コードギアス Hope and blue sunrise   作:赤耳亀

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episode46 Unfor given

「お兄ちゃんッ!」

 

落下してゆく業火白炎に急接近するハイグレイル。オルフェウスはコックピット内で脱出レバーを何度も引くが、脱出装置は一向に作動しない。オルドリンはシュロッター鋼ソードを白炎に向けると、オルフェウスに通信を繋いだ。

 

「頭を下げて!」

 

そう声を掛けてから、シュロッター鋼ソードをコックピットの上部に突き刺す。そのまま剣を横へ滑らせると、コックピットの天井部分を斬り取った。

 

「こっちへ!早く!」

 

オルフェウスがハイグレイルの手に掴まった事を確認すると、急ブレーキをかけて降下を止めたオルドリン。その眼前で、白炎は海面に激突して爆発を起こした。

 

「良かった…間に合って…」

 

安心した顔を向けるオルドリンに、しかしオルフェウスは厳しい目を向けた。

 

「助かった。だが、既にあのアレクサンダなどという機体と闘っている状況では無くなったぞ、オルドリン。あれを見ろ。」

 

オルフェウスが指差す先には、三対のエナジーウイングを広げ、ランスロット・クラブ・バーディクト、蒼焔、灰塵壱式を一度に相手どっているナイトメアの姿があった。先程のフレイヤもあの機体から放たれたらしい。

 

「そんな…それじゃあ悪逆皇帝を倒して、ダモクレスを止めたとしても…」

 

「ああ、あの機体を墜とさない限り俺達の未来は無い。とは言え、自分の機体がないのは格好がつかないが…オルドリン。」

 

オルフェウスの声に、オルドリンは大きく頷いてから彼を付近の船へと届けて戦場に戻った。

 

「グリンダ騎士団、下がりなさい!」

 

オルドリンの命令を受け、アレクサンダ隊との戦闘を中止して後退する。それを不審に思ったアキトらも一旦戦闘を止め、機体を後退させた。

 

「そちらの指揮官はどなたですか?」

 

オルドリンの問いに、黒いアレクサンダが前に進み出る。

 

「私ですが…」

 

声を上げたレイラに対し、グレイルがアッシュズの方を指し示した。

 

「…あの機体は、黒の騎士団にもダモクレスにも属していないものと思われます。事実、こちらと同じ黒の騎士団に属するランスロット・クラブ・バーディクトもあの機体との戦闘に参加しています。また、あの機体にはフレイヤが搭載されているものと思われます。ならば、今は我々が闘っている場合ではないと思うのですが、如何でしょうか?」

 

オルドリンの言葉に、レイラやアキトはアッシュズに目を向ける。三対一の状況ですら一太刀も浴びることなくライ達を追い詰めようとする様は、自分達が一斉にかかったところで傷を負わせる姿すら想像できない。その考えが部隊の中に広がっていくのに頓着せず、オルドリンはさらに言葉を続けた。

 

「私達も、あの機体を倒す闘いに加わるべきです。我々の決着は、その後でも!」

 

グレイルがシュロッター鋼ソードを掲げる。それに対して、黒いアレクサンダも剣を掲げてそれに同意した。

 

「分かりました。まずは、あのナイトメアを!」

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁッッ!!」

 

一振りで三機を弾き飛ばすアッシュズ・アトリビュート。何とか防御した彼らは、防御力に優れる灰塵壱式を先頭に、再びアッシュズに接近しようとする。

 

「無駄だ!!貴様らごときで、このアッシュズ・アトリビュートを止められると思ったか!?」

 

それを正面から打ち破り、超高速で飛翔するアッシュズ。だがそのアッシュズを狙って、極大の光が放たれていた。

 

「ヴァルトシュタイン卿、ここまで来て…!」

 

ツヴァイの下方からは、シュタルケハドロンを構えたモルドレッドが近づいていた。

 

「アーニャか!モルドレッドごときでこのアッシュズと闘おうなどと、愚かなり!」

 

アーニャにも反応できない速度で急接近したアッシュズ。叩き込まれた一閃は、しかしモルドレッドを捉えはしなかった。

 

