとするアーニャ。しかしロックは、さらに拳の連撃を繰り出す事でそれに答えた。
「ここは戦場だ、アーニャ!余計な感傷を持ち込むな!」
灰塵壱式から一旦離れ、アーニャはモルドレッドのミサイルを放つ。着弾して爆発するも、煙が晴れるとそこには何もなかった。
「…はっ!」
アーニャが気付いた時には、灰塵壱式はモルドレッドの上空で拳を振り上げていた。直撃を覚悟して目を瞑ったアーニャだったが、予想された衝撃は訪れなかった。
「兄上、なのですか…?」
自身の主であるナナリーを守るため、ヴィンセントで戦場に立ったサーシャの元には、サザーランド・ジークが飛来してきていた。そしてその機体から響く声は、間違いなくジェレミアのものである。
「む…まさか、サーシャか?」
その答えにサザーランド・ジークのパイロットがジェレミアだと確信したサーシャは、思わず声を荒げた。
「…一年以上、何をしていたのですか!?オレンジという悪名で家門を汚し、その後始末を私達に押し付けて御自身は行方不明になったと思ったら、こちらに連絡も寄越さずに悪逆皇帝の配下に!?あなたは一体、何を考えているのですか!?」
「サーシャ…連絡をしなかった事は詫びよう。だが私には、貫くべき忠義がある。何と罵られようとも、私は私の信じる道を進むのみだ!それをお前が遮るというのならば、突破するのみ!」
サザーランド・ジークが放ったミサイルをブレイズルミナスで防ぎ、ヴィンセントは大型機であるサザーランド・ジークの懐へ入るべく真っ直ぐに機体を突撃させた。