「…ロック!?」

 

左腕のブレイズルミナスを展開し、そこにエナジーウイングを重ねる事でモルドレッドを守った灰塵壱式。しかしそれにより、エナジーウイングの一部が破損したことで灰塵壱式は空戦能力を失い、下降していった。

ただ、モルドレッドが咄嗟に救出に入った為、海面に叩き付けられる事だけはなさそうであった。

 

「これで貴様等だけだ。ここで諦めるというのなら、命だけは助けてやっても構わんが?」

 

ビスマルクの言葉に、ライは蒼焔で斬りかかることを返答とした。

 

「アドニス、彼のギアスは…」

 

「マリーベルから聞いている。未来視のギアスだろう!ならば!」

 

「ああ、彼の視界の外から攻撃するしかない!」

 

蒼焔とバーディクトは、左右に別れて飛翔した。

 

 

 

 

 

 

「ロック、どうして私を…?」

 

空母まで灰塵壱式を運び、無事着艦した事を確認したアーニャがロックに問う。戦場で敗れたのは自分の責任であり、ロックが助けに来るとは考えてもいなかったからだ。

 

「…結局、俺もお前と同じなのかもしれんな。甘さを捨てきれず、結果としてこうなってしまった。まぁ、これでカーズ…アールストレイム卿に顔向けできると考えれば、悪い気はせんがな。」

 

灰塵壱式から降り立ったロックが、彼女に返答する。アーニャは、記憶が戻ってからずっと聞きたかった事を彼にぶつけた。

 

「ロック、あなたはどうして、私達の前からいなくなったの?カミラ姉さんの事は私だって今でも信じられない…でもせめて、私やお父様を頼ってくれれば…私は、私はあなたにずっと…あなたがカミラ姉さんの旦那さんだっから、義妹でも我慢できた…でも、私は…」

 

アーニャの頬を、涙が伝った。ロックは困ったように頭をかくと、自身の思いを口にした。

 

「そうすれば、結局巻き込んでしまうことになったからな。だが、何も伝えずに消えたこと、結果としてお前の敵となったことは、すまないと思っている。」

 

昔のように、アーニャの頭に手を乗せ、強めに撫でるロック。それを受け、アーニャはなお涙を流してその場に膝をついた。

彼女を身体を支えながら、ロックは視線を空へと移す。

 

「頼んだぞ、我が王よ…俺の分まで、全てを…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ…腐っても、流石兄上という訳ですね…」

 

サザーランド・ジークの多彩な攻撃に、ヴィンセントに騎乗するサーシャは苦戦を強いられていた。彼女専用機としてカスタムされたその機体は通常のヴィンセントよりも高い性能を誇ってはいたが、それでも両機の差は明確である。

 

「それでも!私はナナリー皇女殿下の騎士として!兄上をここで!」

 

サザーランド・ジークが放ったスラッシュハーケンにニードルブレイザーをくらわせて破壊する。その爆炎の中を突っ切って、ヴィンセントはサザーランド・ジークに肉薄した。

 

「やるな!だが!」

 

輻射障壁でヴィンセントの斬撃を受け止め、電磁ユニットでヴィンセントを捕らえにかかる。それを察したサーシャが慌てて機体を下げると、サザーランド・ジークはヴィンセントに向けてリニアライフルを発射した。

 

「隙がない…なんて、闘いにくい…!」

 

サーシャはコックピットの中でため息を付くと、彼女専用のヴィンセントにのみ追加された武装を使う決意をする。

 

「エネルギー効率が悪いから、使いたくは無かったんだけど…しょうがない!」

 

ヴィンセントが腰から取り出したのはスーパーヴァリスだ。アヴァロンに残っていたデータを持ち出し、トロモ機関の科学者達が完成させたものである。それをサザーランド・ジークへ向け、ハドロンブラスターモードを起動する。

 

「兄上、お許し下さい!」

 

放たれたハドロンブラスターはサザーランド・ジークの輻射障壁を突破し、機体の左半分を破壊した。

 

「…私は、私の忠誠を貫きます。」

 

サザーランド・ジークが爆炎に包まれたのを確認し、機体を反転させようとするサーシャ。しかしその爆炎の中から、手足がオレンジ色に塗装されたサザーランド、サザーランドJが飛び出してきた。

 

「まだまだぁっ!」

 

サーシャは慌ててヴィンセントの両前腕に装備されたブレイズルミナスを起動させるが、間に合わずにサザーランドJの肩から上がその内側に入り込んでしまう。

 

「爆散っ!!」

 

すかさずジェレミアがサザーランドJを自爆させる。サザーランドJがブレイズルミナスの内側に入り込んだ時点で機体を後退させていたサーシャであったが、その爆発から逃れるのには間に合わず、機体頭部から胸部までを破壊された上にコックピットブロックも上部が吹き飛び、パイロットを守るものが何も無くなってしまっていた。そこへ降り立ったジェレミアが、右手の先から剣を現してサーシャへと突き付ける。

 

「サーシャよ、私を超えるにはまだ早かったな。それに、忠義の強さなら、私の方が上だ!!」

 

「兄さんは、何故そうまでして…」

 

サーシャの疑問に、ジェレミアは先程よりも幾分か優しい声音で答えた。

 

「私の守るべきものの為だ!サーシャよ、その為にこそ私は闘うのだ!」

 

自身の敗北を受け入れたサーシャは、ゆっくりとヴィンセントを下降させるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレイヤの起爆位置をダモクレスに変更したシュナイゼルは、カノン、ディートハルトと供にエレベーターで小型脱出機に向かっていた。

 

「ダモクレスもフレイヤも、所詮は機械…また造ればいいよ。」

 

シュナイゼルの言葉に、カノンは自身の意見を口にする。

 

「しかし、トロモ機関にはそこまでの余力はありません。ローゼンバーグも…」

 

「今や世界中が、ルルーシュの敵だ。そのルルーシュを消し去ったシステムとなれば、様々な組織が喜んでフレイヤを造ってくれるだろう。」

 

シュナイゼルは淡々と告げるが、カノンはここに来て、初めて彼に反対する言葉を口にした。

 

「それは…テロリズムに繋がりませんか?一応、ナナリー様の意見も…」

 

「必要ないのでは?エサの考えなど…」

 

それを、ディートハルトが遮る。彼は、シュナイゼルの考えを理解し、そして強烈に支持しているようであった。

 

「まさか、見捨てるのですか!?」

 

「世界の平和と、一つの命…悲しい事だが、比べるまでもないよ。」

 

格納庫へ到着し、脱出機に乗り込むシュナイゼル達。しかし機内の座席正面にあるモニターが突如点灯し、操縦席が映し出された。

 

『待っていたよ、シュナイゼル。』

 

椅子を回転させ、こちらに向いたのはルルーシュだ。

 

「そうか、チェックメイトをかけられたのは私か…」

 

シュナイゼルは取り乱す事なく、座席に腰掛けた。

 

「教えて欲しい。何故私の策が分かったんだい?」

 

『策ではない。俺が読んだのはあなたの本質だ。あなたには勝つ気がない。

朱禁城でのライとの対局。黒の騎士団のクーデター…あなたは常に負けない所でゲームをしている。』

 

「だから、私がダモクレスを放棄すると?」

 

二人のやりとりを、カノンとディートハルトは驚愕の面持ちのまま見つめている。

 

『シュナイゼル、あなたには今度こそ負けて貰う。

……質問したい。あなたはダモクレスで世界を握りたかったのか?』

 

「違うよ。私はただ、皆が望むことを、平和を作りたいだけだ。」

 

ここに来ても、シュナイゼルは余裕の態度を崩さない。それは、彼の生来の性格と、自身の頭脳が周囲と隔絶している為に生まれた性質の為であった。

 

『あなたは今日という日で世界を固定しようと考えた。だが、変化なき日常を生きているとは言わない。それはただの経験だ。』

 

「しかし、その連なりを知識と言うが…」

 

シュナイゼルがようやく笑みを崩し、肘をついて右手で頭を支える。その様子を見たルルーシュは一度視線を落とすと、微笑みと共に彼に目を戻した。

 

『やはりあなたは優秀だよ。優秀すぎるが故に見えていない。そう、皇帝シャルルは昨日を求めた。あなたは今日を。だが俺は、明日が欲しい。』

 

「明日は今日より、悪くなるかもしれない。」

 

『いいや、良くなる。例えどれだけ時間がかかろうと、人は幸せを求め続けるから…』

 

その言葉を聞いたシュナイゼルは声をあげて笑った。

 

「それが欲望に繋がるというのに…愚かしさも極まったね。それは感情に過ぎないよ。希望や夢という名の、宛のない虚構。それが…」

 

『それが皇族という記号で世界を見下してきた、あなたの限界だ。俺は何度も見てきた。不幸に抗う人を。未来を求める人を。みんなが幸せを願い抗い続けた。ギアスも、仮面も、その根元は…』

 

「矛盾だよ。他人の意思を否定し続けてきた君が、ここに来て人の意思を、存在を肯定しようというのは…

もういい。私を殺したまえ。ただし、君もフレイヤで消える。私達の命で世界に平和を…」

 

そのシュナイゼルの肩を、後ろから誰かが叩いた。

 

『だからこそあなたに俺は、』

 

「ゼロに仕えよという言葉を、プレゼントしよう。」

 

そこに立っていたのはルルーシュだ。彼は両目のコンタクトを外しながら、シュナイゼルへと告げた。

 

「君は、最初から私を殺すのではなく…」

 

ギアスで操られた兵士から麻酔を打たれ、立っている事も出来きなくなった為に、椅子にもたれ掛かるディートハルトが、二人の後ろで口を開いた。

 

「しまった、何故気付かなかった…シュナイゼルの思考を読んだ、録画だと…」

 

彼と、別の兵士に捕らえられたカノンの目の前で、シュナイゼルはルルーシュに膝を着いた。

 

「なんなりとお命じ下さい、ゼロ様。」

 

その姿を見下ろしながら、ルルーシュは彼の敗因を口にする。

 

「シュナイゼル、自分が殺されるという思い込みが、あなたと敗北へと誘ったのだ。」

 

「えぇいっ!!」

 

なんとか兵士を振りほどき、隠し持っていた銃で射殺し、カノンを捕らえる兵士にもその銃を向けるディートハルト。ギアスで操られているとはいえ、兵士はそれに戸惑いを見せた。

 

「ゼロ!あなたの物語は、既に完結している!あなたは、生きていてはいけない!!」

 

ディートハルトは震える手で、その銃をルルーシュに向け直した。しかしその直後、彼の胸を銃弾が貫く。ディートハルトの視線の先には、自分に向かって銃を構えるシュナイゼルの姿があった。

 

(シュナイゼル殿下…ご自身の命すら執着が無かった方が…これが、ギアスの力…)

 

ゼロの奴隷となったシュナイゼルの姿を見て、カノンは涙を流す。しかしシュナイゼルはカノンのそんな様子に頓着する様子すらなく、冷たい目でディートハルトを見つめていた。

 

「ゼロ、せめて、最後に…ギアスで、私にも…」

 

息も絶え絶えに、ディートハルトが最後の望みを口にする。しかしルルーシュは、両目をコンタクトレンズで覆ってしまった。

 

「ディートハルト、お前にはギアスを使う価値もない。」

 

ルルーシュの言葉を受け、ディートハルトの表情は一瞬絶望に染まった後、静かに目を閉じた。

 

「ではシュナイゼル、まずはダモクレスの自爆を解除して貰おうか。」

 

「分かりました。しかしフレイヤの制御スイッチはナナリーが…」

 

それを予想していなかったルルーシュはなんとか驚きだけは隠し、シュナイゼルから彼女の居場所を聞き出した。

 




実はR2のキャラで一番好きなのはジェレミアだったりします。ぶっちゃけるとサーシャを出したのはジェレミアの戦闘シーンを書きたかっただけです。

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